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名古屋家庭裁判所 昭和58年(家)3561号 審判 1984年2月24日

申立人 前川美子こと張美子

未成年者 前川良美こと安良美

主文

本件申立を却下する。

理由

第一  本件申立の趣旨は「未成年者の後見人として実母である申立人を選任する」旨の審判を求めた。

第二  当庁調査官○○○○作成の調査報告書、名古屋市○区長作成の登録済証明書、同市○○区長宛の死亡届、婚姻届、出生届、同市○区長宛の離婚届、医師作成の死亡診断書、張根正の外国人登録票写等本件記録添付の各資料によれば次の事実が認められる。

1  申立人は韓国籍の父張根正、母金正子の末子として出生し、物心のついたころ、養護施設にいて、義務教育終了後姉のところに身を寄せ就職し、その後職を変えたが、昭和四四年二月七日韓国籍の安良植と婚姻し、昭和四五年五月二日未成年者を出生した。申立人が婚姻届をなすさい、申立人の出生届がなされていないことが判明したため、申立人の出生届出のため初めて父張根正と会つたが、当時同人は大阪府吹田市に居住していて、父親と、2、3年の交際はあつたが、その後父親の居所不明のまま現在に至つている。昭和四八年一〇月一九日申立人と安良植は協議離婚し、その際韓国民法に従い未成年者の親権者を安良植と定めて届出したが、事実上は申立人が自動庫部品製造の会社に勤めて未成年者を現在まで監護養育している。ところが未成年者の親権者である安良植は昭和五六年二月二四日死亡した。同人の両親もすでに死亡しており、申立人の父張根正は昭和五六年五月大阪市大淀区長に外国人登録手続をとつており、その生存する可能性は高いが、調査してもその記載された住所に居住しておらず転居先も不明であるし、前記のとおり申立人、未成年者との音信も絶えている。

2  以上の事実によると本件は法例二三条一項により後見は被後見人の本国法によるべきところ、未成年者らの国籍は韓国であるから韓国法によるか大韓民国民法九二八条によれば未成年者の父である安良植は死亡しているから後見が開始したことが認められる。そして未成年者に同国民法九三一条に定める指定後見人がいないことは記録上明らかなので同国民法九三二条、九三五条によつて定まる法定後見人となるべきものを検討するに、未成年者にはいまだ配偶者がないので直系血族の第一法定後見人は申立人の父張根正であるが、同人が所在不明で永年の間未成年者との音信もなく、後見を行使できない状況にあること前述のとおりであるから、第二順位として申立人が当然法定後見人となると解するのが相当である。そうすると本件未成年者には韓国法上法定後見人として申立人がなり、その権限を行使することができるので、更に同国民法九三六条による後見人を選任する必要はない。よつて本件申立はその理由がないから却下することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 鈴木雄八郎)

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