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名古屋高等裁判所 平成12年(行コ)37号 判決 2002年4月18日

主文

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人がAに対して平成4年3月4日付けでした次の各処分のうち、原判決別表一ないし四記載の「審査請求」欄の金額を超える部分をいずれも取り消す。

(1)  Aの昭和63年ないし平成2年分の所得税の各更正処分並びに過少申告加算税の各賦課決定処分

(2)  Aの平成2年期分の消費税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分

3  訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。

第2事案の概要

本件は、Aが、昭和63年ないし平成2年分(以下「本件係争各年分」という。)の所得税と平成2年期分(以下「本件係争年期分」という。)の消費税についてそれぞれ確定申告をしたところ、被控訴人が、反面調査によって把握したAの取引金額をもとに、いわゆる同業者比率法を用いてAの総所得金額を推計した上、消費税については仕入税額の控除をしないで、その所得税と消費税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下、所得税の各処分を「本件所得税各処分」と、消費税の処分を「本件消費税処分」とそれぞれいい、これらの処分を併せて「本件各処分」という。)をしたのに対し、Aが、本件各処分は推計の必要性と合理性を欠いているほか、本件消費税処分については仕入税額の控除をしていない点で違法があるなどとして、本件各処分の取消しを求めた事案(原審の係属中にAが死亡し、その妻である控訴人が訴訟を承継したもの)であり、原判決が本件各処分は適法であるとして控訴人の本訴請求を棄却したため、控訴人が控訴したものである。

1  争いのない事実等、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり加除訂正するほか原判決の事実及び理由欄の「第二の一ないし三」に摘示のとおりであるから、これを引用する。

(1)  原判決別表三の更正及び賦課決定の項中の所得税額欄「1,890,600」を「1,712,400」と、同別表四の更正及び賦課決定の項中の所得税額「1,944,390」を「1,934,300」と改め、同別表六の売上先欄の16段目及び同別紙一五の売上先欄の16段目の「C」をいずれも「C’」と改める。

(2)  同10頁6行目の「金額となる」の後に「(円未満切上)」を加える。

(3)  同23頁6行目の「勤務先の職員から」を「勤務先の雇主夫婦から」と改める。

(4)  同26頁6行目の「必要経費率」を「必要経費」と改める。

(5)  同49頁11行目から50頁1行目の「仕入税額控除」の後に「の否認」を加える。

(6)  同50頁11行目の「通知」を「連絡」と改める。

(7)  同51頁7行目の「指導文書の内容」を「指導文書において『帳簿等の提示を拒むなど非協力的な場合で、仕入税額控除をするためには帳簿等の保存が必要であることを再三にわたって教示したにもかかわらず仕入に係る帳簿等を提示しないときは、仕入税額控除を認めない』と指導されていること」と改める。

(8)  同55頁2行目の「総収入金額」の後に「7065万7331円」を加える。

(9)  同頁7行目の「控除対象仕入税額」を「控除対象仕入額6011万7411円」と改める。

(10)  同56頁3行目の「控除対象仕入税額」を「控除対象仕入額」と改める。

(11)  同頁6行目の「本件係争年期分の」から7行目の「超えるから、」までを削除する。

2  当審における控訴人の補足的主張

(1)  本件調査の経緯について

① Aは、D調査官、E調査官との間で電話連絡したことはないし、D調査官から平成4年2月25日に調査結果の告知を受けた以外に同調査官と直接会って話したこともなく、またD調査官がA宅の郵便受けに乙5、6の書面(以下「本件各文書」という。)を投函した事実はない。

② 前記各事実を肯定するのは乙11(Dの申述書)及びDの原審証言(以下「D証言等」という。)であるところ、DはD証言等の客観的裏付けとなる同人作成の「調査メモ等」に基づくものである旨証言するが、控訴人の要求にもかかわらず、被控訴人は、その「調査メモ等」を本件訴訟において提出しようとしないし、提出しない合理的説明もない。したがって、D証言等は信用に値しないというべきである。

