名古屋地方裁判所岡崎支部 平成17年(ワ)400号 判決 2008年1月17日
原告
豊田市
同代表者市長
鈴木公平
同訴訟代理人弁護士
藤田哲
同
須藤裕昭
同
鈴木宗紹
同指定代理人
宇井英二
他8名
被告
A野こと
A太郎
同訴訟代理人弁護士
福島啓氏
同
鈴木良明
同
山森広明
主文
一 被告は、原告に対し、金二四九一万七八七八円を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
主文同旨
第二事案の概要
本件は、株式会社B山(以下「B山」という。)が豊田市内の土地に大量の産業廃棄物を過剰保管したことから、原告が同社及び実質的オーナーであるとされる被告に対して、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)に基づく同廃棄物の撤去等を命ずる各措置命令を発したものの、被告が措置命令を遵守しなかったことから、原告が過剰保管廃棄物の処理等を行ったところ、これにあたって原告が支出した調査費用について、原告が被告に対し事務管理に基づく費用償還を求めている事案である。
一 前提となる事実(争点整理の経過及び証拠等により認定できる事実)
(1) 原告は、地方自治法に基づく普通地方公共団体であり、平成一〇年四月一日、中核市に指定された。それに伴い、廃棄物処理法上の監督権限が、愛知県知事から豊田市長に移譲された。
(2) B山は、一般廃棄物の収集運搬業、産業廃棄物の収集運搬等、処分業等を目的とする会社である。被告は、平成一一年九月二八日から平成一二年一一月一〇日までB山の代表取締役の地位にあり、B山に対し、愛知県豊田市勘八町《番地省略》等の土地を産業廃棄物の最終処分場用地として賃貸している。
(3) B山は、上記土地を含む愛知県豊田市勘八町《番地省略》外の土地に産業廃棄物処理施設として最終処分場及び中間処分場(敷地面積一万一八九五平方メートル、埋立面積一万〇六五一平方メートル、埋立容量一二万五〇九八立方メートル。以下「本件処分場」という。)を有しているが、平成一六年五月一八日時点において、上記許可された容量から一二万二九二一立方メートル超える廃棄物を過剰保管している(以下、本件処分場にあたった過剰保管にかかる廃棄物を「本件過剰保管廃棄物」という。)。
(4)ア 原告は、平成一一年五月、本件過剰保管廃棄物から火災が発生したため、原告はB山に対し火災の再発防止に係る「改善勧告」を発した。しかし、その後も過剰保管状態が続いたため、原告は、同年七月六日付けで、B山に対し、本件過剰保管廃棄物の撤去及び処理を命じる「改善命令」を発した。
イ B山が上記「改善命令」に従わなかったため、原告は平成一二年三月二一日、B山に対し本件過剰保管廃棄物の撤去及び適正処理を命じる「措置命令」及び産業廃棄物処理業の三〇日間の全部停止を命じる「停止命令」を発した。
ウ それでも、産業廃棄物の過剰保管量が増加したことから、原告は、被告に対し、平成一五年九月六日付けで「改善勧告」、同年一二月一八日付けで廃棄物処理法一九条の五に基づく措置命令(以下「本件措置命令」という。)を発した。本件措置命令の内容は以下のとおりである。
「一 講ずべき支障の除去等の措置の内容
豊田市勘八町《番地省略》ほか一三筆に設置された株式会社B山に係る産業廃棄物処理施設(最終処分場)及び産業廃棄物中間処理施設に野積み状態で過剰に埋立・保管されている産業廃棄物について、不適正処理が行われた当時の株式会社B山の代表取締役であったこと及びその当時からの土地所有者であったことの責任において、生活環境保全上の支障が生じることのないようこれを撤去し、及び適正に処理すること。
二 命令の履行期限
平成一七年八月一日
三 命令を行う理由
