名古屋高等裁判所 事件番号不詳〔2〕 判決
主文
本件控訴は之を棄却する。
理由
被告人両名の弁護人野村熊太郞提出の控訴趣意書の趣旨は
第一、被告人両名は公訴事実を認め深くその犯行を後悔しているのですから原判決の事実認定に対しては別に申述べることはありませぬが左の諸点を御考察願いたいのです
第二、被告人両名には前科が無く又惡評があつたのでも無く本件犯行も結婚祝に招かれて酩酊の上偶発的に行われたように見受けられますので被告人の友人等が被害の弁償に協力してくれたのですが、被害金額の見積が被告人の考えていたのより甚だ過大であつたから金策に困り原判決言渡の日までには一部の弁償を爲し得たに止まつたのです(橋本輝夫に弁償した金五万円に付ては原審にそのことの書面を提出してあります)大体朝鮮人には所謂酒に呑まれる連中が甚だ多いようですが被告人両名も窃盜の後煩悶したようでありますが結局盜品を買却するより外に方法が無かつた訳でありまして必ずしも悪性を強く発動させたものと断ずる程のものでは無いと思われます。
第三、前項の如く被害弁償が不十分なことから被告人両名は原審で所謂実刑の宣告を受けたのである事と思いますが保釈をたる橋本輝夫今井万藏の両名から宥兔を得たのであります(朝鮮人中には刑事々件が起ると應援の形で飲食其の他の冗費を被疑者又は被告人に負担させて窮境に陷らしめる者が少なくないようでありまして被告人両名も右の如き迷惑を蒙り弁償するのに大変苦労したようです)
第四、朝鮮民主青年同盟上野支部の委員長及び副委員長が別紙の如く被告人両名を監督して悪事をさせないから寛大な御裁判を仰ぐ旨を上申しています被告人両名の内、金致基には妻子があり本件犯行の妻子に及ぼした悲嘆を痛感しています。張運俊は病氣が未だ本復せぬので一人前の活動ができませぬが両名共に前記委員長副委員長の監督指導の下に当上野市に居住して更生の途を歩むことになつています。
当上野市方面で朝鮮人の犯行が婁々出現しますが京阪方面から出かけて來る所謂「流し」の連中が随分ひどい所業をやるようでありまして地元に定住する者には此の如き輩が甚だ少いようです被告人両名の如きはその所爲一應憎むべきものでありませうが又憫察を與えらるべき價値があると思うのであります。
以上の事情を御斟酌の上被告人両名に対し適当の期間刑の執行を猶予せられるよう御願い申すことが本件控訴の趣意でありますと謂ふにある。
依つて記録に基いて審按するに原審が被告人等に対し各懲役一年六月に処したのは相当であつて弁護人所論のように執行猶予の言渡を爲すべきものではないと認めるから結局原審判決は刑事訴訟法第三百八十一條に所謂量刑不当の場合に該当しないので本件控訴は理由なきものと認め同法第三百九十六條に從つて之を棄却する。
依つて主文の通り判決する。(昭和二十四年六月九日名古屋高等裁判所刑事第二部判決)