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名古屋家庭裁判所 昭和50年(少)1665号 決定 1975年6月12日

少年 K・M(昭三三・七・六生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

押収にかかる普通預金払戻請求書(当庁、昭和五〇年押六六号符二号)の偽造部分を没取する。

理由

(非行事実)

第一  少年は、昭和四九年一二月二七日午後三時頃、愛知県海部郡○○村大字○○字○○××××番地の○○先駐車場内において、名古屋市中川区○○○町○丁目○○番地の○○纈○夫所有の中古普通自動車(ニッサンローレル、名古屋○○な○○○○)一台を窃取した

第二  少年は、A、B、Cと共謀の上、小遣銭欲しさに金員を喝取しようと企て、昭和五〇年一月二三日午後六時五分頃、名古屋市千種区○○○×丁目○○番地先路上において、折柄通行中の同千種区△△町○丁目○○番地△△荘アパート内○高○に対し「おい、ちよつと待て、兄ちやんが待つている」などと因縁をつけて、無理矢理に同番地南側駐車場に連れ込み、同所において「おい、金を貸せ、朝鮮をなめたらあかん」などと申向け、さらに拳大の石ころにて殴打する気勢を示して脅迫し、同人をして、要求に応じなければ、どのような危害を受けるかも知れないと畏怖させ即時同所にて現金二、〇〇〇円を交付させ、これを喝取した。

第三  少年は、

(一)  昭和五〇年四月二日頃午前六時頃、愛知県海部郡○○村大字○○○字○○××番地先庄内川堤防上に駐車中の○見○俊所有の普通乗用自動車(名古屋○○ね○○-○○)内より同人所有の普通預金通帳(○○○相互銀行○○○支店発行、額面一八一、〇七六円、○○銀行○○支店発行、額面一八〇、〇〇〇円位)外二点見積合計五、五〇〇円位を窃取した。

(二)  Bと共謀のうえ、前記普通預金通帳(○○○相互銀行○○○支店発行、預金額一八一、〇七六円)一通を窃取したのを奇貨として、被害者名義の普通預金払戻請求書を偽造して、これが払戻名下に金員を騙取しようと企て、昭和五〇年四月三日午前一一時頃名古屋市中川区○○○通り、○丁目○○番地○○○相互銀行△△△支店において、K・Mが行使の目的を以て、同支店備付けの普通預金払戻請求書の金額欄に一八〇、〇〇〇円、氏名欄に○見○俊とそれぞれ冒記し、その名下に、前記預金通帳と共に窃取してきた○見の印を冒捺し、以て○見○俊名義の普通預金払戻請求書一通を偽造したうえ、これを同日、同支店係員に対し、あたかも真正に成立したもののように装い、前記窃取した普通預金通帳とともに提出行使して、前記金員の払戻しを求め、同係員をして、その旨誤信せしめ、よつて即時同所において、同係員から預金払戻名下に現金一八〇、〇〇〇円の交付を受けて、これを騙取した。

第四  別表記載の窃盗非行

(適条)

第一は、刑法二三五条

第二は、刑法二四九条、六〇条

第三(一)は、刑法二三五条、六〇条、同(二)は、刑法一五九条一項、一六一条一項二四六条、六〇条

第四は、刑法二三五条、六〇条

(処遇)

第一  非行の経過

一  少年は、中学校在学中はスポーツ好きで、特に卓球選手として活躍したこともあつたが、昭和四九年四月○○大学附属高校に入学の七月頃から身体の不調を訴え、名古屋○○病院で診断してもらつたところ、胃下垂の外に腎臓、肝臓にも障害があり、入院加療をすすめられたが、一週間位通院しただけで、治療を中断した。

そして、昭和四九年九月同高校を中退したが、健康に自信もなく、徒食の生活状態にあつたため、不良交友なども深まり、家出、深夜徘徊等で、補導されたことがあるほか、シンナー、ボンド遊びをくり返しており、欠損家庭(父K・Sは昭和四〇年五月自殺)としての環境上の負因も加わつて、非社会的行動傾向を帯びるようになつた。

非行事実第一の非行をなした同年一二月当時は、少年の家の近くの女友達の○藤○代の借りているアパート「○○荘」や自分の家などで時々シンナー遊びをしていたところ、母親に見付かり、激しく叱責されたため、シンナー遊びをする場所がなくなり、車を盗んでその内で、吸引しようと考え、他方では車を運転したいという気持もあつて、本件第一の窃盗を犯した。

