名古屋高等裁判所 平成12年(ネ)206号・平12年(ネ)385号 判決
主文
一 原判決を次のとおり変更する。
二 被控訴人と控訴人とを離婚する。
三 被控訴人と控訴人との間の長女春子(昭和五七年三月二三日生)及び次女夏子(昭和五九年六月一日生)の親権者をいずれも控訴人と定める。
四 控訴人は、被控訴人に対し、二五〇万円及びこれに対する平成八年一二月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 被控訴人のその余の慰謝料請求を棄却する。
六 控訴人は、被控訴人に対し、財産分与として、一二〇万三〇七三円を支払い、かつ、国家公務員退職手当法(昭和二八年法律第一八二号)に基づく退職手当の支給を受けたとき、五五〇万円を支払え。
七 被控訴人は、控訴人に対し、財産分与として、原判決別紙物件目録(一)記載の土地に対する被控訴人の持分二一七八分の二〇〇及び同目録(二)記載の建物に対する被控訴人の持分三万一六二一分の四九二六を譲渡し、その旨の持分移転登記手続をせよ。
八 本件附帯控訴を棄却する。
九 訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを二分し、その一を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。
一〇 この判決の第四項は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 当事者の求める裁判
(控訴につき)
一 控訴人
1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
(附帯控訴につき)
一 被控訴人
1 原判決主文第三ないし五項を次のとおり変更する。
2 控訴人は、被控訴人に対し、五〇〇万円及びこれに対する平成八年一二月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 控訴人は、被控訴人に対し、財産分与として、被控訴人が控訴人に対して原判決別紙物件目録(一)記載の土地に対する被控訴人の持分二一七八分の二〇〇及び同目録(二)記載の建物に対する被控訴人の持分三万一六二一分の四九二六を移転するのと引き換えに、三四一三万五七〇三円を支払え。
4 附帯控訴費用は控訴人の負担とする。
5 第2項につき仮執行の宣言
二 控訴人
1 本件附帯控訴を棄却する。
2 附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。
第二 事実関係<省略>
第三 当裁判所の判断
一 次のとおり付加訂正するほか、原判決の事実及び理由の「第三 当裁判所の判断」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決二四頁三行目から四行目にかけての「乙第六号証、第八号証、原告本人尋問の結果」を「乙第一号証の一、二、第四号証の一ないし七、第六、第八、第一〇、第一一、第一四、第一五号証、第三六号証の一ないし三、第三七号証の一、二、第三八、第三九、第四五ないし第五〇号証(ただし、乙第一〇、第一一、第一四、第五〇号証については後記採用しない部分を除く。)、証人甲野秋子の証言、被控訴人及び控訴人(ただし、後記採用しない部分を除く。)の各本人尋問の結果」と訂正する。
2 同二五頁二行目の「官舎」の次に「(名古屋市守山区小幡)」を付加し、三行目の「八月」を「七月」と訂正する。
3 同二五頁六行目の「五年頃、」を「五年一二月に」と訂正する。
4 同二八頁一〇行目の「原告は、」の次に「控訴人との離婚を決意し、」を付加する。
5 同二九頁四行目から五行目にかけての「その後」を「同年一二月一五日頃」と、七行目の「同年一二月」を「同月」と各訂正する。
