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名古屋家庭裁判所 平成14年(家)2026号 2003年7月04日

主文

本件申立てを却下する。

理由

1  申立人らは、「事件本人(養子となる者)を申立人らの特別養子とする。」との審判を求めた。

2  一件記録によれば、以下の事実が認められる。

(1)  申立人X2は、前夫であるBとの婚姻中に、C(以下「C」という。)の子である事件本人(養子となる者)A(以下「A」という。)を懐胎し、Bと離婚後、平成8年○月○日Aを出産した。

(2)  平成8年10月18日、BとAとの間で親子関係不存在確認の裁判が確定した。

(3)  Cは、Aを認知することなく、Aとほとんど会ったことがないし、養育費の支払いをしていない。また、AはCに関する記憶を有していない。なお、Cは申立人らとAとの特別養子縁組に同意している。

(4)  申立人らは、平成11年10月26日に婚姻し、申立人らとAとは3人で動物園やテーマパークに行くなど、親子同然に過ごし、平成12年2月以降は3人で暮らしている。また、Aも申立人X1のことを実の父親と信じている。

(5)  申立人X1は、年収にして900万円から1000万円程度の収入を得ており、申立人らの生活基盤は安定している。

(6)  申立人らは、平成12年4月14日、当庁において、Aとの間の特別養子の申立をするも、同年6月27日却下され、同年7月3日に即時抗告の申立をしたが、同年12月28日これを取り下げた。

(7)  申立人らは、平成13年1月9日、Aとの間で普通養子縁組をした。

3(1)  特別養子縁組が認められるためには、養子となる者について民法817条の7に定める要保護事情があることを要する。

本件についてみるに、申立人X1はAを実の子のように接し、Aもまた申立人X1を実の父親だと思っている上、申立人らの生活状況、夫婦生活等からしてAにとって申立人らの下で生活していくことが最善であることに疑いがない。また、普通養子縁組の成立によって、Aが、申立人らの氏を名乗り、申立人らの嫡出子たる身分を得るに至っている。そうすると、Aは、申立人らによって十分な養育、監護がなされているものと認められる。

(2)  これに対して、申立人らは、<1>実の父親であるCとの関係の断絶の必要性、及び<2>戸籍上の問題を主張して、要保護事情の存在を主張している。

<1>について検討するに、なるほど、Aは、成年に達するまではその意思に反してCから認知され、Cとの親子関係を強要されることは否定できない。しかしながら、CはAが出生してから今日に至るまで、Aに関心を示すことがなく、申立人らの特別養子縁組についても同意しているのであるから、現実にCがAを認知した上で、Aにとって害となるような行為をすることは通常考えられない。そうすると、AとCとの関係を断絶させることがAの生育上必要であると考える申立人らの心情は理解できなくはないが、現実問題として、Cとの関係が、Aの養育、監護にとって重大な障害となっているとは認められない。

また、<2>についても、申立人らが主張するように、Aが戸籍上の記載から自己の出生の経緯を知り、これによってAの精神状況に悪影響を及ぼす可能性があることは否定できないが、この一事をもって実の親子関係を断絶させるという特別養子縁組の要件を充足するとは認められない。

(3)  以上を総合すると、本件特別養子縁組の申立てについては民法817条の7が定める要件を欠いていることが明らかである。すなわち、Aは既に申立人らによって十分に監護養育され、これ以上に特別養子縁組を成立させなければならないほどの事情は認められない。

4  以上の次第で、本件申立ては理由がないからこれを却下することとし、主文のとおり審判する。

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