名古屋家庭裁判所豊橋支部 平成9年(家)192号 審判 1998年3月25日
主文
1 被相続人の遺産を次のとおり分割する。
(1) 別紙第1物件目録中の1、5、8、10、12、13、18、19、24、27、28、29、30の各不動産は申立人らの共有取得とし、その持分は各三分の一とする。
(2) 同目録中の22、26の各不動産は相手方Hの取得とする。
(3) 同目録中の7の不動産は相手方Fの取得とする。
(4) 同目録中の2、6、11、31の各不動産は相手方Gの取得とする。
(5) 同目録中の3、14、21、23の各不動産は相手方Iの取得とする。
(6) 同目録中の15、16、20の各不動産は相手方Jの取得とする。
(7) 同目録中の17の不動産は相手方Iと同Jの共有取得とし、その持分は同I一〇〇分の四二、同J一〇〇分の五八とする。
(8) 同目録中の25の不動産は申立人らとHの共有取得とし、その持分は申立人ら各三〇〇分の六五、H一〇〇分の三五とする。
2 申立人らは、上記の遺産取得の代償として、本審判確定の日から三か月以内に、連帯して、相手方Kに対し金四五二五万五一八八円、相手方Fに対し金三〇九七万一八二八円、相手方Gに対し金一三四万五八四七円、Jに対し金一六万六五八三円を支払え。
3 相手方Hは、申立人らに対し、上記遺産取得の代償として、本審判確定の日から三か月以内に、金一二二万九七九二円を支払え。
4 相手方Iは、申立人らに対し、上記遺産取得の代償として、本審判確定の日から3か月以内に、金一二三万九〇三四円を支払え。
5 相手方K、同H、同F、同I、同Jは、上記遺産取得の代償として、本審判確定の日から三か月以内に、相手方Gに対し、それぞれ金四〇万六四六四円を支払え。
6 乙事件申立てを却下する。
7 手続費用は各自の負担とする。
理由
(本件申立ての要旨)
1 甲事件
被相続人Xの相続財産の遺産分割につき名古屋家庭裁判所豊橋支部昭和五九年(家)第五五六号遺産分割申立事件の審判が確定したが、その後、名古屋高等裁判所平成七年(ネ)第四九一号所有権確認等請求控訴事件において、前記審判で被相続人の遺産とされていた別紙第1物件目録記載4、9の各不動産は遺産ではないことを確認する旨の判決がなされ、同判決は確定し、遺産の範囲に変動が生じたので、改めて遺産分割を求める、というのである。
2 乙事件
申立人らの父亡Yは被相続人の子であるが、同人は被相続人の遺産の維持、形成に貢献し、その寄与分は二五パーセントを下ることはなく、また、別紙第2物件目録記載の不動産を特別受益分として持ち戻す場合には、この不動産についても寄与分が考慮されるべきであるとして、それぞれの不動産について右勘次の寄与分を定めることを求める、というものである。
(当裁判所の判断)
1 甲事件
(一) 記録及び事実の調査によれば、次の事実が認められる。
(1) 被相続人Xは昭和五四年五月一七日死亡したが、その相続人はY及び相手方全員であった。平成二年六月二八日、Yは死亡し、その子である申立人らがその地位を相続した。
(2) 昭和六二年二月ないし三月、名古屋家庭裁判所豊橋支部昭和五九年(家)第五五六号遺産分割申立事件(以下「前件」という。)の審判において、被相続人Xの遺産をY及び相手方ら各相続人に左記のとおり分割する旨の審判がなされた。
記
① 被相続人Xの遺産を次のとおり分割する。
ア 別紙第1物件目録中の1、5、8、9、10、12、13、18、19、24、27、28、29、30の各不動産はYの取得とする。
イ 同目録中の22、26の各不動産は相手方Hの取得とする。
ウ 同目録中の7の不動産は相手方Fの取得とする。
エ 同目録中の2、4、6、11、31の各不動産は相手方Gの取得とする。
オ 同目録中の3、14、21、23の各不動産は相手方Iの取得とする。