6 同三〇頁三行目の「両者の」を「被控訴人は、控訴人との離婚を思いながら、子供達のためには控訴人との生活を維持するほかないとの気持ちでいたことから、控訴人の要請等に対して不満気な態度を示すことが多くなり、また、同居して生活している控訴人の母親との間もしっくりしないものとなって、そのことも影響して、被控訴人と控訴人との」と訂正する。
7 同三〇頁九行目の「原告は、」の次に「再度」を付加する。
8 同三二頁一行目の「確かに、」の次に「甲第一九号証」を付加し、二行目の「及び原告」を「、被控訴人及び控訴人の各」と訂正する。
9 同三二頁八行目の「認められる。」の次に「なお、乙第五二号証及び弁論の全趣旨によれば、甲野秋子は、平成七年九月二五日以降、うつ病と診断されて通院治療をしていることが認められるが、同人がうつ病となったことが被控訴人の同人に対する右のような言動によるものと認めるに足りる証拠はない。」を付加する。
10 同三三頁一行目の「原因になって」を「原因があって」と訂正する。
11 同三五頁八行目の「原告本人尋問の結果」を「乙第一二、第五三ないし第六七、第六九号証、第七〇号証の一ないし三、第七一ないし第八二号証、被控訴人及び控訴人の各本人尋問の結果、名古屋国税局、株式会社東海銀行尾張旭支店(控訴人分及び被控訴人分)、名古屋貯金事務センター(控訴人分及び被控訴人分)、尾張旭三郷郵便局、瀬戸信用金庫三郷支店及び中日信用金庫守山支店に対する各調査嘱託の結果」を付加する。
12 同三五頁一〇行目から三八頁五行目までを次のとおり訂正する。
「(一) 婚姻中に形成された積極財産
(1) 本件土地の取得
控訴人と被控訴人は、昭和五八年一二月九日、本件土地(ただし、当時は、土地区画整理法による換地処分前の尾張旭井田特定土地区画整理組合保留地<番地略>)を代金二一七八万円で買い受け、右代金として、同年一二月九日から昭和五九年一月二〇日までの間に三回に分けて支払った(乙第五三ないし第五七号証)。そして、本件土地につき、右換地処分に伴う登記がされた後の平成二年五月八日、同年一月二七日売買を原因として、控訴人の持分を二一七八分の一九七八、被控訴人の持分を二一七八分の二〇〇とする共有登記がされた(甲第一三号証)。
右売買代金は、被控訴人が控訴人との婚姻前に蓄えた二〇〇万円、控訴人が大蔵省共済組合から借り入れた三二〇万円(以下「借入金①」という。)及び控訴人の父親から贈与された一〇〇万円のほか、控訴人が被控訴人との婚姻前に蓄えていた金員や控訴人と被控訴人との婚姻後に蓄えられた金員などによってまかなわれたが、本件土地に対する被控訴人の共有持分二一七八分の二〇〇は、本件土地の売買代金二一七八万円に対する被控訴人が出捐した右二〇〇万円の割合を反映させたものであった(甲第一三号証、第一七号証の一ないし七、乙第五六号証、控訴人本人、被控訴人本人)。なお、右控訴人が被控訴人との婚姻前に蓄えていた金員が何程であったかについては、これを直接明らかにする証拠はないが、控訴人が、右金員の額を、原審において、一〇五八万一〇三九円であると主張し、当審において、八〇〇万円以上と主張していること、及び、右売買契約が締結されて、売買代金が支払われた時期は、控訴人と被控訴人とが婚姻してから未だ三年に満たない時期であり、その当時の控訴人の給与月額(税込み)が二四万円から二六万円程度であったこと(乙第一九、第二〇号証)等を考えると、本件土地の売買代金のうちの八〇〇万円(控訴人の当審主張額)は控訴人が被控訴人との婚姻前に蓄えていた金員によりまかなわれたものと推認するのが相当である。
右借入金①に対する返済は、控訴人の給与からされ、別居した平成八年一一月末現在の残額は一三一万六〇九八円であった(乙第六〇、第六一号証)。
本件土地の平成八年度の固定資産税評価額は二八二二万六八八〇円であり(甲第一一号証)、他に本件土地の時価を知り得る的確な証拠はない。
(2) 本件建物の取得
