大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 平成11年(ネ)210号 判決 2001年12月14日

主文

1  原判決を次のとおり変更する。

2  被控訴人らが別紙物件目録3(2)及び4(2)記載の両土地について囲繞地通行権を有することを確認する。

3  被控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。

4  訴訟費用は,第1,2審を通じて,これを3分し,その2を控訴人らの負担とし,その余を被控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人ら

(1)  原判決を取り消す。

(2)  被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

(3)  訴訟費用は,第1,2審を通じて,被控訴人らの負担とする。

2  被控訴人ら

(1)  本件控訴をいずれも棄却する(ただし,被控訴人らは,当審において,原判決添付の図面を本判決添付の図面に変更し,別紙物件目録の記載と併せて,請求の趣旨を訂正した。)。

(2)  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第2事実関係

本件は,控訴人らが第三者から買い受けた土地について,通行権(通行地役権,通行を目的とする賃借権,囲繞地通行権)を有すると主張する被控訴人らが,控訴人らに対して,上記通行権の確認と通行妨害禁止を求めた事案の控訴審である。

1  争いない事実並びに証拠(甲1ないし5,甲11,12,甲14,15,甲27,甲44,甲46ないし52,被控訴人A,被控訴人B)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実

(1)  別紙物件目録1記載の土地(以下「甲土地」という。),同目録2記載の土地(以下「乙土地」といい,甲土地と併せて「被控訴人両土地」という。)はいずれも,もとC(以下「C」という。)の所有であった。

(2)  別紙物件目録3(1)記載の土地(以下「一光土地」という。),同目録4(1)記載の土地(以下「丙土地」といい,併せて「控訴人両土地」という。)はいずれも,もとA家の所有であったが,明治時代,Cの弟がD家に養子に行った(又は分家してD姓になった)際,控訴人両土地を分け与えられ,以後,D家の者が控訴人両土地を所有してきた。

(3)  Cは,明治時代,現在では別紙物件目録5記載の建物(以下「丁建物」という。)がある付近(およそ乙土地にあたる。)に隠居所(以下「本件隠居所」という。)を建てた。

Cは,同隠居所から30メートルほど東方にある公道(現在は日進市道となっている。以下,同市道を「本件市道」という。)に出るため,同目録3(2)及び4(2)記載の両土地(以下,併せて「本件通路」という。)を通行していた。

(4)  乙土地の東側には,ほぼ南北方向に走る里道(以下「本件赤道」という。)が接しており,本件赤道のうち乙土地に接する部分の東側に,本件通路の西端が接し,本件通路の東端は本件市道に接している。本件赤道は,被控訴人両土地より約100メートル北方で,本件市道に接続している。

乙土地の西側には甲土地が隣接しており,甲土地の西側には高低差を有する国道敷が隣接している。

(5)  甲土地と乙土地は,Cの死亡により,F(以下「F」という。)に相続された。

Fには,長男G(以下「G」という。)と二男H(以下「H」という。)がおり,Gの子が被控訴人B,Hの妻が被控訴人Aである。Gは,父Fに先立って昭和16年1月に死亡した。被控訴人Bは,叔父Hとその妻被控訴人Aに養育された。

Fは昭和23年5月に死亡し,甲土地は被控訴人Bにより代襲相続され,乙土地はHにより相続された。Hは平成5年12月に死亡し,被控訴人Aが乙土地を相続した。

(6)  昭和37,8年ころ被控訴人Bが被控訴人Eと結婚した際,Hは,自己所有の乙土地の本件隠居所の跡地を被控訴人Eが使用することを認め,被控訴人Eが丁建物(同人所有)を建てた。

(7)  ところで,控訴人両土地は,Cの弟からD家の者に順次相続され,Iの所有となったが,平成4年8月,Iが死亡したことにより,J(以下「J」という。)及びK(以下「K」という。)ほか2名に共同相続された。