カ 同目録中の15、16、20の各不動産は相手方Jの取得とする。
キ 同目録中の17の不動産は相手方Iと同Jの共有取得とし、その持分は同I一〇〇分の四二、同J一〇〇分の五八とする。
ク 同目録中の25の不動産はYと相手方Hの共有取得とし、その持分はY一〇〇分の六五、H一〇〇分の三五とする。
② 上記の不動産取得の代償として、Yは、Iに対し金五九六一円、Gに対し金二一八万四三七八円、Jに対し金一四一万一五七八円、Hに対し金一万五二〇三円、Fに対し金三二二一万六八二三円、Kに対し金四六五〇万〇一八三円を支払え。
(3) 右審判は即時抗告却下により平成元年九月一一日に確定した。
(4) その後、名古屋高等裁判所平成七年(ネ)第四九一号所有権確認等請求控訴事件において、前件審判で被相続人の遺産とされていた別紙第1物件目録中の4、9の各不動産(以下、それぞれの不動産につき、単に、物件4、物件9と呼称する。)は遺産ではないことを確認する旨の判決(以下「民訴判決」という。)がなされ、同判決は上告棄却により平成八年一〇月二九日確定した。
以上の事実が認められる。
(二) ところで、前になされた遺産分割において、その対象となった物件の一部が、その後の民事訴訟の判決によって遺産でないとされたとき(とくに、その遺産でないとされた物件の数、価額が遺産全体からみて僅かと評価できる場合)には、前の遺産分割はその限度で効力を失う、すなわち、当該物件についての遺産分割の効力のみが否定され、その余の遺産分割の効力は有効と解するのが相当である。
もっとも、遺産分割に当たって代償分割(家事審判規則一〇九条)の方法が採られている場合には、遺産の一部が非遺産とされれば代償金額算定の基礎に変更が生じることになるから、右代償金額を定めた部分も失効すると解される。そうすると、代償金額を新たに調整するため再度の遺産分割審判を行う必要が生じるが、その場合には、前件審判で定められた現物分割(非遺産を遺産として配分した部分を除く。)、事実関係(遺産評価額を含む。)、代償金算定方法を前提とし、代償金額の修正も、民法九一一条、民法五六三条一項(追奪担保責任)の規定の趣旨に従って、非遺産とされた物件の価額を相続人の具体的相続分の割合に応じて各相続人に負担させることとして処理するのが当事者間の公平に資し、最も妥当と言うべきである。
(三) これを本件に当てはめてみると、民訴判決により物件4、9は遺産に属さないこととされたので、これらを遺産としてGやYに配分した部分は失効し、また、代償金額を定めた部分も失効することになり、新たにこれを調整する必要が生じるが、右非遺産とされた物件は遺産の一部であり、また、物件の数、額は遺産全体からみて僅少である(三一個の価額合計三億八二一六万五五六三円のうち、二個の価額合計一三四二万五一八〇円)ことを考慮すると、新たな調整のための再度の遺産分割審判においては、前件遺産分割のうち、物件4を相手方Gに物件9をYにそれぞれ取得させることとした部分を除くその余の遺産の帰属関係は有効として扱うべきこととなり、また、代償金額についても、前件審判で定められた事実関係(遺産評価額を含む。)、算定方法を前提として追奪担保責任の趣旨に則って修正すべきこととなる。
(四) そこで、これを前提として、まず、被相続人Xの遺産の配分を定めると、具体的には次のとおりとなる(物件4、9を除いて前件審判と同様である。なお、申立人らは、Yの相続人として、法定相続分の割合(各三分の一)に応じて、Yの遺産を取得するものとする。)。
(1) 別紙第1物件目録中の1、5、8、10、12、13、18、19、24、27、28、29、30の各不動産は申立人らの共有取得とし、その持分は各三分の一とする。
(2) 同目録中の22、26の各不動産は相手方Hの取得とする。
(3) 同目録中の7の不動産は相手方Fの取得とする。
