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名古屋高等裁判所 平成12年(く)143号 決定 2000年12月05日

少年 D・S(昭和57.1.10生)

主文

原決定を取り消す。

本件を名古屋家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の趣意及び理由は、附添人が作成した抗告申立書に記載されたとおりであるから、これを引用する。論旨は、要するに、少年を中等少年院(特修短期処遇)に送致した原決定は、本件非行事実の認定及び評価、並びに少年の性向、両親や伯母の監護態勢及び少年の反省状況等の判断を誤り、著しく不当な処分をしたものである、というのである。

そこで、まず、所論にかんがみ少年の非行事実の存否について検討するに、本件において原決定の認定した非行事実の要旨は、当時暴走族○○の総長であった少年が、同構成員のA(当時15歳)及びB(当時15歳)と共謀の上、第一、平成12年8月19日午後9時30分ころ、愛知県豊田市○△町○□××番地×の□□東側路上において、ヘルメットを着用せずに原動機付自転車(以下「原付」という。)を運転していたC(当時18歳)を認めるや、制裁を加えようと考えて、交互に「何でノーヘルなんだ。誰に断って走っている。何様のつもりだ」等と語気荒く言って、Cの顔面、頭部等を手拳で数回殴打し、左大腿部を数回足蹴りするなどの暴行を加え、その結果、Cに対し安静加療約10日間を要する頭部顔面外傷、顔面裂傷、皮下血腫、四肢打撲傷の傷害を負わせ、第二、前同日時場所において、右C所有の原付(時価5万円相当)を窃取した、というものであるところ、少年が原審審判廷の冒頭で裁判官から非行事実を告げられた際に事実は間違いない旨述べているとはいえ、本件少年保護事件記録を子細に検討してみると、少年がAやBと共謀の上、前記第一の非行をした事実は概ね認められるものの、前記第二の非行について少年とAらとが明示又は黙示に共謀をした事実は認められないから(少年は、AやBに被害者を原付に乗せて連れて来いと指示したに過ぎない。)、右第二については非行なしとして不処分にするほかないのであって、少年の第二の非行を認定した原決定には事実の誤認があるといわなければならない。

次に、前掲記録、少年調査記録及び当審における事実取調べの結果を加えて少年の処遇について検討するに、本件は、少年が共犯少年らと共謀の上、いわゆる「ノーヘル狩り(暴走族構成員だけがヘルメットを着用することなく自動二輪車や原付に乗ることができるとして、暴走族構成員がヘルメットを着用しないで運転する一般人を威嚇すること)」を行い、被害者に安静加療約10日間を要する傷害を負わせた、という事案であって、その動機には何ら酌むべきものがないだけでなく、通りすがりの被害者を道路上で取り囲み、複数人で暴行に及ぶなど態様が大胆かつ悪質であり、少年が主導的な立場にあったこと、被害者の傷害の程度も軽微とはいえないこと、少年が高校3年の平成11年10月ころから本件後に引退する平成12年8月末ころまでの間、暴走族の総長の地位にあって暴走行為等を繰り返し、暴走族から離脱するように両親から強く説得されていたにもかかわらず巧みに欺いて不良交友を続けてきたことなどを併せ考えると、少年の非行性を軽視することはできない。しかしながら、少年は、高校2年生ころまでは特に問題行動がなかった上、これまでに補導歴が1回あるものの、家庭裁判所の係属歴は全くないこと、鑑別結果通知書及び少年調査票によれば、少年の知能指数は中の域にあり(IQ105)、性格や行動傾向に著しい偏りなどはなく、非行性も深まっているとまではいえないこと、両親の少年に対する関心は強く、特に父親は、平成12年4月以降、少年を暴走族から離脱させるために、少年が総長の特攻服を着て主宰する2、30人の集会の中に飛び込んで行ったり、暴走族を支援する暴力団構成員と談判したり、少年との話し合いの時間を作るために出張のない職場に配置換えをしてもらうなど少年との意志疎通に腐心してきたこと、本件被害者に対しては、共犯少年らとともに賠償金として各30万円を支払い、示談を成立させていること、また、原審審判廷への在席を許可された父方の伯母は、父親の指示により少年を暴走族から離脱させた上、受験勉強に集中するため平成12年5月ころから約1か月間、少年を預かったが、再度少年を預かる意向のある旨述べていること、少年が少年鑑別所での収容生活の中で本件非行や当時の生活状況について反省を深め、更生の意欲を高めていること、共犯少年らは原決定の(非行事実)の第一の事実のほか第二の事実についても認定された上、いずれも保護観察処分を受けたに過ぎないことなどが認められ、これらの事情を総合勘案すると、少年については直ちに施設に収容しなくとも社会内において両親や伯母のほか、専門家による指導等によって性格等の改善と再非行の防止を図る余地も十分に残されているというべきである。

そうすると、本件については、前記のとおり、検察官からの送致事実の一部が非行なしとして不処分であることに加え、少年の両親や伯母に対し少年の指導監督の方法等について強力に働きかけ、その協力を得て試験観察等により少年の反省や稼働状況などの動向を十分に観察するなどしてその可能性を検討することなく、直ちに少年を中等少年院に送致した原決定は、特修短期処遇の勧告を付している点を考慮しても、時期尚早であって、著しく不当といわざるを得ない。論旨は理由がある。

よって、少年法33条2項、少年審判規則50条により、原決定を取り消し、本件を名古屋家庭裁判所に差し戻すこととして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 堀内信明 裁判官 堀毅彦 堀内満)

受差戻審(名古屋家 平12(少)5193号 平13.1.22決定 保護観察、窃盗につき不処分)

〔参考1〕原審(名古屋家岡崎支 平12(少)1220号 平12.11.7決定)<省略>

〔参考2〕少年補償事件(名古屋家 平13(少ロ)1号 平13.1.22決定)<省略>

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