③ 特に、D調査官がA宅の郵便受けに本件各文書を投函した事実のないことは、次の点からも明らかである。

すなわち、第1に、被控訴人は、D調査官がA宅に投函した文書のうち3通の連絡文書(甲B5ないし7、以下「件外各文書」という。)を保管していないのに、本件各文書を保管しているというのは不自然である。第2に、本件各文書は時期的に件外各文書の交付の中間時期に交付され、かつ件外各文書の作成者と同一人であるD調査官により作成されたとされるにもかかわらず、Aの名前が、件外各文書では「A」と正確に記されているのに本件各文書では「A’」と誤記されており、同一人の同一時期において作成された文書かどうか疑問である。第3に、本件各文書は件外各文書と比較すると、従来の調査経過が殊更詳細に記載され、しかも消費税の仕入税額控除の否認に関する教示が記載される等、不自然な記載内容となっている。

④ このように、D証言等は全く信用性がなく、本件において、税務職員がAに対して、税務調査の協力を求めたり、帳簿等の提示を再三にわたって求めたという事実はないのであるから、Aが帳簿等の提示を拒否した事実もない。Aが調査に応ずることに積極的ではなかったとしても、本来税務調査は任意調査であって、積極的に自ら進んで調査に応じる義務はないのであるから、被調査者たるAが消極的な態度をとったからといって、これを根拠に提示要求を拒否したと擬制されることのないことは明らかである。よって、Aの所得につついて推計の必要性はないし、税務調査当時における帳簿等の不保存を推認することもできない。

(2)  帳簿等の保存(法30条7項)について

① 我が国の現行消費税の制度的本質は、売上額から仕入額を控除した付加価値に課税をするという累積排除型の間接税であり、かつ付加価値税であるから、法の解釈に当たっては付加価値税たる消費税の本質に反しない解釈をすべきである。したがって、法30条7項の「帳簿等の保存」がない場合は、当該仕入について税額控除しないという文言を形式的に解釈すると、仕入税額控除を認めるための要件はあくまで「帳簿等の保存」であると解することも不可能ではないが、その場合でも、可能な限り仕入税額控除を認めるべく解釈をすべきであり、安易に仕入税額控除を否定することは許されない。このような観点からすると、「帳簿等の保存」とは単に物理的客観的に帳簿等が保存されていれば足り、それ以上の要件は必要がなく、付け加えるべきではないと解すべきである。

② 法令が帳簿等の「保存」について規定する要件は、(ア)帳簿等の存在、(イ)法30条8項1号、9項1号の記載要件を充足したものであること、(ウ)帳簿等を整理していること、(エ)請求書等を一定期間継続して保存すること、(オ)納税地等定められた場所で保存することである。控訴人は、原審において課税仕入れに関する請求書等を書証として提出しているから、前記(ア)、(イ)、(エ)の存在が推認されるし、また、令が帳簿等の整理を求めた趣旨、法の立法の経緯、我が国の消費税は累積排除型の間接税であり、かつ付加価値税であるという制度的本質からすると、納税者が申告に際して、収入の資料に基づき収入を計算し、経費の資料に基づき経費を計算した上で、それらを区別して保管していれば、令50条1項にいう「整理」の要件を満たすというべきであるところ、Aは請求書等を各月ごとにまとめて封筒等に入れておき、申告時の資料として使用した後は、その年分の請求書等を一つ或いは複数の封筒等に入れて保管していたから、前記(ウ)の事実も存する。

③ また、税務調査等のために税務職員により帳簿等の適法な提示要求がされたにもかかわらず、納税者が正当な理由なくこれに応じなかったとしても、その当時において、法定の要件を満たした状態での帳簿等の保存がなかったことが常に推認されるわけではない。何故なら、帳簿等の存在はあっても、他の理由によって提示されなかったという場合もあり得るからである。したがって、提示すべき帳簿等がなかったから提示できなかったのではないかと経験則上考えられ得る具体的な事情を問題にするべきであり、税務職員の提示要求に対して、Aが自己の仕事の都合を優先させ、又は税務職員の取引先等に対する反面調査に対する不満を原因として、帳簿等が提示されなかったという事実から、帳簿等の保存がなかったという事実を推認することはできない。

④ さらに、令50条1項は請求書等を「整理」して保存しなければならないと規定しているが、この「整理」を仕入税額控除の要件と解することは、整理という文言が一義的に明確であるとはいえないから、租税法律主義の立場からは許されない。仮に「整理」が課税要件であるとしても、納税者が納税地において課税年度毎に請求書、領収書等を保存し、他の課税年度のものが混在していない状態であれば、令50条1項の「整理」の要件を満たしていると考えるべきである。Aは、毎年の確定申告時には、封筒に入れて保管していた資料に基づいて、収入・経費・所得を計算し、特に経費の資料については費目毎にまとめて一つ或いは複数の封筒等に入れ、各年毎に整理して保管していたのであるから、本件仕入税額にかかる請求書等を整理して保存していた事実が認められるべきである。