(4) 同目録中の2、6、11、31の各不動産は相手方Gの取得とする。
(5) 同目録中の3、14、21、23の各不動産は相手方Iの取得とする。
(6) 同目録中の15、16、20の各不動産は相手方Jの取得とする。
(7) 同目録中の17の不動産は相手方Iと同Jの共有取得とし、その持分は同I一〇〇分の四二、同J一〇〇分の五八とする。
(8) 同目録中の25の不動産は申立人らとHの共有取得とし、その持分は申立人ら各三〇〇分の六五、H一〇〇分の三五とする。
(五) 次に、各相続人について、遺産取得の代償金額を具体的に算定してみると、次のようになる。
(1) 非遺産とされた別紙第1物件目録記載4、9の各不動産の価額相当分を、民法九一一条、民法五六三条一項(追奪担保責任)の趣旨に則り具体的相続分の比率に応じて各相続人が負担すべきこととなるが、遺産の範囲に変更が生じたため、具体的相続分の比率も変化するので、以下、これを算定する。
① 別紙第一物件目録記載の各不動産のうち、4、9の不動産を除いた各不動産(以下「修正後の相続財産」という。)の本件相続開始時における価額の合計は1億八一七〇万四二四九円である。
② そこで、本件相続開始時における修正後の相続財産の価額一億八一七〇万四二四九円からYの寄与分として修正後の相続財産の二五パーセントにあたる四五四二万六〇六二円を控除すると、残りは一億三六二七万八一八七円となる。これに修正後の相続財産に持ち戻すべきYの特別受益の本件相続開始時における価額六四八八万八一九七円を加えると二億〇一一六万六三八四円となり、これが「修正後のみなし相続財産の価額」である。
③ そこで、修正後のみなし相続財産の価額に基づき、各相続人の具体的相続分を算出すると、次のとおりである(なお、前件審判において、相手方D及び同Eはそれぞれ自己の相続分九分の一をYに譲渡しているので、これを前提として各相続人の具体的相続分を計算する。)。
ア 相手方K、同H、同F、同G、同I、同J
各二二三五万一八二〇円
{201,166,384円×(9分の1)≒22,351,820}
イ Y
四七五九万三三二五円
{201,166,384円×(9分の1)+45,426,062円−64,888,197円≒2,889,685円
2,889,685円+22,351,820円+22,351,820円≒47,593,325円}
ウ 相手方D、同E
なし
④ したがって、具体的相続分の比率を計算すると、次のようになる。
ア 相手方K、同H、同F、同G、同I、同J
0.123012093
(22,351,820円÷181,704,249円)
イ Y
0.261927419
(47,593,325円÷181,704,249円)
ウ 相手方D、同E
なし
(2) 以上の具体的相続分の比率をもとに、非遺産とされた各物件の価額の各相続人の負担額を算定すると、次のとおりとなる。
① 別紙第1物件目録記載4の不動産(前件審判分割時の価額三三〇万四二六〇円)につき
ア 相手方K、同H、同F、同G、同I、同J
各四〇万六四六四円
(3,304,260円×0.123012093)
イ Y
八六万五四七六円
(3,304,260円×0.261927419)
ウ 相手方D、同E
なし
② 同目録9の不動産(前件審判分割時の価額一〇一二万〇九二〇円)につき
ア 相手方K、同H、同F、同G、同I、同J
各一二四万四九九五円
(10,120,920円×0.123012093)
イ Y
二六五万〇九五〇円
(10,120,920円×0.261927419)
(なお、調整のため四円を加える)
ウ 相手方D、同E
なし
(3) 以上をもとに、各相続人の代償金額を算定すると、次のとおりとなる。
① 相手方K