なお、少年はそれよりさき、昭和四九年中に二件の窃盗非行を犯しているが、いずれも事案軽微などのため、当庁において不開始決定を受けている。

二  少年は、第一の非行を犯した頃から、高校生当時の同級生のBが少年の家に寝泊りするようになり、同人を通して知合つたCなどもこれに加わつたりなどして少年の家や近くの○藤○代の前記アパートなどで、毎日のように遊興の生活を送つていたのであるが、本件第二の非行当時も、前日(一月二二日)の夜から前記○○荘に○藤○代と少年ら共犯者等が雑魚寝をし、翌二三日の午後二時頃から外出をして少年らの遊び場所になつている名古屋市千種区○○通りの喫茶店で、飲食したが、代金の支払に困つて通行人から本件第二の恐喝事件を引き起したものである。

三  少年は、昭和五〇年一月末頃、兄K・Rからオートバイをもらい、それに乗つて遊び廻つていたが、自動車に乗りたいという気持が強く、名古屋で自動車を盗んで大阪に行き、その自動車を大阪で乗り捨て、又大阪で自動車を盗んで名古屋に来て乗り捨てたりして、自動車窃盗や車上狙いを数回にわたつて犯した(当審判廷における少年の供述によれば、大阪では昭和五〇年三月中旬頃二、三台の自動車窃盗と、二、三回にわたる自動車内からの窃盗を犯したものと認められる。)ものと思われるが(未送致、昭和五〇年六月七日付当庁石原調査官の意見書参照)、名古屋市内における自動車窃盗は本件第四記載のように昭和五〇年三月一三日から同年四月一五日までの間に七件の非行を重ね、又三月一三日に二件の車上狙いを敢行しているのである。

四  昭和五〇年四月初頃少年がその朝方に盗んできた自動車を乗り廻していたときに、少年の家の近くの庄内川堤防に駐車中の普通乗用車を見付けて、殆んど習慣的に本件第三(一)の車上狙いを敢行した。そして、その当時、少年の家に泊つていたBに盗取してきた預金通帳を使用して、銀行から金を引き出す相談をしたところ、同人はこれを承諾するとともに、払戻を受ける銀行は通帳発行の銀行支店ではなく中川区○○○支店とし、万一発覚したことを慮つて、Bがその銀行のそばで自動車のエンヂンをかけたまま待機することなど手筈を決めて本件第三の非行を犯すに至つたものである(騙取した一八万円中一〇万円は少年がとり、残八万円はBに渡している)。

第二  処遇事情

一  少年の家庭は、その父が少年の祖父との仲が悪かつたうえに、母親と姑との折合も不良であり、常に葛藤状態にあつたため、少年の母は、昭和四〇年二月単身家出をしたが、その後間もなくの同年五月、父親が自殺をするなどの不幸が続いた。そのとき少年は六歳であつたが、それらの葛藤や不幸は、少年の意識下に大きな心理的外傷を与えたものと思われる。

鑑別結果によれば、少年の性格特性として「価値基準」が内的に確りしたものとなつておらず、物事の認知、判断があいまいで、一貫性がなく、思いきつた行動や積極的な自己主張は躊躇しがちである、何事にも、様々なこだわりや疑問を持ち、葛藤を生じやすく、一つことに夢中になつたり、持続的にとり組んでゆくことが難かしくなつている。そうした葛藤を視野をひろめることによつて克服し、より高い次元で考えてゆくといつた建設的方向に至らず、そのまま自分の可能性の幅を狭ばめ、切り捨ててゆくといつた消極的方向をとり勝ちである。

加えて情緒面での不安定さ、気分易変性等がみられ、情緒的刺激や、新奇な場面で適応不安を強め、動揺しやすく、安定した感情表出ができにくいことから、とかく気分や感情に即した行動を抑制しがちになり、不満を内攻、うつ積し、かたくなな拒否的態度として表れたり、内閉的消極的で覇気の乏しい態度を生じ易い。と述べ、さらに、こうした葛藤や情緒面での不安定さが、持続性を損なわせ、不確かな自己認知に結び付く要因ともなつていること、対人的過敏さがあり、社会関係から逃がれたいという消極的欲求や空想的、非現実的な対人場面に逃れようとする傾向となつていること、社会とのしつくりしない感情は、その基本において幼児期より依存欲求が満たされず、不安定で互いに意識をしなければならない「つくりもの」の家族関係の中にあつて、社会化への安定した基盤を得られなかつたことに起因していることなどの考察がなされている。

少年の幼児期よりの不遇な家庭環境に育成した環境上の負因に照らして、右考察は首肯しうるところである。即ち、第一非行経過で記述したように、病気のため高校中退後、徒食を続けるなかで、自尊の精神も責任ある態度を持つこともできず、かかる基盤からは当然はつきりした生活目標を把持することができず、類は友を呼んで非社会的な行動傾向をさらに強め、不良交友関係のなかで、シンナー遊び、不純異性交友などから本件非行に至る逸脱行動を累行してきたものであつて、そのよつて来る心理的な負因の根は深いものがあるように窺われる。