(3)  実額反証について

Aは、50枚綴りの複写式の請求書用紙を使用しており、請求書控は一冊綴りのまま存在している。二冊以上の綴りを同時に使用していたので、単純に一冊ずつ日付順に記載されているとはいえないが、各綴りを見れば、概ね日付順の売上が記載されていることは明らかである。請求書用紙の綴りは会計帳簿ではないにしろ、「取引を具体的かつ時系列的に記録した」資料である。控訴人は、この資料に基づいて、期末・期首の処理を行い、請求書控と領収証控の記載が異なる場合等には最も合理的というべき金額を採用して運送料収入を算定したのである。

3  当審における被控訴人の補足的主張

(1)  本件調査の経緯について

この点に関する控訴人の前記主張は否認ないし争う。

(2)  帳簿等の保存(法30条7項)について

本来、帳簿等の保存とは、字義から単に存在すればよいというものではなく、その存在の場所や状態とも密接に関係するものであって、税務職員等が帳簿等の記載内容を確認して申告の適否を判断することを前提とした概念であるから、税務調査等のため税務職員等により適法な提示要求がされたときはこれに直ちに応じることができるような状態での保存と解すべきであり、また、税務職員等の適法な提示要求にもかかわらず、正当な理由なくこれに納税者が応じなかったときは、その時点において帳簿等の保存のなかったことが事実上推定されるということは、裁判官の自由心証に属する事柄であり、いずれも租税法律主義に反するものではない。

これを本件についてみるに、AはD調査官らの適法な提示要求に対して正当な理由なく帳簿等の提示を拒否したのであるから、本件税務調査の段階で帳簿等の保存のなかったことが事実上推定される一方、控訴人が原審で帳簿等に当たるとして提出した請求書等の書証は、控訴人が主張するAの所得金額が異議調査から訴訟に至る段階で変動し、請求書等の中には未整理であったものを整理して提出したものがあることからしても、前記事実上の推定を覆す程度にまで、Aあるいは控訴人が請求書等を法定の状態で継続して保存していたことを立証したとはいえない。

(3)  実額反証について

そもそも、被控訴人の推計課税に対する控訴人の実額反証の中には「推計計算」が含まれているのであり、この一事をもってしても既に実額反証といえないことは明らかである。

第3当裁判所の判断

1  本件調査の経緯について

この点に関する判断は、次のとおり加除訂正するほか原判決の事実及び理由欄の「第三の一」に説示のとおりであるから、これを引用する。

(1)  原判決57頁1行目の「七一、」の後に「73、」を、2行目の「証人F、」の後に「証人G(原審)、」を加え、同行目の「原告本人H」を「控訴人本人(原審及び当審)」と改める。

(2)  同58頁1行目の「題する書面」の後に「(甲B5)」を加え、同3行目冒頭から5行目末尾までを「同書面には、『本日時に伺ったが不在であったこと、9月13日午前10時頃再度伺うので在宅されたいこと、当日都合の悪い場合には、予めその旨及び都合の良い日を連絡するように』等と記載されていた。」と改める。

(3)  同頁6行目冒頭から9行目末尾までを削除する。

(4)  同60頁7行目末尾に「一方、Aは、同日頃、取引銀行からの連絡で、被控訴人による反面調査が開始されたことを知った。」を加える。

(5)  同61頁3行目の「原告本人H」を「控訴人本人(原審及び当審)」と改める。

(6)  同頁9行目の「、自宅を数回訪れるなどし」を削除する。

(7)  同63頁3行目の「題する書面」の後に「(甲B6)」を加え、同4行目冒頭から5行目末尾までを「同書面には、『Aの所得税・消費税の調査のため、伺ったが当日は都合が悪いとのことであったこと、都合の良い日を連絡するようにお願いしたが、その後連絡なく、本日再度伺ったが不在であったこと、12月25日までに、都合の良い日を連絡するように』等と記載されていた。」と改める。

