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名古屋地方裁判所一宮支部 平成22年(モ)107号 決定 2010年10月13日

主文

本件を犬山簡易裁判所へ移送する。

理由

第1本件申立の趣旨及び理由

別紙移送申立書記載のとおり

第2相手方の意見

別紙移送申立てに対する意見書記載のとおり

第3当裁判所の判断

1  本件事案は,平成14年9月13日から平成22年4月2日まで,申立人が相手方に対して貸付を行い,相手方が返済した取引について,利息制限法所定の制限利率に引き直して計算すると,申立人は法律上の原因なく利得を得ており,申立人は悪意の受益者であるとして,相手方が申立人に対し,33万7443円及び内金32万6737円に対する平成22年4月3日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求めた事案である。

なお,本件事案は,当初,相手方が申立人とともにネットカード株式会社及び株式会社フロックスに対しても過払金の不当利得返還請求を求めて訴えを提起したものであるが,相手方の申立人に対する訴えに関する弁論を分離する旨の決定をしたものである。

2  申立人は,「本件を犬山簡易裁判所へ移送する」旨の決定を求めたもので,本件訴訟は原告が複数の被告に対して不当利得返還請求をする事案であって,民事訴訟法38条後段の共同訴訟であり,民事訴訟法7条で「一の訴えで数個の請求をする場合には」「一の請求について管轄権を有する裁判所にその訴えを提起することができる。」と定めているが,同条ただし書において,「数人からの又は数人に対する訴えについては,第38条前段に定める場合に限る。」として,同法38条後段に定める場合を除外している。すると,相手方の申立人に対する訴訟の事物管轄は簡易裁判所である。実質的にみても,同法54条によれば,地方裁判所においては,弁護士でなければ訴訟代理人になることはできないが,簡易裁判所においては,その許可を得て,弁護士でない者を訴訟代理人とすることができるので,本件のような訴額の事件を弁護士に委任することなく訴訟追行できることは申立人にとって防御上の利益となりえるというものである。

3  相手方の申立人に対する請求と,相手方のネットカード株式会社に対する請求や相手方の株式会社フロックスに対する請求との間に,客観的な関連性はなく,訴訟の目的となっている権利義務は,同一の事実上及び法律上の原因に基づいてはいないから,民事訴訟法38条前段の共同訴訟の要件を欠いており,同法7条の併合請求の要件を欠くというべきである。

すると,相手方が主張する請求価額の合算は理由がなく,本件事案の訴訟物の価額は32万6737円であるから,簡易裁判所の事物管轄の事案であり,簡易裁判所において審理及び裁判をするのが原則であるというべきである。ところで,同法16条2項は,地方裁判所が相当と認めるときは,移送することなく,自ら審理及び裁判をすることができる旨を規定しているので,この点について検討するに,甲1に照らしてみれば,平成15年5月22日に元金残高が0円になっているものの,同年6月2日に10万円の借入があり,このような経過に照らせば,取引の分断は実質的な争点とならず,申立人が悪意の受益者といえるか否かが争点となると推測されるところ,この点を判断するための審理について簡易迅速な簡易裁判所の審理よりも地方裁判所の審理の方がふさわしいとまではいえないこと,申立人には,簡易裁判所で審理されることによって許可代理の規定の適用を受けうる利益があり,相手方としても,犬山で訴訟が行われ,元来ネットカード株式会社や株式会社フロックスとは別個に審理及び裁判をするべき事案であることを考慮すれば,移送によって新たに相手方に特段の負担が生じるものではないことなどを総合勘案すると,いまだ当庁において本件事案を審理裁判することが相当であるとは認めることができない。

4  よって,本件を犬山簡易裁判所に移送するのが相当であるので,主文のとおり決定する。

(別紙)

正本

平成22年(ワ)第770号 不当利得返還請求事件

原告 X

被告 アイフル株式会社

移送申立書

平成22年9月27日

名古屋地方裁判所一宮支部 B1係 御中

京都市<以下省略>アイフル株式会社

代表者代表取締役 A

(送達場所)〒<省略> 滋賀県草津市<以下省略>

TEL <省略>

FAX <省略>

申立ての趣旨

本件を犬山簡易裁判所へ移送する

との裁判を求める。

申立ての理由

1.本件訴訟は、原告が複数の被告に対して不当利得返還請求をする事案であり、民事訴訟法38条後段の共同訴訟に該当する。

2.民事訴訟法7条では、「一の訴えで数個の請求をする場合には」「一の請求について管轄権を有する裁判所にその訴えを提起することができる。」と定めているが、同条ただし書において、本件訴訟のような「数人からの又は数人に対する訴えについては、第38条前段に定める場合に限る。」としており、同法38条後段に定める場合については、被告の防御の利益を考慮して除外されている。