豊田市勘八町《番地省略》ほか一三筆に設置された株式会社B山に係る産業廃棄物処理施設(最終処分場)及び産業廃棄物中間処理施設に埋立・保管されている産業廃棄物が、埋立容量及び保管容量を超え、野積み状態で埋立・保管されており、これらの産業廃棄物には飛散、崩落等を防止する措置が講じられていない。その結果、現に産業廃棄物が風にあおられ他人の所有地に飛散しており、かつ、崩落のおそれが大きい状況にある。加えて、これらの産業廃棄物から過去頻繁に火災が発生しているなど、生活環境保全上の支障が生じるおそれがあると認められるため。」
(5) しかし、被告は、本件過剰保管廃棄物の撤去及び上記適正処理を行わなかった。
(6) 原告は、本件過剰保管廃棄物の環境に及ぼす影響を確認するために廃棄物実態調査及び周辺環境調査等(以下「本件調査」という。)を行い、その費用として二四九一万七八七八円を支払った。本件調査は、廃棄物、地下水、廃棄物からの浸出水、底質、河川水、悪臭、可燃ガス、廃棄物の内部温度を調査するため、ボーリング調査等により各資料を採取し、各試験を行うというものである。その結果、本件過剰保管廃棄物の影響として、廃棄物自体から環境基準を超える鉛及びベンゼンが検出され、地下水からは環境基準を超えるほう素が検出され、地下水の電気伝導率及び塩化物イオンが極めて高く、廃棄物から発生する臭気については、硫化水素、酢酸エチル及びアンモニアが高濃度で検出され、また、廃棄物内温度が環境基準より高く、メタンガスの濃度が環境基準を上回っていたことが明らかとなった。そして、これを改善する方法として、廃棄物中の鉛の飛散及び雨水による溶出を防ぐため、本件過剰保管廃棄物全体に遮水シートをかけ覆土することなどにより遮水をすること、廃棄物に触れた水の流出を防ぐために遮水対策を行うこと、悪臭及び火災防止の対策として、ガス抜き管を設置して、内部に効率よく酸素を供給するなどの方法をとること、本件過剰保管廃棄物の崩落を防ぐために整形作業を行うこと、整形の際に処理が必要な廃棄物については産業廃棄物処理業者に委託して適正に処理することなどの措置を講じることが提案されている。
(7) 原告は、本件過剰保管廃棄物による生活環境保全上の支障の除去として、廃棄物を掘削し、それに覆土し、擁壁、排水路及びガス管を設けることにより、本件過剰保管廃棄物の崩落、飛散あるいは本件過剰保管廃棄物による悪臭、火災発生等を防止するための措置を講じた。原告は、この措置に八億四八〇八万七〇五円を支出した(以下「本件措置工事」という。)。
(8) 原告は、本件措置工事にかかる上記費用について廃棄物処理法一九条の八第五項、行政代執行法五条、六条により、国税徴収法の例による徴収手続を行った。
(9) 本件調査にかかる費用は、同徴収手続において徴収すべき費用とはなっていない。
二 争点
(1) 本件調査が被告の事務か
(原告の主張)
ア 被告は、平成一一年九月二八日から平成一二年一一月九日までB山の代表取締役の地位にあり、この間、B山が保管する産業廃棄物の量は一貫して増え続け、同社が不適正処分を行い続けたことは明らかであるから、被告も廃棄物処理法一九条の五第一号にいう「不適正処分を行った者」にあたる。
また、被告は平成二年五月一八日から平成一五年一二月一六日まで本件処分場の土地所有者であり、B山に土地を賃貸し続けて、同社が不適正処分を行うことを可能ならしめたものであるから、同法一九条の五第四号にいう「不適正処分をすることを助けた者」にあたる。
イ 被告が、生活環境保全上の支障を除去するための措置を行うためには、どのような産業廃棄物が、どのようにして、どの程度積み上げられているかを正確に調査しなければ、産業廃棄物が崩落したり、飛散したり、出火しないために、あるいは周囲の環境に悪影響を与えないために、どのような措置をすればよいかを正確に把握することができないから、環境影響調査を行うことは必要不可欠である。
したがって、本件調査を行うことは、措置命令を受けた被告の「事務」であり、原告からすれば「他人の事務」である。
ウ 被告は、奈良県内の処分場に本件過剰保管廃棄物を撤去する予定であったとするが、同処分場は稼働しておらず、実現可能性がない。また、過去に被告が原告の改善命令や措置命令を無視し、生活環境保全上の措置を取ってこなかったことを考えると、被告の主張する撤去計画は空論である。