(8)  同64頁1行目の「題する書面」の後に「(乙5)」を加え、同3行目冒頭から6行目末尾までを「同書面には、『Aの所得税・消費税の調査のため、平成3年9月から会いたい旨の連絡をしてきたが、Aの都合で会えなかったこと、同年12月20日に同月25日までに連絡されたい旨の文書を玄関前の郵便受けに差し置いたが、その後連絡のなかったこと、本日午後4時に伺ったが不在であったこと、1月17日午前9時までに連絡されたいこと、なお、消費税の仕入税額控除に係る帳簿又は請求書等の保存が確認できない場合は、仕入税額控除ができなくなること』等と記載されていた。」と改める。

(9)  同67頁6行目の「題する書面」の後に「(乙6)」を加え、同8行目冒頭から同68頁1行目末尾までを「同書面には、『Aの所得税・消費税の調査の連絡を、9月からしてきたが、Aの都合で会えなかったこと、平成4年1月17日にAからの電話で1月27日午前10時に伺う旨伝えたが、1月27日にFから2月1日にして欲しい旨の連絡を受けたので、同日午前10時に来署するように、また同日の都合を1月28日までに連絡するように伝言したこと、1月28日に連絡がなかったため、1月31日にFに伝言をAに伝えたかどうか確認したところ伝えたとの返事であったこと、2月1日に待っていたが来署がないため、同日午前10時から11時までA宅に架電したが不在であったこと、本日午後3時に伺ったが不在であったこと、2月4日午前9時までに連絡されたいこと、このまま会えない場合でも調査を進めて課税処分することになること、なお、消費税の仕入税額控除に係る帳簿又は請求書等の保存が確認できない場合は、仕入税額控除ができなくなること』等と記載されていた。」と改める。

(10)  同68頁2行目の「(一九)」の後に「Aの所得税及び消費税の確定申告に関して以前から相談に乗っており、本件調査についても相談を受けた」を加える。

(11)  同頁9行目の「法人税の調査について抗議し」を「調査について、その税務職員の名を上げて抗議したが、I統括官から、同職員は法人課税部門の職員であり、同取引先に対する調査は法人税の調査であって本件調査とは関係がない旨の説明を受け、抗議の対象相手が個人課税部門ではないことについて一応了解したが」と改める。

(12)  同69頁10行目の「納得できない様子であった」を「納得しなかった」と改める。

(13)  同70頁2行目冒頭から76頁1行目末尾までを次のとおり改める。

「2 以上のとおり認められるところ、これに反して、控訴人は、前記(原判決摘示、当審における補足的主張)のとおり、AがD及びE各調査官との間で電話で連絡し合ったことは全くないし、D調査官から平成4年2月25日に調査結果の告知を受けた以外に同調査官と直接会って話したこともなく、またD調査官からA宅に件外各文書以外に本件各文書を投函された事実もない旨主張し、これに沿う甲B73、証人Fの証言及び控訴人本人(原審及び当審)の供述もあるので、検討する。

(1) 本件各文書の投函の有無について検討する。控訴人は、第1に、D調査官(被控訴人)が件外各文書(写し)を保管していないのに、本件各文書(写し)を保管しているというのは不自然であり、第2に、本件各文書は時期的に件外各文書の投函の間に交付され、かつ件外各文書の作成者と同一人であるD調査官により作成されたとされるにもかかわらず、Aの名前が、件外各文書では『A』と正確に記されているのに本件各文書では『A’』と誤記されており、同一人の同一時期において作成された文書かどうか疑問であること、第3に、本件各文書は件外各文書と比較すると、従来の調査経過が殊更詳細に記載され、しかも消費税の仕入税額控除の否認に関する教示が記載される等、不自然な記載内容となっている等として、本件各文書が控訴人宅に投函されたことはなく後日ねつ造されたものである旨主張する。

なるほど、控訴人指摘の前記第2の疑問はもっともであると受け取れないではないが、件外各文書の内甲B5、6の文書は『A』を使用して氏名が手書きされ、甲B7の文書はワープロ印字された『A’』に、『A』の字の第1、2画目を手書きで書き加えられているのに比し、本件各文書はワープロ印字された『A’』のままであること、またD調査官作成の申述書(乙11)ではワープロ印字された『A』(ワープロの作字機能により作字されたものと推察される。)となっていることが認められる。件外各文書は控訴人宅に投函された書面自体であるが、本件各文書は控訴人宅に投函された書面自体ではなく、その書面の写しをD調査官が後日のために保管していたというものであるから、ワープロ印字された『A’』のままで、甲B7の文書のごとく『A』の字の第1、2画目を手書きで書き加えることなく保管されたとしても不自然ではない。また、その保管されていた本件各文書(写し原本)には、ホッチキスの跡があり、糊付けされた跡もあるというのである(D証言)から、D調査官(被控訴人)がそのようなことまでして本件各文書をねつ造したものとは考えがたい。

