名古屋家庭裁判所 昭和41年(少)7187号 決定 1967年6月13日
少年 D・G(昭二六・三・五生)
主文
本件を愛知県岡崎児童相談所長に送致する。
理由
一、本件における検察官よりの送致事実は、
少年およびT・J(当一九年)の両名は、いずれも愛知県半田市○○町○丁目○○番地の精神薄弱者更生施設である愛知県○○更生園(精神薄弱者福祉法に基づく授護施設)の園生であつたものであるところ、昭和四一年一〇月○○日午後四時三〇分ごろ、同園男子用浴室浴槽内において入浴中、少年がたまたま入浴していた同じく園生の○藤○人(当二一年)より湯水を顔等にかけられたことに憤激し、ここに少年ら両名は共同して○藤を殺害しようと決意し、同人の頭部等を湯の中へ押えつけて沈め更に洗い場につれ出して殴る蹴るの暴行を加え、頸部を圧迫し、よつて、その場で同人を窒息により死亡させたものである。
というのであり、外形事実は本件各証拠によつてこれを認めることができる。
二、ところで本件調査審判の結果によると、少年は、知能指数四九(WISC)で痴愚級の精神薄弱者であることが認められ、当庁における審判においても、少年は事件のことは何も知らないと述べ、その態度からも少年には自己の行為に対する善悪の判断を期待できない状態にあると認められる。少年は、生後二年一〇ヶ月の時脳性小児マヒになり、その後の知的能力の発達が遅滞し、小学校そして中学校と通学するも成績劣等で中学二年(昭和四一年三月)で修学免除となり、昭和四一年一〇月一日前記○○更生園への入園を許されていたものである。
三、本件事件は、入園後一〇日目に発生したもので、少年の対人関係の不慣れもあつて、結果に対する配慮のないままふざけあいの度が過ぎた結果のものといえる。またT・J(知能指数二六)が本件非行に加担するに至つた理由も特になく、少年が被害者○藤(知能指数三九)を湯の中に沈めようとしたのを見、その場の雰囲気から少年に同調したものであることが認められる。
四、少年の性格は、内向的でやや陰気であるが(言語障害あり。)、素直で落ちつきがあり、小中学校時代を通じて特に粗暴性は認められなかつたもので、本件をもつて直ちに反社会的性格の現われだとみることはできない。ただ少年は満一六歳になり身体的にも発育し、種々の欲望も強まり広がつていることは事実である(過去三回にわたり原付自転車の窃盗事件があるが、いずれも見よう見まねで憶えたオートバイ運転に興味をもつての非行である。)ので、職業指導という面からも適切な教育を要することは勿論と思われる。
五、少年の一家は、昭和三七年炭鉱離職者として北海道美唄市より肩書住居地に移り住み、現在四人家族(少年は二男)であるが、両親共稼(父は工員、母は店員)の状態であるので、ある程度の放任は免れず、在宅保護の限界は越えている。
六、こうした状態の中で本件事件後(少年は本人自身および周囲の者の動揺もあり、直ちに親許に引取られて在宅保護のかたちで現在に至つている。)、少年の収容方法につき○○更生園側を初め関係機関の協力を仰いでいたが、(T・Jについては、同じく精神薄弱者更生施設である愛知県岡崎市の○○荘に入園ずみ。)、当庁の帰する結果は得られていない。
七、結論
少年は、今後適当な施設に収容し、適切な指導教育を為す必要があるものと考えるが、少年の年齢、知能、性格、家庭環境その他諸般の事情を綜合すると、本件については児童福祉法の措置に委ねるのを相当と認め、少年法第一八条第一項、少年審判規則第二三条を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判官 高橋一之)