名古屋家庭裁判所 平成18年(家ロ)1026号 審判 2006年7月25日
申立人
○○県○○児童・障害者相談センター長
事件本人
A
B
未成年者
C
主文
1 本案審判申立事件の審判が確定するまで,事件本人らの未成年者Cに対する親権者としての職務執行を停止する。
2 上記期間中
本籍 (省略)
住所 (省略)
Dを職務の代行者に選任する。
理由
1 申立ての趣旨
主文同旨
2 当裁判所の判断
(1) 一件記録及び審問の結果によれば,以下の事実が一応認められる。
ア 事件本人らは,平成8年×月×日婚姻し,両者の間に,平成18年×月×日,未成年者が誕生した。
未成年者は,出生直後にチアノーゼ症状がみられ,エコー検査の結果,先天性心疾患が疑われた。
未成年者は,平成18年×月×日,○○病院に転院となり,現在も同病院に入院中である。
イ ○○病院における診断によれば,未成年者は,(省略)を伴う○○症という疾患を有し,(省略)肺への血流量が絶対的に少なく,酸素飽和度の正常値が98ないし100であるところ,未成年者の場合は60台後半,最近はときに50台となっており,このままであれば,低酸素症での合併症として,(省略)の障害が予想され,突然死も考えられる状況にある。
この疾患に対する治療は,未成年者が4歳ないし5歳になるころ,(省略)○○手術を行う必要があるが,そのためには,短期間の発育が最も著しく,肺血管の発育が期待できる乳児期に,まず,①○○検査及び△△検査をして,(省略)を検査し,その後,②□□術を行い,さらに③△△手術を段階的に行う必要がある。
これら一連の手術は,○○症においては極めて一般的なものであり,これによる新生児の身体に及ぼす危険性は非常に低く,手術の成功率は99.9パーセントと言われている。
そして,上記①ないし③の手術を適切な時期に行わなければ,根治手術である○○手術を施すことは不可能となることが予測され,そうなれば,常に突然死のリスクと背中合わせであり,成人に到達する可能性は高くないと考えられる。
ウ 事件本人らは,平成18年×月×日,同月×日,同月×日と再三にわたって,○○病院の主治医から未成年者に関する上記の病状と手術の必要性の説明を受けたが,その信仰する宗教上の考えから,「(省略)未成年者を家に帰してもらいたい。」として,いずれの場合も未成年者の手術には同意しなかった。さらに,同年×月×日,○○県○○児童・障害者センターの職員が事件本人らと面談し,再考を促したが,事件本人らは未成年者への手術に同意しなかった。
エ 未成年者に対する上記①ないし③の手術は緊急を要するものであることから,○○病院は,平成18年×月×日と同月×日に手術を予定している。
オ 弁護士であるDは,本案審判確定までの間,未成年者の親権につき,職務代行者となることを承諾している。
(2) 上記した疎明事実からすると,事件本人らは,未成年者の親権者として,適切に未成年者の監護養育に当たるべき権利を有し,義務を負っているところ,未成年者は,現在,重篤な心臓疾患を患い,早急に手術等の医療措置を数次にわたって施さなければ,近い将来,死亡を免れ得ない状況にあるにもかかわらず,事件本人らは,信仰する宗教上の考えから,手術の同意を求める主治医及び○○県○○児童・障害者センター職員の再三の説得を拒否しているものであって,このまま事態を放置することは未成年者の生命を危うくすることにほかならず,事件本人らの手術拒否に合理的理由を認めることはできないものである。
してみると,事件本人らの手術の同意拒否は,親権を濫用し,未成年者の福祉を著しく損なっているものと言うべきである。
したがって,事件本人らの親権者としての職務の執行を停止させ,かつ,未成年者の監護養育を本案審判確定まで図る必要があるから,その停止期間中はDをその職務代行者に選任するのが相当である。
よって,本件保全処分の申立てを認容することとし,主文のとおり審判する。
(家事審判官 岩田嘉彦)
<以下省略>