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名古屋高等裁判所 平成10年(行コ)8号 判決 1999年4月20日

名古屋市中村区栄生町一四番九号

控訴人

小出商会こと小出精一郎

右訴訟代理人弁護士

北村利弥

戸田喬康

榎本修

杉浦宇子

名古屋市中川区尾頭橋一丁目七番一九号

被控訴人

名古屋中村税務署長事務承継者名古屋中川税務署長 鳥居陽

右指定代理人

池田信彦

堀悟

栗田博氏

相良修

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び事由

第一控訴の趣旨

一 原判決を取り消す。

二 被控訴人が平成七年三月八日付けでした控訴人の平成三年分所得税の更正のうち、総所得金額八四五五万七〇八八円、税額三七四〇万〇八〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

三 被控訴人が平成七年三月八日付けでした控訴人の平成四年分所得税の更正のうち、総所得金額四七四六万六五二六円、税額一八八三万一七〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

四 被控訴人が平成七年三月八日付けでした控訴人の平成五年分所得税の更正のうち、総所得金額三七八九万八九〇二円、税額一四〇二万〇八〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

五 訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

第二事案の概要

本件事案の概要は、次のとおり付加・訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の「第二 事案の概要」に摘示されたところと同一であるから、これを引用する。

1 原判決七頁四行目の「譲渡所得」を「事業所得」と改める。

2 同一八頁七行目の「被告は、」の次に「三、四年おきに控訴人の所得調査を実施したが、右申告の内容を否認したり、修正の指導をしたことはなく、」を加え、同一〇行目から一一行目にかけての「それを認めて更正した」を「右のとおり譲渡取得とすることは認め、他に申告漏れの所得があったのでそれを追加する内容の修正申告をするよう指導し、そのことを記載したメモを示し、さらに、右内容にしたがった修正申告書を作成して控訴人の署名押印を求めたのである(甲七の二)」と改める。

3 同一九頁四行目の次に行を改めて「税務職員が著した所得税の解説書(甲二八ないし三一の各一ないし四)には、昭和三〇年代以降一貫して、機械等の事業用償却資産の譲渡による所得は譲渡所得であると記載されているが、これは被控訴人の見解を示しているのであるから、これを信頼した納税者は保護されなければならない。」を加える。

4 同二一頁五行目の次に行を改めて「税務職員が著した所得税の解説書(甲二八ないし三一の各一ないし四)には、たとえ事業用償却資産の譲渡による所得であっても、営利を目的として継続的に譲渡される資産はこれに該当しないと記載されている。」を加える。

第三当裁判所の判断

一 当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないから、これを棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり付加・訂正のうえ、原判決の「事実及び理由」の「第三 当裁判所の判断」の「一」ないし「三」の説示を引用するほか、後記「二 付加する判断」のとおりである。当審における証拠調べの結果(甲二八ないし三一の各一ないし四、三二、証人武藤修一の証言)も右の認定判断を左右するには足りない。

1 原判決三二頁二行目末尾の次に「なお、所得税基本通達三三―三が、極めて長期間(おおむね一〇年以上をいう。)引き続き所有していた不動産(販売目的で取得したものを除く。)の譲渡による所得は譲渡所得に該当すると定めた趣旨は、不動産譲渡の場合は保有期間中の資産価値の増加益であることに着目したことによるのであって、動産、ことに機械は、時間の経過によりキャピタルゲインが生じることは稀で、むしろ、資産価値が減少するのが通例であり、この点で相違するのである。」を、同一〇行目の「慎重でなければならず」の次に「(課税要件が充足されていれば、税務官庁には課税の減免の自由も、租税を徴収しない自由もなく、法律で定められたとおりの税額を徴収しなければならないところ、信義則ないし禁反言の法理を適用して適法な課税処分を取り消してしまうと、強行法規である租税法規に違反する状態を作ることになり、また、その結果として、他の全体の納税者との関係で不公平となることもあることを看過すべきではない。)」をそれぞれ加える。

2 同三四頁一行目の「甲二七、」の次に「甲二八ないし三一の各一ないし四、甲三二、当審における証人武藤修一」を、同六行目末尾に「その際、被控訴人の担当職員は、右のとおり譲渡取得とすることは認め、他に申告漏れの所得があったのでそれを追加する内容の修正申告をするよう指導し、そのことを記載したメモを示し、さらに、右内容にしたがった修正申告書を作成して控訴人の署名押印を求めたこと(甲七の二)、」をそれぞれ加える。

