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名古屋家庭裁判所 昭和57年(家イ)1162号 審判 1982年9月29日

本籍及び住所 三重県員弁郡

申立人 小山尚江

国籍 インド共和国 住所 名古屋市

相手方 ザイラ・カタラム・シン

主文

申立人と相手方を離婚する。

理由

一  申立人は主文同旨の調停を求めた。

二  本件記録添付の各資料および家庭裁判所調査官○○○○作成の調査報告書ならびに当事者双方に対する当裁判所での審問の結果によると、次の事実が認められる。

1  申立人は日本の国籍を、相手方はインドの国籍を有している者で、それぞれ肩書地に居住している。

2  申立人と相手方は、文通(手紙の交換)で知り合い、一九八一年七月ころ、申立人の肩書地で同居生活に入り、同年九月八日日本民法の方式に従い、三重県○○郡○○町長に対し婚姻の届出をした。

3  婚姻当初、双方の間柄は円満に推移していたが、インドに在住している相手方の実父から、再三にわたり、当事者両名に対して金銭や贈物の要求、催促があり、加えて、その申出に応じない申立人を悪い女ときめつけ、同人を非難する手紙が来たこともあつて、申立人は、相手方の実父に対し不満を抱くとともに、相手方との将来の生活に危惧を感じて離婚を決意し、一九八二年六月ころから申立人は、相手方と別居し、現在に至つている。

4  申立人は、一九八二年六月一四日本件離婚の申立をなし、相手方も当庁に出頭して離婚の調停に応じた。

三  当事者双方は日本に住所を有することが認められるから、わが国に国際的裁判管轄権が有り、当裁判所の管内に相手方の住所があるので、当裁判所に管轄権があることは明らかである(家事審判規則一二九条)。

四  本件離婚の準拠法について検討する。

法例一六条によれば、離婚はその原因たる事実の発生時における夫の本国法によるべきことが定められており、したがつて、本件は夫である相手方の本国法すなわちインド法による。

しかるに、インドの国際私法によれば、離婚は夫婦のいずれか一方がドミサイルを有する地に裁判管轄権があり、その地の法によるものと解することができる(Gutachten zum internationalen und auslä

この場合におけるドミサイルは、イギリス法上のそれと同じ概念であり、妻が夫と別のドミサイルをもちうることが前提とされる(イギリスの一九七三年住所および婚姻訴訟法一条参照)。

本件においては、相手方である夫は、インド国籍を有する者で、インド・ニューデリーで生まれ、以来インドに常住し、一九八一年七月申立人との婚姻の目的で渡日したものであるが、日本に永住の意思を有するものとは認められない。したがつて相手方である夫のドミサイルがわが国にあるものとは認めがたい。

他方、申立人である妻は、日本人として本籍地で出生し、高校卒業後、留学のため約一年八ヶ月アメリカ合衆国に滞在し、本件婚姻前約一〇日間インドに滞在した外は、婚姻後も日本に居住して日本に永住の意思を有し、現在相手方と別居中である。これらの点から申立人である妻はインド法上のドミサイルをわが国に有するものと認められる。

したがつて、インド法によればわが国に本件離婚の裁判管轄権があるものと認められるから、法例二九条により、日本法への反致が成立するものと解されるので本件離婚は日本法に従つて判断すべきである。

五  上記のとおり、当事者は、一年を経ずして婚姻が破綻して別居に至つたもので、破綻の帰責事由が、果していずれの側にあるのか断定の限りではないが、申立人の離婚の意思は固く、相手方もこれに理解を示している事情も見受けられ、別居に至つた原因や、その他の状況を考慮すると、離婚を認めて、夫婦関係を清算させることが相当と考える。

よつて、当裁判所は、調停委員会を構成する調停委員山田鐐一、同山崎美紗子の意見を聴いたうえ、法例一六条、二九条を適用し、家事審判法二四条一項の規定により、主文のとおり審判する。

(家事審判官 興那嶺為守)

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