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名古屋地方裁判所豊橋支部 昭和40年(ワ)66号 判決 1967年3月01日

原告

日本電信電話公社

右代表者

米沢滋

右指定代理人

川本権祐

被告(一)

合資会社丸中製瓦豊橋販売所

右代表者

杉浦義男

被告(二)

高岡幸

被告(一)(二)代理人

生駒定三郎

破産者有限会社大世工務店破産管財人

被告(三)

富田博

主文

(一)  被告合資会社丸中製瓦豊橋販売所および同高岡幸は、各自原告に対し、金五二万四〇〇〇円およびこれに対する昭和三九年七月二一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  原告の破産者有限会社大世工務店に対する破産債権が、金一〇四万八〇〇〇円およびこれに対する昭和三九年七月二一日から完済まで年五分の割合による金員であることを確定する。

(三)  原告のその余の請求を棄却する。

(四)  訴訟費用はこれを八分し、その四を被告破産者有限会社大世工務店破産管財人の、その二を原告の、その二をその余の被告両名の各負担とする。

(五)  この判決は、第(一)項にかぎり仮執行することができる。

事実

第一  当事者の求める判決

原告 1 請求元金額を「金一〇四万八〇〇〇円」とするほか主文(一)と同旨

2 主文(二)と同旨

3 1につき仮執行の宣言

被告ら 請求棄却

第二  原告の請求原因

一  訴外大鳳産業株式会社は、昭和三九年七月一七日有限会社大世工務店(以下破産者と略称)に対する債権を保全するため、破産者が原告に対して有する愛知電気通信部豊橋逓信診料所増築工事等請負代金(以下本件工事代金という。)債権のうち、金一〇四万八〇〇〇円を仮差押し、この仮差押決定正本は同年七月一九日午前一一時一五分破産者に、翌二〇日午前一〇時三〇分原告にそれぞれ送達された。

二  破産者の代表取締役箕形健政は、同年七月二〇日午後二時ごろ愛知電気通信部会計課において、原告(担当者愛知電気通信部長)から、本件工事代金一三七万六〇〇〇円の支払を受けた。

三  その後、仮差押債権者である大鳳産業株式会社は、同年一〇月二二日付をもつて、前記仮差押債権につき債権差押並びに転付命令を得、原告に転付債権の支払を求めてきたので、原告は同年一二月二五日同会社に対し、転付にかかる金一〇四万八〇〇〇円を支払つた。

よつて、原告は破産者に対しすでに支払つた本件工事代金一三七万六〇〇〇円のうち金一〇四万八〇〇〇円について、二重支払による同額の損害を蒙つた。

四  原告の右損害は、破産者の代表者箕形健政と被告(二)の共同不法行為により発生したものである。

すなわち、前記仮差押決定正本の送達を受けた箕形健政は、破産者の債権者会議の委員長である被告(二)に仮差押決定送達に伴う処置について指示を求めたところ、被告(二)は右仮差押決定により破産者において仮差押にかかる工事代金の取立ができないことを知りながら、右代金をいち早く受領してしまおうと考え、箕形健政に愛知電気通信部へ支払督促の電話をするよう指示した。ところが、翌七月二〇日愛知電気通信部から、通常の支払手続の終了により工事代金を支払う旨の連絡があつたことを聞くと、被告(二)は箕形健政と同行して愛知電気通信部にきき、同部会計課係員が仮差押の事実を知らないのに乗じて、仮差押の事実を秘して箕形健政に工事代金を受領させた。箕形健政と被告(二)との右行為は、仮差押決定により破産者において仮差押債権の取立を禁じられているのに、愛知電気通信部係員に対し、仮差押の事実を告知しないことにより、同部係員がすでに錯誤に陥つている状態を継続させ、これを利用して仮差押債権を含む本件工事代金全額を請求受領し、原告に対し、不法に損害を与えたものであるから、被告(二)は右損害を賠償すべきである。

五  次に被告(一)は、被告(二)の不法行為について使用者としての責任がある。

被告(二)は当時被告(一)の所長の地位にあつたところ、破産者に対する被告(一)の債権金三〇〇万円の弁済を受けるために、被告(二)が前記不法行為をしたものであるから、被告(二)の行為は正に被告(一)の事業の執行のためになされたものというべきである。従つて、被告(一)も原告の前記損害を賠償すべき責任がある。

六  次に、原告は前記三のとおり仮差押債権の二重支払をしたので、破産者に対し、右債権額およびこれに対する破産者の受益の日の翌日(昭和三九年七月二一日)から完済まで民法所定の年五分の割合による利息の請求権を有するものである。

七  ところが、破産者は昭和四〇年四月一〇日当庁において破産宣告決定を受け、被告(三)が破産管財人に選任された。そこで、原告は前項の請求権を破産債権として届出たが、同年六月一九日の債権調査期日において、被告(三)が右届出債権に異議を述べた。

八  そこで原告は被告らに対し、次の請求をする。

(1)  被告(一)(二)に対し、各自原告の損害額一〇四万八〇〇〇円およびこれに対する不法行為の後である昭和三九年七月二一日から完済まで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払。

