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名古屋家庭裁判所岡崎支部 平成9年(少)399号 1997年5月15日

主文

少年を特別少年院に送致する。

理由

(罪となるべき事実)

少年は、

第一  A、C、B及び氏名不詳の男1名と共謀の上、D子(当時18歳)を強いて姦淫しようと企て、平成9年2月12日午後8時15分ころ、愛知県刈谷市○○町○○×番地×付近路上において、同女の口を塞ぎながら両腕を掴んで前記B運転の普通乗用自動車内に押し込み、同女を同市○△町○△×番地×○○公園駐車場に連行し、同日午後8時30分ころ、同所に駐車中の右自動車内において、同女に対し、こもごも、「スケ連に連れて行かれるか、オナニーするか、ここでおれらとやるか決めろ。生きて帰りたいなら脱げ。」などと語気鋭く申し向けて脅迫した上、その両肩を押さえ込んで押し倒す等の暴行を加えてその反抗を抑圧し、前記Aが、同女を強いて姦淫しようとしたが、陰茎を挿入することができなかったため目的を達せず、次いで、少年が、同女を強いて姦淫し

第二  前記日時ころ、前記場所において、前記A、C、B及び氏名不詳の男1名と共謀の上、前記脅迫、強姦により同女が畏怖しているのに乗じて同女から金員を強取しようと企て、同女に対し、腕を押さえる等の暴行を加えてその反抗を抑圧し、前記Bが、同女所有の財布から現金3万8000円を抜き取り、もって、同女から前記現金を強取したものである。

(法令の適用)

第一について、刑法60条、177条前段

第二について、刑法60条、236条1項

(補足説明)

1  本件送致事実は、少年が前記A、C、Bらと前記D子から金員を強取するとともに同女を強いて姦淫しようと企て、同女に脅迫、暴行を加えて反抗を抑圧し、同女から前記現金を強取するとともに同女を強いて姦淫したという強盗強姦の事案であるが、前記A、B、及びCの検察官及び司法警察員に対する各供述調書によれば、以下の事実が認められる。すなわち、少年らは、当初は、D子を強姦する目的で、B運転の普通乗用車(以下「B車両」という)内に同女を押し込み、同車両において、同女に対し、脅迫、暴行を加え、その後、Aが同女を姦淫しようとしているとき、Cが同女のバッグを持ち去ったが、このときは、Cは、バッグの中身から身元を調べようと思っていたこと、その後、少年がバッグの中を調べるうちに現金の入った財布を見つけ、一人では現金を奪うかどうか決めることができなかったので、誰かに相談して決めようと思ったこと、Aは、姦淫行為をやめて、少年と交代し、Cが運転してきた車両内(以下「C車両」という)に来て、Cから財布内の現金を見せられ、現金を奪うかどうか相談を受けたが、Aも現金を奪うかどうか決めることができなかったので、CにB車両内にいる者を呼びに行かせたところ、Bが同車両から出て、C車両に来たので、同所において、Bと相談し、現金を奪うことに決め、Bが、現金を抜き取ったことが認められる。以上によれば、現金奪取の共謀が最終的に成立したのは、AとBが相談したときであるが、この相談は、少年の姦淫行為とは別の車両内でなされたため、少年の姦淫行為との時間的先後関係が必ずしも明らかではなく、少年の姦淫行為終了後に、現金奪取の意図を生じたという可能性も否定できない。そうすると、強盗強姦罪の成立には疑いが残る。

2  なお、前記各供述調書によれば、Bが、Aと相談した上、少年がB車両内でD子の反抗を抑圧している状況を利用して、同女の現金を奪取したことは明らかである。そして、少年の検察官及び司法警察員に対する各供述調書によれば、少年が、前記D子の身体の上に乗っているとき、Aが同女のバッグを持って「没収」と言ったのを聞き、Aが被害者の現金等を取ると分かり、分け前を期待したこと、その後も引き続いて少年がB車両内で同女の身体の上に乗り、腕を押さえる等して同女が身動きできないようにしていたこと、その後、少年は、B車両内に入って来たBと交代して、C車両に行き、Cに対して「金取った。」と尋ねたところ、Cが「取った。」と答えたので、Aらが現金を奪ったことを了解したこと、その後、Bから分け前として1万円を取得したことが認められる。そうすると、少年は、Aらから事前に現金を奪うとの相談を受けてはいないが、自己のD子に対する強姦、暴行によりD子が反抗を抑圧されている状況を利用してAらが同女から現金を奪うことを認識、認容しており、また、少年自身も、現金の取得については、A、Bらの行為を利用したということができる。

以上によれば、少年に前記判示のとおり、強盗罪の共同正犯が成立することは明らかである。

(処遇の理由)

1  本件は、少年らが自己の性的欲望を満たすために、女性を強姦する計画を立て、知人に女性を呼び出させ、同女を無理矢理、車両に押し込んで拉致し、口淫させる等した後で輪姦し、さらに同女の畏怖に乗じて現金を強取したという事案であり、その動機に汲むべき事情はなく、計画的な犯行で、被害者に対して性的暴虐の限りを尽くしており、態様は極めて悪質である。被害者は特に落ち度がないのに言いようもない精神的、肉体的苦痛を被っており、結果も重大である。少年は、被害者を執拗に脅迫した上、口淫させる等のわいせつ行為をし、姦淫行為に及んだもので、本件において、終始、積極的、主導的に行動していたものといえ、その責任は重い。

以上によれば、少年の規範意識の欠如は著しく、その非行性は看過できないものといえ、本件事案の重大性及び少年の年齢(19歳)からすれば、少年については、もはや刑事処分に付するのが相当とも考えられる。

2  しかしながら、少年の最大の問題点は、年齢に比して未熟で、物事の捉え方が主観的、自己中心的で在り、欲求不満耐性や自己統制力にも乏しいため、目先の欲求充足を優先して短絡的、衝動的な行動に出たり、不良仲間に安易に同調することで自己顕示欲を満たそうとするという性格傾向にあり、再非行の防止のためにはまず、これらを矯正改善する必要がある。また、少年は、潜在的には良好な知的能力を有しており、これまで、父親の支えもあって、その生活を大きく崩すことなく高校を卒業し、その後、転職はあるものの、意欲をもって稼働してきたこと、本件についても反省し、更生を誓っていることが認められ、これらによれば、適切な教育指導を受ければ、更生できる可能性は高いと考えられる。

3  以上の事情を総合すると、前記のとおり、少年の責任は重大ではあるが、なお保護処分による矯正可能性が期待でき、この際、少年を特別少年院に送致して、統制された環境のもとで、充実した個別処遇を施し、内省を促して自己の問題性を十分に洞察させて規範意識を高め、自己統制力を身につけ、年齢に相応しいものの見方、健全な価値観を養って、社会適応を図るため、専門的かつ強力な矯正教育を施す必要がある。

よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して少年を特別少年院に送致することとし、主文のとおり決定する。

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