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名古屋簡易裁判所 平成17年(ハ)8400号 判決 2007年2月27日

北海道函館市若松町2番5号

原告

株式会社ジャックス

同代表者代表取締役

●●●

同代理人支配人

●●●

同訴訟代理人

●●●

●●●

被告

●●●

同訴訟代理人弁護士

伊藤誠基

石坂俊雄

村田正人

福井正明

同訴訟復代理人弁護士

森一恵

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求の趣旨

被告は,原告に対し,98万0200円及びこれに対する平成17年9月27日から支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。

第2事案の概要

1  請求原因の要旨

本件は,被告が訴外株式会社大蔵書院(以下「訴外会社」という。)から絵画を購入する(以下「本件売買契約」という。)につき,原告が原告・被告間の平成16年11月2日付け立替払契約(以下「本件立替払契約」という。)に基づいて,その購入代金98万円及び手数料23万9904円を立替払いした立替金等の残額及びこれに対する平成17年9月27日から支払済みまでの年6パーセントの割合による遅延損害金の支払を請求する事案である。

2  争点

(1)  本件売買契約と被告・訴外株式会社スタジオ絵門(以下「絵門」という。)との間の出品展示契約(以下「出品展示契約」という。)の一体性の有無

(2)  本件売買契約における無効,取消,債務不履行解除及び同時履行の抗弁の成否

(3)  本件売買契約に対する特定商取引に関する法律(以下「特商法」という。)及び割賦販売法(以下「割販法」という。)の適用の有無

第3当事者の主張

1  争点(1)について

原告は,本件売買契約と出品展示契約は全く別個の契約であると主張するが,被告は,本件売買契約が訴外会社と被告との間で締結されたものであることは認めているものの,本件売買契約の売主である訴外会社と絵門は経済的に密接な関係を有しており,売主は実質的には絵門であると主張している。

2  争点(2)について

(1)  被告は,本件売買契約について,

① 被告の出品展示料と謝礼を得るためという動機に錯誤があり,絵門の担当者である●●●という女性(以下「●●●」という。)が被告の動機を了知していたことから,本件売買契約の錯誤による無効を

② ●●●の本件売買契約に関する勧誘行為は,被告が購入した絵画の出品展示料が得られることによって収益があげられるという,社会通念上成り立ち得ない内容のものであることから,公序良俗に反することによる無効を

③ 本件売買契約の目的物である絵画(以下「本件絵画」という。)が実在したか否か,本件絵画の作者とされるベンケリーという画家が実在したか否か及び展示会が実際に開催されたか否かも疑わしいにもかかわらず,ベンケリーという画家が作成した本件絵画が実在し,展示会が開催されたとの●●●からの説明を受けて,被告は,錯誤に陥った結果,契約を締結したものとして詐欺による取消を,さらに,●●●がその勧誘行為において,ローン返済に関する虚偽の告知等をしたことについて,特商法及び消費者契約法(以下「消費者法」という。)上の重要事項等の不実告知も認められることから,特商法及び消費者法の詐欺を理由とする取消を

④ 絵門が出品展示契約に基づく出品展示料の支払を怠った債務不履行を理由とする解除を

⑤ 本件売買契約の目的物である絵画の未受領を理由とする同時履行の抗弁を

それぞれ主張している。

(2)  これに対し,原告は,本件絵画の未受領の点については,一旦納品された後に被告の意思によって,絵門へ返却したものと主張するほか,これ以外の被告の主張に対しては,いずれも出品展示契約における主張であり,本件売買契約とは関係ないものと主張する。

3  争点(3)について

(1)  特商法の適用の有無

被告は,本件売買契約は,「電話勧誘販売」に該当し,本件売買契約の目的物である絵画は,特定商取引に関する法律施行令(以下「特商令」という。)別表第1の57号に規定する指定商品に該当し,申込及び契約にあたって交付された特商法18条所定の書面(以下「18条書面」という。),19条所定の書面(以下「19条書面」という。)の各記載事項に欠落ないし不備がある場合にあたるから,特商法24条1項1号の期間は経過しないので,同条1項に基づき,平成17年11月22日付け内容証明郵便により,訴外会社に対し,本件売買契約を解除する旨の通知をしたと主張する。これに対し,原告は,本件売買契約が「電話勧誘販売」に該当し,本件絵画が特商令別表第1の57号の指定商品に当たることについては明らかには争わず,本件売買契約は,商行為に該当し,特商法26条の適用除外契約に当たると主張している。