(2)  被告(三)に対し、前記六の破産債権の確定。

第三  被告らの答弁

(被告(一)(二))

一  請求原因一(破産者に対する仮差押決定正本の送達時刻を除く。)は認める。

二  請求原因二は認める。

三  同三は知らない。

四  同四は否認する。

破産者の代表者箕形健政は、原告主張の日に本件仮差押決定正本の送達を受けながら、その意味が分らないため被告に相談にきた。しかし、被告(二)もよく分らなかつたので、愛知電気通信部の係の者に問合わせるよう指示した結果、箕形健政が同日夜原告の職員である工事監督の坂中利幸に、電話で右仮差押決定の事実を告げ、工事代金の支払が受けられるかどうか問合わせたところ、よく相談して翌朝返事するとのことであつた。そして翌七月二〇日午前一〇時三〇分ごろ坂中監督から箕形健政に工事代金を支払うから受取りに来るようにとの電話があつたので、被告(二)は箕形健政と同道して愛知電気通信部に出頭し、同人が本件工事代金を受領したものである。

原告は、愛知電気通信部の係員が仮差押の事実を知らなかつたと主張するが、仮差押決定正本が原告に送達されたのは七月二〇日午前一〇時三〇分であるから、いかに事務能率が悪くても、同日正午までには会計係に伝達されているはずであり、しかも右に述べたとおり、その前夜破産者の代表者から坂中監督に仮差押の事実を告知しているのであるから、同部の係員は十分に仮差押の事実を知つていたものである。

五  請求原因五は否認する。

被告(二)は個人の資格で破産者の債権者らに依頼されて債権者代表となり、本件工事代金を破産者から受取りこれを各債権者に分配してやつたものであつて、被告(一)の業務としてやつたものではなく、被告(一)の業務とは全く無関係なことである。

(被告(三))

一  請求原因一(仮差押決定正本の送達時刻を除く。)は認める。

二  請求原因二(工事代金の受領時刻を除く。)は認める。

三  同三は知らない。

四  同六は争う。

五  同七は認める。

第四  証拠<省略>

理由

第一被告(一)(二)に対する請求について

一請求原因一(破産者に対する仮差押決定正本の送達時刻を除く。)および二の事実は当事者間に争いがない。

そして、<証拠>並びに弁論の全趣旨によると、原告が請求因三記載のとおりに仮差押にかかる債権の二重支払をしたこと、破産者には事実上右債権額を原告に返還する能力がなく、従つて原告は右債権額と同額の損害を蒙つたことが認められる。

二そこで、まず被告(二)の損害賠償責任について判断する。

<証拠>を総合すると次の事実を認めることができる。

(1)  破産者は当時内整理状態にあり、本件工事代金の取立も債権者委員の代表格である被告(二)の管理下に属していたこと。

(2)  破産者の代表者箕形健政が本件仮差押決定の送達を受けたのは、原告主張の日の午前一一時一五分であつたこと。

(3)  箕形健政は、右決定正本を受領後直ちに被告(二)宅に相談に行つたところ、被告(二)はよく調べておく旨答えたので、被告(二)に右決定正本を預けたこと。

(4)  同日夕方被告(二)から指示があつたので、同日夜箕形健政は、愛知電気通信部の現場監督の坂中利幸の私宅に電話をかけ、仮差押が出るかもしれないから、本件工事代金を早く支払つてほしい旨連絡したこと。

(5)  当時本件工事代金の支払時期は未定で、右坂中利幸にも全然分つていなかつたこと。

(6)  翌七月二〇日午前一〇時ごろ同通信部で勤務中の坂中利幸に、同通信部会計課から破産者は対する通常の支払手続が完了し、同日本件工事代金の支払ができる旨の連絡があつたので、同人はその旨箕形健政に電話で通知したこと。

(7)  右連絡によつて、箕形健政は被告(二)と同道して愛知電気通信部会計課に行き、仮差押の事実を告知することなく、本件工事代金全額を受領したこと。

(8)  被告(二)は、その際同所で即時箕形健政から右工事代金の交付を受け、これより先前記坂中利幸から連絡を受けて来合わせていた工事材料納入業者(破産者の債権者)三社に対し、右工事代金の一部を分配したが、その際仮差押決定正本を持参のカバンから出しながら、「おれの作戦が上手だつたから金が手に入つた」旨述べたこと。

(9)  その後被告(二)は豊橋市に戻り、同日中に右工事代金残額を分配してしまつたこと。

(10)  愛知電気通信部では、同日午後五時一五分ごろ庶務課長が開被するまで、原告(同通信部長宛)に対する仮差押決定正本が送達されていることを知らなかつたこと。

以上の各事実を総合すると、被告(二)および箕形健政は本件工事代金のうち金一〇四万八〇〇〇円について、第三債務者たる原告に(送達の有無は別として)支払差止めの命令が出ていること、従つてその反面これが取立を禁止されることになることを認識しながら、原告に仮差押決定正本が送達される以前か、あるいは少くとも愛知電気通信部会計課係員がこれを了知する以前に、本件工事代金全額の支払を受けることを企図し、同係員が原告宛にすでに仮差押決定正本が送達されている事実を知らないでいることに乗じ仮差押の事実を秘して、本件工事代金全額の支払をさせたものと認めるのが相当である。<反証―排斥>

