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名古屋家庭裁判所豊橋支部 平成26年(家)144号 審判 2014年7月17日

申立人(養父となる者)

A

申立人(養母となる者兼養子となる者の母)

B

未成年者(養子となる者)

C

主文

1  未成年者を申立人両名の養子とすることを許可する。

2  手続費用は各自の負担とする。

理由

1  本件は,日本国籍を有する申立人A及びフィリピン共和国(以下,単に「フィリピン」という)国籍を有するBの夫婦が,フィリピン国籍を有する未成年者(申立人Bの婚外子)であるC(以下「未成年者」という)を申立人らの養子とすることの許可を求める事案であるところ,一件記録によれば,以下の各事実を認めることができる。

(1)申立人Bは1978(昭和53)年×月×日にフィリピンで出生し,同国内において生活をしていたところ,芸能プロダクションのオーディションに合格したことを契機に平成9年ころ来日し,ダンサーとして○○市内のフィリピンパブに派遣された。その後,半年単位で計6回来日し,最後の来日時に,フィリピンパブの客であったDと知り合い,平成18年ころに同人と婚姻したものの,同人が稼働しなかったことなどが原因で平成22年×月に同人と離婚した。そして,平成24年×月×日に,同じくフィリピンパブの客であった申立人Aと婚姻した。申立人Bは現在は無職ではあるものの,就職に備えて平成26年×月×日に普通自動車免許を取得しており,当庁調査官による面接時に,今後パートタイムの仕事を探す予定である旨述べている。

(2)申立人Aは,昭和42年×月×日に○○市内で出生し,昭和63年ころにEと婚姻し,同女との間に3人の子<以下略>をもうけたが,平成23年×月×日,上記子のうち,未成年であったG及びHの親権者を同女とした上で協議離婚した。その後,申立人Aは前述のとおり平成24年×月×日に申立人Bと婚姻し,現在,住居地において同女と生活をしている。また,申立人Aは,現在トラック運転手として稼働し,月収は約27万円である。

(3)未成年者は1999(平成11)年×月×日に申立人Bの婚外子としてフィリピンで出生後,平成22年×月×日に来日するまで同国内で養育されていた(なお,同人の実父の所在は現在不明である)。来日後は申立人B及び上記Dと生活をすると共に,○○市内の小学校に通ったものの,申立人BがDと離婚した後はフィリピンに帰国し,同国内の小学校を卒業した。その後,前述のとおり申立人Bが申立人Aと婚姻したため,平成25年×月×日に再来日し,以降,同人らと住居地において生活をしている。

(4)未成年者は再来日後,○○市内の中学校の2年生に3学期から転校し,現在は普通クラスに席を置く一方で,国語と社会は国際クラスで授業を受けている。未成年者は英語とタガログ語を話し,日本語能力についても,日常会話は十分に理解することができ,意思疎通に関しては特段の問題はない。未成年者は,今後申立人らの子として生活をし,日本の高校に進学したい旨の意向を示している。

(5)申立人Aは,未成年者の初回来日時から同女のことを知っており,小学校の入学手続をするなどした。また,現在も,申立人Aは未成年者の勉強を教えたり,休日には一緒にゲームセンターに遊びに行ったりしている。未成年者は,半年に五,六回の頻度で申立人らと共に申立人Aの実家に遊びに行くことがあり,その際には申立人Aの両親も含め5人で外食をしている。

(6)未成年者の実母である申立人B及び未成年者から当庁に対して養子縁組同意書が提出されているほか,申立人Aの子であるF,G及びHからも当庁に対して養子縁組同意書が提出されている。

(7)申立人Bは,これまでに,1998年フィリピン国内養子縁組法(以下「フィリピン法」という)7条(a)に定める倫理道徳に反する罪で有罪と宣告されたことはない。

2  当裁判所の判断

(1)国際裁判管轄についてみると,本件は,養親になる者及び養子になる者双方が日本国内に住所を有するから,日本の裁判所が国際裁判管轄を有する。

(2)そして,渉外養子縁組の実質的要件については,法の適用に関する通則法(以下「通則法」という)31条1項により,養親の本国法によるとされており,また,養子となる者の本国法に保護要件が定められているときはその要件を備えなければならないから,申立人Aと未成年者との関係においては,準拠法としては日本法が適用され,併せて保護要件についてはフィリピン法が適用される。一方の申立人Bと未成年者との関係においては,専らフィリピン法が適用される。

(3)そして,前記1で認定した事実に照らせば,本件において,日本国民法792条以下に規定される日本法上の実質的要件に欠けるところはなく,また,前フィリピン法7条(a)並びに8条(a)及び(c)の実質的要件を充足するものと認められる。

(4)次に,フィリピン法における養子となる者の保護要件について検討する。

ア  フィリピン法9条によれば,本件で同意を得ることが必要な者は,未成年者(同法(a)),申立人B(同条(b))及び申立人Aの子であるF,G及びH(同条(c))であるところ,前記1認定のとおり,その全員が申立人らと未成年者が養子縁組することについて同意している。なお,未成年者の実父の明示的な同意はないものの,前記1認定のとおり,現在同人の所在は不明であり,フィリピン法9条(b)が,このような同意を得ることが不可能,あるいは,著しく困難な場合にまで実親の同意を要求しているものとは解されないから,本件においては,上記同意要件を欠くものではないと解するのが相当である。

イ  フィリピン法11条及び12条によれば,所定の公的機関によるケース・スタディ及び6か月以上の試験監護の実施が要求されているが,本件では,前記1で認定したとおり,未成年者は申立人らの監護下で既に6か月以上にわたり生活しているのであるから,このような事情の下において,現在の生活状況を当庁調査官が観察し,その結果を報告することで上記要件に代えることができるものと解するのが相当である。なお,フィリピン法13条によれば,養子縁組は裁判所のする養子決定により成立するものとされており,通則法31条1項後段の規定の趣旨に照らせば,当該決定が本件の養子縁組にも必要と解されるところ,上記養子決定は,日本の家庭裁判所のする養子縁組許可の審判をもって代えることができると解するのが相当である。

ウ  以上によれば,フィリピン法上の保護要件を充足するものと認められる。

(5)以上の事情のほか,前記1で認定した未成年者の生育歴,現在の生活や監護養育状況,申立人らとの関係等に照らせば,未成年者が申立人らの養子になることが,未成年者の福祉に沿い,利益にも適うものと認められるから,本件申立てを認容するのが相当である。

3  よって,主文のとおり審判する。

(裁判官 長橋政司)

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