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名古屋家庭裁判所 昭和39年(少)1058号 1964年3月07日

主文

少年を新潟保護観察所の保護観察に付する。

理由

(罪となるべき事実)

少年は、

第一、(窃盗)かねて新潟市内の酒場にバーテンダーとして勤務するうち、素行のよくない者と親しく交わりながら、しばしば飲酒遊興などして遊惰に日を過ごしていたが、当時同僚であったA(二〇歳)からほしいままに他人の自動車を乗り廻わすことを誘われて同人と共謀のうえ、昭和三八年○月○○日午前二時三〇分頃、同市○○○通○番町内高○製菓工場前附近の路上において、駐車してあった菓子製造業高○留○所有の普通貨物自動車一台(時価約八〇万円相当)を窃取し、

第二、(強盗致傷など)その後、姫路市内の○○海運株式会社に転職して近海輸送の貨物船に乗り組み機関員として勤務していたが、同年○○月○○日朝名古屋港内に入港し、同夜、同僚のO(二〇歳)らとともに上陸して名古屋市港区内の飲食店や酒場等を転々しながら飲酒した挙句、酔余同市同区○○町内を徘徊中、

(1)  翌○○日午前○時三〇分頃、同町○丁目○番地路上において、酩酊していた日本通運株式会社の作業員東○○男(三三歳)とたまたますれ違う際、さ細のことから口論となり互いに争ううち、同人より金品を強取しようと思い立ちOと共謀のうえ、交々手拳をもって東○の顔面等を殴打し、または所携の刃渡約八センチメートルのジャックナイフを突き付ける等の暴行脅迫を加えて同人の反抗を抑圧し、よって同人より現金二五〇円並びにチョコレート三個、煙草六本位及び上衣一枚を奪い取ってこれを強取したのみでなく、その際前記暴行により同人の上口唇部に約一〇日間の治療等を要する裂創を負わしめ、

(2)  その少し後、前記○○町○○○番地先路上において、酩酊していた港湾作業員森○末○(三七歳)の姿を目撃するや、同人より金品を強取しようと企てOと共謀のうえ、早速同人に対して故意に突き当りこれを種に執つこく因縁をつけるとともに所携の上記ジャックナイフを突き付ける等の脅迫を加えて同人の反抗を抑圧した挙句、同人より所有のライター一個(時価二〇〇円相当)及び質札二枚を奪い取ってこれを強取し、

(3)  更に、その少し後の同日午前〇時五〇分頃、前記○○町×××番地東○診療所前の路上において、たまたま駐車してあった料理店業早○隆○(四〇歳)所有の普通乗用自動車内に入り込み、ほしいままにこれを運転しようとするうち、これを同人に発見されるや、同人を脅迫して同市内の繁華街まで運転させ財産上不法の利益を得ようと企てOと共謀のうえ、矢庭に同人に対して所携の前記ジャックナイフを突き付けたところ、同人に素早く逃走せられたため、その目的を遂げ得なかった

ものである。

(上記事実に適用すべき刑罰法令)

第一の事実 刑法第二三五条、第六〇条

第二(1)の事実 同法第二四〇条、第二三六条第一項、第六〇条

同(2)の事実 同法第二三六条第一項、第六〇条

同(3)の事実 同法第二五〇条、第二四九条第二項、第六〇条

(保護観察を相当とする理由など)

(1)  少年は、本件について、昭和三八年一二月二三日、当庁において特別少年院送致の決定を受け、これを不当として抗告の申立をなしていたところ、昭和三九年三月三日、名古屋高等裁判所において、少年の「社会適応性を培うためには、これを直ちに少年院に送致するよりも、むしろ家庭に返し、肉親の愛情配慮の下に保護、矯正を計ることが、より適切であると認められ」、上記処分は著しく不当であるとしてこれを取消し、当庁に差戻す旨の決定がなされたものである。

(2)  よって、当裁判所は上記抗告裁判所の決定の趣旨に則り、本件について再び審理した結果、少年は知能が準普通域にあり自己中心性、自己顕示性、気分易変性及び衝動性のいずれも強い人格特性と飲酒の習癖を有し、飲酒酩酊した際他の影響を受けて衝動的に反社会的行動に出易いものが見受けられるうえ、従来の交友関係にも問題視すべきものがあるので、これを指摘しつつ厳しく戒告し、かつ保護者らのもとに帰住して勤務に精励すべき旨指示したうえ、向後上記帰住先において、相当期間在宅のまま専門的指導保護を受けしめることとし、少年法第二四条第一項第一号、少年審判規則第三七条第一項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 川瀬勝一)

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