大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 平成12年(う)486号 判決 2001年5月08日

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中一二〇日を原判決の本刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、主任弁護人高和直司、弁護人川崎浩二、同村田武茂及び同森絵里連名作成の控訴理由書(ただし、同書面中「コンクリート」とあるのを「アスファルト」と訂正したもの)及び同正誤表各記載のとおりであるから、これらを引用する。論旨は、原判示第一の覚せい剤所持の事実を認定した原判決には事実の誤認がある、という。

そこで、記録及び証拠物を調査して検討する。

一  原判決挙示の証拠によれば、平成一〇年一二月二日午前四時ころ、原判示第一記載のホテルリラックス北側駐車場通路部分においてセカンドバッグ(以下「本件バッグ」という。)が発見されたこと、そこは、同ホテル四〇五号室(以下「四〇五号室」という。)の寝室北側窓のほぼ真下であること、同通路上において、本件バッグの他現金一三〇万円が入った財布、携帯電話が発見されていること、本件バッグの中には、東愛知日産自動車株式会社が〓橋栄一宛に発行した車両代金等七二七万円の領収証(被告人が購入した自動車の代金を支払った際のもの)、この領収証に包まれたビニール袋入り原判示第一の覚せい剤一袋(約四・九一九グラム。以下「本件覚せい剤」という。)、注射器二本、印鑑登録証並びに被告人名義の国民健康保険被保険者証、パスポート、自動車運転免許証、診察券、キャッシュカード、銀行振込カード及びメンバーズカード等が入っていたこと、被告人は、同月一日午後九時ころ同ホテルに入り、午後九時二一分ころ四〇五号室にチェックインし、翌二日午前七時ころチェックアウトしたこと、その直後に四〇五号室に戻り、同所にいた支配人にバッグの忘れ物がなかったか尋ねた上同室内を探したこと、その後部屋から一階に下り、同ホテルの駐車場内を歩き回っていたことから、ホテル従業員が被告人に対し、何をしているか聞いたところ、バッグを探していると答えたこと、右従業員は、同日午前九時半ころ、ホテル駐車場にいた被告人にバッグが豊橋警察署に届けられている旨伝えていること、被告人は運転免許証、保険証、パスポート、財布、現金約一三〇万円、携帯電話などの入ったバッグをなくしたことを認めていること(原審検乙4)、原判示第二の犯行の共犯者である大岩義明は、原審公判廷において、平成一一年一月二四日ころ、被告人から、「ホテルにいたとき、よれてしまってバッグを投げてしまった、その中にお金が百何万入っている、免許証、パスポートも入ってて、覚せい剤一〇グラムも入っていた」旨聞いたと供述していること、被告人から同様の話を聞いたという木村正夫及び安藤英晴は、原審公判廷あるいは供述調書において大岩と同旨の供述をしていることなどが認められる。これらによれば、本件バッグは被告人が使用していたものであり、被告人が四〇五号室の窓から外へ投げたものであると認められるから、被告人は本件バッグ内にあった本件覚せい剤を所持していたものと推認することができる。

二  所論は、前記大岩、木村及び安藤の各供述は信用できないから、被告人が本件バッグを四〇五号室の窓から投げた事実は認められない、という。

しかしながら、大岩、木村及び安藤は、被告人がホテルに行き、よれてしまって覚せい剤の入ったかばんを投げた旨聞いており、右三名が被告人から聞いた内容は概ね一致していること、右三名は、本件バッグ及びその在中品を見ていないのに、在中品に関する供述が客観的事実にほぼ符合していることなどからすれば、右各供述は、信用するに十分であり、そうすると、これに他の証拠から認められる事実を総合すれば、被告人が本件バッグを四〇五号室の窓から外へ投げたと認定できる。

所論は、本件バッグが高所からアスファルト製路面に落下すれば、バッグの表面に当然に傷が付くはずであるのに本件バッグにはそのような傷がないから、右認定は誤りである、というが、縦約一八センチメートル、横約二五センチメートル、幅約五センチメートルのセカンドバッグが、高さ約一二、三メートルの高さから落下した際、常にバッグに傷が付くとはいえないから、右所論は採用できない。

所論は理由がない。

三  所論は、本件バッグ内にあった覚せい剤は、ホテルリラックスで被告人と行動をともにした近田二郎が被告人を陥れる意図で入れたものである、というが、右所論は客観的裏付けのない推論に基づく主張であって、およそ採り得ない。

所論は理由がない。

四  所論は、平成一〇年一二月二日午前四時ころ、被告人は本件バッグの所在を失念しており、同バッグに対する被告人の占有はなくなっているから、同時刻に被告人が本件バッグを所持していたと認定した原判決には事実の誤認があるという。

しかしながら、原判決挙示の証拠によれば、被告人が本件バッグを四〇五号室の窓から外へ投げたのは、覚せい剤使用の影響により「よれた状態」でしたことであるから、本件バッグ及びその内容物の所有あるいは占有を放棄しようという真意でされたものではないこと、被告人はホテルをチェックアウトした同月二日午前七時過ぎころ、ホテル駐車場で本件バッグを探し回っていることから、その付近にバッグがあるかもしれないとの認識が被告人にあったものと認められることからすると、本件バッグは、同日午前四時ころ第三者によって拾われるまでは、被告人が所持していたと解される。

所論は理由がない。

五  所論は、その他るる主張するが、いずれも理由がない。

よって、論旨は理由がないので、刑訴法三九六条により、本件控訴を棄却し、刑法二一条を適用して当審における未決勾留日数中一二〇日を原判決の本刑に算入し、主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例