控訴人両土地については,いったんはJが単独相続した旨の所有権移転登記が経由されたが,Kは,平成7年1月,Jほか2名の共同相続人との協議により,控訴人両土地の単独所有権を取得し,平成7年4月28日,控訴人両土地を控訴人中駒産業に対し売り渡した。

(8)  控訴人中駒産業は,平成7年5月26日,控訴人一光住宅に対し,控訴人両土地のうち一光土地を売り渡し,中間省略により,Jから控訴人一光住宅に対する所有権移転登記を経由した。

しかし,控訴人両土地のうち丙土地については,同土地が農地であり,農地法上の許可がないため,Jから控訴人中駒産業に対する所有権移転の効果はいまだ発生せず,登記簿上もJ所有名義のままになっている。

(9)  被控訴人Aは,平成7年12月,平成8年1月,平成9年11月,平成10年1月の4度にわたり,被控訴人E及び被控訴人B(以下,併せて「被控訴人夫婦」ともいう。)並びに両人間の子であるL及びMに対し,それぞれ400分の20ずつ共有持分を譲渡し,その旨の持分移転登記を経由している。

その結果,乙土地は,被控訴人A,被控訴人E,被控訴人B,L及びMの共有(持分は各400分の80)となっている。

2  争点

(1)  被控訴人らは,本件通路について,通行地役権又は通行を目的とする賃借権を取得したか。

(被控訴人らの主張)

ア 被控訴人らの通行地役権

(ア) 遅くとも昭和38年ころまでには,被控訴人らを地役権者として,当時の控訴人両土地の所有者から,被控訴人両土地を要役地,本件通路を承役地とする有償の通行地役権が設定された(被控訴人Eは,昭和37,8年ころ,Hから乙土地について丁建物所有のため地上権設定を受けたから,これに基づいて,乙土地を要役地とする地役権を取得し得る。)。

(イ) 仮にそうでないとしても,本件通路は継続かつ表現のものであったから,昭和38年から20年の経過により,被控訴人らは上記(ア)の内容の通行地役権を時効取得した。

イ 被控訴人B及び被控訴人Aの通行地役権

(ア)a Cは,明治年間,控訴人両土地の所有者から,同土地について通行地役権の設定を受けた。

b 仮にそうでないとしても,Cは,継続かつ表現の本件通路を開設して通行を開始したので,大正年間,遅くとも昭和初期には,C又はその相続人Fが20年の時効により通行地役権を時効取得した。

c 被控訴人B及び被控訴人Aは,上記通行地役権を相続した。

(イ) 仮にそうでないとしても,被控訴人B及び被控訴人Aは,昭和38年には本件通路の補修管理及び通行を確立しており,本件通路を自己の通行の用に供する権利があると信じていたので,遅くとも昭和58年12月末ころには,本件通路について通行地役権を時効取得した。

ウ 被控訴人Eの通行を目的とする賃借権又は通行地役権

(ア) 被控訴人Eは,昭和37,8年ころ,当時の控訴人両土地の所有者から,同土地について通行を目的とする賃借権の設定を受けた(以下「本件賃借権」といい,その賃貸借契約を「本件賃貸借契約」という。)。

(イ) 被控訴人Eは,昭和37,8年ころ,Hから乙土地について丁建物所有のための地上権設定を受け,これによって,Hが有する本件通路についての通行地役権の譲渡を受けた。仮にそうでないとしても,被控訴人Eは,昭和37,8年から本件通路を使用し,20年の経過により上記通行地役権を時効取得した。

エ 被控訴人らは,上記ア(イ),イ(ア)b,(イ),ウ(イ)の各時効を援用する。

(2)  被控訴人Eは,控訴人一光住宅に対し本件賃借権を対抗し得るか。

本件通路のうち一光土地に属する部分と丙土地に属する部分との間に,上記対抗の可否について違いがある場合,本件賃貸借契約は全体として終了するか,存続するか。

(3)  被控訴人両土地は囲繞地であるか。そうである場合,被控訴人両土地のため,本件通路について囲繞地通行権が成立するか。

(被控訴人らの主張)