前件審判において、同人は、Yから代償金四六五〇万〇一八三円を取得することになっていたが、物件9の負担金一二四万四九九五円をその取得者であった同人に支払うべきこととなるので、結局、その差額四五二五万五一八八円を代償金として同人から取得すべきこととなる。
また、Gに対し、物件4の負担金四〇万六四六四円を支払うべきこととなる。
② 相手方H
前件審判において、同人は、Yから代償金一万五二〇三円を取得することになっていたが、物件9の負担金一二四万四九九五円をその取得者であった同人に支払うべきこととなるので、結局、その差額一二二万九七九二円を代償金として同人に支払うべきこととなる。
また、Gに対し、物件4の負担金四〇万六四六四円を支払うべきこととなる。
③ 相手方F
前件審判において、同人は、Yから代償金三二二一万六八二三円を取得することになっていたが、物件9の負担金一二四万四九九五円をその取得者であった同人に支払うべきこととなるので、結局、その差額三〇九七万一八二八円を代償金として同人から取得すべきこととなる。
また、Gに対し、物件4の負担金四〇万六四六四円を支払うべきこととなる。
④ 相手方G
前件審判において、同人は、Yから代償金二一八万四三七八円を取得することになっていたが、さらに、物件4の負担金として四〇万六四六四円を同人から取得し、他方、物件9の負担金一二四万四九九五円をその取得者であった同人に支払うべきこととなるので、結局、その差額一三四万五八四七円を代償金として同人から取得すべきこととなる。
また、相手方K、同H、同F、同I、同Jから各四〇万六四六四円を代償金として取得することとなる。
⑤ 相手方I
前件審判において、同人は、Yから代償金五九六一円を取得することになっていたが、物件9の負担金一二四万四九九五円をその取得者であった同人に支払うべきこととなるので、結局、その差額一二三万九〇三四円を代償金として同人に支払うべきこととなる。
また、Gに対し、物件4の負担金四〇万六四六四円を支払うべきこととなる。
⑥ 相手方J
前件審判において、同人は、Yから代償金一四一万一五七八円を取得することになっていたが、物件9の負担金一二四万四九九五円をその取得者であった同人に支払うべきこととなるので、結局、その差額一六万六五八三円を代償金として同人から取得すべきこととなる。
また、Gに対し、物件4の負担金四〇万六四六四円を支払うべきこととなる。
⑦ Y
以上の①ないし⑥に基づき、同人は、相手方Kに対し代償金四五二五万五一八八円を、同Fに対し代償金三〇九七万一八二八円を、同Gに対し代償金一三四万五八四七円を、同Jに対し代償金一六万六五八三円をそれぞれ支払うべきこととなり、同Hから代償金一二二万九七九二円を、同Iから代償金一二三万九〇三四円をそれぞれ取得することとなる。
なお、Yは既に死亡し、その地位を申立人らが相続しているので、Yの代償金に関する債権債務については、申立人らの連帯債権、連帯債務とするのが相当である。
⑧ 相手方D、同E
同人らは、いずれも同人らの相続分をYに譲渡しているため、同人らの取得分はYが取得し、同人らの取得分はいずれも零であるから、遺産の範囲の変更があっても、これが右の取得分に影響を与えることはない。
2 乙事件
寄与分を定める処分に関する規定(民法九〇四条の二、家事審判法九条一項乙類九号の二、同規則一〇三条の二等)は、昭和五五年一二月三一日までに開始した相続については適用されないところ(昭和五五年法律第五一号附則二項参照)、本件の被相続人Xの相続は昭和五四年五月一七日に開始したものであるから、右規定の適用はなく、したがって、本件寄与分を定める処分の申立ては法律上の根拠を有しない不適法なものというべきである。したがって、右申立ては却下されるべきである。
3 手続費用は各自の負担とするのが相当である。
4 よって、主文のとおり審判する。
別紙第一、第二物件目録<省略>