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名古屋地方裁判所岡崎支部 平成13年(ワ)141号 判決 2002年6月20日

主文

一  被告堀江純子及び同柘植高弘は、各自、原告中島泰子に対し、六六二万八七五一円及びこれに対する平成一二年四月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告中島勝利、同中島千波、同中島恵ら各自に対し、各三六四万二九一七円及びこれに対する平成一二年四月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告共栄火災海上保険相互会社は、原告中島泰子の被告堀江純子に対する本判決が確定したときは、原告中島泰子に対し、六六二万八七五一円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告共栄火災海上保険相互会社は、原告中島勝利、同中島千波、同中島恵の被告堀江純子に対する本判決が確定したときは、原告中島勝利、同中島千波、同中島恵各自に対し、各三六四万二九一七円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告らのその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用はこれを五分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

六  この判決は、一項ないし三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告堀江純子(以下「被告純子」という。)及び被告柘植高弘(以下「被告柘植」という。)は、各自、原告中島泰子(以下「原告泰子」という。)に対し、八三五万八七五〇円及びこれに対する平成一二年四月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告中島勝利(以下「原告勝利」という。)、同中島千波(以下「原告千波」という。)、同中島恵(以下「原告恵」という。)ら各自に対し、各四一八万六二五一円及びこれに対する平成一二年四月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告共栄火災海上保険相互会社(以下「被告会社」という。)は、原告泰子の被告純子に対する本判決が確定したときは、原告泰子に対し、八三五万八七五〇円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告会社は、原告勝利、同千波、同恵の被告純子に対する本判決が確定したときは、原告勝利、同千波、同恵ら各自に対し、各四一八万六二五一円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は被告らの負担とする。

五  仮執行宣言

第二事案の概要

本件は、交通事故による死亡者相続人らが、被告純子を加害者、被告柘植を加害車両保有者、被告会社を保険契約に基づく賠償義務者として、その損害賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実等

(1)  事故の発生(以下「本件事故」という。甲一、甲九ないし一二、乙ハ二、乙ハ五)

(ア) 日時 平成一二年四月二二日午前一時四五分ころ

(イ) 場所 愛知県安城市大東町九番一三号先路線上 岡崎半田線

(ウ) 加害車 自家用普通乗用自動車(被告純子運転、保有者被告柘植)

(エ) 被害車 自家用普通乗用自動車(亡中島良勝運転)

(オ) 事故態様 加害車がセンターラインを超えて反対車線に進出し、反対車線を対向走行してきた被害車と衝突した。

(2)  被害車を運転していた中島良勝は、本件事故により脳挫傷及び肺挫傷の傷害を負い、平成一二年四月二二日午前二時一五分に死亡した(甲八)。

(3)  原告泰子は中島良勝の妻、原告勝利、同千波、同恵はいずれも中島良勝の子であって、中島良勝の相続人は原告ら四名である(甲二の一ないし四)。

(4)  被告純子は、加害車を運転中、ハンドル操作を誤り、本件事故を惹起したものである。また、被告柘植は加害車の保有者である。したがって、本件事故につき、被告純子は民法七〇九条ないしは自動車損害賠償保障法三条に基づく、被告柘植は自動車損害賠償保障法三条に基づく損害賠償責任を負う(甲九ないし一二、乙ハ二、乙ハ五)。

(5)  原告らは、本件事故による賠償金として自賠責保険により合計三〇〇〇万円の支払を受けた。また、被告純子から合計八六万円が原告らに支払われた。

(6)  本件事故当時、被告純子の夫堀江崇は被告会社との間で、堀江崇の所有する自動車を被保険自動車とする他車運転危険担保特約付自家用自動車総合保険契約(以下「本件特約保険」という。)を締結していた。本件特約保険三条には、被告会社は、記名被保険者、その配偶者または記名被保険者もしくはその配偶者の同居の親族が、自ら運転者として運転中の他の自動車を被保険自動車とみなして、被保険自動車の保険契約の条件に従い、普通保険約款賠償責任条項を運用しますと規定し、同二条において、他の自動車とは、記名被保険者、その配偶者または記名被保険者もしくはその配偶者の同居の親族が所有する自動車(所有権留保条項付売買契約により購入した自動車、及び一年以上を期間とする貸借契約により借り入れた自動車を含む)以外の自動車であって、記名被保険者、その配偶者または記名被保険者もしくはその配偶者の同居の親族が常時使用する自動車を除くと規定している。