ア(ア) 甲土地は西側で国道敷に接しているが,甲土地と国道敷との間には約2メートルの段差があって,通行できない。他に,甲土地が接する公道はない。

(イ) 乙土地は東側で本件赤道に接しているが(他に乙土地が接する公道はない。),本件赤道は,乙土地の南側で行き止まりになっている上,北側でも,有効幅員は1.5メートル程度であり,場所によっては有効幅員0.5メートル弱の部分もある上,数十センチメートルの段差がある部分もあるので,2輪車の通行にさえ支障があり,まして,4輪車は小型自動車さえ通行不能である。

そして,丁建物のトイレは汲み取り式であるため,バキュームカーが丁建物南側にある汲み取り口まで進入する必要があるが,上記状況の本件赤道からは進入できない。また,被控訴人Eは左官業を営んでおり,同営業のために車両(4輪車)を使用するほか,甲土地上にある倉庫まで左官業の資材を搬入する業者も車両(4輪車)を使用しているが,上記状況の本件赤道からは進入できない。

(4)  被控訴人らは,平成7年5月18日,本件通路についての囲繞地通行権を放棄したか。

(5)  控訴人らが,被控訴人らの本件通路通行を妨害するおそれがあるか。

第3当裁判所の判断

1  争点(1)について

(1)  争点(1)ア(被控訴人らの通行地役権)の主張について

ア 被控訴人らは,昭和38年ころ,被控訴人両土地を要役地,本件通路を承役地とする有償の通行地役権の設定を受けた旨主張する。

(ア) しかし,地役権は他人の土地を自己の土地の便益に供する権利であるから(民法280条),上記地役権は,被控訴人両土地の所有者のみが取得し得るものであり,より広く解するとしても,上記地役権を取得し得るのは,所有者以外には,被控訴人両土地の地上権者,永小作人又は賃借人に限られるというべきである。

被控訴人Eは,昭和38年ころ,当時の乙土地所有者であるHから,同土地について丁建物所有目的の地上権の設定を受けたと主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。したがって,その余の点について判断するまでもなく,被控訴人Eが上記通行地役権の設定を受けた事実は認められない。

(イ) また,被控訴人Bが,昭和38年ころ,上記通行地役権の設定を受けたと認めるに足りる証拠はない。

被控訴人Aは,被控訴人Bが本件通路の年貢を支払っていたと供述する。しかし,被控訴人Eの依頼を受けて被控訴人ら訴訟代理人弁護士が作成した本件内容証明郵便(甲11)には,被控訴人Eの通行権に関する記載のみがあり,被控訴人Bの通行権については記載がないこと,K及び同人と当時同居していたN(以下「N」という。)も,平成7年5月18日,本件通路の通行権を有しないこと等の確認書(乙ロ3)に被控訴人E及び被控訴人Aの各署名,押印のみを求め,被控訴人Bの署名,押印を求めなかったこと(乙イ5の1,2),その際,被控訴人Bも,被控訴人Eや被控訴人Aと相談しないと,被控訴人B自身では判断できない旨述べていること(乙イ5の1,2),平成11年2月,被控訴人Eが,債権者不確知として本件通路の通行料を供託していること(甲29)に照らせば,被控訴人Aの上記供述から,被控訴人Eではなく被控訴人Bが上記年貢の支払者であったと認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(ウ) さらに,被控訴人Aについても,前記通行地役権の設定を受けたと認めるに足りる証拠はない。

(エ) したがって,被控訴人らの上記主張は採用できない。

イ 被控訴人らは,昭和38年から20年間の本件通路通行による,上記アの内容の通行地役権の時効取得を主張するが,これを認めるに足りる証拠はない(被控訴人らは,後記(3)アのとおり,昭和37,8年ころ以降,被控訴人Eの本件賃借権に基づいて本件通路を通行していたものと認められる。)。

