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名古屋簡易裁判所 平成18年(ハ)1785号 判決 2006年11月28日

主文

1  被告は,原告に対し,金5万4337円及び内金5万2500円に対する平成17年11月1日から支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを8分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告は,原告に対し,金42万7348円及び内金42万0000円に対する平成17年11月1日から支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。

第2事案の概要

1  本件は,原告が被告と税務顧問契約を締結したと主張し,8ヶ月分の顧問料等を請求したのに対し,被告が原告と契約を締結したことはないし,税務顧問業務は何もしてもらっていないと支払いを拒んだものである。

2  請求原因の要旨

(1)  原告は,被告との間で,平成17年2月2日,原告が被告の税務顧問としての業務を行い,被告が原告に対し,月額金5万2500円(税込み)の顧問料を毎月末日限り,当月分を支払う(但し,平成17年2月分は免除する。)との税務顧問契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

(2)  原告は,契約日から同年10月31日迄,被告の税務顧問業務を行った。

(3)  よって,原告は被告に対し,同年3月から10月迄の顧問料合計金42万0000円及び各月額顧問料の支払期日の翌日から平成17年10月31日迄の未払遅延損害金7348円並びに未払顧問料に対する同年11月1日からの商事法定利率による遅延損害金の支払いを求める。

3  被告の主張等(仮定抗弁等)

(1)  原告は,被告の税務顧問業務を何ら行っていない。

(2)  仮に,本件契約が締結されたとしても,平成17年3月中旬には顧問を断り,本件契約を解除した。

4  争点

本件契約の成否及び被告の支払義務の有無

第3当裁判所の判断

1  争いのない事実

被告が,平成17年1月頃,被告の顧問税理士の後任を探していたこと,被告代表者Aが,訴外Bの紹介により,同年2月2日,原告と面談したことは当事者間に争いがない。

2  証拠(但し,甲6,乙1,3の各記述の一部及びB証言,原告尋問結果中の認定事実に反する各部分をいずれも除く)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(1)  原告は,平成17年2月2日,訴外会社Cの会社事務所でAと面談し,口頭で被告の顧問税理士の後任として税務処理の依頼を受け,これを承諾した。その際,期間を定めず,顧問料は月額5万円として3月分から支払うこと等を取り決め,訴外会社Cの前年度決算資料や被告会社の会計書類等の交付を受けた後,Aから建築士免許を有する者が欲しいが心当たりはないか求められた。

(2)  原告は,Aの求めに応じ,同年2月上旬頃,建築士として訴外某を推挙し,その後,訴外某の被告取締役就任に伴う議事録を作成したことで,同年3月7日,訴外会社Cの代表者Dと面談し,被告から原告の事務所である株式会社E名義で報酬金2万7000円の支払いを受けたが,その頃,DからDやA個人の確定申告等の相談を受け,税控除資料等の不備やDの自宅兼事務所の税務処理等について指導したが,Dはその際の原告の指摘態度や応答姿勢等に不満や不信を抱いた。

(3)  原告は,同年3月10日頃,Dから被告会社等の会計書類の返却を強く求められ,返却方法等で一悶着した後,返却には応じることにしたものの,直ちには返却しなかったことから,同月14日頃になって再び,今度はAから原告に対し,確定申告で書類が至急必要だからと執拗に電話が入り,原告がそれらの電話に出なかったことでAが立腹し,同日夜の電話で原告を詰り口論の上,直ちに会計書類等一切を返却するよう求められたので,原告は同月16日になって同書類を返送した。

(4)  Aは,同年3月16日,返却を求めた会計書類等が返却されず,原告とは全く連絡が取れないことから,株式会社Eに架電し,応対者の原告の女性秘書及び専務と原告が称する氏名不詳某に対し,怒りを込めて確定申告に至急必要な領収書等が返却されないので,至急返却するよう強く求めると共に,原告は到底信頼できないから被告の顧問の話は断る旨伝えた。

(5)  その後原告は,同年6月頃になって,被告に3ヶ月分の税務顧問料を請求したところ,Aから電話で,原告には3月16日に株式会社Eへの電話で顧問の話を断ると伝えており,確定申告も別の税理士に処理してもらったと請求を拒まれたことから,その後,原被告間で紛争となった。

3  争点について

(1)  一般に税務顧問契約は,依頼者の個別具体的な会計事務について税理士業務の遂行自体をその基本要素とし,それに伴う助言や指導等は,本質的業務に付随するものに過ぎず,依頼者との個別信頼関係に基づき一般的な助言,指導等を基本要素とし,個別具体的な案件処理は,別途委任契約で行う弁護士顧問契約とは本質的に内容が異なる。本件契約では,締結に際し特段の事情も認められないことから,その契約内容は,税理士業務の遂行自体と認められ,助言や指導はその付随的業務とみるのが相当である。

(2)  前記認定事実によれば,原告は,被告との間で,本件契約を締結したとしても,その内容は被告の会計事務等についての税務士業務の遂行自体であり,契約締結後,一旦は被告の会計資料を委ねられた事実があるとしても,A個人の確定申告等も拒否され,同年3月10日頃からは,被告の会計書類の返却を執拗に求められて税理士業務の遂行はできなかった上,同月16日には,被告との信頼関係を喪失して本件契約解除を告知され,被告との関わりを断たれたことは明らかであるが,本件契約は原告にも税務労務の対価として報酬等の利益がある有償契約であるから,民法651条の適用はなく,期間の定めなき継続的契約の解除として,民法617条,627条の趣旨も斟酌し,事務処理等に必要な相当期間を経て終了するとみるのが相当であり,原告が,同月10日頃以降は被告の税務会計事務を何ら処理していないことも勘案し,同年3月末日をもって本件契約は終了したとみるのが相当である。

(3)  原告は,同年3月以降も被告の第4期決算の会計データ処理を遂行し,経営会計マガジンを送付したと主張し,同年4月8日処理日付けの帳簿プリント等を提出するが,当時かかる帳簿プリント等が被告に資料提供された証拠はない上,同帳簿プリント等(甲2,3)の内容は,被告の前年度第3期決算報告書(乙2)の期末の各数字等を転記して第4期決算報告書(甲2)としたに過ぎず,同年3月10日以降は,上記のとおり税理士業務の遂行は不可能であったと認められ,原告の経営会計マガジン第37号の送付も,それを認める証拠はないが,仮に送付されたとしても,それをもって税理士業務の遂行とは到底言えず,他に原告が被告の税理士業務を遂行したと認めるに足る仕事らしきものはない。

(4)  以上によれば,原告は平成17年3月10日以降は,被告の拒絶により被告の会計事務処理は勿論,税務相談すら何一つ行ったと認めるものはなく,税務顧問としての業務を何ら遂行していないことは明らかであり,上記のとおり同年3月末日には本件契約は終了したと認めるのが相当であるから,原告の本訴請求は,同年3月上旬頃迄の被告の税務相談等に関する同年3月分税務顧問料に限って認めるのが相当である。

4  結論

以上のとおり,原告には,平成17年3月分税務顧問料及び同金額に対する同年10月31日迄の遅延損害金の一部請求金1837円並びに同年11月1日から支払済みまでの遅延損害金を請求する限度で理由があり,その余は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判官 渡邊直紀)

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