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名古屋高等裁判所 平成11年(行コ)27号 判決 2001年8月21日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人

(1)  原判決を取り消す。

(2)  主位的控訴の趣旨

ア 被控訴人名張市水道事業管理者Aが,被控訴人株式会社ニッコク,被控訴人愛知時計電機株式会社,被控訴人明治時計株式会社,被控訴人東洋計器株式会社及び被控訴人東光精機株式会社に対し,連帯して1623万円を支払えとの請求を怠ることが違法であることを確認する。

イ 被控訴人株式会社ニッコク,被控訴人愛知時計電機株式会社,被控訴人明治時計株式会社,被控訴人東洋計器株式会社及び被控訴人東光精機株式会社は,名張市に対し,連帯して1623万円及びこれに対する被控訴人株式会社ニッコク,被控訴人愛知時計電機株式会社,被控訴人明治時計株式会社及び被控訴人東光精機株式会社は平成10年5月27日から,被控訴人東洋計器株式会社は平成10年5月28日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)  予備的控訴の趣旨

ア 控訴人の被控訴人名張市水道事業管理者Aに対する本件訴えのうち,同被控訴人が,被控訴人株式会社ニッコク,被控訴人愛知時計電機株式会社,被控訴人明治時計株式会社,被控訴人東洋計器株式会社及び被控訴人東光精機株式会社に対して1252万5246円を支払えとの請求を怠ることが違法であることの確認を求める部分を津地方裁判所に差し戻す。

イ 控訴人の被控訴人株式会社ニッコク,被控訴人愛知時計電機株式会社,被控訴人明治時計株式会社,被控訴人東洋計器株式会社及び被控訴人東光精機株式会社に対する本件訴えのうち,1252万5246円及びこれに対する被控訴人株式会社ニッコク,被控訴人愛知時計電機株式会社,被控訴人明治時計株式会社及び被控訴人東光精機株式会社は平成10年5月27日から,被控訴人東洋計器株式会社は平成10年5月28日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める部分を津地方裁判所に差し戻す。

ウ 被控訴人名張市水道事業管理者Aが,被控訴人株式会社ニッコク,被控訴人愛知時計電機株式会社,被控訴人明治時計株式会社,被控訴人東洋計器株式会社及び被控訴人東光精機株式会社に対し,連帯して131万0907円を支払えとの請求を怠ることが違法であることを確認する。

エ 被控訴人株式会社ニッコク,被控

訴人愛知時計電機株式会社,被控訴人明治時計株式会社,被控訴人東洋計器株式会社及び被控訴人東光精機株式会社は,名張市に対し,連帯して131万0907円及びこれに対する被控訴人株式会社ニッコク,被控訴人愛知時計電機株式会社,被控訴人明治時計株式会社及び被控訴人東光精機株式会社は平成10年5月27日から,被控訴人東洋計器株式会社は平成10年5月28日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(4)  訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人らの負担とする。

2  被控訴人ら

主文同旨

第2事案の概要

事案の概要は,原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」のとおりであるから,これを引用する。

第3当裁判所の判断

1  本件訴えの適法性について

本件監査請求は,普通地方公共団体において違法に財産の管理を怠る事実(以下単に「怠る事実」という。)があるとしてなされているものであるが,この場合,監査請求が,当該普通地方公共団体の長その他の財務会計職員の特定の財務会計上の行為を違法であるとし,当該行為が違法,無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって怠る事実としているものであれば,当該監査請求について,上記怠る事実に係る請求権の発生原因たる当該行為のあった日又は終わった日を基準として地方自治法242条2項の規定を適用すべきものと解される(最高裁昭和57年(行ツ)第164号同62年2月20日第二小法廷判決・民集41巻1号122頁)。

もっとも,上記の解釈の根拠は,普通地方公共団体の長その他の財務会計職員の特定の財務会計上の行為(以下「財務会計職員の行為」という。)については,地方自治法242条2項が,当該行為のあった日又は終わった日から1年を経過した後にされた監査請求を不適法として法律関係の安定を図っているのに,監査請求の対象を財務会計職員の行為の違法と法律構成せずに,これと表裏一体の関係にあるような怠る事実と法律構成すれば,同項の適用を免れるというのでは,同項の趣旨を没却することとなるという点にあるとみられる。そうすると,上記の解釈が適用される場合は,法律構成の面において,監査請求の対象を通常は財務会計職員の行為の違法と構成すれば足りるものを,あえて怠る事実として構成している場合等,財務会計職員の行為と怠る事実とが表裏一体の関係にある場合であると解される。

