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名古屋簡易裁判所 平成13年(ハ)2332号 判決 2002年4月26日

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告は,原告に対し,金47万9970円及び内金47万0416円に対する平成13年3月27日から完済まで年26.28パーセントの割合による金員を支払え。

第2事案の概要

1  請求原因の要旨

原告と被告間の平成11年11月24日付けAカード(以下「本件カード」という。)会員契約(以下「本件カード契約」という。)に基づき,原告が,被告に対し,同年12月9日から平成13年2月26日までの間8回にわたり貸し付けた合計金53万円の残元金47万0416円及び平成13年3月26日までの確定遅延損害金9554円並びに残元金に対する同年3月27日から完済まで年26.28パーセントの割合による遅延損害金の請求(利息制限法の範囲内で再計算)

2  争点

・※  本件カード契約の成否

・※  本件カード契約に基づいて発行された本件カードの利用に関して,被告が責任を負うか否か。

第3当裁判所の判断

1  争いのない事実及び証拠によれば,次の事実が認められる。

・※  被告は,三重県四日市市にある販売店訴外甲から自動車(BMW,年式90年)を購入する際に,原告との間で,平成11年11月2日付けオートローン契約(以下「本件オートローン契約」という。)を締結し,オートローン契約書兼ローンカード(Aカード),プロパーカードB会員申込書(甲1,以下「本件申込書」という。)を作成した。

本件申込書中には,「カードご入会のお申込み」と題する欄が併せて設けられており,キャッシング専用の本件カードと,プロパーカードB(マスターカード)(以下「カードB」という。)の2種類のカードの申込みができるようになっていたところ,被告は,JAFのような車に関するサービスが受けられるという前記販売店の説明を受けてカードBの申込みをする気持ちになったが,本件申込書にはその旨の記入はしなかった。

・※  原告の営業店である四日市支店の担当者は,被告に対して本件オートローン契約の電話確認を行った際,被告のカードBの入会意思並びに暗証番号を確認し,被告の入会応諾の回答を得て,本件申込書の「カードご入会のお申込み」欄の「1 下記のカードを申込みします,・※プロパーカードB」の双方に○印を付し,被告の申し出た暗証番号を記載した。

また,その際,本件カードについても後日入会の案内書を送付する旨の説明をし,被告の了解を得たものとして,「カードご入会のお申込み」欄の「・※ローンカード(Aカード)」に○印を付け,与信審査を原告の伏見店に依頼した。

被告は,この説明の際,申込みをする意思のあったカードBのカードと本件カードとの識別が十分でなく,具体的にどのようなやりとりがあったのか明確な記憶がない。

・※  前記四日市支店は,本件オートローン契約に関する審査をして同契約に基づく立替払いを実行し,カードBに関しても与信審査を行った上で,同カードを平成11年11月9日に配達記録郵便で被告に送付した。

・※  前記四日市支店から本件カードの与信審査を依頼された原告の伏見店は,被告に対する本件カード発行を可として,被告に対し,平成11年11月8日「Aカードご入会受付のご案内」を送付した。

この案内書は,「Aカード発行停止依頼書」が切取線を付けて一体となっており,入会しない場合には,同依頼書を同封の返信用封筒で一週間以内に返送することとされていた(甲3)。

被告は,この案内書を受け取って中を見たが,キャッシングと書いてあり,必要がないと思ってすぐ破棄して捨てたので,Aカード発行停止依頼書は送付しなかった。

・※  原告の伏見店は,「Aカードご入会受付のご案内」の送付後,2週間を経過しても「Aカード発行停止依頼書」の返送がなかったため,被告に対し,平成11年11月29日名古屋市天白区の天白郵便局から配達記録郵便で本件カードを送付した。本件カード利用の際に必要となる暗証番号は,カードBで被告が申し出たものと同一の番号とされている。

・※  被告は,本件オートローン契約について,平成11年11月から平成12年10月まで全12回分の分割支払いを完了した。また,カードBのカードは,郵便によって被告方に到達し,不在連絡票により被告本人が郵便局窓口で受領し,被告自身が使用した事実も認められる。