(2)  争点(1)イ(被控訴人B及び被控訴人Aの通行地役権)の主張について

ア 被控訴人らは,Cが,明治年間,本件通路について通行地役権の設定を受けたと主張するが,前記第2の1(1)ないし(5)の各事実から,Cが,本件通路の所有者である自己の弟又はその相続人等から,本件通路について通行地役権の設定を受けたことを推認することはできない(Cが当時本件通路を通行していたことが認められるとしても,弁論の全趣旨によれば,控訴人両土地の所有者である親族の好意に基づき同利用がされていたことが推認されるにすぎず,地役権設定の事実を認めるに足りるものではない。)。他にこれを認めるに足りる証拠はない。

また,被控訴人らは予備的に時効取得を主張するが,被控訴人AはCが本件通路を開設した旨供述するものの,これを裏付ける客観的な証拠がない上,C又はFによる本件通路使用の具体的な時期や期間を認めるに足りる証拠もないから,C又はFが本件通路について通行地役権を時効取得したことも認められない。

イ さらに,被控訴人らは,被控訴人B及び被控訴人Aが昭和38年から20年間にわたる本件通路の補修管理,通行による,通行地役権の時効取得を主張するが,これを認めるに足りる証拠はない(被控訴人らは,下記(3)アのとおり,昭和37,8年ころ以降,被控訴人Eの本件賃借権に基づいて本件通路を通行していたものと認められる。)。

(3)  争点(1)ウ(被控訴人Eの通行権)の主張について

ア 本件賃貸借契約の締結,本件賃借権の取得について

(ア) 争いない事実等並びに証拠(甲29,被控訴人A,被控訴人B)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。

被控訴人Eは,昭和37,8年ころ被控訴人Bと結婚し,当時,被控訴人Bの叔父であるHの所有であった乙土地上に丁建物を建築し,被控訴人Bや子らとともに居住してきた。

被控訴人Eは,昭和37,8年ころ,近隣住民で本件通路を通行していた者が,D家に対し本件通路の「年貢」を支払うようになったため,これに促されて,そのころからD家に対し,毎年1回,本件通路の「年貢」を支払うようになった(平成6年当時,その年額は1万円になっていた。)。

(イ) 上記(ア)の事実によれば,被控訴人Eが,昭和37,8年ころ,当時の本件通路所有者(D家の者と推認されるが,本件証拠上,特定できない。)との間において,本件通路につき,通行を目的とする賃貸借契約を黙示的に締結し,本件賃借権を取得したことを推認することができる。

被控訴人Eは,上記(ア)と同様の事実に基づいて,本件通路につき通行地役権取得の主張をしているが,前記(1)ア(ア)のとおり,その前提となる丁建物の敷地(乙土地)についての地上権設定の事実が認められないので,通行地役権取得も認められない。

また,前記(1)ア(イ)のとおり,被控訴人Bは上記(ア)の「年貢」の支払者とは認められないから,被控訴人Bが本件賃貸借契約の当事者であるとはいえない。

イ(ア) 被控訴人らは,被控訴人Eが,昭和37,8年ころ,Hから乙土地について地上権の設定を受け,これによって,Hが有する本件通路についての通行地役権を譲り受けた旨主張する。

しかし,前記(1)ア(ア)のとおり,被控訴人Eが上記地上権の設定を受けたと認める足りる証拠はない。また,前記(2)アのとおり,当時,Hが本件通路について通行地役権を有していたと認めるに足りる証拠もない。

したがって,被控訴人Eの上記通行地役権の譲受けは認められない。

(イ) また,被控訴人らは,予備的に被控訴人Eによる上記通行地役権の時効取得を主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。

(4)  以上のとおりであるから,被控訴人Eが,昭和37,8年ころ,当時の本件通路所有者(D家の者)との間で本件賃貸借契約を締結し,本件賃借権を取得したことは認められるが,被控訴人ら主張のその余の本件通路通行権はいずれも認められない。