(2)  割販法の適用の有無

被告は,本件絵画は,割販法2条4項の指定商品であり,同法施行令(以下「割販令」という。)別表1の8号の「屋内装飾品」に該当するものとして,本件売買契約に対する割販法の適用を主張し,本件売買契約について主張した前記第3の2(1)記載の各事由及び訴外会社との間の特商法に基づく解除につき,割販法30条の4第1項の割賦購入あっせん関係販売業者に対して生じている事由に該当するとして,原告に対して,抗弁として主張しうると主張する。これに対し,原告は,本件売買契約に割販法が適用されるかについては明らかには争わないものの,いずれも出品展示契約における抗弁であり,これらの抗弁は,本件立替払契約に基づく立替払金を請求している原告に対しては主張し得ないものと主張し,さらに,原告は,転貸借目的で本件売買契約を締結していることから,本件売買契約は,一種の架空契約であって,消費者保護の要請は働かないので,絵画の種類等について書面の不備を主張することは信義則に反すると主張している。

第4当裁判所の判断

1  争点(1)について

被告は,訴外会社と絵門の関係は,訴外会社が絵画の販売元で,絵門が訴外会社から絵画を仕入れて顧客に販売する関係にあること及び被告が●●●から同様の説明を受けた上で,本件売買契約を締結していることが認められることから,訴外会社と絵門は実質的に同一であると主張するが,証拠(乙7,8)及び被告本人尋問の結果によれば,訴外会社が絵門に対し,「ベンケリー」作の絵画の仕入れ代金及び紹介されたフリーのセールスマンの歩合を支払っていたとの記載(乙8)が認められるものの,訴外会社が絵門と被告間の出品展示契約については全く知らなかった事実も認められることからすれば(被告本人),訴外会社と絵門との間に絵画の販売に関する委託関係もしくはそれに準ずる関係があったと認められるとしても,絵画の出品展示契約を含めた委託関係があったことまでを認めることはできない。他にこれを認めるに足りる証拠はない。本件売買契約の重要な要素である出品展示契約に関する,訴外会社と絵門との間における委託関係が認められない以上,訴外会社と絵門は実質的に同一であるとは認められず,被告の主張は理由がない。以上によれば,本件売買契約と出品展示契約は一体とは認められない。

2  争点(2)について

被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば,被告が上記第3の2(1)で主張する本件売買契約に対する①から⑤の各事由のうち②,③,④は,いずれも出品展示契約の締結に関して生じた事由であることが認められるが,出品展示契約と本件売買契約は,上記認定のとおり,一体の契約ではないことからすれば,それらの事由は,本件売買契約に対して主張しうる事由には当たらない。よって,被告の主張はいずれも理由がない。また,①の動機の錯誤については,確かに,被告は,●●●による本件絵画購入への動機付けによって,本件絵画を購入したと認められるが,被告自身が出品展示料と謝礼を得ることを本件売買契約の重要な要素として,売主である訴外会社に対して表示したと認めるに足りる証拠はなく,被告の錯誤無効の主張は理由がない。さらに,被告は,⑤の事由のとおり,本件絵画未受領による同時履行の抗弁を主張するが,証拠(乙6)及び被告本人尋問の結果によれば,平成16年11月4日,本件絵画は,●●●から被告宅へ一旦届いたが,被告は,その届いた本件絵画を●●●の指示のとおり,宅配便の中をあけることなく,被告自身で宅急便の伝票(乙6)を貼り替えた上で,●●●へ返送した事実が認められ,被告は,一度は自己の支配内に本件絵画を置くことによって,それを一旦受領したものと認めることができる。よって,被告の同時履行の抗弁は理由がない。

3  争点(3)について

(1)  本件売買契約に対する特商法適用の可否

被告本人尋問の結果によれば,●●●からの電話により被告に対して絵画購入の勧誘がなされたこと,被告からこれに対して申込がなされたことが認められ,本件売買契約の目的物である絵画は,特商法2条4項,特商令3条,同令別表第1の57号に規定する指定商品に該当することは明らかである。以上によれば,本件売買契約は,特商法2条3項の電話勧誘販売に該当するものといえる。よって,本件売買契約には特商法が適用されるとする被告の主張は理由がある。