エ 本件過剰保管廃棄物が全量撤去できればいうことはないが、それには莫大な費用が必要となる。本件調査は、生活環境保全上の支障を除去するためのもっとも低コストで、もっとも合理的な方法を調査・検討・提言したものであり、現実的に実現可能な具体的な方法を調査したものであるから、被告の主観的な計画とは異なっていたとしても、客観的には被告の事務にあたる。
(被告の主張)
ア 原告の発した命令は本件過剰保管廃棄物を撤去するように命じるものである(平成一二年三月二一日付けのB山に対する措置命令は全量撤去を命じている。)が、原告が行った本件措置工事は全量撤去ではなく、原告自身の行動と矛盾している。また、原告が全量撤去を不可能と判断して、本件措置工事を行ったのであれば、個人である被告に対して全量撤去を行うよう命じることは不可能を強いることである。
イ 本件措置工事の内容は、問題を先送りするだけで、生活環境保全上の支障のない状態を作ることにはならないから無駄であるし、本件措置工事によって固めた産業廃棄物を搬出処理するとなれば二度手間となり余分な費用がかかる。また、本件処分場には農地として返還すべき借地が含まれているが、本件措置工事はこの点を全く無視している。
ウ 本件調査は、全量撤去の実現可能性に触れておらず、その報告内容は不完全である。
エ 被告は、本件措置命令後、奈良県内の処分場に本件過剰保管廃棄物を移設する具体的計画を立て実行する寸前であった。なお、この計画は、当面二億円の資金を確保して同処分場を完成させ、同処分場での収益をもとに本件過剰保管廃棄物の撤去費用に充てるというものであるから、当面の資金をもって、本件計画が実現できないという原告の批判は当たらない。
オ 原告が行った本件措置工事は、被告が計画していたものと異なり、本件過剰保管廃棄物が崩落、飛散しないように固めるというものである。本件調査の内容は、原告の措置内容を前提とするものであるから、被告の計画を前提としたものとは全く異なるというべきであるから、原告が行った本件調査は、被告の事務とはいえない。
カ 以上のとおり、原告の本件措置工事は極めて不適切であり、その前提となった本件調査も不適切かつ不必要であって、この調査が被告の事務といえないことは明白である。
(2) 本件調査が、被告の意思又は利益に反することが明らかであるか
(被告の主張)
ア 事務管理が成立する場合には、少なくとも、被告本人の意思を確認できる場合にはそれを確認し、その意思に従って管理することが必要であるが、原告は、確認を一切せず、被告の意思に反することが明らかな管理をした。
イ 上記のとおり、被告は、奈良県内の処分場に本件過剰保管廃棄物を移設するという具体的計画を立てていた。このように本人が既に事務管理の内容を実現する具体的行動を取っていた場合には、他人である管理者の介入を拒む意思であることは明らかであるから、「本人の意思」に反する。
ウ 事務管理は、本人の意思によらず法律関係を発生させるものであるから、本人の意図しない経済的負担が発生したとしても、本人の不利益が過大にならないように事務管理の成立は厳格に判断されるべきであり、本人の予測を越えた費用負担を伴う場合には、「本人の利益に反する」ものとして、事務管理の成立を否定すべきである。
被告は、措置命令の内容により、その範囲に含まれる費用の負担の予測はある程度可能であるが、措置命令の範囲外の費用については予測不能であり、これを事務管理に基づき請求されるとすれば、本人の経済的負担は過大になるから、「本人の利益に反する」というべきである。
(原告の主張)
前記(1)のとおり、被告の本件過剰保管廃棄物の撤去・適正処理の計画は、実現可能性がないものであり、措置命令を受けた被告にとって、本件調査は、被告の客観的かつ合理的な意思に沿うものであるとともに、客観的な利益に適うものである。