控訴人指摘の第1、第3の疑問点については、本件各文書投函当時における本件調査の経緯及び消費税の仕入額控除否認に関する教示という事実を証拠として残すために記載したうえで保管していたとするD証言をもって、直ちに控訴人主張のように不自然であるとも言い難いから、採用することはできない。

また、本件各文書を投函したとする控訴人宅の郵便受けの所在位置及びその形状に関するD証言はあまりに具体的詳細であり、かえって不自然であるとの控訴人の指摘もあるが、控訴人は、当初、件外各文書のうち甲B6の文書が郵便受けに差し入れられていたことを認めていたのであり(被控訴人の平成6年9月1日付け第一準備書面における本件調査の経緯に関する主張に対する認否を含む控訴人の原審平成6年10月20日付け準備書面(一)参照)、当初から、郵便受けではなく玄関の引き戸の桟に挟んで投函されていた(甲B16、B75、控訴人の原審供述)旨反論していたものではないし、他方、被控訴人は、当初から控訴人宅の郵便受けに投函した旨主張し、D証言等も同旨であり、本件各文書のうち乙5の文書にもその旨の記載がみられるように、控訴人より被控訴人の主張、D証言等の方に一貫性がある。

(2) 次に、AがGとともにI統括官に対し本件調査について抗議した平成4年2月6日に、D調査官も同席していたかどうかについて、控訴人は同席していなかったと主張し、原審証人Gもこれに沿う証言をする。しかしながら、D証言等のうち前記抗議の際の状況に関する部分については、証人Gも一部これを認める証言をしており、その場に同席していなければできない証言内容であることが指摘でき(D調査官がI統括官から後日抗議の様子を聞いただけで、できる証言とは考えられない。)、また、D証言中には、Aと会った際に同人は『J』及び『K』のネーム入りジャンパーを着用していた旨の部分があるところ、証拠(甲B66、67、原審証人G、控訴人本人[原審])によると、Aは両方のネーム入りのジャンパーを持っておらず、a税務署に赴いた平成4年2月6日及び同月25日のうちのいずれかの日にいずれか一方の前記ネーム入りのジャンパーを着用していたことが認められるのであり、そうすると、Dの前記証言部分は客観的事実に反するものではあるが、逆にD調査官が前記両日にAと会っているが故に記憶が混在したことによる可能性もあることが指摘できるから、これをもって虚偽の証言と断ずることはできない。

(3) また、AがD及びE各調査官と電話連絡を取り合ったかどうかについて、これを肯定する乙5、6及びD証言等とこれを否定する原審証人Fの証言及び控訴人本人の原審供述があるところ、原審証人Fの証言の大要は、「平成3年9月10日午前8時半頃、D調査官から臨戸予定の13日の都合を聞く問い合わせの電話に応対し、Aに確認して連絡する旨返答し、当日の夜、AにD調査官からの伝言を伝えた。同月12日朝、Aから『13日は忙しいので在宅することはできない旨連絡するように。』と頼まれ、同日午前8時40分頃、勤務先からD調査官にその旨連絡したところ、D調査官から都合の良い日を聞いて連絡するように依頼され、その後これをAに伝えた。10月に入り、D調査官から勤務先に『連絡を待っていたのに何も言ってこないが、どうなっているか。』との問い合わせがあり、『Aに聞いてみる。』と返答した。D調査官からFの勤務先に、このような問い合わせの電話が2週間の間に3回ぐらいあり、その都度Aに伝えて、直接D調査官にAから連絡するように頼んだが、Aは『仕事が忙しいから予定が付かず電話もできない。』と言っていた。D調査官から度々あった電話について勤務先の雇主から問い質され、いやな思いをし、雇主夫婦ともうまくいかなかったので、平成4年3月末をもって退職した。」というものであり、控訴人本人も「平成3年10月頃に、Fから勤務先に税務署から時々電話が入るので困ると聞いた。AもFが困っていることを聞いて、税務署に行って来ないといかんなと言っていた。また、控訴人が、平成3年10月2日、E調査官に『今日はAの都合が悪いから延期してくれ。』と電話連絡したことはない。」(原審)というものである。