控訴人と被控訴人は、平成四年八月、建築会社との間に本件土地上に本件建物の建築請負契約を締結し、建築請負代金は、追加工事契約分を含めて合計三一六二万一〇〇〇円であり、本件建物は、平成五年七月末頃に完成し、同年八月一六日、控訴人の持分を三万一六二一分の二万六六九五、被控訴人の持分を三万一六二一分の四九二六とする共有登記がされた(甲第一四号証、乙第六二号証)。
右建築請負代金は、被控訴人が二九二万六〇〇〇円を負担した(甲第一五、第一六号証、第一八号証の一、二、被控訴人本人)ほかは、控訴人が、住宅金融公庫から二六〇〇万円(一六五〇万円、六〇〇万円及び三五〇万円の三口。以下「借入金②」という。)、大蔵省共済組合から二〇〇万円(以下「借入金③」という。)の合計二八〇〇万円を借り入れてまかなった(乙第六三ないし第六六号証)。被控訴人が負担した右二九二万六〇〇〇円のうち一二〇万二八五〇円は、被控訴人が控訴人との婚姻前にしていた預金を解約して捻出したものであるが、他は、被控訴人が控訴人と婚姻後にパート勤務をして得た収入を預けてできた預金から出捐したものであり、また、右借入金②及び③の返済は控訴人の給与からされた(甲第一七号証の一ないし九、乙第六〇、第六一、第六三ないし第六六号証、東海銀行尾張旭支店及び中日信用金庫守山支店に対する各調査嘱託の結果、被控訴人本人)。なお、本件建物に対する被控訴人の共有持分三万一六二一分の四九二六は、本件建物の建築請負代金三一六二万一〇〇〇円に対する被控訴人が右により実際に負担した金額と今後控訴人が従前より負担してた借入金を返済することになる金額との合計金額の割合を反映させたものであった(甲第一四号証、控訴人本人)。
平成八年一一月末現在の借入金②の残額は二四九七万六八六五円であり、同借入金③の残額は一七五万九六四一円であった(乙第六〇、第六七号証)。
本件建物の平成八年度の固定資産税評価額は一三三七万八二六五円であり(甲第一一号証)、他に本件建物の時価を知り得る的確な証拠はない。
(3) 控訴人及び被控訴人の別居時における預貯金(前掲各調査嘱託の結果)
ア 被控訴人分
四四四万九八〇九円
a 郵便貯金合計
一六一万二一六四円
通常郵便貯金の貯金額
七一万二一六四円
定額郵便貯金五口の元金合計
九〇万円
(控訴人が請求原因に対する認否欄3、(六)において主張する(1)郵便貯金の定額貯金①ないし⑥のうち⑤を除いた元金分の合計額である。なお、右定額貯金⑤については、前記証拠により、平成八年一月九日に引き出されて別居時には存在しなかったことが認められるので、財産分与算定の基礎財産に加えるべきではない。一方、被控訴人は、定額貯金①について別居後のアパート入居費用として費消した旨主張するところ、右主張を認めるに足りる証拠がないので、財産分与算定の基礎財産に加えることにする。)
b 簡易保険掛金合計
四七万六四一五円
平成五年九月一五日申込みの簡易保険(全期払一〇年普通養老)の別居時までの掛け金の合計が二八万三五三〇円であり、平成八年一月九日申込みの簡易保険(六〇歳払込済み特別終身)の別居時までの掛け金の合計が一九万二八八五円であり、右合計は四七万六四一五円である。
c 瀬戸信用金庫三郷支店の普通預金の預金額 三〇万五二三〇円
d 中日信用金庫守山支店預金からの送金分 二〇五万六〇〇〇円
右送金分は、被控訴人の貯蓄を解約、入金した資金によるものである。
イ 控訴人分 一八五万五八六九円
a 郵便貯金合計
五二万〇〇〇〇円
定額郵便貯金七口の元金合計
五二万円
b 東海銀行尾張旭支店の預金合計
一三三万五八六九円
定期預金の預金額
四四万四〇七一円
普通預金の預金額
八九万一七九八円
(右普通預金口座は平成八年一一月二三日当時四万三三九七円の借越しとなっていたが、同年一二月一〇日に控訴人の一二月分賞与一一二万二二三四円が同口座に振り込まれているところ、右賞与一一二万二二三四円のうち九三万五一九五円〔(計算式)一一二万二二三四円÷六か月×五か月〕は被控訴人との婚姻期間中に被控訴人の協力を得て取得されたものと認めるのが相当であるので、結局、財産分与の清算対象とすべき右普通預金口座の預金額は差引き八九万一七九八円となる。)