また、事務管理を行うことが社会公共の利益に適う場合には、本人の意思又は利益は無視されるべきである。本件過剰保管廃棄物の撤去・適正処理を行うことは、近隣住民等の生活環境保全という社会公共の利益に適うものであり、これにあたって、被告の主観的な利益及び意思は顧慮されるべきではない。
第三争点に対する判断
一 争点1(本件調査が被告の事務か)について
(1) 《証拠省略》によれば、以下の事実を認めることができる。
ア B山及び被告の関係
(ア) B山の前身である有限会社B山は、昭和六一年四月二三日に産業廃棄物の収集、運搬及び処理等を目的として設立された有限会社であった。同社は、昭和六二年二月二七日に産業廃棄物収集運搬業及び産業廃棄物処分業・中間処理(選別、焼却)の許可を受けている。なお、同社の代表者は被告であった。
(イ) 平成八年八月一八日、B山は有限会社から株式会社に組織変更した。当時の代表取締役は被告の妻C川花子であった。平成一一年九月二八日、被告はB山の代表取締役に就任したが、平成一二年一一月一〇日、被告の同職退任に伴い、C川花子がB山の代表取締役に就任し、さらに同月一四日にはC川花子も同職を辞任した。その後、B山の代表取締役はD原松夫(被告の妹の夫)、E田竹夫(以下「E田」という。)、A田梅夫(以下「A田」という。)と変遷している。
(ウ) しかしながら、B山が本件処分場の拡張、あるいは中間処分場の設置の許可申請を行う際の豊田保健所の職員との交渉相手は、大半が被告であった。また、被告は、B山に対する原告の行政指導や行政処分に対し、不服や弁明の電話を掛けたり、職員に面会を求めたりしていた。B山の歴代の役員や従業員は被告のことを「会長」と呼び、原告の職員がB山を指導する際にも、B山の代表者らは、多くは被告と相談の上回答する旨返答していた。さらには、被告は、平成一四年ころも会社内の事業について指示を与えていた。このように、被告は、自身がB山の代表取締役の地位にないときにおいても、B山を代表して交渉等を行い、あるいは社内に対して指示等を行っていた。
(エ) また、B山の株式については、被告とC川花子が二人で一〇〇パーセント保有している。
イ 本件処分場、過剰保管廃棄物及び行政の対応の経過
(ア) 被告は、平成二年五月から六月にかけて豊田市勘八町《番地省略》外二筆の土地を取得した。被告は、同土地に最終処分場を設置して埋立処分業を行うことを計画し、B山に同土地を賃貸した。B山は、埋立処分業を開始する計画をし、平成二年三月二日付けで、愛知県知事に対し、産業廃棄物処理施設(最終処分場)設置届出書を提出した。その内容は、敷地面積七八三六平方メートル、埋立面積六八六八平方メートル、埋立容量四万五四五〇立方メートル、処分場の形態は安定型最終処分場とするものであった。B山は、平成三年二月ころから埋立処分を開始し、その後、隣接する土地(農地等)を賃借したりして、平成五年六月二二日、最終処分場を拡張した。その後、B山は、同土地内に中間処理施設を併設したことから最終処分場自体の面積は、敷地面積一万一八九五平方メートル、埋立面積一万〇六五一平方メートル、埋立容量一二万五〇九八立方メートルとなった。
(イ) 本件処分場においては、平成六年ころから、廃棄物の過剰保管状態が発生し、山積みとなっていたため、同年一一月から平成九年ころにかけて愛知県豊田保健所が度々の指導を行っていた。平成一〇年四月一日時点では、本件処分場全体に高さ約二ないし三メートルの廃棄物が過剰保管されている状態であった。
(ウ) 平成一一年五月三一日、本件過剰保管廃棄物から火災が発生したことから、同年六月二日付けで、原告は、B山に対し、火災の再発防止にかかる改善勧告を発した。
(エ) 同年七月六日、原告は、B山に対し、豊田市勘八町《番地省略》外一四筆に設置した産業廃棄物処理施設(本件処分場)において、計画区域及び計画高さを超えて産業廃棄物を埋立てしていること及び同場所に設置した産業廃棄物処理施設について、保管施設以外に中間処理施設で処分を行うための適正量を超えて産業廃棄物を保管しているとして、廃棄物処理法に基づき、計画区域及び計画高さを超えた産業廃棄物及び保管施設以外に保管されている産業廃棄物を同年九月六日までに撤去し、適正に処分することを命じる改善命令を発した。