そして、被告(二)らの右行為によつて原告が前記損害を受けたことは明らかであるから、被告(二)はこれが賠償責任を負うべきである。

三次に、被告(一)の損害賠償責任について判断する。

<証拠>によると、被告(二)は被告(一)の豊橋出張所長の地位にあつたもので、被告(一)が破産者に対し、債権を有していたため、被告(一)の豊橋出張所長の資格で破産者の債権者会議に出席し、かつ、債権者委員の代表格に選ばれたこと、そして前記工事代金の配分によつて、被告(一)にも金三〇万円が支払われたことが認められる。

右認定の事実によると、被告(二)の前記不法行為は被告(一)の事業の執行につきなされたものであると認めるのが相当であるから、被告(一)も被告(二)の使用者として、原告の前記損害を賠償すべき義務がある。

四ところで、<証拠>によると次の事実を認めることができる。すなわち、愛知電気通信部においては、文書の授受は庶務課文書係の所管に属し、同通信部長宛の文書は親展以外は庶務課長が開被する定めになつていること、原告(同通信部長宛)に対する本件仮差押決定正本は、午前一〇時三〇分(この時刻は当事者間に争いがない。)に同通信部名古屋都市管理部守衛が受領し、午前一〇時五〇分ごろ同通信部庶務課文書係に郵便物を取りに来るように電話をかけたのに、文書係は午前一一時三〇分ごろようやく郵便物を受取りに行つたこと、そして文書係において各担当係に配布するため郵便物の仕分けをしたところ、本件仮差押決定正本在中の郵便物のほか三通の書留郵便物があつたので、これを他の一般郵便物と区別して、別な授受扱いにしたこと、ところがそのうち昼休みになつたため、午後一時になつて、右区別した郵便物を他の一般郵便物と同時に各担当係に配布したこと、しかし右決定正本在中の郵便物は同通信部長宛になつていたので、庶務課長に手渡すことにされたが、庶務課長は同日午後一時から開催された幹部会議に出席していたところから、同人が右決定正本在中の郵便物を開被したのは、右会議終了直後の午後五時一五分ごろであつたこと、以上の事実が認められる。

右認定の事実に徴すると、本件仮差押決定正本在中の郵便物の開被が遅れたことについては、前記文書係に過失があつたものと認めるのが相当である、すなわち、右文書係が守衛の連絡を受けて郵便物を受取るまでに要した時間も長すぎるし、同係において右決定正本在中の郵便物を受領後においても、裁判所発送の文書であるから、場合によつては仮差押等の緊急書面であるかもしれないことを考え、少くとも他の一般郵便物より迅速に担当係に配布すべき注意義務があるのに、他の一般郵便物と異つた授受扱いにしたとはいえ、担当係にまわす時期を漫然と他の一般郵便物と同様にしたこと、また庶務課長が会議に出席中とはいえ漫然と会議終了時まで放置した点について過失があるものというべきである。

そして、以上の点につき今すこし適切な措置がとられていたならば、被産者に対する本件工事代金の支払も避けることができたことはいうまでもない。

従つて、右過失を斟酌すると、被告(一)(二)の前記損害賠償の額は、原告の受けた損害額の二分の一である金五二万四〇〇〇円と定めるのが相当である。

五そうすると、原告の被告(一)(二)に対する請求は、被告(一)(二)各自に金五二万四〇〇〇円およびこれに対する不法行為後の昭和三九年七月二一日から完済まで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は失当である。

第二被告(三)に対する請求について

一仮差押決定正本送達並びに工事代金受領の各時刻を除き請求原因一および二の事実は当事者間に争いがない。

二<証拠>によると、破産者に対する本件工事代金の支払当時、すでに原告に本件仮差押決定正本が送達されていたこと、原告は請求原因三記載のとおり仮差押にかかる債権の二重支払をしたことが認められる。

三さらに<証拠>によれば、破産者の代表者箕形健政は本件工事代金の支払を受ける当時、本件工事代金のうち金一〇四万八〇〇〇円につき第三債務者たる原告に(送達の有無は別として)支払差止の命令が出ていることを認識していたことが認められる。

四そうであるなら、原告は破産者に対し、請求原因六記載の債権を有することが明らかである。

五そうすると請求原因七の事実は当事者間に争いがないから、右債権の確定を求める原告の請求は理由がある。

第三結論

以上の理由により、被告(一)(二)に対する原告の請求は前記第一の五の限度で認容し、その余は棄却し、被告(三)に対する原告の請求は全部認容し、民訴八九条九二条九三条一九六条を適用して、主文のとおり判決する。(中川敏男)

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