名古屋家庭裁判所 平成24年(少ハ)400003号 決定 2012年3月07日
少年
A (平成4.○.○生)
主文
少年を医療少年院に送致する。
理由
(申請の概要)
少年は,平成23年4月21日,当庁において,名古屋保護観察所の保護観察に付する決定を受け,同日,一般的遵守事項として,「再び犯罪をすることがないよう,又は非行をなくすよう健全な生活態度を保持すること(一般遵守事項1)」,「保護観察に付されたときに保護観察所の長に届け出た住居又は転居をすることについて保護観察所の長から許可を受けた住居に居住すること(一般遵守事項4)」などが,特別遵守事項として,「施設の決まりを守ること(特別遵守事項2)」などが設定され,肩書住居地の施設で生活していた。ところが,少年は,同年8月15日から同年9月5日まで上記施設に連絡せずに,行方不明となり,同年9月4日愛知県a市内のマンガ喫茶「○○」において,無銭飲食(総額2980円)をしたため,同年10月4日,名古屋保護観察所長から,上記の各遵守事項違反を指摘され,同遵守事項を遵守するよう警告を受けた。しかし,少年は,その後も警告にかかる各遵守事項を遵守せず,同年11月12日午後11時頃から同月13日夕方まで,同月26日午後11時頃から同月27日午後6時頃まで,同年12月17日午後11時頃から同月18日午前2時30分頃まで,平成24年1月21日午前零時頃から同日午前1時30分頃まで,いずれも上記施設を無断で抜け出した上,愛知県b市内やc市内の漫画喫茶など数か所で無銭飲食などしていたものであって,上記遵守事項違反の程度が重く,保護観察によっては少年の改善更生をはかることはできないと認められるため,少年を少年院に送致することが相当である。
(当裁判所の判断)
1 少年は,平成23年4月21日,当庁において,名古屋保護観察所の保護観察に付する決定を受け,同日,一般遵守事項として,「再び犯罪をすることがないよう,又は非行をなくすよう健全な生活態度を保持すること(一般遵守事項1)」,「保護観察に付されたときに保護観察所の長に届け出た住居又は転居をすることについて保護観察所の長から許可を受けた住居に居住すること(一般遵守事項4)」などが,特別遵守事項として,「施設の決まりを守ること(特別遵守事項2)」などが設定され,肩書住居地の施設で生活を始めた。
2 少年は,保護観察に付された後,上記施設に居住しながら農作業などの仕事に従事していたが,職場や施設で思い通りにならなかったり,施設の職員から金銭管理等で注意,指導されたりすると不満を募らせ,施設を無断で抜け出し,同年8月15日から同年9月5日まで上記施設に連絡せずに,行方不明となり,同年9月4日愛知県a市内のマンガ喫茶「○○」において,無銭飲食(総額2980円)をするなどした。そこで,同年10月4日,名古屋保護観察所長から,上記の各遵守事項違反を指摘され,当該遵守事項を守るように警告を受けた。しかし,少年は,その後も警告にかかる各遵守事項を遵守せず,同年11月12日午後11時頃から同月13日夕方まで,同月26日午後11時頃から同月27日午後6時頃まで,同年12月17日午後11時頃から同月18日午前2時30分頃まで,平成24年1月21日午前零時頃から同日午前1時30分頃まで,いずれも上記施設を無断で抜け出した上,愛知県b市内やc市内の漫画喫茶など数か所で無銭飲食などしていた。
3 以上認定の事実経緯に照らすと,少年は,名古屋保護観察所長による警告後も,上記施設を再々無断で外出し,外泊をし,無銭飲食などを繰り返してきたものであって,上記遵守事項違反の程度も重いというべきである。したがって,少年については,上記施設職員,保護観察官及び保護司の指導に従う見込みは乏しく,保護観察の実施が困難な状況にあるといわざるを得ない。
4 ところで,少年は,出生直後から施設に預けられ,家庭に帰省中も養父や実母からの継続的な暴力やネグレクトを受けて育った。鑑別結果通知書によれば,少年は,精神遅滞のため(IQ=××,SS=××:新田中B式知能検査),小学1年時から中学卒業まで特別支援学級に在籍し,知的な制約が大きい上,上記虐待された体験の影響等から情緒的にも不安定であり,外傷後ストレス障害の疑いの診断がされ,現在も精神科医師の治療を受けている。また,少年が中学3年生以降,鑑別所に入所する平成24年2月13日まで上記虐待された体験等の影響と考えられる幻覚を覚え,その改善のため精神科医師による投薬等の治療を受けていたことも併せ考えると,当面は,外傷後ストレス障害の疑いに対する専門的な治療を優先する必要が認められる。
5 以上の諸事情を総合すると,少年の遵守事項違反の程度は重く,保護観察によっては本人の改善及び更生を図ることはできないものと認められ,少年の更生のためには,少年を一旦医療少年院に収容し,精神障害に対する医療措置を講じた上,医療措置終了後は中等少年院に移送するのが相当である。なお,上記の養育経緯に照らし,養父及び実母に監護させるのは不適当であり,再度,施設等に頼るほかない。したがって,少年については,早急に適切な帰住先を確保する必要があり,この点について,別途,環境調整を命じることとする。
よって,少年法26条の4第1項,24条1項3号,26条の4第3項,少年審判規則37条1項により少年を医療少年院に送致することとし,主文のとおり,決定する。
(裁判官 堀毅彦)
別紙 処遇勧告書<省略>
〔参考〕 環境調整命令書
平成24年3月12日
名古屋保護観察所長殿
名古屋家庭裁判所
裁判官 C
少年の環境調整に関する措置について
当裁判所は,平成24年3月7日,下記少年について,医療少年院に送致する決定をしたが,少年法24条2項,少年審判規則39条により,下記のとおり要請します。
1 少年
氏名 A
年齢 19歳(平成4年○月○日生)
職業 農業従事
本籍 <省略>
住居 <省略>
2 環境調整に関する措置の内容
少年の帰住先として更生保護施設など,しかるべき施設を確保すること。
3 上記措置の必要性
少年の親権者である実母及び養父は,少年の幼児期から継続的に暴力やネグレクトを続けてきたという経緯がある。少年も,今なお両名を嫌い,同居する意思がないことから,少年の帰住先として冒頭に掲記の更生保護施設など,しかるべき施設を確保されたい。
なお,少年については,外傷後ストレス障害の疑いがある上,その影響による幻覚が中学3年生以降,鑑別所に入所する平成24年2月13日まであり,その改善のため精神科医師による投薬等の治療を受けてきた経緯がある。そこで,当裁判所は,当面,上記疾病に対する専門的な治療を優先させる必要から医療少年院に送致し,精神障害に対する医療措置を講じた上,医療措置終了後は中等少年院に移送する旨の処遇勧告をしたものである。
また,更生保護施設について,少年がこれまで入居していた冒頭掲記の施設を排除するものではないが,施設職員の指導に従わなかった経緯などを十分に検討し,確保にあたっていただきたい。