なお、控訴人分及び被控訴人分の各定額郵便貯金に関しては、それぞれ、別居時における利息(別居時までに発生済みの利息)が存在するのであるが、いずれも、その額が少額である上、別居時における利息額が判明しないものもあるため、公平の観点から、右利息については控訴人分及び被控訴人分とも財産分与算定の基礎財産に加えないことにする。
(二) 婚姻中に形成された消極財産
(1) 本件土地取得に伴う負債
平成八年一一月現在の借入金①残債務 一三一万六〇九八円
(2) 本件建物取得に伴う負債
平成八年一一月現在の借入金②残債務 二四九七万六八六五円
平成八年一一月現在の借入金③残債務 一七五万九六四一円
(三) 控訴人の退職手当受給権
(1) 国家公務員退職手当法(昭和二八年法律第一八二号)によれば、国家公務員に対し、勤続期間と退職事由に応じて同法所定の退職手当を支給するものとしている(同法三条ないし五条。
控訴人は、昭和四八年四月に国家公務員に採用され、以来税務職員として勤務を続け、被控訴人と別居した平成八年一一月二三日までの勤続年数は二三年であり、現在(当審の口頭弁論終結の日)での勤続年数は二七年となるから、控訴人は、現在自己都合により退職した場合でも、同法四条に従って退職手当を受給できるところ、その額を、別居時の平成八年一一月当時の控訴人の俸給額を基にして、同法に従って試算してみると、その額は一六三二万八〇二五円〔同法四条一項、付則二一条を適用し、俸給月額を乙第六一号証により四四万四三〇〇円とし、勤続年数を二七年として試算。(計算式)44万4300円×36.75〕となる。
そして、控訴人が被控訴人と婚姻して別居するまでの間税務職員として勤務したことについては被控訴人の妻としての協力(いわゆる内助の功)があったことを否定することはできないから、控訴人が現在自己都合により退職した場合でも右金額の退職手当を受給できる地位にあることは、それを実際に受給できるのが将来の退職時においてではあるものの、これを現存する積極財産として財産分与算定の基礎財産に加えるべきものである。
もっとも、右試算にかかる退職手当額一六三二万八〇二五円は、控訴人の現在までの全勤続年数に対応するものであるので、そのうち別居時までの被控訴人との婚姻期間である一五年(一年未満切捨て)だけが被控訴人の協力を得て勤務していた期間であるから、右退職手当額のうち右婚姻期間分に対応する額である九〇七万一一二四円〔(計算式)1632万8025円÷27か年×15か年〕の範囲で財産分与算定の基礎財産になるものというべきである。
なお、控訴人は、同法に退職手当支給制限事由の定めがあること(同法八条一項)などを挙げて、控訴人が将来退職手当を受給できるかどうかは不確定であり、したがって、そのような不確定な将来の退職手当受給権を財産分与算定の基礎財産に加えるべきでないと主張するのであるが、右に述べたとおり、控訴人は、現在自己都合により退職した場合でも、前記金額の退職手当を受給できる法的状態にあるのであるから、これを現存する積極財産として、被控訴人の協力に対応した範囲で、被控訴人との離婚にあたっての財産分与算定の基礎財産に加えるのが相当であり、これを右基礎財産に加えないとした場合には、かえって、夫婦が協力して形成した財産の清算を主要な目的とする財産分与制度の趣旨に反して、公平を失する結果となる。
しかし、控訴人への退職手当給付は、控訴人の退職時になされるものであるから、控訴人指摘の支給制限事由の存在、さらには、将来退職したときに受給する退職手当を離婚時に現実に清算させることとしたときには、控訴人にその支払のための資金調達の不利益を強いることにもなりかねないことも勘案すると、被控訴人に対する控訴人の右退職手当に由来する財産分与金の支払は、控訴人が将来退職手当を受給したときとするのが相当である。
