名古屋家庭裁判所 平成22年(少ハ)400006号 決定 2010年4月12日
少年
A (平成4.○.○生)
主文
1 平成22年(少ハ)第400006号事件について,少年を中等少年院に戻して収容する。
2 平成22年(少)第851号事件について,少年を保護処分に付さない。
理由
第1 戻し収容申請事件について
(申請の理由の趣旨)
1 少年は,平成20年5月12日岐阜家庭裁判所において恐喝・暴行保護事件により初等少年院送致の決定を受けて瀬戸少年院に収容され,平成21年6月9日,仮退院して愛知県a市<以下省略>の母のもとに居住し,名古屋保護観察所の保護観察下に入った者である。
2 少年は,保護観察の期間中,更生保護法50条所定の一般遵守事項の遵守を誓約したにもかかわらず,
(1) 公安委員会の運転免許を受けないで
ア 平成22年2月18日午前3時ころ,愛知県a市b番地から愛知県a市××所在のc駐車場までの間,原動機付自転車を運転し
イ 同年3月5日午後8時30分ころ,愛知県a市d駅付近において,原動機付自転車を運転し
ウ 同月8日午前9時45分ころ,愛知県a市b番地付近において,原動機付自転車を運転した
(2) 平成22年3月3日午前10時37分ころ,e市<以下省略>所在の○○に所在する株式会社f内において,同店の店員から年齢確認のため身分証明書の提示を求められたことに腹を立て,同所に設置されていた同店店長B管理にかかるアクリル製ルール表示板(被害見積額3万7380円)を手拳で1回殴打して叩き割り,もって他人の器物を損壊した
もので,上記の行為はいずれも,一般遵守事項第1号「再び犯罪をすることがないよう,又は非行をなくすよう健全な生活態度を保持すること。」に違反する。
3 少年は,仮退院後,当初は塗装工として就労したものの,平成21年7月2日に退職し,以後は就職活動をしているものの極めて短期間就労したのみであり,同年9月以降は母との口論がひどく,同年11月以降は外泊するようになり,原動機付自転車の無免許運転を反復するようになった。担当保護観察官及び担当保護司が,少年に対し,不規則な生活を改め早期に就労するよう指導し,無免許運転等をしないよう再三にわたり指導をしたにもかかわらず,少年は生活態度を改めることはなく,無断外泊や無免許でありながら原動機付自転車を購入するなどの行為を続け,平成22年3月5日には,担当保護観察官から質問調査と厳重な指導を受けたにもかかわらず,その日のうちに無免許運転をした。また,同年3月3日には,上記2(2)のとおり,器物損壊事件を起こしており,少年の短気で衝動的な性格は改善されていない。他方,少年の保護者である母は監護力が弱く,最近では少年から暴力も受けている。
4 以上のとおり,少年をこのまま放置すれば,無免許運転,母への暴力等の非行を繰り返すおそれが強く,少年を少年院に戻して矯正教育による指導をすることが相当と思われる。
(当裁判所の判断)
1 一件記録及び当審判廷における少年の供述によれば,上記「申請の理由の趣旨」2記載の各事実を認めることができ,少年の上記行為は,一般遵守事項第1号に違反したものであると認められる。
上記「申請の理由の趣旨」2記載の各事実の内容についてみると,(1)の各事実は,母に心配してほしかったとか,原動機付自転車は便利であるなどという身勝手な動機で,担当保護司らの指導を受けたにもかかわらず,原動機付自転車の無免許運転を反復したものであり,少年は母に責任転嫁をして自らの問題を受け止めることができていない上,担当保護観察官及び保護司の指導に従う姿勢は全く見られない。また,(2)の器物損壊事件についても,身分証明書の提示を求められたのに立腹して行ったという経緯は,衝動的ではあるが,(1)と同様,自らの非を棚に上げて被害者に責任転嫁をしたという面で,自己中心的な行為であるといえる。
2 少年は,仮退院後,塗装工として就労したが,無断欠勤を理由に解雇され,土木作業やコンビニエンスストアのアルバイトも,それぞれ1日しか稼働していない。少年には,母の知人からとび職として雇ってもいいとの話があったものの,接客業を希望していたためにかかる話を受けず,その後は飛び込みで仕事を探していたが結局見付からずにいた。少年は平成21年10月ころ,暴走族△△に無理矢理加入させられ,暴走や集会には参加しないようにしていたが,集まりには参加していた。少年の自宅は,平成22年1月ころから,少年の不良な友人のたまり場になっていた。少年は,同年2月ころ,母が食事を作ってくれないので母から大切にされていないと感じ,上記遵守事項違反に及んだ。
少年は,実母が家庭内の掃除や食事の準備を放棄するなど,適切な養育を受けて来ず,児童自立支援施設の在園歴があるなど,愛情飢餓状態にある。少年には,自分のわがままを受け入れてもらえないと不満を抱き,被害的に受け止める傾向があり,前件も,少年の有する同様の傾向から生じたものであった。少年は,上記申請の理由2(2)の遵守事項違反の際,前件での反省から,人に当たらないようにしようと思ったと述べており,初等少年院における矯正教育の効果が全くなかったとはいえないが,今回の遵守事項違反行為は,少年院入院以前と同様の問題点が再び顕在化しているものといえる。
家庭内についてみると,母は脳梗塞の後遺症が残り,糖尿病等の通院治療を受けている状態であるのに加え,祖父母の介護問題をも抱えており,少年を監護する意思はあるものの,実際に適切な監護をしていくのは難しい。また,少年の兄姉も,母と共に少年を監護することは難しい状況にあるから,少年に対し家庭において適切な監護をすることは期待できない。
少年は,鑑別所において反省し,母を助けていきたいと考えており,更生の意欲がないわけではないが,上記のとおり,少年院入院以前と同様の問題が顕在化し,家族がこれに対して適切な対処ができる状況にはなく,保護司や保護観察官による再三の指導にもかかわらず,少年の問題行動が改まらなかった経緯に照らせば,少年が今後も同様の問題行動を繰り返すおそれは非常に高い。
3 そうすると,少年の資質,家庭の保護能力等諸般の事情を考え併せれば,これ以上,社会内において十分な更生を図ることは著しく困難であり,少年については,少年院に戻して収容した上で,強い枠組みの下,改めてその問題点の改善を図ることが必要かつ相当である。
第2 器物損壊保護事件について
器物損壊保護事件の非行事実は,前記第1(申請の理由の趣旨)2(2)の事実と同一であり,前記のとおり少年を中等少年院に戻して収容することとしたので,器物損壊保護事件につき重ねて保護処分に付する必要はない。
第3 よって,少年を中等少年院に戻して収容するのを相当と認め,更生保護法72条1項,5項,少年法24条1項3号,少年審判規則37条1項により,主文のとおり決定する。
(裁判官 脇田奈央)