名古屋地方裁判所岡崎支部 事件番号不詳 判決
主文
被告人川原妙を懲役六年及罰金五千円に
被告人都築徳三郎を懲役弐年に
被告人鈴木勇を判示第一の事実につき懲役参年に、判示第五の事実につき懲役壱年に
被告人大西等を罰金壱万円に
各処する。
被告人川原妙、同大西等が右罰金を完納することができないときは金弐百円を壱日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。
訴訟費用中証人戸出光雄、同都築弘之、同川原美代、同二村正治、同杉浦悟、同枝川孝、同星野尚、同松井信次、同鈴木正郎に支給の分は被告人川原妙、同鈴木勇の負担とし、証人杉浦鍬太郎、同山崎保、同高須豊吉、同神森良三、同臼井卯兵、同市川保に支給の分は被告人川原妙、同都築徳三郎の負担とし、証人服部辰已、同小出幸一に支給の分は被告人川原妙、同大西等の負担とし、証人三浦正俊、同高橋良之、同高須松二、同三矢九平に支給の分は被告人大西等の負担とする。
被告人中村秀雄、同鈴木菅次はいずれも無罪。
被告人間瀬一男は免訴。
理由
事実
被告人川原妙は愛知県幡豆郡一色町大字味浜字北乾地四十七番地所在大洋製油株式会社取締役社長、被告人都築徳三郎は同会社取締役、被告人鈴木勇は同会社の工員、被告人大西等は同会社の後身たる三河油脂工業株式会社の代表取締役であるところ第一、大洋製油株式会社は昭和二十三年九月設立以来前記場所に工場を置き農家及油糧配給公団より委託された菜種の搾油事業を営んでいたが同年十月上旬頃より多量の保有菜種油を横流しのため農家及油糧配給公団への還元油の不足を生じ次第に経営困難を来したので被告人川原妙は之が措置に苦慮した結果放火により会社所有の工場を全焼してその使途を誤魔化すと共に保険金を騙取して会社の窮状を打開しようと企て同年十一月九日当時共栄火災海上保険相互会社と契約していた保険金百五十万円に加えて別途に安田火災海上保険株式会社と保険金四百万円の新火災保険契約を締結して之が準備を整えた後同年十一月末頃被告人鈴木勇に会社工場放火の決意を打開けてその承諾を求め茲に被告人両名は共謀の上被告人鈴木勇がその実行を担当することとなり同被告人は同年十二月三日午前零時頃被告人川原妙の指図に従がいかねて右会社の事務所並に宿直に一部を使用せる北側工場(五十四坪)内北西隅の空叺の堆積してある箇所に油のしみたボロ切二百匁位をおきマツチで点火し右空叺に燃え移らしめ以て人の居住する建造物に放火し因つて右工場全部竝に隣接の被告人川原妙家族居住の住宅一棟(二十坪余)及ボイラー室一棟(十坪)を焼燬し
第二、前記工場の火災につき被告人川原妙は自己の故意に基くものなること、被告人都築徳三郎は右川原妙の故意に基くものなることを知り乍ら被告人両名は右火災の状況原因損害額等の調査に来りたる前記共栄火災海上保険相互会社員青木貞平外一名及安田火災海上保険株式会社社員近藤某外一名等に対し同年十二月五日頃幡豆郡一色町料理店蔦屋においていづれも右火災が放火に基因することを秘し交々失火に基因するものと申し向けて保険金支払の請求を為し次いで同年同月十日頃同様の方法により両会社に対して火災状況調書及損害見積書その他所定の書類を作成提出し右両会社の前記係員等を夫れ夫れその旨誤信させ因つて同月二十一日共栄火災海上保険相互会社より金百十一万八百円六十八銭、同月三十一日安田火災海上保険株式会社より金三百九万三千二百三十三円三十七銭をいづれも保険金名下に被告人都築徳三郎肩書居宅外一ケ所において交附を受けてこれを騙取し
第三、被告人川原妙、同大西等は共謀の上大洋製油株式会社が昭和二十四年四月三十日の株式総会において資本金二百万円を四百万円に増加の決議を為すや増加資本金につき株主よりの払込なきに拘わらず真実これが払込ありたる旨の虚偽の登記申請に要する所定の手続書を作成し同年六月二十二日これを名古屋法務局一色出張所に提出行使し情を知らない同所長法務府事務官服部辰已をしてその旨誤信させ即時同所において同人をしてその旨登記簿に不実の記載を為さしめ
第四、被告人大西等は昭和二十六年九月十五日午後九時三十分頃幡豆郡一色町大字味浜字上乾地六三河油脂工業株式会社事務室において元同会社事務員三浦正俊を会社事務に関し口論の上同人の態度に憤慨し両手で同人の胸倉を衝き以て暴行を加え
第五、被告人鈴木勇は
(一) 昭和二十六年七月中旬頃碧海郡明治村大字城ケ入字新井百六十五番地榊原常治方において同人に対し菜種を油に加工して来てやる意思がないのにこれある如く「菜種を委託してくれ一色の油屋へ持つて行つて油に加工し遅くも十日位で持つて来てあげる」と申向けてその旨同人を誤信させ因て同日右同所において同人より委託加工名下に菜種百九貫を交附させてこれを騙取し
(二) 前同日頃同郡同村同大字新井六十九番地三井静子方で前同様の方法を以て同人を申欺き同人をその旨誤信させ因つて同人より委託加工名下に菜種十六貫入一叺を交附させてこれを騙取し