(2) 被控訴人は、控訴人が将来定年に達したときに取得する退職手当額を財産分与算定の基礎財産に加え、その二分の一を被控訴人に分与すべきである旨主張する。
現行の国家公務員の定年制度のもとでの控訴人の定年年齢は六〇年であり(国家公務員法八一条の二第二項)、控訴人の生年月日が昭和二三年七月一三日であるので、控訴人がこのまま勤務を継続した場合には平成二一年三月三一日に定年により退職することになり(同条一項)、国家公務員退職手当法八条一項所定の支給制限事由のない限り、同法五条に従って退職手当を受給することができるのである。そして、その場合に控訴人が受給できる退職手当額を、別居時の平成八年一一月当時の控訴人の俸給額を基にして、同法に従って試算してみると、その額は二七八五万七六一〇円となるところ〔同法五条一項、付則二三条を適用し、退職手当額の計算の基礎となる俸給月額を四四万四三〇〇円とし、勤続年数を三六年として試算。(計算式)44万4300円×62.7〕、そのうち別居時までの被控訴人との婚姻期間である一五年に対応する額は一一六〇万七三三七円〔(計算式)2785万7610円÷36か年×15か年〕となる。
しかし、控訴人が将来定年により受給する退職手当額は、控訴人が今後八年余り勤続することを前提として初めて受給できるものである上、退職手当を受給できない場合もあり(前記支給制限事由の存在)、また、退職手当を受給できる場合でも、退職の事由のいかんによって受給できる退職手当の額には相当大きな差異がある(同法四条、五条参照)ため、現在の時点において、その存否及び内容が確定しているものとは到底言い難いのであるから、このような控訴人の将来の勤続を前提とし、しかも、その存否及び内容も不確定な控訴人の定年時の退職手当受給額を、現存する積極財産として、財産分与算定の基礎財産とすることはできないものというべきである。
もっとも、控訴人が将来定年により受給する退職手当額についても、控訴人が被控訴人と婚姻して別居するまでの間の勤続分が含まれ、右勤続の間に被控訴人の妻としての協力(いわゆる内助の功)があったことは前記のとおりであるところ、控訴人が将来定年退職した時に受給できる退職手当額のうち被控訴人との別居までの婚姻期間である一五年に対応する額一一六〇万七三三七円は、控訴人が現在自己都合により退職したときに受給できる退職手当額のうち右婚姻期間分に対応する額である九〇七万一一二四円に比べて相当に増額となる関係にあるので、右のことは、民法七六六条三項の「その他一切の事情」として、控訴人が退職手当を受領するときに被控訴人に対して支払うべき財産分与の額を定めるに当たって、これを考慮することとする。
(四) その他財産分与に当たって考慮するべき事情
(1) 将来の控訴人の退職共済年金
控訴人は、昭和四八年四月に国家公務員に採用されて以来、被控訴人との婚姻期間も含めて、その所属する大蔵省共済組合に対し、控訴人に支払われる給与から掛金(短期掛金及び長期掛金)の支払をしている(乙第一七ないし第三三、第六一号証。国家公務員共済組合法一〇一条一項参照)。
ところで、被控訴人は、控訴人が被控訴人との婚姻期間(ただし別居時まで)中に共済組合に対して支払った短期掛金及び長期掛金の総額を財産分与対象財産に加え、その二分の一を被控訴人に分与すべきである旨主張する。
しかし、控訴人が支払っている右掛金のうち短期掛金は、単年度経理の対象となる療養の給付などの短期給付等に要する費用に充てられるものである(国家公務員共済組合法五一条、九九条等参照)ため、その支払によって当然に控訴人が何らかの具体的な財産的権利を取得するわけではない。