二  少年は、昭和四九年七月二〇日に男子用軽快自転車一台の窃盗を、同年九月一一日には、男子用皮バンド一本の窃盗を犯したが、いずれも在宅保護が可能ということで前者については昭和四九年一二月二四日当庁調査官の調査を経て、保護的措置を加えた後、審判不開始決定がなされているところ、同年一二月二七日には、非行事実第一の窃盗を犯し、続いて翌五〇年一月二三日には同第二の恐喝事件を起して、これら第一、第二の各事件が当庁に送致になつたため、当庁石原潔調査官において、その調査を担当することとなり、同年三月二七日少年と面接調査を実施したものであるが、その際同調査官は少年に対し、審判期日までに職に就いて、真面目な生活をするように説示し、保護者にもそのことを強く要請したにもかかわらず、少年は相も変らず怠惰徒遊の生活を改善しようとはしないのみか、その後も第三、第四の非行を累行し、その罪障感は稀薄であり、又他罰的な傾向も強いように思われる。即ち試験観察や保護観察の決定こそはなかつたが、前叙のように当庁調査官において再三にわたつて更生の努力を促したにもかかわらず、自ら努力をする様子は殆んどなく、在宅保護による改善はおよそ期待し得ない状況にあるものと考える。なお、少年は昭和五〇年四月中旬上京し、兄K・Rと一緒に暮すようになつたが、適当な職もないまま、昭和五〇年四月二五日午後二時五〇分頃東京都千代田区○○○○町○丁目○番地、喫茶店「○○○」地先路上に駐車中の○良○男所有にかかる普通乗用自動車(練馬○○そ○○○○号)一台外四点合計一五五九、〇〇〇円相当を窃取した(未送致、昭和五〇年六月六日付発信者愛知県中川警察署村上刑事課員、受信者当庁調査官石原潔の電話聴取書参照)。

三  少年の母親は、昭和四四年四月に少年を引きとつて一緒に生活するようになつたが少年を長く放置していたとの負目があつて、とかく指導も放任に流れ、又昭和四六年頃から電話局の掃除婦として勤務しているため、日中は少年が一人になつていて、母親に補導を委ねることは、客観的にも困難であるところから考えて、在宅処遇による保護は効果が薄いのみならず、少年の非社会的な行動傾向からみて、非行を重ねる危険性は高いものと思料する。

よつてこの際、収容保護によつて専門的な心理療法的措置を施して自己変容をはかるとともに、意図的、積極的な生活訓練などを通して、規範意識の向上と健全な行動様式を身につけさせることが肝要であると考えるので、主文第一項の保護処分については、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項を、同第二項の没取部分については、少年法二四条の二、一項一号を各適用して、それぞれ主文のとおり決定するものである。なお、少年の性格や環境において、前記のような負因の存在は認められるが、自己改善への心的転機をはかることが期待できない程の高い非行性であるとは考えられないので、入院後原則として四か月をもつて、仮退院の処置がとられる「短期処遇課程」の矯正教育を受けさせることが、少年の健全育成にとつて相当であると判断する。よつて、少年審判規則三八条により、処遇について上記の勧告をする次第である。

(裁判官 林倫正)

別紙

犯罪表

番号

共犯者

日時

(昭和年月日)

場所

被害者

被害品

品目

数量

時価

50.3.13

午前1時頃

名古屋市中村区○○町○丁目○○番地の○県営住宅駐車場に駐車中の自動車内

○永○幸

現金

免許証

10,000円

同上

50.3.13

午前1時頃

同上

○口○

タバコ

8個

800円

同上

50.3.13

午前1時30分頃

同上県営○○住宅駐車場

○井○雄

中古自動車

(パブリカ)

50,000円

50.3.31

午前1時頃

名古屋市北区○○○×丁目○番地

被害者方西側駐車場

○村○雄

中古自動車

(トヨタカローラ)

免許証

150,000円

同上

50.4.2

午前2時頃

名古屋市中村区○○○○通り○丁目○番地

先空地

○西○蔵

中古自動車

(トヨタカローラ)

150,000円

同上

50.4.7

午後8時30分頃

名古屋市千種区○○町○丁目○○番地

○○屋ストア駐車場内

○栗○行

中古自動車

(トヨタカローラ)

釣道具

トロフイ

1式

1個

60,000円

20,000円

10,000円

50.4.12

午前1時頃

古屋市中村区○○町○丁目○○番地

○田駐車場内

○田○広

中古自動車

(カローラクーペ)

免許証

100,000円

同上

50.4.15

午前3時頃から6時頃

名古屋市中村区○○町○丁目○○番地の○

県営○○住宅駐車場

○藤○義

中古自動車

(カローラ)

免許証

1枚

100,000円

同上

50.4.15

午後2時頃

名古屋市名東区○○町大字○○字○○○○×××

番地先

レストラン○ま○や北路上

○和○男

中古自動車

(カローラ)

車検証

強制保険証書

ガソリンケット

1枚

1枚

1冊

300,000円

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