大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 平成元年(ネ)464号 判決 1990年4月25日

控訴人 株式会社 中京銀行

右代表者代表取締役 中野仁

右訴訟代理人弁護士 鈴木匡

同 大場民男

同 吉田徹

同 鈴木雅雄

同 中村貴之

被控訴人 濱地好子

被控訴人 小山近伺

右両名訴訟代理人弁護士 楠田堯爾

同 加藤知明

同 田中穰

主文

一、原判決主文一項及び三項を取り消す。

二、被控訴人濱地好子の各請求を棄却する。

三、被控訴人濱地好子、同小山近伺は各自控訴人に対し金九一七万円及びこれに対する昭和五九年一〇月二一日から支払済まで年一四パーセントの割合による金員を支払え。

四、被控訴人濱地好子は控訴人に対し金一五〇万円及びこれに対する昭和六〇年一月八日から支払済まで年一四パーセントの割合による金員を支払え。

五、訴訟費用(控訴人と被控訴人らの間において生じた費用)は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

六、この判決は三、四項につき仮に執行することができる。

事実

一、当事者の求めた裁判

(控訴人)

主文同旨

(被控訴人ら)

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

二、当事者の主張

当事者双方の主張は、次に付加するほか、原判決事実摘示(更正決定により更正されたもの)中、控訴人と被控訴人濱地好子に関する部分及び控訴人と被控訴人小山近伺に関する乙事件請求原因のうち1ないし4に関する部分のとおりであるから、これを引用する。

原判決四枚目裏七行目と同六枚目表一行目の各「原告濱地」の次に「の代理人神坂進」をそれぞれ加える。

同一六枚目裏二行目の「に対し」の次に「て負担する」を加える。

三、証拠<省略>

理由

一、証人吉田直忠、同渡辺義雄の各証言、乙第二号証(被控訴人濱地名義の控訴人宛昭和五九年五月一六日付金銭消費貸借契約証書)の存在によれば、控訴人は、昭和五九年五月神坂進より、被控訴人濱地を債務者として金一〇〇〇万円の融資を求められたことから、右神坂との合意に基づき同月一六日同被控訴人に金一〇〇〇万円を乙事件請求原因1項記載(原判決引用)の約定で貸付ける旨約し、同人からその旨の記載のある同被控訴人を債務者とする金銭消費貸借契約証書(乙第二号証)を受領し、同金員を右神坂に交付したことが認められる。

次に、成立に争いのない乙第三号証によれば、前記請求原因5項の事実が認められるところ、前記各証言、乙第四号証(被控訴人濱地名義の控訴人宛昭和五九年七月六日付保証書)の存在によれば、神坂進は、昭和五九年七月六日控訴人に対し、榮屋が控訴人に負担する一切の債務につき元本極度額を金一五〇万円として連帯保証する旨記載され、その連帯保証人欄に被控訴人濱地の名が記載され、同被控訴人の押印のある保証書(乙第四号証)を差し入れたことが認められ、成立に争いのない乙第五号証、前掲吉田直忠の証言によれば、控訴人は、同年一〇月五日榮屋に対し金一五〇万円を弁済期同六〇年一月七日と定めて貸付けたことが認められる。

なお、神坂進が控訴人に交付した前記金銭消費貸借契約証書及び保証書の被控訴人濱地の記名の右横に押捺されている印影が、いずれも、同被控訴人の登録済印鑑によって顕出されたものであることは当事者間に争いがない。

二、そこで、神坂進のなした前項認定の被控訴人濱地を債務者とする金一〇〇〇万円の借入れ、同被控訴人を連帯保証人とする保証書の差し入れが、同被控訴人から授与された代理権限に基づいてなされたものであるか否かにつき判断する。

成立に争いのない乙第一号証、第六号証、第一〇号証、第一一号証、書込部分以外の成立について争いのない甲第二号証の一、二、前掲吉田直忠、渡辺義雄の各証言、被控訴人濱地及び被告小山裕人の各本人尋問結果(但し、以上の各尋問結果については、後記信用しない部分を除く。)、乙第一二号証(債務者榮屋及び連帯保証人被控訴人濱地外三名名義の控訴人宛昭和五九年一〇月一日付金銭消費貸借契約証書)、前記乙第二号証、第四号証の各存在を総合すると、次の事実が認められる。

被控訴人濱地は、同近伺の妻の妹であるところ、昭和五八年七月ごろ同近伺の娘婿たる神坂進から喫茶店(カフェテラス・ベルビー新瑞店)経営を勧められ、自己名義でその経営を始めることとし、同人の紹介を得て控訴人から同店の開店資金の一部として金二五〇〇万円を借入れることとした。被控訴人濱地は、そのため、まず、同年八月二五日控訴人との間で、控訴人との取引に関する約定を定めた相互銀行取引約定を結ぶとともに、そのころ、控訴人との取引により控訴人に対し負担する総ての債務を担保するため、自己が名古屋市西区琵琶里町と同市南区中江町に所有する土地建物に控訴人を権利者とする担保権を設定し、同月二九日控訴人から前記金員を弁済期同六三年八月二〇日と定めて借受け、同五八年一〇月前記喫茶店を開業した。ところが、被控訴人濱地は、後記のとおり同五九年一一月榮屋が倒産し、神坂進が所在不明となる前ころまで、同人から毎月金二〇万円の報酬を受けるのみで、同店の経営を同人に任せ、控訴人との普通預金取引に関する通帳及び同取引に要する印鑑も同人に預託し、控訴人からの前記借入金の返済も総て同人に委ねていた。

