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名古屋家庭裁判所岡崎支部 平成14年(少ロ)1号 決定 2002年12月04日

本人 U・K(昭和60.11.4生)

主文

本件については、補償しない。

理由

当裁判所は、平成14年11月14日、本人に対する当庁平成14年(少)第1484号覚せい剤取締法違反保護事件について、送致事実が認められないことを理由に、本人を保護処分に付さない旨の決定をした。同事件の一件記録によれば、本人は、前記送致事実と同一の被疑事実により同年10月1日、逮捕され、同月2日以降、20日間の勾留を経て、同月21日、少年鑑別所へ送致されて、同年11月14日に釈放されるまでの間、45日間にわたり、身体の拘束を受けたことが認められるから、少年の保護事件に係る補償に関する法律2条1項所定の補償すべき場合に当たる。

しかしながら、家庭裁判所調査官の調査報告書によれば、本人は、保護者である母に任せる、母は辞退すると言っており、自分もそれでよいと思っている旨述べ、母は補償を辞退する旨供述し、補償を辞退する旨記載があり署名押印のある書面も本人及び母から提出され、同書面についても、本人及び保護者のいずれからも辞退の意思に間違いないものであるとの確認がされているのであるから、本人は、真意に基づき補償を辞退しているものと認められる。そうすると、同法3条3号の「本人が補償を辞退しているとき」に該当する。

よって、同法3条3号、同条各号列記以外の部分を適用して、本人に対して補償の全部をしないこととし、同法5条1項により、主文のとおり決定する。

(裁判官 大野晃宏)

〔参考〕 窃盗、覚せい剤取締法違反保護事件(名古屋家岡崎支 平14(少)1346、1484号 平14.11.14決定)

主文

この事件については、少年を保護処分に付さない。

理由

1 平成14年(少)第1346号事件

(罪となるべき事実)

少年は、Aと共謀の上、平成14年3月13日午前5時35分ころ、愛知県岡崎市○○町×番地×所在の○○店において、同店店長□□管理の香水2個ほか14点(販売価格合計1万750円相当)を窃取した。

(法令の適用)

刑法60条、235条

(処遇の理由)

少年が平成14年6月14日業務上過失傷害、道路交通法違反(原動機付自転車の無免許運転)の各非行により保護観察(交通)の処分を受けたこと、上記本件非行が上記保護観察決定前の非行であること、その非行内容等にかんがみれば、少年については上記保護観察を継続して受けることが相当、かつ、十分な措置というべきである。したがって、上記本件非行については、いわゆる別件保護中として、別途保護処分に付さない。

2 平成14年(少)第1484号事件

(1) 本件送致事実は、「少年は、法定の除外事由がないのに、平成14年9月26日ころの夜中に愛知県岡崎市又はその周辺において、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン若干量を含有する水溶液若干量を口から体内に摂取し、もって、覚せい剤を使用した。」というものである。

そこで検討するに、本件記録及び当審判廷における少年の供述によれば、平成14年10月1日少年が警察官に任意提出した尿から同日覚せい剤フェニルメチルアミノプロパンが検出されたこと、覚せい剤の人体内における残存期間は通常約1週間ないし10日間であるところ、少年は同年9月22日ころから同年10月1日までの間、愛知県又はその周辺部にいたことが認められ、以上の情況事実を総合すれば、少年は、平成14年9月22日ころから同年10月1日までの間に、愛知県内又はその周辺部において、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン若干量を何らかの方法で体内に摂取し、覚せい剤を使用したこと、しかも、特段の事情がない限り、少年が自らの意思により上記覚せい剤を摂取したことが推認される。

ところが、少年は、緊急逮捕された同年10月1日ころから、警察官、検察官及び裁判官に対し、平成14年9月26日ころ覚せい剤らしきものが入った液体を飲んだことがあるが、自分の意思ではなく、先輩らから無理矢理に飲まされた旨弁解している。そして、本件記録中の関係証拠及び少年の当審判廷における供述によれば、その経緯は、<1>覚せい剤を飲まされたと思うのは、平成14年9月26日ころの夜、愛知県岡崎市周辺の先輩のマンシヨンの一室であり、その場所の詳細や先輩達の名前は、恐ろしい先輩達から固く口止めされ、契約書まで書かされたから言えない、<2>当日、1年ぶりに喧嘩別れしていた女友達と会い、先輩のマンシヨンに行った、そのマンシヨンには家出をしていたころにいたことがある、当日、女友達のほか、40歳位の太った先輩や40歳位の普通の体型の先輩がいた、<3>女友達が、いきなり覚せい剤の話を始め、自分の腕に注射し、少年にも「腕を出して」と言い、少年の腕を取り上げて注射を勧めた、<4>少年が腕を引いて断ると、女友達は怒り、普通の先輩が注射器に入った液体を飲むように言い、太めの先輩が少年の顎を押さえた、少年が「嫌」と言って拒否すると、普通の体型の先輩が「静かにしろ。騒ぐなよ。」と怒鳴った、<5>少年が泣きながら口を開けてしまったところへ注射器に入った液体が口の中へ入れられた、<6>少年は吐きそうになったが、ボンドみたいに乾いた状態で口の中にへばりつき、咽せていたところ、普通の体型の先輩から「飲め」とお茶を渡されたので、これを飲んだ、このとき吐き出しておれば、殺されるような状態であった、というものである。以上の供述は、少年が先輩達に無理矢理覚せい剤らしきものが入った液体を飲まされ、自分の任意の意思で飲んだのではないとの点で逮捕された当初からほぼ一貫しているものであり、内容的にも、核心的な部分については、ほとんど食い違いや変遷がなく、臨場感にあふれるものであること、少年はこれまでシンナー吸入の事実は認められるものの、覚せい剤を使用した経験が全く窺われないこと、少年の弁解にほぼ沿う覚せい剤摂取の関与者として、少年と同年代の少年(女性)1名及び成人男性2名が捜査線上に浮上し、平成14年9月26日ころ、少年と接触していたが、その氏名、所在等はその後の捜査によっても明らかとならなかったことなどが認められる。

これらの事実関係を総合勘案すると、覚せい剤を先輩らに無理矢理飲まされたとの少年の前記弁解が殊更虚偽の供述をしているとまでいえず、前示の事実関係に照らし、むしろ、相当程度信用できるものというべきである。そうすると、未成年の女性である少年と成人男性2名及び未成年女性という力関係などにかんがみ、少年が任意に覚せい剤を体内に摂取したとはいえず、前記成人男性2名と未成年女性によって自由な意思を制圧された状態で強制的に口の中に覚せい剤の水溶液を入れられた疑いが強いというべきである。したがって、少年にはその意思により覚せい剤を体内に摂取したとはいえない特段の事情が認められる。

(2) 以上によれば、本件送致事実については、合理的な疑いをさしはさまない程度の証明があったとはいえず、上記事実については少年の非行がない。

3 結論

よって、本件のうち、平成14年(少)第1346号事件については、別件保護中として、平成14年(少)第1484号事件については、少年に非行がないことになるから、いずれも少年法23条2項により少年を保護処分に付さないこととして、主文のとおり決定する。

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