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名古屋家庭裁判所半田支部 平成21年(家ホ)48号 判決 2010年7月14日

主文

1  本件訴えを却下する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

原告と被告との間に,父子関係が存在しないことを確認する。

第2事案の概要

1  本件は,原告が,戸籍上の子である被告に対し,父子関係不存在の確認を求めた事案である。

2  前提事実

以下の事実は証拠(甲1)及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実である。

(1)  原告は,平成12年×月×日,被告法定代理人親権者母Aと婚姻した。

(2)  Aは,平成14年×月×日,被告を出産した。

(3)  平成15年×月×日,原告がAと協議離婚した旨の届出(以下,「本件離婚届」という。)がなされている。

(4)  被告の出生の届出は,平成19年×月×日になされ,被告は,Aと原告の嫡出子として,その旨戸籍に記載されている。

3  本件の争点は原告と被告との間の親子関係等であり,この点に関し,原告は次のとおり主張している。

Aは,平成13年×月×日に家を出て原告の許を去っているので被告が原告の子であることはあり得ない。

第3当裁判所の判断

1  前記前提事実に加え,証拠(甲1,2,原告本人供述)及び弁論の全趣旨を総合すると以下の事実が認められる。

(1)  原告は,平成12年×月×日,Aと婚姻した。Aの国籍はフィリピン共和国である。

(2)  Aは,原告と同居していたが,平成13年×月ころ別居し,平成14年×月×日,被告を出産した。

(3)  原告は,平成15年×月ころ,フィリピン共和国のAの実家を訪ねたものの,Aと会うことができなかったが,Aの父母と姉との間で離婚の話をまとめ,Aの姉の代筆によって離婚届を作成しこれによって本件離婚届がなされた。

(4)  被告の出生の届出は,平成19年×月×日になされ,被告は,Aと原告の嫡出子として,その旨戸籍に記載された。

原告は,平成20年×月ころ,被告の出生と出生届出の事実を知り,Aと連絡をとった後,a家庭裁判所に親子関係不存在確認調停を申し立てたが(同庁平成20年(家イ)第×××号),同年×月×日にこれを取り下げた。

(5)  原告は,平成20年×月×日,当庁に親子関係不存在確認請求事件を提起した(当庁平成20年(家ホ)第×××号,以下「前訴」という。)ところ,Aから原告とやり直したいとの電話連絡を受け,原告もこれに応じることとし,同年×月×日,前訴に係る訴えを取り下げた。

(6)  その後,Aとのやり直しの話もなくなり,原告は,平成21年×月×日,本件訴えを提起した。

2  嫡出の推定を定め,一定の方法によってのみこれを覆し得るものとした民法772条ないし777条は,妻の婚姻中の懐胎子も夫の子でない場合があり得ることを当然に予想しつつも,これをすべて夫の子として取り扱い,夫が自ら家庭の秘密を暴露してまで父子関係を否定しようと欲するときにのみ,これを可能ならしめるとともに,その期間を夫が子の出生を知った後に1年以内と制限し,また,一旦夫において子が嫡出子であることを承認すれば否認権を失うこととし,可及的すみやかに父子関係を確定し,子の身分関係を含む身分的法律秩序の安定を図ることを目的としたものと解すべきである。そうすると,民法772条所定の要件を満たすにもかかわらず,例外的に嫡出の推定が及ばないものとして上記の訴え提起権者や訴え提起期間の制限を受けないとするためには妻が夫との間の子を懐胎する余地がないことが客観的で明白に認められる場合に限られるというべきである。

本件においては,Aが被告を懐胎したころ原告と同居していなかったことは認められるが,原告とAが平成20年×月に至るまで一切の接触を断っていたということについては原告の供述があるだけであり,たとえばAが別居後にフィリピン共和国に帰国しており原告が同国に渡航しなかった等の両者の接触がなかったことを客観的に裏づける証拠,事情は見当たらない。したがって,本件においては,Aが原告の子を懐胎する余地がないことが客観的に明白であるとはいえない。

そうすると,本件訴えは子が出生したことを知ってから1年以上経過した後になされた不適法な訴えといわざるを得ない。

3  以上の認定及び判断の結果によると,本件訴えは不適法であるからこれを却下することとし,主文のとおり判決する。

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