ところで,本件監査請求は,名張市の平成6年度ないし平成8年度の水道メーターの購入について,東京都が購入する件では談合がなされていたことを指摘した上で,名張市でも購入価格が不当に高かったことを理由として,被控訴人水道事業管理者が水道メーター業者らに対して損害賠償請求を行うよう勧告することを求めているものであるが(甲1の1),この場合,業者らの損害賠償義務の根拠は不法行為と理解でき,その発生原因となる違法行為としては業者間でなされた談合をいうものと解することができる。監査請求の対象は具体的な談合の有無であり,又それと因果関係を有する損害の有無である。このように業者間に談合が存する場合,違法性の実質は談合にこそ存するのであって,談合後に財務会計職員がする購入契約等の財務会計上の行為は,それが地方財政法4条等により客観的には違法となるとしても,談合という違法行為により生じた因果経過の中でなされた後続行為に過ぎないとみることができる。この点からみれば,談合事案において,業者らに対する不法行為責任の追求を勧告するよう求める監査請求の対象を財務会計職員の行為の違法とする法律構成は,通常なされるべき法律構成ということはできないのであって,談合に後続するに過ぎない財務会計職員の行為と,談合の結果生じた業者に対する不法行為に基づく損害賠償請求を怠る事実との間に,前記の表裏一体の関係があると認めることはできないというべきである。

そうすれば,本件監査請求は,業者間の談合が違法であることに基づいて発生する実体法上の損害賠償請求権の不行使をもって怠る事実としているものであって,財務会計職員の行為が違法,無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行為をもって怠る事実としているものとは認められないから,地方自治法242条2項の規定が適用されるものではないと解される。したがって,同項の適用がなされるべきことを前提に本件訴えを不適法とする被控訴人らの主張は,いずれも採用できない。

2  損害賠償請求権の存否について

当裁判所は,名張市の被控訴会社らに対する不法行為(談合)に基づく損害賠償請求権については,証拠上その発生を認定することができず,したがって,控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は,次に付加するほか,原判決48頁7行目から同57頁6行目までのとおりであるから,これを引用する

(1)  原判決56頁末行末尾に改行の上,次のとおり加える。

「控訴人は,当審において,東京都発注の水道メーターの入札等に際し被控訴会社らが談合を行っていたことに関する関係者の検察官に対する供述調書等を提出するところ(甲24ないし31。ただし,枝番を含む。),これらによれば,被控訴会社らが,いずれも日本水道メーター工業会の地方組織で平成4年3月5日解散したことになっている十日会の構成メンバーであったこと,平成5年1月29日の勧告審決後も神奈川県内では訴外日東精工株式会社らの業者は談合を行っていたこと,平成6年から平成8年にわたり東京都発注の件で談合を行っていたことが発覚した後,他の地方自治体発注にかかる水道メーターの入札等に際しても,水道メーター工業会加入会社ないしその関連会社が談合を行っていた事実が判明したこと,東京都における談合の背景に業界の談合体質があったことなど,若干の関連事実を認めることはできる。しかし,これらの証拠によっても,名張市の水道メーター購入に関する被控訴会社らの談合の存否及び内容が具体的に明らかにされているものではない。結局,本件全証拠によるも,平成6年度から平成8年度の間における名張市発注の水道メーターの購入(見積合わせ方式)に関する被控訴会社らの談合については,談合の日時場所回数等を概括的にさえ特定できず,談合における謀議内容も確定できず,仮に談合がなされたとしても,単価契約の相手方となった業者が全て談合に参加していたか否かも具体的に確定することができない。また,名張市において,平成9年6月以降,入札価格が従前の契約単価に比し低下したことに照らせば,談合がなされていた疑いはあるにしても,入札価格低下の原因が東京都の事件をきっかけとして指名停止を受けた業者の在庫の増加や指名停止を受けなかった業者の生産拡大により供給過剰となったことにある等の可能性を排斥するに足りる客観的証拠もないのであって,入札価格の低下の事実を根拠に,それ以前に被控訴会社らが名張市に対し提出した見積額が談合に起因すると特定して推認することは困難である。なお,控訴人は,東京都以外の地方自治体(川崎市,高知市,神奈川県,横浜市,神戸市,宇都宮市,津市)における入札状況に不自然な点が存するとも主張するが,これにより名張市における具体的な談合が推認されるということもできない。そうすれば,本件の証拠から,直ちに被控訴会社らの不法行為を肯定するに足りる具体的談合行為を認定することはできないというべきである。」

(2)  原判決57頁初行「名張市の」の次に「平成6年度ないし」を加える。

3  以上によれば,原判決のうち,控訴人の訴えを却下した部分は相当ではないが,この部分の本案については,原審で十分に主張立証の機会が与えられて審理されているので,民訴法307条ただし書により,取消差戻をしないのが相当であるところ,当審において追加された主張立証を加味して判断するも,上記認定に照らし,この部分の請求は理由がないこととなる。しかし,原審敗訴当事者である控訴人のみが控訴した本件においては,民訴法304条に基づく不利益変更禁止の原則により,この部分の請求を棄却するのは相当ではなく,結局,控訴棄却に留めるのが相当である。他方,原判決のうち,控訴人の請求を棄却した部分は先に認定したとおり相当であって,この部分に対する控訴は理由がないから棄却するのが相当である。

よって,本件控訴(主位的控訴の趣旨及び予備的控訴の趣旨のいずれも)を棄却し,控訴費用の負担について行訴法7条,民訴法67条1項,61条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 笹本淳子 裁判官 小林克美 裁判官 戸田久)

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