・※  本件カードは,第2,1,請求原因の要旨記載のとおり使用されたが,被告が本件カードを受領し,その保管管理下に置いた事実を認めるに足りる証拠はない。被告は,日頃もっぱらキャッシュカードを使用して,引き落とし口座のある第一勧業銀行栄町支店の通帳の入出金の記載を全くしておらず,カードBのカードによる商品の購入代金等の引き落としがないときでも預金通帳の残高が減っていることに気付き,時期ははっきりしないものの原告に対して余分に引き落とされていないか照会したことがある。

3  争点・※について

・※  本件カード契約は,本件オートローン契約及びカードBとのいわゆるセット申込みの形態で,本件申込書(甲1)の中に併せて記載することとされているが,三者それぞれ利用の目的,条件,カードの発行,使用,入会審査等の態様を別異にしており,独自性を失って一体となっているものとはいえない。したがって,本件オートローン契約及びカードBの会員契約が各有効に成立していることに関して当事者間に争いがないとしても,本件カード契約の成否は別個に考察する必要がある。

・※  原告の営業店である四日市支店から被告に対する電話確認の際に(第3,1,・※),被告から本件カード契約の申込みがあったと認めるに足りる事実はない。また,原告伏見店からの「Aカードご入会受付のご案内」(甲3)においても,本件カードには入会しない旨の「Aカード発行停止依頼書」の送付による入会意思の確認を求めているが,これは,本件の場合には,既になされた申込みの単なる確認ではなく,契約締結における申込みの誘引にあたると解すべきであり,「Aカード発行停止依頼書」の返送がない事実をもって被告からの申込みがあったとする擬制を有効と認めることは合理的な根拠がないというべきである。

・※  本件カード契約は,被告が,「Aカード発行停止依頼書」を期限内に返送しなかった事実のみによっては有効に成立したと認めることはできない。

4  争点・※について

・※  前述のとおり,本件カード契約が有効に成立していない場合でも,本件カードが被告に郵送された後,被告がそれを受領して自ら使用した事実が認められれば,追認行為があるとして本件カード契約が成立する余地があるので検討する。

・※  本件カードは,第3,1,・※のとおり,被告に対して配達記録郵便で発送されており,配達不能で返送された事実は認められず,かえって,何者かによって本件カードが使用されている事実が認められるが,被告は,本件カード受領の事実を否認して,一度も見たことがないとしており,被告が,本件カードを現実に受領して使用したと積極的に認めるに足りる事実は認められない。

・※  平成12年1月から平成13年1月までの期間にわたって被告の銀行口座から返済金が引き落とされている事実並びに原告が被告に対し,毎月の口座引き落としの案内書面を送付している事実から,被告が本件カードの利用を了解していたと推認することは,第3,1,・※,・※,・※で述べた被告の各行動に照らすと消極とせざるを得ない。

原告からの支払い請求の連絡に応じて,平成13年3月26日に,被告自身が振り込みの方法で支払いをした事実があるが(甲7の1,2,甲11),被告が,カードBのカードの利用による支払いと本件カードの利用による支払いとを明確に区別し認識した上で支払いをしたものと認めるに足りる事実はない。

・※  本件カードが被告以外の者に渡るのは例外的な事態であるが,本件カードの使用に必要な暗証番号が一致していることも併せ考えると,被告の家族,同居人がカードを受領しながら被告に手渡していないことが考えられる。

本件カードの会員規約(甲8)第11条には,「カードを紛失,盗難,貸与,その他の事由により第三者に使用された場合でも,その損害は会員が負担する」旨の規定があるが,本件カード契約の成立が認められない以上,この規約の効力を前提として考えることはできない。仮にこの規約の適用がありうるとしても,前記条項は,会員がカードを現実に受領し,カードの保管義務が生じたことを最低不可欠の前提とするものというべく,その前提条件を満たす事実の認められない本件のような事例においては,その適用を肯定することはできない。原告が証拠として引用する東京高裁平成12年2月29日第10民事部判決(甲6)は,本件とは事案を異にするものである。

5  結論

以上3,4のところを総合すれば,原告の請求は理由がないので,主文のとおり判決する。

(裁判官 安田弘光)

<編注:『※』部分は原文のとおり。>

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