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名古屋地方裁判所岡崎支部 昭和42年(タ)5号 判決 1968年1月29日

原告 大川花代

右訴訟代理人弁護士 松岡泰雄

被告 大川一郎

<ほか二名>

右被告三名訴訟代理人弁護士 藤浦纒平

主文

原告と被告大川一郎を離婚する。

被告大川一郎は、原告に対し金一五〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和四二年六月二五日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告一郎に対するその余の請求及び被告金次、同光に対する請求は、いずれも棄却する。

訴訟費用は、原告と被告大川一郎との間に生じたものはこれを三分し、その一を原告の、その余を同被告の負担とし、原告と被告大川金次、同光との間に生じたものは全部原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「原告と被告大川一郎を離婚する。被告ら三名は原告に対し連帯して金八〇〇、〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の翌日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。被告大川一郎は原告に対し、金三〇〇、〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の翌日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、被告らの負担とする。」との判決並びに金員支払いを求める部分についての仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

≪以下事実省略≫

理由

訴状に添付されている戸籍謄本及び原告本人尋問の結果によると原告が昭和三九年四月四日訴外石田家康及び神田加津枝夫妻の媒酌により被告一郎と婚姻の式を挙げ、同月一六日その届出をなしたことが認められる。

まず離婚原因の有無について判断する。≪証拠省略≫によると、原告は被告一郎と結婚式後直ちに同棲生活に入ったが同被告は長男で、いわゆる跡取息子であったところから、同被告の両親である被告金次、同光と同居し、生活を共にすることになった。そして夫である被告一郎は、当時○○○自工に勤務(月給約二〇、〇〇〇円)していたので、原告は被告の両親とともに田畑約五反歩を耕作するかたわら、養豚に励み、家業の農業経営に従事していたこと、そしてしばらくの間はこれと言った風波もなく円満に暮していたが、間もなく農作業の不手際が原因してか、原告に対する被告両親の小言が次第に多くなった。しかしながら、原告は農家の生れであるにもかかわらずこれまで農作業に従事した経験が少く、不慣れであることは結婚前話し合って被告らも充分承知しているはずであったので、原告は右両親の態度に不満を抱き、そのことを日記につづり、独り憂さを晴らしていたところ、間もなく被告光がこれを盗み読みしたことから原告に対する被告両親の態度は一層冷淡になり、ことあるごとに小言を言うようになった。同年七月一〇日原告は農家の慣例に従い農休みを兼ねて生家を訪れたが、被告方における気苦労を親兄弟に話しているうちに戻りつらくなり、そのまま数日滞在して同月一四日母親に送られていったん被告方に戻ったところ、被告の両親は余りよい顔をせず、母親に対して原告に関する不満をいろいろ述べたので、原告の両親もこれに憤慨し、翌一五日原告を生家に連れ帰ってしまった。その後、前記仲人や被告方の親戚に当る杉田一蔵らが仲に入って話合した結果、原告側が折れて詑びを入れ、原告は同年八月一六日ころ被告方に戻り、しばらくは事もなく過ぎたのであるが、同年一一月ころ、原告が他に働きに出るようになってから再び円満を欠くようになった。そして、同年一二月末、正月用の餠つきの際、原告がささいなことから被告光の気嫌を損じ、そのため再び仲人の前記石田夫妻と神田加津枝が仲に入って話合をしていた際、そのころ、原告が参考のために被告らに無断で名古屋栄養専門学院と名古屋栄養短期大学の入学の手続を照会しそのための書類の取寄せをしていたことが発覚したことから一層被告両親の不興を買い、仲人らに対し、被告光より原告を生家に引き取って貰いたい旨の申出があったが話合いがつかないまま昭和四一年の正月を迎えた。そして同年一月一日、原告は新年のあいさつのため生家に赴き、同月三日夜帰宅したところ、被告らより帰って来る必要がない旨言われたので、やむを得ず同月四日、身の廻りの荷物をまとめて生家に戻り、以来今日まで被告らと別居するに至ったこと、原告の夫である被告一郎は、積極的に原告を虐待したり、冷遇するようなことはしなかったが、家庭内のことには全く無関心で原告と被告両親との度重なる不和にもかかわらず、昭和四〇年八月一五日ころ、原告の求めにより話合したほか、唯の一度も原告の苦衷を察して両親との間を取り持ち、積極的に家庭内の不和の原因を解消し、円満を取り戻すよう努力したことはなく、唯両親の意のままとなって、婚姻関係を維持するための誠意を示さなかったため、その後行なわれた調停も遂に不調となったばかりでなく、今日に至ってはすでに原告との婚姻関係を維持する意思は全くないことが認められ、右認定に反する証拠は措信しがたい。以上認定の事実によると、原告と被告一郎の婚姻関係が円満を欠くに至ったのは、原告と被告両親との間の不和が原因であって、原告と同被告間にその端緒があるわけではないのであるが、家庭内の不和葛藤がその頂点に達した今日、原告においていかに努力しようと、夫である被告一郎が従前の無関心な態度を改め、積極的に家庭内の円満を取り戻すよう努力を払わない限り、婚姻関係の平和を取り戻し、これを維持することは困難である。しかるに、同被告にはかかる誠意ある態度は全く認められないばかりでなく、現在においては前述のように原告との婚姻関係を維持する意思すらもないことが明らかであるから、これらの事情を綜合すると、原告には婚姻関係を継続し難い重大な事由があるものというべきである。したがって、右被告との離婚を求める原告の請求は理由がある。