ところで、Aは、被控訴人による本件調査に関して、取引先に対する反面調査に加えて、Fの勤務先にまで度々電話してきたということについて、本件各処分に対する異議申立ての段階から本件訴訟に至るまで一貫して不満を抱いていたことが明らかである(甲B73、乙45の1、原審証人L)ところ、そうであるなら、Fの前記証言によると、税務職員からFの勤務先に度々電話のあったのは平成3年10月までであり、その頃にFがこれについて困っていることを聞いていたというのであるから、娘であるFの困惑を心配する父親のAとしては、その電話のあった当時において、D調査官なりその上司なりに対して、すみやかに抗議等の手段を講じることがあってもよいと考えられるのに、平成3年内にAがこのような行動をとった形跡はない。そして、本件調査に関して、AがGとともに抗議のためa税務署に赴いた平成4年2月6日は、D証言等によりD調査官がFと電話連絡を取り合ったとされる平成4年1月27日から同年2月1日の直後であることが指摘できる。以上の点に鑑みると、D調査官とFとの間でされた電話連絡の時期について、F証言及び控訴人本人の供述よりもD証言等の方が前記のような時間的経過に照らして自然かつ合理的であるというべきであるから、この点に関するF証言及び控訴人本人の供述部分は信用性に乏しいというほかない。」

2  推計の必要性、合理性

この点に関する判断は、次のとおり付加訂正するほか原判決の事実及び理由欄の「第三の二、三」に説示のとおりであるから、これを引用する。

(1)  原判決78頁3行目の「証拠(」の後に「乙1ないし4、」を加える。

(2)  同81頁4行目から5行目の「がうかがわれることから」を「はF自身が認めているところであり(同人の原審証言)」と改める。

(3)  同82頁1行目の「検討するに、」の後に「証拠(甲B47、乙12ないし17、原審証人M)によると、」を加える。

3  実額主張の成否について

この点に関する判断は、原判決88頁6行目の「第三」を「第二」と改めるほか原判決の事実及び理由欄の「第三の四」に説示のとおりであるから、これを引用する。

4  本件所得税各処分の適法性について

Aの本件係争各年分の総収入金額が原判決別表五ないし七の各「売上金額明細表」に記載のとおりであることは同表摘要欄に記載の各書証(但し、同別表五の摘要欄の2段目に「乙19」を、同5段目に「乙23」を、同別表六の摘要欄の2段目に「乙19」を、同3段目に「乙20、21」を、4段目に「乙22」を、5段目に「乙23」を、同6段目に「乙24」を、同14段目に「乙34」を、同15段目に「乙33」を、同16段目に「乙35」を、同別表七の摘要欄の2段目に「乙20、21」を、同4段目に「乙23」を、同8段目に「乙29」を、同9段目に「乙31」を、同13段目に「乙36」を、同14段目に「乙37」を、それぞれ加え、同5段目の「乙23」を「乙24」と改める。)により、また推計による必要経費額が昭和63年分について5471万3729円、平成元年分について5673万8801円、平成2年分について5763万8657円となることは証拠(乙12ないし17、原審証人M)により、それぞれ認められるから、Aの本件係争各年分の事業所得金額は昭和63年分について1023万6091円、平成元年分について1055万9029円、平成2年分について1118万3620円となるところ、同事業所得金額はいずれも更正処分に係る総所得金額を下回らない。よって、本件係争各年分の更正処分及びこれに伴いされた過少申告加算税の各賦課決定処分も適法と認められる。

5  仕入税額不控除の適法性について

この点に関する判断は、次のとおり付加訂正するほか原判決の事実及び理由欄の「第三の六」に説示のとおりであるから、これを引用する。

(1)  原判決92頁9行目の「千円未満」を「100円未満」と、10行目の「六六八一万七七〇〇円」を「6681万7000円」と改める。

(2)  同94頁5行目の「(一)」の後に次のとおり加える。

「我が国の現行消費税は、『課税資産の譲渡等の対価の額』すなわち売上高を課税標準とし、仕入の際に負担した税額相当分を『税額控除』として控除することを規定していること(法28条1項、30条1項)から明らかなように、累積排除型の間接税であり、かつ付加価値税である。したがって、仕入税額の控除の制度は、取引の各段階で税負担が累積することを防止するためのものである。そこで、」