(オ) 平成一二年三月二一日、原告は、B山に対し、上記(エ)と同様の理由により、同年五月二〇日を履行期限として、本件過剰保管廃棄物の撤去及び適正処分を命じる措置命令を発した。また、同じく同年三月二一日、原告は、B山に対し、産業廃棄物処分業の全部を同月二七日から同年四月二五日までの三〇日間停止する停止命令を発した。B山はこれらの処分に対する不服審査請求を行ったが、同請求は平成一三年三月一三日に却下及び棄却された。
(カ) 平成一二年一一月二一日時点で、本件過剰保管廃棄物の量は、埋立処分場分が五万六九〇七立方メートル、中間処分場分が一万四一六七立方メートル、合計七万一〇七四立方メートルに達していた。
(キ) 平成一四年三月一二日時点で、本件過剰保管廃棄物の量は、埋立処分場分が七万九五九三立方メートル、中間処分場分が六六五九立方メートル、合計八万六二五二立方メートルに達していた。
(ク) 同年五月二九日、最終処分場で大規模な火災が生じた。そのため、原告は、B山に対し、同年六月三日付けで、火災防止の改善勧告を発した。
(ケ) 同年八月一五日、中間処理施設を中心に火災が発生した。そのため、原告は、B山に対し、同月一九日付けで、火災防止の改善勧告を発した。
(コ) 平成一五年五月二〇日時点で、本件過剰保管廃棄物の量は、埋立処分場分が一〇万三一六八立方メートル、中間処分場分が五三四四立方メートル、合計一〇万八五一二立方メートルに達していた。
(サ) 同年六月三日、最終処分場で大規模な火災が生じたことから、原告は、B山に対し、火災防止の改善勧告を発した。
(シ) 同月一六日、B山(当時の代表者はE田)から過剰保管廃棄物の搬出計画が提出され、実際に同年七月から一〇月までに約四〇〇〇立方メートルの廃棄物が搬出されたが、E田の退任に伴い、搬出作業はストップし、その後、逆に過剰保管廃棄物の量が増加した。
(ス) 同年六月二〇日、豊田市立上鷹見小学校から、原告に対し、本件土地の過剰廃棄物及び度重なる火災に対し、撤去及び火災防止に関する要望書が提出された。
(セ) 同年九月一六日、原告は、被告に対し、豊田市勘八町《番地省略》外三筆の土地について、産業廃棄物処理基準に適合しない状態で保管している産業廃棄物を撤去し及び適正に処理する措置を講じるとともに、同月三〇日までに同市に改善計画書の提出を求める勧告を行った。
(ソ) 同年一二月一六日、被告は、B山に賃貸していた豊田市勘八町《番地省略》外二筆の土地について、B山に対し、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をした。
(タ) 同月一八日、原告は、被告に対し、本件措置命令を発した。被告は、名古屋地方裁判所に対しその無効確認を求めて訴えを提起したが、平成一九年八月三〇日、被告の訴えは本件措置工事によって訴えの利益を欠くに至ったとして、同訴えを却下するとの判決がなされた。(前記第二の一(4))
(チ) 平成一六年六月二五日、原告は、B山に対し、中間処分業を同月二六日から同年八月二四日までの六〇日間停止する旨の停止命令を発した。B山は、これに対して不服審査請求を行ったが、平成一七年三月一〇日、同請求は棄却された。
(ツ) 平成一六年八月三日、当時のB山の代表取締役であったA田は、無許可の業者に産業廃棄物を処理させた容疑で福岡県警察によって逮捕され、同月二四日、同容疑によりB山とともに起訴された。そこで、原告は、B山に対し、同月二五日、これが廃棄物処理法所定の欠格要件に該当するとして、B山に対する産業廃棄物収集運搬業及び産業廃棄物処分業・中間処理(選別、焼却)の許可を取り消す処分をした。
ウ 本件過剰保管廃棄物の状態