二  争点

(1)  本件事故による損害額

(2)  本件事故について、被告純子が借りて運転していた加害車が本件特約保険にいう「常時使用する自動車」に該当するか。

(原告らの主張)

本件事故は、被告純子が同柘植所有の加害車を運転中、前記過失により生じたものである。本件事故当時、被告純子は、同柘植から加害車の保管を依頼されていたもので、保管中に自己使用する場合は、その都度被告柘植より許可を受けることになっており、使用範囲も限定されていた。そして、保管期間は被告柘植が駐車場を借りるまでという一時的なものであって、被告純子が加害車を使用した期間は約八日間でしかない。このように加害車は、被告純子の常時使用する自動車とはいえないものである。したがって、本件特約保険に基づき、被告会社は本件事故による損害について保険契約上の責任を負うものである。

(被告会社の主張)

他車運転危険担保特約は、被保険自動車以外の自動車を臨時に運転している最中に起こした事故を対象とするものである。本件事故は、被保険自動車を保険契約者が恒常的に運転している状態で、被告純子が保険に入っていない加害車を運転していたものであって、明らかに一自動車一保険料の原則を逸脱している。また、被告純子には使用について広汎な裁量が与えられ、返還期限の定めもなかったものであり、常時使用する自動車に該当するものである。したがって、被告会社に保険金支払の義務はない。

第三争点に対する判断

一  損害額等について

(1)  逸失利益 認容額一七七一万七五〇三円(請求額同額)

中島良勝は、昭和二一年四月一一日生まれの男子であり(甲二の二)、本件事故当時、山加工業株式会社に勤務し、事故前年の平成一一年度の給与総額は三七七万二二九〇円であった(甲四)。

中島良勝の稼働年数は一三年(六七歳-五四歳)であり、それに対応するライプニッツ係数は九・三九三五である。そして、その生活費割台は五割とするのが相当である。

したがって、中島良勝の逸失利益は下記のとおりとなる。

377万2290円×9.3935×0.5=1771万7503円

(2)  慰謝料 認容額二〇〇〇万円(請求額同額)

中島良勝には妻及び三名の子供があり、一家の支柱的立場にあったこと、その死亡年齢、本件事故態様等の事情を斟酌すると、死亡による慰謝料は二〇〇〇万円とするのが相当である。

(3)  葬儀費用 認容額一二〇万円(請求額同額)

中島良勝の死亡による葬儀費用は一二〇万円とするのが相当である。

(4)  原告ら固有の慰謝料

認容額各二〇〇万円(請求額各二五〇万円)

前記事情を勘案すると、原告ら固有の慰謝料は各二〇〇万円とするのが相当である。

(5)  既払金

原告らは、本件損害について自賠責から三〇〇〇万円、被告純子から八六万円の支払を受けた。

したがって、(1)ないし(3)の合計から(5)の既払金を控除すると八〇五万七五〇三円となる。これを原告ら法定相続割合(原告泰子二分の一、原告勝利、同千波、同恵各六分の一)で除した上、原告ら固有の慰謝料を加算すると、原告泰子は六〇二万八七五一円となり、その余の原告らは各三三四万二九一七円となる。

(6)  弁護士費用 認容額原告泰子六〇万円、その余の原告ら各三〇万円(請求額原告泰子八〇万円、その余の原告ら各四〇万円)