(2)  被告の特商法24条1項1号に基づく解除の主張の可否

ア 本件売買契約は,特商法26条の適用除外契約に該当するか。

原告は,被告が本件のみならず他にも同種の出品展示契約を絵門との間で締結し,業として絵画賃貸業を営み,営業利益を得ようとしていたとして,特商法26条の適用除外理由に該当すると主張する。しかしながら,被告本人尋問の結果によれば,被告が出品展示料を得ることを目的として絵画を購入したことは認められるが,その購入件数は,本件を含めても合計3件であること,利益としては1件につき月額約7200円で,3件の合計が月額約2万1600円であることが認められる。この事実によれば,被告が特商法26条1項1号の「営業として」本件売買契約を締結したものと認めることはできない。よって,原告の主張は理由がない。

イ 18条書面,19条書面の各交付の有無

証拠(乙11)及び被告本人尋問の結果によれば,被告は,本件契約の申込に際し,電話勧誘者である●●●から「お申込みの内容兼カード会員申込書」(乙2号証)(以下「申込書」という。)を送付されて受け取っていることが認められるが,その申込書には,特商法18条3号の商品の引渡時期の記載はなく,特定商取引に関する法律施行規則(以下「省令」という。)17条2号の担当者名の記載及び同条3号の申込年月日の各記載(ただし,被告自身が申込書作成にあたって記入した。)もなかったことが認められる。さらに,商品名は「絵画」とのみ記載され,その記載は,省令17条4号の「商品名及び商品の商号または製造者名」の要件を満たしているものとは認められない。以上によれば,乙第2号証が被告に送付されたことによって,本件売買契約の内容が被告にとって明確になったものとは認められず,乙第2号証は,特商法18条所定の記載がなされた書面とは認められない。よって,乙第2号証の交付をもって,18条書面が交付されたものと認めることはできない。他に18条書面の交付を認めるに足りる証拠はない。また,19条書面の交付については,18条書面の交付が認められない以上,検討する余地はない。以上によれば,特商法24条1項1号の定める期間は経過していないものと認められ,乙第5号証によって認められる,被告の訴外会社に対する平成17年11月22日付け売買契約の解除通知は有効なものと認められる。

また,原告は,本件売買契約が転貸借目的であることから,被告には消費者保護の要請は働かないものとして,被告は,18条書面の不備を信義則上主張できないと主張するが,転貸借目的であることのみで,消費者保護の要請は働かないものとはいえず,原告の主張は理由がない。

ウ 以上によれば,被告の特商法24条1項に基づく本件売買契約の解除は理由がある。

(3)  割販法30条の4第1項に基づき抗弁の接続が認められるか。

ア 本件売買契約に対する割販法の適用の可否

割販法2条4項の指定商品とは「定型的な条件で販売するに適する商品」と定められており,一般購入者に同様の条件で販売されうる商品のことをいい,特別に注文生産される船舶等は除外される趣旨と解されているが,本件絵画は,被告の注文により作成されたものでないことは被告本人尋問の結果から明らかであり,一般購入者にも同様の条件で販売されうる商品であることから「定型的な条件で販売するに適する商品」に該当すると解すべきである。さらに,指定商品といえるためには,政令の定めに該当することが必要であるが,割販令1条,別表第1の8によれば,「屋内装飾品」は,指定商品に該当すると例示され,肖像画は,「屋内装飾品」に含まれるものと解されている。割販法が消費者保護の要請に基づいて制定された経緯から判断して,その例示規定を厳格に解すべき理由は認められないこと及び「屋内装飾品」の例示として肖像画があげられていることからすれば,絵画は「屋内装飾品」に該当すると解するのが相当である。以上によれば,本件売買契約には割販法が適用されるものと認められ,被告の主張は理由がある。

イ 割販法30条の4第1項の抗弁事由は,購入者が販売業者に対し,売買代金の債務の履行に関し対抗しうる事由の全てをいい,何らの制限はないものと解されている。よって,被告は,本件立替払契約上の抗弁として,本件売買契約の解除を原告に対して主張することができるものと認められる。

4  以上によれば,被告は,本件売買契約を解除し,同契約の解除を本件立替払契約上の抗弁として主張することによって,原告の本件立替払契約に基づく立替払金の請求を拒絶することができるものと認められる。

よって,原告の請求は理由がないものとして,その請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判官 舩橋和彦)

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