平成一六年五月一八日当時、本件過剰保管廃棄物の量は、埋立処分場分が一一万三七六八立方メートル、中間処分場分が九一五三立方メートル、合計一二万二九二一立方メートルに達しており、外観からも、大量の廃棄物が集積、野積みにされていることが認められ、飛散、流出のおそれも大きい。
エ B山及び被告の代案について
(ア) 平成一七年九月二七日、B山は、天理市内に廃棄物処理施設設置許可を受けたB野春夫との間で、B山が同施設の設置費用としてB野春夫の指定する業者に二億三〇〇〇万円を支払うことにより、B山の産業廃棄物一二万二九二一立方メートルの処分を行うという産業廃棄物処理委託契約を締結した。同月二八日、B山及び被告は、原告に対し、過剰保管廃棄物を搬出して、奈良県天理市の最終処分場に最終処分する計画を示し、B山及び被告の連名で、産業廃棄物を全量自主撤去する旨の上申書を提出し、同年一〇月四日には当該処分場の建設にかかり、平成一八年一月末から搬入開始をする見込みである旨の資料も添付した。
(イ) 平成一七年一〇月一一日、B山の代表取締役であるA田と原告の環境部産業廃棄物対策課課長ら職員が会談した。その中で、原告職員がA田に対し天理市の最終処分場の工事の着工について質したところ、A田は、その件は被告が個人的に動いていることだからわからないと回答した。
(ウ) 平成一八年二月現在、天理市の当該予定地において、産業廃棄物処理施設は設置されていないし、B山が産業廃棄物を搬入するという具体的な計画は実現される見込みもない。
(エ) 奈良県天理市に建設予定の最終処分場予定地は、同市の水源地の上流にあることから、施設の設置許可を与えた奈良県に対し、同市が強く抗議するなど、市を挙げて最終処分場の建設に反対している状況である。また、当該最終処分場予定地の処分場としての種類は、安定型最終処分場とされていて、廃プラスチック、ゴムくず、金属くず、ガラスくず及び陶磁器くず、がれき類しか埋立処分できないことから、本件過剰保管廃棄物に含まれる木くず、紙くず、繊維くず等の管理型産業廃棄物をそのまま搬入することはできず、強いて本件過剰保管廃棄物を天理市内の最終処分場に搬入しようとすれば、一七億円以上の費用をかけて廃棄物を選別する必要がある。また、本件過剰保管廃棄物を被告側が全量撤去し、管理型産業廃棄物最終処分場において処分するためには、四三億円余りの費用がかかる。
(オ) 以上(ア)ないし(エ)からすると、天理市内に最終処分場を建設し、そこに本件過剰保管廃棄物を運搬し処分するという方法は、実現可能性がない。
(2) 判断
ア 廃棄物処理法は、廃棄物の処理を抑制し及び廃棄物の適正な分別、保管、収集、運搬、再生、処分等の処理をし並びに生活環境を清潔にすることにより、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的としており(同法一条)、その実効性を図るために、産業廃棄物の収集又は運搬を業として行おうとする者、産業廃棄物の処分を業として行おうとする者とするものは、都道府県知事(指定都市、中核都市等政令で定める市の長を含む。同法二四条の二第一項、同法施行令二七条)の許可を受けることとされ(同法一四条一項、六項)、同許可にあたっては、その事業に要する施設及び申請者の能力がその事業を適格にかつ継続して行うに足りるものとして定められた基準に適合することが必要であり(同法一四条五項、一〇項)、同許可を受けたものは、政令で定める産業廃棄物処理基準に従って、産業廃棄物の収集若しくは運搬又は処分を行わなければならないもの(同法一四条一二項、一二条一項)として、業として産業廃棄物の処理等に携わるための要件を厳しく定めるとともに、許可を受けた業者等の適正な業務を担保するために、行政による報告徴収(同法一八条一項)、立入検査(同法一九条一項)、改善命令(同法一九条の三第二号)、措置命令(同法一九条の五、一九条の六)の権限を付与し、これらに違反等した場合には罰則を設けている(同法三〇条五号、同六号、同法二五条一項五号)ほか、産業廃棄物収集運搬業者又は同処分業者が違反行為をしたり、あるいはさせたり、事業の施設及び能力が基準に適合しなくなったときなどには、当該許可を停止又は取り消すことができる(同法一四条の三、一四条の三の二)とするなど、業として産業廃棄物の処理等に携わるものに対して厳しい制約を課している。