本件事故と相当因果関係にある弁護士費用相当の損害は、原告泰子につき六〇万円、その余の各原告らにつきそれぞれ三〇万円と認めるのが相当である。

(7)  原告ら各自の損害額

以上からすると、原告ら各自の損害額は、原告泰子につき六六二万八七五一円、その余の原告らにつきいずれも各三六四万二九一七円となる。

したがって、被告純子、同柘植は、前記原告らの各損害について賠償義務を負うものである。

二  被告会社の保険契約上の責任

本件特約保険の趣旨は、被保険者等がたまたま被保険自動車に代えて一時的に他の自動車を運転した場合、その使用が被保険自動車の使用と同一視し得るようなもので、事故発生の危険が被保険自動車について想定された危険の範囲内のものと評価される限度で、他の自動車の使用による危険をも担保しようとしたものである。そして、ここにいう他の自動車とは、被保険者等が所有する自動車(これには所有権留保付売買契約により購入した自動車、一年以上を期間とする貸借契約により借り入れた自動車も含まれる)以外の自動車であって、被保険者等が常時使用する自動車を除いたものとしている。このような本件特約保険の趣旨、規定からすれば、常時使用する自動車とは、一時的に借り入れたと評価できないほどの期間の貸借契約により借り入れた自動車であって、その貸借期間中は借主において通常の方法により自由に使用することができるものを含むと解され、使用の形態からみて日常的に使用しているか否か、一時的、個別的使用許可によるものか包括的な使用許可に基づくものであるか否かの観点から判断すべきである。

そこで、本件についてみるに、証拠(甲一二の三、乙ハ六、被告純子、被告柘植各本人)によれば、被告柘植は所有していた加害車の駐車場所に困り、馴染みのスナックに勤務していた被告純子に、駐車場が確保できるまで加害車を預かって欲しいと申し出たこと、その際、被告柘植は被告純子に、用事があるときは乗ってもいいが、使用する時は事前に許可を求めること、遠乗りやスナックへの通勤には使用しないとの条件を付けたこと、被告純子は車があればいいかなとも思い被告柘植の求めに応じることにし、平成一二年四月一四日被告柘植からスペアキー一個とともに加害車を受け取ったこと、被告純子は本件事故前三回ほど加害車を運転して買い物等に行ったが、使用に際し全て被告柘植の事前許可を求めたものではなかったこと、被告柘植は同月一六日に加害車を使用する必要が生じたため被告純子からこれを受け取り、同日中にまた被告純子に戻したこと、被告柘植は同月一五日ころ駐車場が確保できることになったことから、そのころその旨を被告純子にも伝え、一週間ほどで加害車を引き取りに行くと申し出たこと、同月二一日午後九時半ころ、被告純子は友人の福田ひとみの求めに応じて、加害車に同人を同乗させて被告純子が勤務するスナックに行き、翌二二日午前一時ころ、福田ひとみを乗せて帰宅する途中、本件事故を引き起こしたこと、被告純子は、その往路に加害車を使用する許可を被告柘植から得てはいなかったが、帰路はたまたまスナックに被告柘植が来ていたことから、その許可を受けて運転したこと、前記一四日から二二日までの間、被告純子が加害車に給油したことはなかったこと等の事実が認められる。

前記認定事実からすると、被告純子は、加害車の駐車場が確保されるまでの間、これを預かることを承諾して引き渡しを受けたもので、自己使用がその目的ではなく、また、その期間中に加害車を使用することを認められていたものの、使用に当たってはその都度被告柘植の許可を必要とし、使用範囲も近隣への買い物程度に限定されていた。そして、預かり期間も引渡し時には確定されてはいなかったが、駐車場の確保までということであることからして、通常一、二か月も見込めば十分であり、現に預かった二、三日後には駐車場が見つかり、その一週間ほど後には被告柘植に返還される予定となったもので、その期間は短いものであった。この間の被告純子の加害車使用回数は四回程度と少ないものであり、これら事情に鑑みると、被告純子の加害車の使用態様は「常時使用」と評価し得るものではないというべきである。

したがって、被告会社は本件保険特約に基づき、本件事故による前記一、(7)認定の損害について、原告らに対し、その賠償に応ずる義務がある。

三  よって、原告らの本訴請求は、主文一項ないし三項記載の限りで理由があるのでこれを認容し、その余の請求は失当としてこれを棄却する。

(裁判官 岩田嘉彦)

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