3 同三五頁九行目の「申告」を「修正申告」と改め、同一一行目末尾の次に「なお、甲七の二のメモを作成した被控訴人の担当職員が譲渡取得に該当すると判断し、そのことを示したものとしても、それが直ちに被控訴人の公的見解とはいうことはできず、また、控訴人は担当職員の判断により、誤って納税義務が軽減されたものであり、租税法規に抵触する結果がもたらされたことになる。要するに、過去の税務調査において、担当職員が控訴人の申告に対して格別の処置を執らなかったとしても、それは、被控訴人が課税をしない状態が事実上継続したに過ぎず、これをもって被控訴人が控訴人に対して公的見解を表示したものということはできない」を加える。

4 同三六頁七行目の次に行を改めて「控訴人は、税務職員が著した所得税の解説書(甲二八ないし三一の各一ないし四)には、機械等の事業用償却資産の譲渡による所得は譲渡所得であると、昭和三〇年代以降一貫して記載されており、右は被控訴人の見解を示しているから、これを信頼した納税者は保護されなければならないと主張するが、右解説書には、営利を目的として継続的に譲渡される資産はこれに該当しない旨明記されており、控訴人の主張は採用できない。」を加える。

二 付加する判断

1 本件譲渡は、解釈上、所得税法施行令六三条が規定する「対価を得て継続的に行なう事業」の中の一取引であり、所得税法三三条二項が規定する「営利を目的として継続的に行なわれる資産の譲渡」ということができるから、本件譲渡による所得は、譲渡所得ではなく、事業所得であることは前記認定(原判決引用)のとおりである。

控訴人は、賃貸の目的で取得し、現に賃貸の用に供している事業用償却資産の譲渡により生じた利得はキャピタルゲインであるとか、事業の用に供している償却資産はその事業目的に添った運用を行うことで継続した収益を生むことが予定されているのであり、その譲渡による利得追求を目的とする事業は論理上成り立ちえないとか、譲渡の回数、頻繁性、継続性のみならず全体としてみた場合にこれらの譲渡は営利活動とはいえないと主張するが、前記認定(原判決引用)のとおり、本件譲渡は、平成三年から平成五年までの間に毎年行われており、その台数も、平成三年が九台、平成四年が九台、平成五年が四台であり、類型別に見ても、新品の機械を購入するためのものや中古機械ディーラーに売却したものは、平成三年から平成五年までの各年において発生しているし、平成二年以前においても、毎年一定の台数の中古機械を譲渡する取引を行っており、その台数は、平成二年が八台、平成元年が一四台、昭和六三年が九台、昭和六二年が七台、昭和六一年が八台であったことが認められ、その継続的譲渡の事実は否定できないばかりか、事実、控訴人は昭和二五年度から平成二年度までの三〇年間、一貫して事業用償却資産たる中古機械を売却したことによる所得を譲渡所得として計上して所得税申告を行ってきたと主張するところである。

たしかに、控訴人は賃貸目的で機械を購入し、同目的で保有しているのであるが、右のとおり、そのうちの一定数は、たとえその比率が小さくとも、経済的利益の取得を伴う事業活動により、すなわち営利を目的として毎年継続的に譲渡していることは主観的にも、客観的にも動かし難い事実であり、これをもって一時的、臨時的な資産の処分であるとはいうことはできない。もっとも、所得税法三三条の解釈においては、事業目的などの主観的要素の有無は考慮すべき事柄ではないのであるが、この点を措いても、右反復継続する譲渡は控訴人の事業の性質上通常のものといわざるをえないのである。

そして、譲渡所得は、その保有期間中の増加益(キャピタルゲイン)に相当する所得の実現があったものとして一時に課税するものであるため、高い累進税率をあてはめたときに税負担の不合理を招くことがあり、それを緩和するため、特別控除額(五〇万円限度)を差し引いた金額を所得金額とし、さらに長期譲渡所得については二分の一課税としているのであるが(この点は控訴人も争わない。)、控訴人の中古機械の譲渡が右のとおり毎年継続して行われている実体からすると、累進税率による税負担の緩和をしなければ正義に反する事態であるともいえないところである。

2 その他、控訴人がるる主張するところを検討しても、本件譲渡が、営利を目的として継続的に行われている資産の譲渡であることを否定することはできない。

3 以上の付加する判断の観点からしても、本件譲渡による所得は、事業所得と解すべきものである。

三 よって、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宮本増 裁判官 野田弘明 裁判官 永野圧彦)

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