そして、被控訴人濱地は、昭和五八年一二月一七日、神坂進の依頼に応じ、同人が被控訴人近伺、その子で神坂進の妻の兄にあたる小山裕人らの協力を得てデイスカウントショップ、喫茶店経営などを目的として同月一〇日設立した榮屋に融資を得させるため、控訴人から自己名義で金一〇〇〇万円を借受けた以外は、自ら控訴人と交渉をもつことはなかったが、同五九年五月以降神坂進の求めに応じて、用途を限定することなく、自ら保管する登録済印鑑を二度ほど貸与したことがあつたところ、同年一一月一九日榮屋が手形を不渡りとして倒産したことから、そのころ小山裕人とともに控訴人を訪れ、担当者より自己が控訴人に負担する債務の内容などにつき説明を受け、自己の知らない債務がある旨述べたものの、誠意をもってそれら債務を弁済する旨告げ、同六〇年一月一六日には金七八万六〇〇〇円を一部弁済として控訴人に支払うとともに、担当者から示された前記一項認定の保証書の記載内容を履行する旨約し、その連帯保証人欄に記載されている自己の氏名の右下に担当者の求めに応じて署名し、同年六月には自己の控訴人に対する債務のため担保提供していた名古屋市西区琵琶里町の土地建物を約金二三〇〇万円で任意売却した。そのころ、被控訴人濱地は、控訴人担当者から、控訴人においてその売却代金のうち金五〇〇万円を前記金二五〇〇万円の債務の一部に、金八七〇万円を前記金一〇〇〇万円の債務に、金六四〇万円を榮屋が同五九年一〇月一日控訴人から被控訴人濱地外三名を連帯保証人として借受けた金一〇〇〇万円の債務にそれぞれ充当する旨告げられたが、この充当方法について異議を述べなかった。更に、同六〇年六月には、控訴人担当者は、被控訴人濱地に対し、同五九年五月一六日被控訴人濱地において控訴人から借受けたものとされている前記一項記載の金一〇〇〇万円の債務と同年一〇月五日榮屋が控訴人から借受けた前記一項記載の金一五〇万円の債務(被控訴人濱地において同年七月六日控訴人に前記保証書を差し入れたとして連帯保証責任を負うものとされている債務)については、いずれも、愛知県信用保証協会の信用保証の下に実行された貸付であるから、同協会より代位弁済を受ける予定であり、控訴人がその弁済を受けた場合には、同協会より被控訴人濱地に対し求償権の行使がなされる旨の説明をし、同被控訴人はこれを了承した。

被控訴人濱地は、その後、昭和六〇年一二月まで控訴人に対し毎月残債務の一部弁済として金員を支払っていたが、その間の同年一〇月一五日兄の子である稲葉輝喜とともに控訴人を訪れ、改めて自己の控訴人に対する債務の説明を求め、同人に同債務を肩代わりさせるべく交渉したこともあった。

以上の事実が認められ、この認定に反する被控訴人濱地及び前掲小山裕人の各本人尋問の結果は、前掲吉田直忠、渡辺義雄の各証言に照らして、容易に信用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定事実に前記一項の認定事実を総合すると、被控訴人濱地は、昭和五九年一一月榮屋が倒産し、神坂進が所在不明となるころまで同人に相当程度の信頼を寄せ、同人の求めに応じて用途を限定することなく登録済印鑑を貸与したことがあったことは明らかであり、同人が所在不明となった後も、そのころまでに同人が被控訴人濱地を当事者として控訴人と交わした合意において、同被控訴人が履行すべきものとされた債務については、自らそれを履行する意思のあることを控訴人に表示していたものと認められるところである。これら事実に、更に前記一項認定事実及び前掲渡辺義雄の証言によって認められる事実、すなわち、榮屋の倒産後、控訴人担当者の事情聴取に応じた神坂進は、同聴取に対し、同人が被控訴人濱地を債務者として控訴人と結んだ金銭消費貸借、控訴人に差し入れた同被控訴人を連帯保証人とする保証書などは、総て同被控訴人の了解の下に行ったものである旨述べたとの事実を総合すると、神坂進は、同被控訴人から予め与えられていた代理権限に基づき、同五九年五月一六日同被控訴人のために控訴人から金一〇〇〇万円を前記請求原因1項記載の約定で借受け、また、同年七月六日控訴人に対し、同被控訴人において榮屋が控訴人に負担する総ての債務につき元本極度額を金一五〇万円として連帯保証する旨の前記保証書を差し入れたものと認定するのが相当である。

そして、弁論の全趣旨によれば、前記請求原因3項の事実が認められる。

三、控訴人と被控訴人近伺との間では、同被控訴人が昭和五九年五月一六日控訴人に対し、被控訴人濱地が控訴人に対して負担する前記請求原因1項記載の債務につき連帯保証する旨約したことは争いがない。

四、以上の判示に照らすと、被控訴人濱地は、控訴人に対し原判決別紙債務目録記載の各債務を履行すべき義務を負担していることは明らかであり、また、被控訴人近伺においても、同目録一記載の債務の連帯保証債務を履行すべき義務があるものというべきである。

よって、被控訴人濱地の各請求を認容し、控訴人の同被控訴人に対する各請求及び被控訴人近伺に対する請求中前記請求原因1ないし4項に関する請求を棄却した原判決主文一項、三項は相当でないから、これらを取り消し、被控訴人濱地の各請求を棄却し、同被控訴人に対し原判決別紙債務目録記載の各債務の、被控訴人近伺に対し同目録一記載の債務についての同被控訴人の連帯保証債務の各履行を命ずることとし、同主文四項中の控訴人と被控訴人らに関する部分についても、民訴法九六条、八九条、九三条に従って本判決主文五項のとおり変更し、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤滋夫 裁判官 宮本増 谷口伸夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例