そこで、さらに被告一郎に対し、慰藉料並びに財産分与を求める請求について考えてみるに、本件の婚姻関係が破綻するに至った原因については、原告と同被告の両親間の不和にその端緒があることは前述のとおりであって、その意味において、同被告のみを非難することはできないかもしれないが、究極においては、同被告の冷淡な非協力的な態度に負因するものである以上、同被告は本件離婚によって、原告がこうむった精神的苦痛に対し慰藉料を支払うべき義務を免れることはできないものというべきである。しかして、その額は、本件各証拠によって認められる双方の収入・年令・能力・離婚原因に対する責任の軽重・その他一切の事情をしんしゃくし金一〇〇、〇〇〇円をもって相当と認める。また、財産分与の点については原告と同被告の婚姻関係は極めて短期間ではあったが、前述のように原告は結婚以来被告方の家業である農業に従事し、昭和四一年一一月からは他に職を求めて働き、被告方の家族の共同生活を助け、支えてきた事情にあるから、これらの点及び双方の収入・年令その他前記一切の事情を考慮し、同被告より原告に対し、金五〇、〇〇〇円を支払うのが相当と思料する。

次に、原告は被告一郎の両親である被告金次、同光に対し慰藉料の支払いを請求しているが、原告と同被告らとの不和が婚姻関係破綻の端緒となっていることは前述のとおりであるとしても、このような婚家先の家族との不和は世上一般によくあることでいわば双方の人間性に由来する宿命のようなものであって、いずれかの側にのみその責任があるというわけのものではないのである。なるほど同被告らが結婚後間もなく原告を冷淡に扱い、口うるさく接したことは前記認定のとおりであるが、それとても最初から意図されたものではなく、程度の差こそあれ、その近親者を含めた原告側にも、同被告らがかかる態度を示すに至った原因を与えていないとは断言できないのであるから、単に右のような事情のみをもって、同被告らに婚姻関係を破局に導いた責任を追求することはできないものというべきである。したがって、同被告らに対する請求は理由がなく失当というべきである。

よって、原告の本訴請求は、被告一郎に対し、離婚並びに前記認定の金額による慰藉料及び財産分与を求める範囲内において正当であるからこれを認容し、その余及び被告金次、同光に対する請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟第法八九条、第九二条本文を適用して主文のとおり判決するが、仮執行の宣言の申立についてはその必要がないものと認め、これを却下することとする。

(裁判官 桜林三郎)

<以下省略>

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