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名古屋簡易裁判所 平成17年(ハ)5442号 判決 2006年4月11日

主文

1  被告は,原告に対し,金19万2500円及びこれに対する平成17年7月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを3分し,その2を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。

4  この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

被告は,原告に対し,金75万6180円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

1  本件は,原告が被告に対し,下記2の交通事故(以下「本件事故」という。)の発生を理由に,民法715条により原告に生じたとする休車損を賠償請求する事案である。

2  争いのない事実

(1)  交通事故

① 発生日時平成14年3月5日午前4時50分頃

② 発生場所奈良県山辺郡C村DE番地のF先,名阪国道下りGキロポスト付近道路上(以下「本件事故現場」という。)

③ 第1車輌訴外A運転の被告所有の事業用普通貨物自動車(以下「被告車」という。)(登録番号岐阜○○○○○○○)

④ 第2車輌訴外B運転の原告所有の事業用大型貨物自動車(以下「原告車」という。)(登録番号名古屋△△△△△△△△)

⑤ 事故態様Bが原告車を運転し,本件事故現場付近の追越し車線上を走行中,A運転の被告車が走行車線から急に追越し車線に進路変更して原告車に接触した。

(2)  責任原因

Aは,被告車で進路変更するにあたり,追越し車線を走行中の原告車の速度又は方向を急に変更させるような進路変更禁止義務があるのにこれを怠り,原告車の進路上に進出して本件事故を生じさせた過失がある。

(3)  使用者責任

Aは,本件事故当時,被告の従業員で被告の事業の執行として被告車を運転していた。

(4)  過失相殺

AとBの過失割合は,Aが9割に対しBが1割である。

3  損害額

(1)  休車損金76万0200円

原告車の事故直前3ヶ月間(平成13年12月~平成14年2月まで稼働71日間)の税込み売上げ合計金449万7780円から,その期間中の売上高の2割に該当する諸経費89万9556円を控除した額359万8224円を稼働日数71日で除した1日当たりの収益金5万0680円について,修理期間中の原告車の休車日数15日を乗じた金額76万0200円。

(2)  弁護士費用金8万0000円

(3)  以上合計額から原告側の過失1割を控除した金額75万6180円。

4  争点

休車損の有無及び損害額

第3当裁判所の判断

1  争点について原告が運送会社で,原告車以外にも貨物自動車を相当数保有し,本件事故による原告車の修理期間中15営業日に原告車を使用できなかったことは当事者間に争いがない。

証拠(証拠中,甲8は甲4ないし6で読み替え。別紙のとおり。)及び弁論の全趣旨によれば,原告は本件事故当時,稼働可能な貨物自動車を36台保有し(甲6,8),そのうち中長距離用大型車は12台で,原告車と同じ14トン車は他には234/台しかなく,大型車の残り9台は13トン車1台と10トン車等8台であり(甲4),原告の月別売上粗利益(月間売上総額から高速代,燃料費,修理費の合計額を控除した額。以下同様。)は,全車輌合計で平成14年1月が1763万円(万以下切捨て。以下同様。),2月が2045万円,3月が2198万円,4月が2357万円であり,中長距離用大型車12台合計では,1月が919万円,2月が1118万円,3月が1200万円,4月が1217万円と,いずれも毎月売上実績が向上していたことが認められる(甲4ないし6,8)。

ところで,休車損が生ずるためには,当該車輌の使用必要性と代替車使用の困難性がその前提となるところ,原告が運送会社として搬送貨物の種類や用途に応じて,中長距離用大型車として原告車使用の必要性があったことは明らかで,他の大型車の稼働状況からも(甲4ないし6,8)当時,原告車に代わる代替車使用の困難性があったことは認めることができる。

被告は,原告の売上実績が事故当月も増加していることから,原告車が休車中も他の遊休車又は稼働車が原告車の稼働分を全て補完し,休車損害を生じさせなかったと主張するが,売上実績の増加が認められることだけで直ちに休車損が生じなかったとまでは認めることができず,3月は年度末の繁忙期でもあるから(原告車以外の大型車11台はいずれも前月より売上実績が増加している。甲4),原告車に休車損が生じていたとしても,他の車輌が本件事故とは関係なく,最大限に稼働して売上増加に寄与した可能性もあり,原告車が事故前3ヶ月間はほぼ恒常的に稼働していたこと(甲3),事故当月の売上実績は休車により前後の月に比較し落ち込んだこと(甲4)の外,原告のような規模の運送会社が,繁忙期に3台しかない14トン車の1台を半月間休車させても,事業に支障を来さないような車輌管理をしていたとは認められず(弁論の全趣旨),本件事故がなければ,原告車は休車期間中も稼働して一定の収益を上げ得たものと認められ,原告には休車損が生じたと認めるのが相当である。

しかしながら,休車損の額の算定は,車輌の売上総額から全稼働経費を控除すべきところ,全稼働経費には人件費を含み,人件費について証拠がない本件では休車損を証拠から算出できず,原告主張の甲7も,人件費の控除がないうえ,売上試算の44/諸経費が他の証拠(甲4ないし6,8)と整合性に欠け,その金額を認めることはできない。

本件では,証拠だけで具体的な休車損の額を算定することは困難であるが,休車損が生じたこと自体は認められるから,民訴法248条により本件証拠調べの結果及び弁論の全趣旨から{仮に,中長距離用大型車12台について,その1月から4月の総売上金額に対する人件費総額を5割と仮定し,その売上粗利益から人件費総額を控除し,1台当たりの1日(期間中の日祭日を除く稼働日数98日)の平均収益を試算すると,大型車12台平均では約1万2600円となる。},原告車の1日当たりの休車損は金1万3000円が相当と認められ,原告車の休車日数15日分は金19万5000円であるからその金額を休車損として認めることができる。

2  結論

以上によれば,原告の休車損は金19万5000円であるが,原告側の過失1割を控除した額は金17万5500円であり,本件損害と相当因果関係にある弁護士費用は金1万7000円が相当であるから,原告の請求は金19万2500円の限度で理由があり,その余は理由がないから棄却することとし,訴状送達の日の翌日が平成17年7月29日であることは記録上明らかであるから,主文のとおり判決する。

(裁判官 渡邊直紀)

(別紙省略)

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