イ 以上の法の目的及び趣旨に鑑みれば、国民の生活環境を害する危険性の高い産業廃棄物を業として取り扱う者には、廃棄物処理基準等法令の規定を遵守してその業を執り行うことが強く求められているというべきであるから、これらに違反して環境汚染を招くような状況を自ら作出した者には、行政処分等によるまでもなく、そのような状況を解消する措置を自ら講じるのみならず、違反の程度に応じて、かかる違反状況により周囲の環境等に悪影響を及ぼしていないかどうかを調査した上、悪影響を及ぼしている場合には自らそれを防止あるいは改善するための措置を講じる積極的な義務があるというべきである。むろん、このことは業者として許可を受けた主体でなくとも、その違反状況を作出したといえる者についても同様である。
これを本件についてみると、前記(1)ア、同イのとおり、被告は、自らB山の代表取締役を務め、あるいは親族に務めさせ、「会長」としてB山を実質的に代表し、その業務を統括している地位にいたことが認められる上、本件処分場の土地の一部をB山に賃貸あるいは所有権移転させるなどして提供し、B山が本件過剰保管廃棄物を作出するために、必要不可欠な役割を担っていたことからすれば、廃棄物処理法一九条の五第一項一号、四号の趣旨に照らし、「不適正処分を行った者」ないし「不適正処分をすることを助けた者」に該当し、事業主体であるB山と同様の責任を負うことも明らかであるというべきである。
この点、被告は、本件処分場内で被告の管理が及ばなくなったことから、代表取締役であるE田が不正を行い過剰保管廃棄物の総量が増加したなどとも主張するが、本件過剰保管廃棄物の増加は、E田がB山の代表者となる平成一四年以前から始まっていることや前記(1)アで認定した事情に照らし採用できない。
ウ B山ないし被告は、前記(1)イのとおり、再三にわたる行政からの指導を受けながらも、本件過剰保管廃棄物の量を減少させるどころかむしろ増加させており、最終的には、前記(1)ウのとおり、本件過剰保管廃棄物の量は一二万立方メートルを遙かに超え、文字通りごみの山と形容するほかない状況を作出し、その飛散、流出のおそれが高いほか、前記第二の一(6)及び第三の一(1)エのとおり、実際に周囲の環境に悪影響を及ぼしているのであって、産業廃棄物処理基準に明らかに違反している。廃棄物処理を業とするB山及びそれと同様の責任を負う被告にとって、これにより周囲の環境に悪影響が及ぶことは容易に想定されるから、それを解消するための手段をとる義務を免れるべき理由は全くない。
エ 第二の一(6)のとおり、本件調査は、本件過剰保管廃棄物が周囲の環境に与える影響を調査するなど必要な調査をし、その適正な処理方法を検討するために行ったものであり、その内容、方法について特段問題となる点は見当たらない。被告が生活環境保全上の支障の除去等を行うためには、本件過剰保管廃棄物による影響を調査し、その結果を踏まえて実際の方策について検討することが不可欠であることから、本件調査は客観的に被告が行うべき事務である。よって、本件調査は、本来被告が行うべき事務であると認めることができる。
(3) これに対し、被告は、第二の二(1)(被告の主張)のとおり主張するので、以下検討する。