2  争点(2)について

(1)  本件賃貸借契約は,昭和37,8年ころ,被控訴人Eと当時の本件通路所有者(D家の者)との間で締結され,同契約の賃貸人の地位は,本件通路の所有権とともに,D家内で順次相続されて,Kが取得したものである。また,本件通路は,別紙物件目録3(2)記載の部分(一光土地の一部)と同目録4(2)記載の部分(丙土地の一部)から成る。

そして,一光土地は,平成7年4月に控訴人中駒産業に売却され,同年5月に控訴人一光住宅に転売されたから,被控訴人Eは,本件賃借権の登記がない以上(甲4,5,弁論の全趣旨),控訴人一光住宅に対し,別紙物件目録3(2)記載の部分(一光土地の一部)につき本件賃借権を対抗できない。

一方,丙土地についても,平成7年4月,K(同人は,別紙物件目録4(2)記載の土地(丙土地の一部)に設定された本件賃借権の負担を相続により承継しているものと認められる。)と控訴人中駒産業は売買契約を締結したが,丙土地は農地であり,農地法上の許可がないため,同売買契約は成立要件を欠き,丙土地の所有権移転の効果は生じていない。したがって,控訴人中駒産業は,対抗関係に立つ第三者にあたらないから,被控訴人Eは,本件賃借権の登記がなくても,控訴人中駒産業に対し,別紙物件目録4(2)記載の部分につき本件賃借権を主張できる。

(2)  しかし,別紙物件目録3(2)記載の部分(一光土地の一部)は本件通路の東半分を構成し,同目録4(2)記載の部分(丙土地の一部)は本件通路の西半分を構成しているから,いずれか一方のみでは,丁建物から本件市道に出るための通路として用をなさない。そして,控訴人一光住宅は,本件訴訟において,本件賃借権に対抗要件がないことを指摘しており,本件賃借権を認めていない。

したがって,本件賃貸借契約は,一光土地が控訴人中駒産業に売却された時点で,同契約の目的(丁建物から本件市道までの通行)が不能になったことにより当然に消滅したというべきである(したがって,同時点以後,本件賃貸借契約に基づく賃料(前記「年貢」)の支払義務も発生しない。)。

3  争点(3)について

(1)  甲土地は囲繞地であるか。

ア 甲土地(被控訴人Bの所有)は西側で国道敷に接しているが,甲土地と国道敷との間には約2メートルの高さの,ほぼ垂直のコンクリート壁があり(甲45,甲53,甲55),そのままでは国道に出るのは不可能である。

また,上記コンクリート壁に階段等を設置して,国道敷に出る出入口を作り,通行の用に供するとしても,同工事の少なくとも一部は,国道の施設に私的な設備を付着させるものとなるから,国道管理者の承諾等を要すると考えられ,被控訴人Bが自由に上記階段等を設置することは不可能であると考えざるを得ない。

さらに,上記階段等を設置し,国道敷との間に出入口を設けることができたとしても,同階段等は,設置場所の状況に照らして,幅が狭く,急勾配のものになる可能性が高いと考えられるから(乙イ9によっても,その可能性を否定することはできない。),歩行者でも,高齢者など運動能力が不十分な者の歩行には危険が伴うと考えられる上,車両の通行は4輪車,2輪車を問わず不可能である。

イ そして,甲土地は上記国道以外には公路に接していないから,甲土地のみに着目すれば,同土地は,囲繞地にあたるといわざるを得ない。

しかし,甲土地と乙土地はもと1筆の土地であったと考えられる上,被控訴人Eは乙土地について丁建物所有のための使用借権を有し,被控訴人Bも乙土地を通行することができると認められるから,甲土地が囲繞地であるか否かは,乙土地が囲繞地であるか否かに係るというべきである。

(2)  乙土地は囲繞地であるか。

ア 乙土地は,平成7年4月,5月当時は被控訴人Aの単独所有であったが,現在では,被控訴人A,被控訴人E,被控訴人B,被控訴人夫婦間の子であるL及び同Mの共有(持分は各400分の80)である。