(三) 前同日頃同郡同村大字根崎字北根百九番地沓名幸平方で前同様の方法を以て同人を申し欺き同人をその旨誤信させ因つて同人より委託加工名下に菜種十六貫入二叺を交附させてこれを騙取し
たものである。
尚被告人鈴木勇は昭和二十五年九月二十二日名古屋高等裁判所において銃砲等所持禁止令違反罪により懲役四月弐年間刑執行猶予の判決を受け該判決は同年十月七日確定したものである。
証拠(省略)
適用法令
被告人川原妙
判示第一の事実 刑法第百八条、第六十条(有期懲役刑選択)
判示第二の事実 刑法第二百四十六条第一項、第六十条、第五十四条第一項前段、第十条
判示第三の事実 刑法第百五十七条第一項、第六十条、罰金等臨時措置法第三条、第二条(罰金刑選択)
刑法第四十五条前段、第四十七条本文、第十条、第十四条、第四十八条第一項、第十八条、刑事訴訟法第百八十一条第一項
被告人都築徳三郎
刑法第二百四十六条第一項、第六十条、第五十四条第一項前段第十条、刑事訴訟法第百八十一条第一項
被告人鈴木勇
判示第一の事実 刑法第四十五条後段、第五十条、第百八条、第六十条(有期懲役刑選択)第六十六条、第七十一条、第六十八条第三号
判示第五の事実 刑法第二百四十六条第一項、第四十五条前段第四十七条本文、第十条刑事訴訟法第百八十一条第一項
被告人大西等
判示第三の事実 刑法第百五十七条第一項、第六十条、罰金等臨時措置法第三条、第二条
判示第四の事実 刑法第二百八条、罰金等臨時措置法第三条第二条
刑法第四十八条第二項、第十八条、刑事訴訟法第百八十一条第一項
尚被告人中村秀雄、同鈴木菅次、同間瀬一男に対する公訴事実は、
被告人川原妙は愛知県幡豆郡一色町大字味浜字北乾地四十七番地所在大洋製油株式会社取締役社長、同中村秀雄、同鈴木菅治は同会社取締役、同鈴木勇、同間瀬一男は同会社工員として農家及油糧配給公団より委託された菜種の搾油事業を営んでいたものなるところ
第一、被告人川原妙は昭和二十三年十月上旬頃より多量の保有菜種油を横流しし農家及油糧配給公団への還元油の不足を生じ次第に経営困難を来し之が措置に苦慮した結果放火により工場を全焼してその使途を糊塗すると共に保険金を騙取して会社の窮状を打開しようと企て同年十一月九日当時共栄火災海上保険相互会社と契約していた保険金百五十万円に加えて別途に安田火災海上保険株式会社と保険金四百万円の新火災保険契約を締結して之が準備を整えた後同年十二月一日頃一色町字天神所在キリン食堂二階座敷に前記中村秀雄、鈴木菅次、鈴木勇の三名を招致して同被告人等に叙上保有菜種油横流しの実情を訴え之が打開策として前記工場に放火する決意を打開けて放火の謀議を遂げ茲に被告人中村秀雄、同鈴木菅次は被告人川原妙、同鈴木勇と共謀の上被告人鈴木勇がその実行を担当し同被告人は右謀議に基き同年十二月三日午前零時頃同工場内北西隅の空叺の堆積してある箇所に油のしみたボロ布二百匁位を置き之にマツチを以て点火し右空叺に燃え移らしめ因つて同工場を焼燬し
第二、被告人間瀬一男は同月二日夜同工場当直員であつたが同日被告人川原妙より当夜の放火の計画を打開けられて当夜情を知らない同係の宿直員犬塚正を放火現場である同工場から誘い出して遊興する様命ぜられるやその情を知り乍ら右犬塚正を伴なつて同夜工場を抜け出し前記鈴木勇の放火を容易ならしめ以て幇助したものである。
というに在る。
併し被告人中村秀雄、同鈴木菅次は右事実を否認し自分達は昭和二十三年十二月一日頃鈴木勇の通知により同人と一色町字天神所在のキリン食堂二階に行つたところ被告人川原妙が既に待合せて同人より会社事業の窮状を訴えられ工場を焼燬して打開することの決意を打明かされたが被告人中村秀雄、同鈴木菅次は突然のことであり又重大なことなので直に反対をしたが川原の性格に鑑み飽く迄これを阻止するの態度に出でなかつたと弁解する。よつて当公廷に顕出された総ての証拠を綜合するに被告人中村秀雄、鈴木菅次は単に被告人川原妙より工場放火の決意を打開けられ相談を持ちかけられたに止まり未だ以て放火についての共謀を為したまでの事実を認むるに足らない。結局この両被告人に対しては犯罪の証明不十分であるから刑事訴訟法第三百三十六条に則り無罪とする。
次に被告人間瀬一男は同人に対する公訴事実を全部認めるところであるが同被告人は昭和二十四年十二月八日西尾簡易裁判所において本件工場を過失により焼燬した事実につき罰金千円に処せられ該判決は同年十二月二十七日確定したものである。それと本件公訴事実を比較するにその方法において前者は被告人間瀬一男の過失に基く工場の焼燬、後者は被告人鈴木勇等の放火に基く工場の焼燬であつて火災の原因について相違はあるが工場の焼燬という結果は同一である。従つてこの場合事実の同一性を認めなければならないのであつて被告人間瀬一男に対しては刑事訴訟法第三百三十七条第一号に則り免訴する。
よつて主文の通り判決する。(昭和二七年一一月一〇日名古屋地方裁判所岡崎支部)