ア 被告は、本件措置工事は本件措置命令の内容と原告自身の行動と矛盾しているし、被告が本件過剰保管廃棄物の全量撤去を行うように命じることは不可能を強いることであると主張する。しかし、廃棄物の過剰保管状態を作出した被告としては、本件措置命令の有無、内容にかかわらずこれを解消するために本来全量撤去を行うべき責任があることは当然のことである。もっとも、本件過剰保管廃棄物の状況に照らし、これを全量撤去するためにかかる費用、生活環境保全上の措置の要急度等も考慮して、次善の措置として全量撤去以外の方法による生活環境保全上の支障の措置を講じることもやむを得ないのであり、本件措置命令の趣旨もこれと同様に解される。また、被告に本来全量撤去をすべき責任があるからといって、原告の行うべき措置が全量撤去に限られると解すべき理由はなく、地方公共団体である原告が行うべき措置の内容・程度は、生活環境保全上の支障の除去等の目的を達成するもので足りると解される。そうすると、当該目的を達成するため、もっとも低コストで目的を達成する方法を検討し、その方法により生活環境保全上の支障の除去等の措置を行うことは、むしろ合理的と評価できる。そうすると、原告が全量撤去を行わないことが不当であるという前提での被告の主張は失当である。また、本件過剰保管廃棄物を作出した責任に鑑みれば、本件措置命令を実施する資力が被告にあるかどうかは問題にする余地はない。
イ 被告は、本件措置工事の内容は、問題を先送りするだけで無駄であり、撤去を行うならばむしろ二度手間となって余分な費用がかかる上、農地として返還すべき借地がある点を無視していると主張する。しかし、本件措置工事は将来の撤去を前提として行われているものではないし、またそのように考える理由もない。また、借地を含む本件処分場に廃棄物を過剰保管して生活環境保全上の支障を生じさせたのは被告側であり、これによって直ちに生活環境保全上の支障の除去等の措置を行う義務が生じる以上、将来被告側に賃貸借の終了に伴い賃貸人に対する原状回復義務としての廃棄物撤去義務が生じるとしても、そのことが現在生活環境保全上の支障の除去等の措置を行うことを妨げる事情にならないことは当然である。
ウ 被告は、本件調査は、全量撤去の実現可能性に触れておらず、その報告内容は不完全であると主張する。全量撤去の方法が実現可能であり、かつ本件措置工事よりも目的達成度が高く、そのために要する期間、費用等に鑑みて合理的であるとすれば、被告主張のとおりであるが、前記(1)エ(エ)のとおり、全量撤去を行う方法も費用も目途がたたないことは明白であるから、単に本件調査の報告書において全量撤去の方法について記載されていないことをもって、本件調査が不適当といえないことは明らかである。
エ 被告は本件措置命令後、奈良県内の処分場に本件過剰保管廃棄物を移設する具体的計画を立てており、二億円の資金があれば計画の実施が可能であったと主張する。しかし、その主張自体、廃棄物の撤去に要する費用は、処分場完成後の収益から充てるという具体性に欠けるもので、結局、本件過剰保管廃棄物の撤去にどの程度の期間を要するのかすら明らかでない上、前記(1)エで認定したとおり、処分場の完成の見込みもたたないこと、撤去に要する費用が莫大であることなどから、被告の案は到底実現可能性はないというほかない。そうすると、被告の案を前提として本件調査を非難する被告の主張も失当である。
二 争点2(本件調査が、被告の意思又は利益に反することが明らかであるか)について
事務管理は、公共の利益に反する場合には本人の意思又は利益に反しても成立すると解すべきである。
前記のとおり、被告の計画には実現可能性がない上、本件過剰保管廃棄物の状況からすれば、周囲の環境保全のために原告において速やかに適正処理を行う必要が高かったということができる。かかる公共の利益が存する以上、被告の意思又は利益に反したとしても事務管理の成立は妨げられない。
被告は、本件措置命令の範囲外の本件調査については予測不能であり、経済的負担が過大となると主張するが、被告側により作出された本件過剰保管廃棄物による支障の除去にあたって本件調査を行うことは十分に予想可能であり、かつ予測すべきであるから被告の主張は失当である。
第四結論
よって、原告の請求は理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条を、仮執行宣言について同法二五九条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 野田弘明 裁判官 入江克明 横地大輔)