名古屋地方裁判所豊橋支部 昭和59年(ワ)74号 判決 1985年8月20日
原告
東本清官こと鄭清官
被告
岩倉義子
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、一〇六八万九七八七円及びこれに対する昭和五六年四月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 事故の発生
(一) 日時 昭和五六年四月二四日午後一時二五分ころ
(二) 場所 豊川市中央通四丁目三七番地先交差点(以下「本件交差点」という。)
(三) 加害車 普通乗用自動車(三河五七め九六〇〇号)
右運転者 被告
(四) 被害車 原動機付自転車(豊川市二〇五〇一号)
右運転者 原告
(五) 態様 本件交差点内において、西方から東方へ直進中の被害車と、北方から南方へ直進中の加害車とが衝突したもの。
2 責任原因
(一) 被告は、加害車を所有し、自己のために使用していたものであるから、加害車の運行供用者として自賠法三条に基づき、本件事故によつて原告が受けた損害を賠償する責任がある。
(二) 原告は、本件交差点に進入しようとした直前に対面の信号が黄色に変つたため、すみやかに本件交差点を西方から東方へ通過しようとしたところ、被告は、対面の信号が赤色であるにもかかわらず本件交差点に進入して北方から南方へ直進したため加害車を被害車へ衝突させたものであり、被告は信号無視の過失によつて本件事故を惹起させたものであるから、民法七〇九条に基づき、本件事故によつて原告が受けた損害を賠償する責任がある。
3 損害
(一) 傷害の部位及び治療経過
原告は、本件事故により左前額部挫傷及び腰部挫傷の傷害を蒙むり、豊川市内の荻野病院にて昭和五六年四月二四日から同年五月八日まで一五日間入院治療をうけ、本件事故による外傷性てんかんのため、豊橋市民病院にて同年六月三〇日から七月一三日まで一四日間入院治療を、その後七月二七日まで二日間通院治療を受け、更に、事故前十二指腸かいようの手術を受けていたところ、本件事故による傷害の悪影響を受けて胃炎となり、野本病院にて同年八月一日から一〇月二七日まで四五日間通院治療を受けた。
(二) 後遺症の発生
原告は、前記傷害による症状固定(昭和五六年七月二七日)後も、ときどき全身けいれんの発作に襲われるほか、脱力感、全身懈怠感、頭痛及び腰痛の症状を呈するため、生業である土木建築のための労務に服することが著しく制限されている。これは、自賠法施行令別表等級の第九級一〇号に該当する。
(三) 右受傷に伴う損害の数額は次のとおりである。
(1) 治療費等 一五万一五四八円
(イ) 荻野病院関係
入院治療費 五万三六三七円
雑費 九〇〇〇円(一日六〇〇円)
(ロ) 舟橋市民病院関係
入院治療費 四万八五九七円
雑費 八四〇〇円(一日六〇〇円)
(ハ) 野本病院関係
治療費 二万六四一四円
文書代 五五〇〇円
(2) 傷害慰藉料 七〇万円
(3) 休業損害 八一万九五〇〇円
原告は、本件事故前、東本建設の代表者として一般土木建築請負業を営んでいた。その昭和五三年中の所得は五九八万三二〇〇円(日額一万六三九〇円)であるが、本件事故による治療のため、五〇日間休業を余儀なくされ、八一万九五〇〇円の損害を蒙つた。
(4) 後遺症による逸失利益
原告は、前記後遺症により、次のとおり、将来得べかりし利益を喪失した。その額は九一三万八七三九円(五九八万八三〇〇円×〇・三五×四・三六四)と算定される。
(収益) 一年につき五九八万三二〇〇円
(労働能力喪失率) 三五パーセント
(労働能力低下期間) 五年間
(中間利息控除) 五年間の新ホフマン係数四・三六四
(5) 後遺症慰藉料 四二〇万円
(6) 弁護士費用 九〇万円
4 損害の填補
原告は、昭和五九年一月一三日、東京海上火災保険会社から、本件事故の後遺障害による損害(自賠責保険賠償金)として五二二万円の支払を受けたので、これを前記損害に充当した。
5 結論
よつて、原告は、被告に対し、一〇六八万九七八七円及びこれに対する事故発生の日である昭和五六年四月二四日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実中、(一)は認め、(二)は否認する。
3 同3の事実は知らない。
4 同4の事実は認める。
5 同5は争う。
三 抗弁
(免責)
1 本件事故は、被告が青色信号にしたがつて北方から南方へ向つて本件交差点に進入したところ、原告が対面信号が赤色を表示しているのにこれを無視して西方から東方へ向つて進入したために惹起されたもので、原告の一方的過失によつて発生したものである。
2 加害車には構造上の欠陥及び機能上の障害は存しなかつた。
四 抗弁に対する認否
抗弁事実は否認する。
第三証拠
当事者双方の証拠の申出、援用、書証の認否は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 (本件事故の発生)
請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。
二 (責任の帰属)
1 運行供用者責任について
(一) 被告は、加害車を所有し、自己のために使用していたことは、当事者間に争いがない。
右の事実によれば、被告には、運行供用者として自賠法三条に基づき損害賠償責任がある。
2 そこで、すすんで被告の免責の抗弁につき判断する。
(一) 成立に争いのない甲第一一号証の二及び被告本人尋問の結果によると、被告は本件交差点のある道路を北から南へ向けて進行し交差点手前約一五〇メートルに設置されている横断歩道まできたところ、進行方向の信号機が赤色を表示していたので、横断歩道手前で停止したこと、前記信号機が青色に変つたので発進したところ、進行中に本件交差点の信号機が赤色から青色に変つたのでそのまま交差点に進入し数メートル進行したとき信号が赤色であるのに、交差点を西から東へ進行してくる被害車を認め、とつさにハンドルを左に転把するとともに急制動をかけたが、まにあわず、交差点中央付近において、加害車の運転席ドアの後部に被害車が衝突したこと、本件交差点の北西角は中央通公園となつていて高い樹木や植込みのため見通しは悪く交差点に進入してくる原告を見ることはできなかつたことが認められ、右認定に反する原告本人尋問の結果は措信出来ず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
(二) 前記甲第一一号証の二及び被告本人尋問の結果によると、加害車には構造上の欠陥も機能の障害もなかつたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
(三) 右認定の事実によると、本件事故は、信号無視という原告の一方的過失によるもので被告には過失がなく、かつ、加害車には構造上の欠陥も機能の障害もないというべきであるから、被告は自賠法三条但書により、運行供用者としての責任を免責される。
3 不法行為責任について
前記認定のとおり、本件事故について被告には過失がなく、不法行為は成立しない。
三 以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 岡村道代)