乙土地は,東側で本件赤道(「公道」にあたる里道)に接しているが,他に乙土地に接する公道はなく,控訴人両土地を通行する以外,最寄りの公路である本件市道に至る方法はない。そして,里道は公道ではあるが,公道がすべて民法210条にいう「公路」にあたるわけではなく,「公路」であるためには,相当程度の幅員を有し,公衆が自由,安全かつ容易に通行し得る道路であることを要する。

そこで,以下,本件赤道が上記の「公路」であるかどうか,「公路」でないとしても,「公路」である本件市道に通じる通路として十分であるかどうかについて判断する。

イ(ア) 前記第2の1の各事実並びに証拠(甲6,甲22,23,甲30ないし34,甲45,甲53,甲55,乙イ6,検証の結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。

a 乙土地の南方

本件赤道は,乙土地からやや南方へ行った部分で行き止まりになっている(本件赤道の南端前方に建物が建てられており,より南方への通行は不能となっている。)。

b 乙土地の北方

(a) 本件赤道の幅員は,①丁建物のやや北方では1.5メートル弱になっており,②さらに北方では幅員2メートルを超える部分があるものの,③その先では近隣住民が設置した花壇又は菜園の中を曲がりくねって通る幅員0.5メートル程度の小道となり,④さらにその先では,同小道は同程度の幅員で短い上り坂となって,⑤日進市により舗装された幅員約2メートルの部分につながり,⑥その先で本件市道に接続する(丁建物から本件市道に至るまでの本件赤道の距離は約100メートルである。)。

しかし,上記④の上り坂の小道(未舗装)と上記⑤の舗装された部分との幅員には大きな差があるため,舗装された部分(上記⑤)の南端の幅員約2メートルのうち東側1.5メートル程度は高さ数十センチメートルのほぼ垂直な段差となり,上記小道と接続していない。

(b) また,上記(a)の⑤の舗装部分は通学路とされ,車両の進入が禁止されている(甲53,甲55)。

(イ) 上記(ア)の事実によれば,本件赤道は,歩行者の通行に支障はなく,2輪車の通行にも特に支障があるとまではいえないが,4輪車が本件赤道を通行して丁建物に至ることは,現況では不可能であるといわざるを得ない(乙イ8によっても,容易に整備し得るとは認め難い。)。

ところで,丁建物の近隣住民であるO(以下「O」という。)は,自己の通行のため,本件赤道と本件市道との間にある第三者所有地を取得し(その後,同じく近隣住民であるPがOから上記土地の持分を取得した。

甲43),私道兼駐車場を設置している。しかし,上記のとおり,上記土地はOとPの共有地であって,被控訴人らが同土地の通行権を有すると認めるべき証拠は全くないばかりか,Lの陳述書(甲45,甲55)によれば,被控訴人EがOに対し上記土地を通行させてくれるよう頼んだところ,Oはこれを拒絶し,また,Oは,第三者が上記土地を通行することを拒んでいることが認められるから,上記私道兼駐車場の存在によっても,上記判断は左右されない。

ウ(ア) 上記イのとおりであるから,本件赤道が「公路」,すなわち公衆が自由,安全かつ容易に通行し得る道路にあたるとは,直ちにはいい難い。

(イ) さらに,丁建物を含む近隣の住宅には,汲み取り式トイレが少なからずあり,丁建物のトイレも汲み取り式であって,従来,バキュームカーが本件通路を通って,丁建物の南側に設けられた汲み取り口まで進入し,汲み取り作業を行っていたところ(甲35ないし37,甲39,弁論の全趣旨),上記イの事実によれば,バキュームカーが本件市道から本件赤道に入り,丁建物の南側まで進入することは不可能であるから,本件通路の通行が認められない場合,被控訴人夫婦がすぐにも日常生活上の不便を来すことになるのは明らかである。