上記の法の趣旨に鑑みれば、同法9条の適用についても、同法38条後段の場合には訴訟の目的の価額を合算しないのが相当である。そうすると、本件の原告の被告アイフル株式会社に対する請求の事物管轄は簡易裁判所にあることは明らかである。

3.実質的にみても、同法54条によれば、地方裁判所においては、弁護士でなければ訴訟代理人となることはできないが、簡易裁判所においては、その許可を得て、弁護士でない者を訴訟代理人とすることができるのであって、本件のような訴額の事件を弁護士に委任する事なく訴訟追行できることは被告にとって防御上の利益となりえるところである。

4.なお、被告の主張と同様の見解を示したものとして東京高裁平成21年11月5日決定(平成21年(ラ)第1776号)及び同事件の許可抗告事件である最高裁平成22年3月23日決定(平成22年(許)第1号)があり、東京高裁は、「本案訴訟は、民事訴訟法38条後段の共同訴訟であるところ、この場合には、民事訴訟法7条ただし書により、相手方の防御の利益を考慮し、民事訴訟法7条本文の適用が除外されている。したがって、上記認定事実によれば、抗告人(本案原告)の相手方(本案被告)に対する請求に係る訴えは、裁判所法33条1項1号により、簡易裁判所が第1審の裁判権を有するものであり、民事訴訟法5条1号、下級裁判所の設立及び管轄区域に関する法律2条別表第5表により、松戸簡易裁判所の管轄に属するものであるところ、民事訴訟法7条ただし書により、民事訴訟法7条本文の適用が除外され、本案裁判所に併合請求による管轄が生じない以上、併合請求が可能であることを前提とする民事訴訟法9条が適用される余地がないと解するのが相当である。」と述べ、最高裁も当該結論を是認しているところである。

5.よって、民事訴訟法38条後段の共同訴訟たる本件請求についても民事訴訟法9条の適用の余地はなく、原告の被告アイフル株式会社に対する請求は、簡易裁判所の管轄となることから、原告居住地を管轄する申立ての趣旨に記載した簡易裁判所への移送を求める。

以上

(別紙)

平成22年(モ)第107号 移送申立事件

(基本事件:平成22年(ワ)第770号 不当利得返還等請求事件)

申立人(被告) アイフル(株)

相手方(原告) X

移送申立てに対する意見書

平成22年10月8日

名古屋地方裁判所一宮支部 御中

原告(相手方)訴訟代理人弁護士 秋田光治

同 村山智子

同 池山豊二郎

同 石川明子

第1 意見の趣旨

被告アイフル株式会社の移送申立を却下する

との決定を求める。

第2 意見の理由

1 基本事件にかかる3個の請求は、いずれも、相手方(原告)が、貸金業者との間で行った継続的な借入れ及び返済の取引につき、利息制限法の制限内で計算するとすでに過払いになっているとして、不当利得返還請求権に基づいて過払い金の返還を請求するものである。すなわち、各請求について、その目的である権利は同種であり、かつ事実上及び法律上同種の原因に基づく。したがって、各請求は、民事訴訟法38条後段の要件を満たすので、相手方(原告)は、上記3個の請求を併合請求としたものである。

2 一つの訴えで数個の請求をする場合には、請求額を合算したものが訴訟の目的の価額となるから(民事訴訟法9条)、各請求額を合算すると140万円を超える基本事件について、地方裁判所に事物管轄が生ずることは明らかである。また、土地管轄については、基本事件にかかる3個の請求は、いずれも、義務履行地たる愛知県江南市(相手方住所地)を管轄する裁判所に生じる。したがって、基本事件は、名古屋地方裁判所一宮支部に管轄があるから、相手方(原告)は、御庁に訴えを提起したものである(事物管轄につき同様の判断をした裁判例として、平成20年10月8日大阪地方裁判所決定、疎乙1)。

4 申立人(被告)は、民事訴訟法38条後段の場合には、同法9条の適用が除外されるとの主張をしているが、当該法解釈は、申立人(被告)独自の解釈であって、何ら理由がない。

また、土地管轄を規定する民事訴訟法7条と事物管轄を規定する同法9条の適用の有無は、相互関連しないので、同法7条による併合請求の管轄が生じないからといって、同法9条の適用が除外されることはない。これに反する裁判例は誤りである。

5 以上のとおり、基本事件については、御庁に管轄があることは明文上明らかであるから、申立人(被告)の請求は却下されるべきである。

添付資料

1 疎甲第1号証 平成20年10月8日大阪地方裁判所決定正本(写)

「添付資料<省略>」

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