また、控訴人が支払っている右掛金のうち長期掛金は、国家公務員共済組合連合会が、同法に従って、組合員に対して行う退職共済年金等の長期給付に要する費用(昭和六一年四月以降の同費用には、控訴人の基礎年金拠出金の納付に要する費用だけでなく、控訴人の配偶者である被控訴人の基礎年金拠出金の納付に要する費用も含まれる。同法九九条一項、国民年金法九四条の二、同条の三及び同条の六等参照)の一部に充てられるため(昭和六一年四月以降の長期給付に要する費用については、原則として、基礎年金拠出金の納付に要する費用の三分の一を国が負担するが、それ以外は、その五〇パーセントを組合員による掛金で、他の五〇パーセントを事業者としての国の負担金でまかなうものとされている。国家公務員共済組合法九九条一項参照)、控訴人が、将来、同法所定の退職共済年金の受給資格を取得し(同法七六条等参照)、同法所定の退職共済年金を受給する権利(同法七七条等参照)は、右長期掛金の支払に対応する面があることは否定できない。しかし、控訴人が被控訴人との婚姻期間中に支払った右長期掛金には、右のとおり控訴人に係る基礎年金拠出金分のみならず、その配偶者である被控訴人に係る基礎年金拠出金分も含まれているのであるから、その全額が控訴人の右退職共済年金受給権に直接関連しているわけでなく、かつ、そのうち右退職共済年金に対応する掛金額を明らかにすることもできないので、控訴人が被控訴人との婚姻期間中に支払った右長期掛金を、控訴人と被控訴人がその婚姻中の協力によって形成され、離婚に当たって清算されるべき共同財産であるとすることはできない。なお、右退職共済年金受給権は、控訴人が将来同法所定の退職共済年金の受給資格を取得した場合(同法七六条等参照)に限って受給できるのであり、その受給期間も控訴人の生存期間によって変動し、ひいては、控訴人が受給する退職共済年金の総額の算定も困難であるというほかないものであるので、このような不確定的な要素の多い将来の退職共済年金受給権については、離婚に当たって清算されるべき共同財産であるとすることはできない。
したがって、被控訴人の前記主張は採用できない。
もっとも、右退職共済年金受給権は、前記のとおり、控訴人が支払をしている長期掛金の支払に対応する面があることも否定できない上、控訴人の勤務年数(組合員期間)は現在(当審の口頭弁論終結時)既に二七年六か月であって、同法七六条の受給資格の一部を満たしていることでもあるので、将来控訴人が退職共済年金を受給できる権利を取得できる地位にあること(控訴人が、実際に、右退職共済年金受給権を取得した場合には、右退職共済年金受給権に基づく給付のほか、国民年金における老齢基礎年金を受給できるが、離婚した被控訴人は国民年金における老齢基礎年金だけを受給することになって、控訴人の受給する年金額が被控訴人の受給する年金額に比較して相当に充実していることになる。)は、民法七六六条三項の「その他一切の事情」として、被控訴人に対する財産分与を定めるに当たって、これを考慮することとする。
(2) 控訴人及び被控訴人の離婚後の生活状況の見込み
控訴人は、本件建物に居住して、控訴人と被控訴人との間の長女及び次女(いずれも未成年者)の親権者としてその監護及び教育をするほか、高齢の母親を同居させ(なお、父親は平成一二年八月に死亡した。)、その世話をしていくつもりであり、また、控訴人は、今後も、長期間前記各借入金に対する返済を続けていく必要がある。なお、控訴人の平成八年度の給与収入は九〇八万八六三一円(税込み)であった。
他方、被控訴人は、単身賃貸アパートで生活し、働いて自活していくつもりであり、控訴人と別居して後の平成九年度の給与収入は二七〇万七六三一円(税込み)であった(乙第一二号証)。
(3) なお、控訴人は、別居後に控訴人が負担した長女及び二女の養育や控訴人の両親の扶養に要した費用、さらには、今後の養育や控訴人の母親の扶養に要する費用は、財産分与算定の基礎財産からまず控除すべきである旨主張する。
控訴人の右主張は、離婚までの養育費及び扶養費については婚姻費用の分担と清算に関する主張と、また、離婚後の養育費については養育費の分担に関する主張と解する余地があるが(なお、離婚後において、被控訴人が控訴人の母親に対して扶養義務を負担するものではない。)、前記した控訴人と被控訴人の収入関係を前提とすると、単身アパートを借りて生活する被控訴人に右分担を求めうるものとは認め難いのであり、離婚後の養育費に関しては、そのときの控訴人と被控訴人との負担能力に基づいて、別途、控訴人から被控訴人に対し養育費の分担を求めるべきものである。
