名古屋高等裁判所 平成11年(ネ)732号 判決 2000年1月26日
控訴人
全炳洙
右訴訟代理人弁護士
伊藤保信
被控訴人
国
右代表者法務大臣
陣内孝雄
右指定代理人
渡邉元尋
同
小林孝生
同
平山友久
同
奥野清志
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求める裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、一〇〇万円及びこれに対する平成九年二月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、第一、二審を通じ、被控訴人の負担とする。
4 仮執行の宣言
二 被控訴人
1 主文と同旨
2 予備的に、担保を条件とする仮執行免脱宣言
第二事実関係
次のとおり補正するほか、原判決の「事実及び理由」欄の第二の記載を引用する。
1 原判決四頁六行目の「本店」の次に「(以下「本社」という。)」を付加する。
2 同八頁九行目の「板倉支配人」の次に「は、ゼンヨーの単なる従業員という立場にあるにすぎず、ホテル琥珀の事実上の責任者ではあっても、法律上の支配人にはあたらず、控訴人の補助者という以上の者ではない。したがって、同人」を付加し、同行目から一〇行目にかけての「同人」を「そのことは板倉支配人の服装や風采、ホテル琥珀の事務室の状況からも堀尾ら三名が容易に了知できるところであった。しかも、板倉支配人」と訂正する。
3 同九頁二行目の末尾に「したがって、堀尾ら三名がホテル事務室に入室したこと自体が違法であるし、いったんホテル事務室に入室した後も、堀尾ら三名は直ちにホテル事務室を退去すべきであって、在室を続けた行為は違法である。」を付加する。
4 同九頁七行目の「しかるに」から八行目の末尾までを次のとおり訂正する。
「そして、控訴人がホテル琥珀に到着するまでに、本社担当の税務職員とホテル琥珀担当の税務職員とは二回にわたり電話連絡をしているのであるから、その時点で、控訴人の本件税務調査全体に対する右の意思表示、その結果として堀尾ら三名もホテル事務室の外で待つべきことを伝えられてしかるべきであり、仮にこれが伝えられていないとしても、堀尾ら三名がホテル事務室在室の適法性を判断するにあたっては、これが伝えられたという前提でその判断がされるべきである。」
5 同九頁一〇行目、一一行目を次のとおり訂正する。
「控訴人がホテル琥珀の敷地内に入って来る前に、板倉支配人が堀尾ら三名に対し、税務署の職員が来ても事務室の中に入れるなと控訴人から言われていることを告げて、ホテル事務室から直ちに退去するよう要求したにもかかわらず、堀尾ら三名はこれに応じず、控訴人がホテル琥珀の敷地内に入って来たため、板倉支配人が、堀尾ら三名に対し、控訴人が建物内に入ってくるより前にホテル事務室から退去するよう要求し、控訴人自身もホテル事務室から直ちに退去するよう要求したのに、これらにも応じず、ホテル事務室から退去しなかったのであるから、堀尾ら三名がホテル事務室に在室したことは違法である。」
第三当裁判所の判断
一 次のとおり補正するほか、原判決の「事実及び理由」欄の第四の記載を引用する。
1 原判決一三頁三行目の「当事者間に争いのない」を「前提となる」と訂正する。
2 同一三頁七行目の「三名は、」の次に「本件税務調査を行うにあたり、」を付加する。
3 同一四頁二行目の「原告から」から三行目の「さらに」までを「控訴人は、いったん自動車のエンジンを止め、車から降りて事務所に向かい、事務所前で、桝井ら四名に対し、事務所に入るなと告げて、自分だけが事務所に入り、事務所から出てきて、」と、四行目の「渡された」を「渡した」と各訂正する。
4 同一七頁一一行目の「認められるから」の次に次のとおり付加する。
「(控訴人は、板倉支配人がゼンヨーの単なる従業員という立場にあるにすぎず、ホテル琥珀の法律上の支配人にあたるものではなく、控訴人の補助者という以上の者ではないのであって、そのことは板倉支配人の服装や風采、ホテル琥珀の事務室の状況からも堀尾ら三名が容易に了知できるところであると主張するが、板倉支配人がホテル琥珀の支配人であることは同人及び控訴人がともに認めているところであるから(甲第六号証の一、本件訴状)、板倉支配人は少なくとも右の程度の管理権限を有していたと認められるのであり、板倉支配人の服装、風采、さらにはホテル琥珀の事務室の状況がどのようなものであるかということは、板倉支配人の右の権限に影響を及ぼすものではない。)」
5 同二〇頁五行目の「この段階」から八行目の「やむを得ない右段階で」までを次のとおり訂正する。「事務所に入るなと述べたことについてみても、そのときの状況からすればそれは本社事務所を指しているのであって、ホテル琥珀の事務所までをも含むものとみることはできず、それ以上に、ホテル琥珀における税務調査についての控訴人の明確な意思表示はされていないのであり、丸全油化及びゼンヨーの税務調査の対象となる帳簿類等の保管という観点からみたときに、本社事務所における税務調査とホテル琥珀における税務調査とでは、その内容、程度等に大きな差異があると考えられることからすると、控訴人が桝井らに対し税理士の立会いがなければ税務調査を認めないと述べたのも、丸全油化及びゼンヨーの本社事務所における税務調査を認めないという意思表示としては明確であるものの、ホテル琥珀における税務調査も同様に税理士の立会いがない限り一切認めないという趣旨のものであるかは必ずしも明確でなく、まして、堀尾ら三名がホテル琥珀の事務室へ立ち入ることを一切禁止するという趣旨までをも含むものとは認められない。したがって」
6 同二〇頁九行目の「しなかったとしても、違法とはいえない。」を「すべきであったということはできず、堀尾ら三名がホテル事務室内に入室し、かつ在室していたことの適法性を判断するにあたっては、控訴人の桝井ら四名に対する言動を堀尾ら三名は知らなかったのであるから、この事実を前提に判断すべきものである。」
7 同二二頁二行目の「伝えると、」の次に「控訴人がホテル琥珀の敷地内に入って来るより前及び右敷地内に入ってきた後のいずれの時点においても、」を付加し、三行目の「事実」から六行目の末尾までを次のとおり訂正する。
「のであり、堀尾ら三名としては、同人らがホテル琥珀の事務室に在室すること自体を拒否するかどうかにつき控訴人自身の意思を未だ確認できていない状態にあって、控訴人と対面した後に控訴人に対し直接にその意思を確認したうえで必要な説得をすることを試みることも、任意調査として社会通念上相当と認める限度内のものであると解されるのであるから、その時点において堀尾ら三名がホテル琥珀の事務室に在室し続けたことが違法となることはない。なお、控訴人は、板倉支配人が堀尾ら三名に対し、税務署の職員が来ても事務室の中に入れるなと控訴人から言われていることを告げたと主張し、板倉支配人はこれにそう供述をしているが(甲第六号証の一、二)、堀尾及び纐纈の供述によっても、控訴人の明確な意思表示としてこれが堀尾ら三名に告げられた事実を認めることはできず、他に右の事実を認めるに足りる証拠はない。」
二 よって、本件控訴は理由がないから、これを棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法六七条、六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大内捷司 裁判官 佐賀義史 裁判官 加藤美枝子)