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名古屋簡易裁判所 平成18年(ハ)9564号 判決 2007年6月28日

京都市下京区烏丸通五条上る高砂町381-1

(送達先 名古屋市中村区名駅二丁目45番14号 日石名駅ビル4階)

原告

株式会社シティズ

同代表者代表取締役

●●●

同訴訟代理人

●●●

●●●

被告

●●●

同訴訟代理人弁護士

小野万里子

主文

1  被告は,原告に対し,35万3655円及び内35万0344円に対する平成18年8月26日から支払済みまで年21.9パーセントの割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は,これを5分して,その1を原告の,その余を被告の各負担とする。

4  この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

原告の被告に対する44万7258円及びこれに対する平成18年8月2日から支払済みまで年21.9パーセントの割合による金員の支払請求及び第1項につき仮執行宣言

第2事案の概要

1  本件は,平成16年8月25日に原告が●●●(以下●●●という。)との間で締結した金銭消費貸契約の●●●の債務について,同日,被告が原告に対し連帯保証したところ,●●●が元利金の支払を怠り,期限の利益を喪失したとして,原告が被告に対し,残元金及び附帯請求として請求の趣旨記載の金員の支払を求めたものである。

2  争いのない事実等(被告が明らかに争わない事実,公知の事実,裁判所に顕著な事実並びに証拠及び弁論の全趣旨から認められる事実を含む。)

(1)  原告と●●●は,平成16年8月25日,次の内容の金銭消費貸借契約(甲1 金銭消費貸借契約証書)を締結し,同日,原告は●●●に同金員を貸し渡した。

貸付金額 250万円

利息 年29.2パーセント(1年を365日として計算)

遅延損害金 年29.2パーセント(1年を365日として計算)

弁済期及び 平成16年9月から同19年8月まで毎月25日限り元

弁済方法 金6万9000円を経過利息とともに原告の本支店に持参又は送金して支払う。但し,最終支払元金8万5000円

特約 上記元利金の支払を怠ったときは,通知催告なくして期限の利益を失い債務全額及び残元本に対する遅延損害金を即時に支払う。

連帯保証人 被告

(2)  ●●●は,別紙1の元利金計算書のとおり平成17年5月25日,前記(1)の元利金の支払を怠り期限の利益を喪失した。

(3)  よって,請求の趣旨記載の金員の支払を求める。

3  主たる争点

平成17年5月25日の経過で期限の利益は喪失したか。

(原告の主張)

平成17年5月25日に約定の元利金の支払がなされなかったので,同日の経過により期限の利益を喪失した。

(被告の主張)

●●●は,平成17年5月25日に約定元利金の支払を怠った。しかし,その翌日には約定の元利金の支払をし,その後も14回にわたって支払を継続してきた。このうち,毎月25日又は翌営業日に支払がなされたものが6回,わずか1日遅れのものが2回,2日遅れが3回である。そして,原告はこれらの支払を受領するにあたり,特に期限の利益の喪失を主張したり,一括返済を求めたりするなどをしていない。

したがって,原告は期限の利益の喪失を宥恕したと見るのが相当である。

よって,平成17年5月25日の経過で期限の利益は喪失していない。

仮に期限の利益が喪失しているとしても,1日返済が遅れただけで遅延損害金を求めることは,権利の濫用にあたり,信義則に反し許されない。

第3当裁判所の判断

本件では,●●●の支払が弁済期に1日ないし8日遅れてはいるものの,約定金額に相当する金員の支払が平成17年5月25日を含めて15回にわたって継続してなされていることは当事者間に争いがない。そこで,問題は,弁済期を1日でも過ぎれば期限の利益を喪失することになるか否かである。

確かに,契約書上は,弁済期における元利金の支払を怠ると当然に期限の利益を喪失する旨記載されており,平成17年5月25日に●●●は元利金の支払をしなかったのであるから,これが期限の利益喪失事由にあたり,●●●の期限の利益は喪失しているように思われる。

しかしながら,借主の支払懈怠が数日にとどまり,支払日から数日後には約定金額の支払が継続されている場合は,貸主が一括弁済を求めるなど借主に対する信用供与を打ち切ったと認められる特段の事情がない限り,期限の利益の喪失を宥恕したものと解すべきである。なぜならば,期限の利益の喪失の有無は借主に対する信用供与を打ち切り,貸付にかかる残額の一括弁済義務と残元金に対する遅延損害金を生じさせるという借主に不利益な効果をもたらすものであるところ,借主はかかる不利益な効果を回避するために元利金の支払を継続しているものであって,このような借主の立場には相応の配慮をするのが相当であるし,また,弁済期に元利金の支払ができないことは借主の信用不安の兆候を示すものではあるものの,わずか数日後には元利金の支払がある場合には貸主にとって直ちに重大な不利益が生ずるとまではいえない上,借主との取引を従来のまま継続するか打ち切るかは最大限の債権回収を図るという観点から取られる貸主側の経営判断を待つべきものであるから,このように支払が継続されている場合には直ちに貸主に借主に対する信用供与を打ち切る意思があると推断することもできないからである。

本件において,別紙1のとおり平成17年5月26日に原告が元利金の支払をし,その後同18年8月2日まで同様の支払を続け,原告が被告からそれらの金員をそれぞれ受領したことに争いはなく,また,それらの支払額も約定の金額を上回るものである上,証拠及び弁論の全趣旨によれば,平成17年5月25日を含めてその後同18年8月25日までの間に原告が被告に対して残額の一括返済を請求するなど原告に対する信用供与を打ち切ったと認められる特段の事情も認められない。なお,証拠(甲12,13)によれば,原告が受領した金員が利息から損害金に変更されていることは認められるが,もともと契約上は利息と損害金が同率で算出されることになっているものであって,その表示の変更の持つ意味を●●●が十分認識していたことが窺われないことも考慮すれば,単にこのような表示の変更をもって●●●に対する信用供与を打ち切ったとする特段の事情にあたるということはできない。

したがって,原告の期限の利益喪失の主張が信義則上権利の濫用にあたるか否かを論ずるまでもなく,平成17年5月25日の経過によって原告の期限の利益が喪失したとはいえない。

3 もっとも,●●●は,支払うべき残金が存するのに平成18年8月2日を最後に原告に一切支払をしていないのであるから,このような者に対してまで配慮を及ぼすことは相当ではない上,原告が期限の利益の喪失を宥恕するとも考えられないから,その後最初に到来する弁済期である同月25日の経過で期限の利益は喪失したというべきであり,かかる場合には期限の利益の喪失を主張してもそれが信義則上権利の濫用になるともいえない。

第4結論

以上の事実によれば,平成18年8月25日の経過で期限の利益が喪失したとして請求する限度で原告の請求は理由があり,以上を前提に引き直し計算をすると別紙2のとおりとなる。なお,仮執行の宣言については,民事訴訟法259条1項を適用する。

したがって,主文のとおり判決する。

(裁判官 髙木弘太郎)

<以下省略>

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