また,被控訴人Eは左官業を営んでおり,同営業のため4輪車の使用を必要とし,また,その資材の搬入のためにも4輪車の使用を必要とすることが認められ,本件通路の通行が認められない場合,被控訴人Eの営業にも直ちに支障を来すことは明らかである。

したがって,本件赤道は,「公路」である本件市道に通じる通路としても不十分であるといわざるを得ない。

(ウ) 以上のとおりであるから,乙土地は囲繞地にあたるということができ,そうである以上,甲土地も囲繞地である。

(3)  したがって,当審口頭弁論終結時,乙土地の共有者である被控訴人らは,いずれも控訴人両土地について囲繞地通行権を有し,また,甲土地の所有者である被控訴人Bは控訴人両土地について囲繞地通行権を有する。

そして,被控訴人らの通行の必要を可能な限り満たし,かつ,控訴人両土地の損害を最小にするためには,控訴人両土地のうち本件通路に限って,被控訴人らが従前どおり歩行又は車両により通行することを認めるのが相当である。

4  争点(4)について

ところで,平成7年5月18日付けの「確認書」(以下「本件確認書」という。乙ロ3)には,被控訴人E及び被控訴人Aが,同日,Jに対し,本件通路を通行する権利を有しないことを認め,以後,本件通路を通行しないことを約する旨の記載がある。しかし,本件確認書にいう「通行権」に囲繞地通行権が含まれていたと認めるに足りる証拠はなく(本件確認書作成時の状況(乙イ5の1,2,被控訴人B,被控訴人A)に照らせば,上記「通行権」は争点(1)の通行地役権や賃借権を念頭に置いたものにすぎず,法定の囲繞地通行権は含まれていなかった可能性が高いと考えられる。),本件確認書に署名,押印があるからといって,囲繞地通行権を有しないことの確認をしたり,同通行権に基づく通行をしないと約したとはいえない。

また,被控訴人E名義の署名,押印は被控訴人Bがしたものであるが,本件確認書には被控訴人B名義の署名,押印がなく,被控訴人E名義の署名,押印をしたことのみから,被控訴人BがJに対し囲繞地通行権を有しないことを確認したり,同通行権に基づく通行をしないと約したと認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。

なお,平成7年5月当時,被控訴人Eは乙土地について使用借権を有していたにすぎず,被控訴人両土地についてそれ以上の権利を有していたと認めるに足りる証拠はないから,被控訴人Eは,当時,本件通路について囲繞地通行権を有していなかったが,前記第2の1(9)のとおり,その後,被控訴人Aから乙土地の共有持分の譲渡を受け,同共有持分に基づき,上記囲繞地通行権を取得したというべきである。

5  争点(5)について

被控訴人らは,控訴人らが被控訴人らによる本件通路の通行を妨害するおそれがある旨主張する。

しかし,平成6,7年当時,K及びNが実力を行使して被控訴人らの通行を妨害しようとした事実は認められるものの(被控訴人B,被控訴人A),控訴人らについては,被控訴人らに対し実力による通行妨害をした事実を認めるに足りる証拠はなく,また,控訴人らが,本判決により本件通路について被控訴人らの囲繞地通行権が確認された後,訴訟上これを争うのは別として,実力により被控訴人らの通行を妨害するおそれがあると認めるに足りる証拠もない。したがって,被控訴人らの通行妨害禁止請求は認められない。

6  以上のとおりであるから,被控訴人らの各通行権確認請求は,被控訴人らが本件通路についてそれぞれ囲繞地通行権を有することの確認を求める限度で理由があるから,その限度で認められ,その余は理由がないから棄却されるべきであり,被控訴人らの通行妨害禁止請求はいずれも理由がないから棄却されるべきである。よって,原判決を上記の趣旨に変更することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法67条,61条,64条,65条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大内捷司 裁判官 加藤美枝子)

裁判官 長門栄吉は転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 大内捷司

file_2.jpg別紙

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例