したがって、控訴人の右主張は採用できない。
(五) 財産分与の額と方法
以上の事実関係により、被控訴人に対する財産分与の額と方法について検討する。
なお、前記した諸事情によると、被控訴人については、控訴人が被控訴人に対し離婚後の扶養のための財産的給付をする必要まではないものというべきである。
(1) 清算対象財産額
ア 本件土地について
本件土地取得の経緯及び取得代金の出捐関係は前記(一)(1)のとおりであるので、本件土地のうち9.2パーセント分(全体に対する被控訴人の共有持分の割合であり、本件土地取得代金額二一七八万円に対する被控訴人の出捐額二〇〇万円の割合でもある。)は被控訴人と控訴人との婚姻中の協力によるものとはいえないし、同様に、本件土地のうち41.3パーセント分(本件土地取得代金額二一七八万円に対する控訴人の出捐額九〇〇万円(控訴人の父親の出捐額一〇〇万円を含む。)の割合である。)も、被控訴人と控訴人との婚姻中の協力によるものとはいえないから、本件土地のうち49.5パーセント分だけが被控訴人と控訴人との婚姻中の協力によるものといえる。
本件土地の別居時における価格は二八二二万六八八〇円であるので、その49.5パーセント分に相当する一三九七万二三〇六円が清算対象となる共同財産である。なお、本件土地のうち被控訴人の共有持分である9.2パーセント分は二五九万六八七三円と評価される。
イ 本件建物について
本件建物取得の経緯及び取得代金の出捐関係は前記(一)(2)のとおりであるので、本件建物のうち3.8パーセント分(本件建物取得代金額三一六二万一〇〇〇円に対する被控訴人の出捐額一二〇万二八五〇円の割合である。)に相当する被控訴人の共有持分三万一六二一分の1202.85(登記上の被控訴人の共有持分三万一六二一分の四二九六の一部)は被控訴人と控訴人との婚姻中の協力によるものとはいえないから、本件建物のうち96.2パーセント分だけが被控訴人と控訴人との婚姻中の協力によるものといえる。
本件建物の別居時における価格は一三三七万八二六五円であるので、その96.2パーセント分に相当する一二八六万九八九一円が清算対象となる共同財産である。なお、本件建物のうち被控訴人固有分である3.8パーセント分は五〇万八三七四円と評価される。
ウ 預貯金について
前記(一)(3)のとおりであって、被控訴人名義の預貯金が四四四万九八〇九円であり、控訴人名義の預貯金が一八五万五八六九円であるが、その全部である合計六三〇万五六七八円が被控訴人と控訴人との婚姻中の協力によるものとして清算対象となる共同財産である。
エ 負債について
前記(二)のとおり、借入金①、②及び③の残債務合計二八〇五万二六〇四円はいずれも本件土地及び本件建物取得のための負債であることが明らかである。
オ 控訴人の退職手当受給権
前記(三)のとおり、控訴人が現在自己都合により退職した場合に国家公務員退職手当法に基づいて受給できる退職手当額は一六三二万八〇二五円と試算され、そのうち別居までの婚姻期間に対応する一五年分の九〇七万一一二四円が財産分与算定の基礎財産となる。
(2) 被控訴人の寄与度
前記認定の諸事実によれば、右アないしオの積極、消極の清算対象財産額に対する被控訴人の寄与度はその二分の一とするのが相当である。
(3) 分与額と方法
① (1)のアないしエにかかる清算対象財産関係
(1)アの一三九七万二三〇六円、イの一二八六万九八九一円及びウの六三〇万五六七八円の合計三三一四万七八七五円からエの二八〇五万二六〇四円を差し引くと五〇九万五二七一円となり、これがアないしエにかかる清算対象財産額である。
被控訴人の寄与度はその二分の一であるから、右清算対象財産額についての被控訴人の取得分は二五四万七六三五円となる。
② 本件土地及び本件建物の各被控訴人の共有持分(固有分)の清算関係
被控訴人は、本件土地及び本件建物に対する被控訴人の共有持分についてこれを控訴人に取得させて金銭で清算すべきである旨主張しており、控訴人においても、これら不動産の取得を前提として生活設計をしていることでもあるので、財産分与制度における離婚に伴う夫婦財産関係の一挙的清算の趣旨も勘案して、財産分与の一環として、本件土地及び本件建物のうちの各被控訴人の共有持分(固有分を含む。)をいずれも控訴人に取得させ、固有分としての被控訴人の共有持分に関して、被控訴人に対しそれぞれ前記各評価額である二五九万六八七三円、五〇万八三七四円(この合計三一〇万五二四七円)を支払わせるのが相当である。
③ 控訴人の退職手当受給権
控訴人の退職手当受給権は、前記のとおり、九〇七万一一二四円の範囲で財産分与算定の基礎財産に加えられるべきであり、その清算としての控訴人から被控訴人に対する支払は、控訴人が退職手当を受給したときに、控訴人の前記寄与度である二分の一に当たる額を支払うべきものであるところ、控訴人が、前記(三)(2)及び(四)(1)のとおり、(ア)定年まで勤続した場合に増額した退職手当額を受給することができる地位を有すること及び(イ)将来退職共済年金を受給することのできる地位を有することも考慮すると、控訴人が退職金の支給を受けたときに被控訴人に対して支払うべき財産分与額は五五〇万円とするのが相当である。
④ 右①及び②によれば、被控訴人に対する財産分与として、本件土地及び本件建物は被控訴人の固有財産としての共有持分も含めて全部控訴人に取得させた上、控訴人名義及び被控訴人名義の預貯金はそれぞれ各名義人に取得させることとし、被控訴人が前記(3)①及び②により取得できる五六五万二八八二円(①二五四万七六三五円と②三一〇万五二四七円の合計)に不足する一二〇万三〇七三円(右五六五万二八八二円から被控訴人が取得する預貯金等四四四万九八〇九円を差し引いた残額)を離婚時に控訴人に支払わせるのが相当である。なお、被控訴人は、本件土地及び本件建物に対する被控訴人の共有持分の控訴人に対する移転を、控訴人の財産分与金の支払と引き換えにすべき旨申し立てているが、控訴人の被控訴人に対する右一二〇万三〇七三円の支払は、被控訴人が本件土地及び本件建物に対して有する固有の共有持分を控訴人に譲渡する対価の一部と見るべき実質を有するとしても、その過半は計算上支払済みの関係となることも考えると、引換給付までの必要はないものというべきである。
そして、右③により、控訴人は、退職手当を受給したときに、被控訴人に対し五五〇万円の財産分与金を支払うべきである。」
二 まとめ
以上によると、被控訴人の請求は、そのうち離婚請求は理由があるので、これを認容し、長女及び次女の親権者を控訴人と定め、慰謝料請求は、控訴人に対し、二五〇万円及びこれに対する婚姻関係破綻後であることが明らかな平成八年一二月一九日から支払済みまで民事法定利率による年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので、これを認容し、その余は失当として棄却し、財産分与として、本件土地及び本件建物に対する被控訴人の共有持分を控訴人に譲渡させて、その旨の持分移転登記手続を命ずるとともに、控訴人から被控訴人に対し、離婚時に一二〇万三〇七三円、控訴人が退職手当の支給を受けたときに五五〇万円を支払わせることとする。
第四 結論
よって、本件控訴に基づき原判決を右趣旨に変更し、本件附帯控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条、六四条、六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・大内捷司、裁判官・長門栄吉、裁判官・加藤美枝子)