(3)  同95頁9行目冒頭から96頁8行目末尾までを次のとおり改める。

「これら法令の諸規定からすると、大量かつ反復性を有する消費税の申告及び課税処分において、仕入税額控除の制度を適正に運用するために、迅速かつ正確に課税仕入の存否を確認し、課税仕入れに係る消費税額を把握する資料として帳簿又は請求書等(以下「帳簿等」という。)を要求し、その記載事項について厳格な要件を規定するとともに、帳簿等を保存しない場合には仕入税額控除の規定を適用しないものとし、帳簿等の保存について税務当局において課税権限を行使し得る最長年限である7年間とし、帳簿等の整理を要求した上、保存場所を納税地等に限定しているのであり、結局、現行消費税法令においては、課税仕入れに係る消費税額の調査及び確認を行うための資料として帳簿等の保存を義務づけ、その保存を欠く課税仕入に係る消費税額については仕入税額控除の対象としないこととしたものと解するのが相当である。」

(4)  同97頁9行目の「『保存』とは、」の後に「青色申告承認の取消しに関して集積された裁判例における『保存』の意義についての解釈が妥当するとして、」を加える。

(5)  同98頁4行目の「しかし、」の後に次のとおり加える。

「法30条7項が所得税法148条1項、法人税法126条1項と同じ『保存』という文言であり、帳簿等の保存を求める趣旨が帳簿等資料の信頼性を高いものにするという点にあるとしても、帳簿等を保存しない場合に、消費税においては仕入税額が控除されなくなるが、青色申告においてはその承認の取消事由に該当することになり、その法律効果も異なることからして、直ちに法30条7項の『保存』を青色申告承認の取消しの場合と同義に解釈すべきであるとまでは言い難く、」

(6)  同102頁3行目の後に行を改めて次のとおり加える。

「なお、法30条7項は注意的手続的規定にすぎず、仕入れの際に税額を負担していた事実が何らかの方法で証明される限り同条1項の仕入税額控除の規定を適用すべきであり、同条7項の『帳簿等を保存しない場合』とは仕入の際の税負担の事実がないのにいかにも負担したかのごとく虚偽等の記載をしている帳簿等の保有を意味する旨の見解(甲B81)は、帳簿等の保存を仕入税額控除の要件として掲げる法30条7項の明文規定及び前記法令の趣旨に反することが明らかであるから、到底採用することはできない。」

(7)  同107頁8行目の「原告本人」の後に「(原審及び当審)」を加える。

(8)  同108頁7行目末尾に次のとおり加える。

「なお、控訴人は、帳簿等の『整理』について前記のとおり主張し、これに沿う控訴人本人の供述(原審及び当審)もあるが、Aの保管していた請求書、領収書等の資料が不十分なものであることは前記認定(実額主張の成否に関する原判示)のとおりであるから、帳簿等の『整理』の意義を控訴人主張のように解するとしても、本件において、Aが帳簿等を『整理して保存』していたとは言い難く、控訴人の前記主張は採用することはできない。」

6  本件消費税処分の適法性について

この点に関する判断は、原判決の事実及び理由欄の「第三の七」に説示のとおりであるから、これを引用する。

7  なお、控訴人は、①D調査官が作成した調査メモ、②被控訴人主張の類似同業者の当該年度の所得税青色申告書及び所得税青色申告決算書について、民事訴訟法220条1、3号該当文書であるとして、③Aの昭和63年度、平成元年度及び平成2年度所得税更正処分並びに平成2年度消費税更正処分等に関して、Aがa税務署に対して行った異議申立に関し、調査担当税務署員から事情聴取した内容を録取した調書ないし調査担当税務署員の事情説明が記載された報告書等の書面について、同条3号該当文書であるとして、文書提出命令の申立て(①、②の文書について平成12年(行タ)第7号、③の文書について平成13年(行タ)第6号)をしているが、②の文書の内、類似同業者の所轄税務署がb、c及びdの各税務署である文書については被控訴人が所持するものではないし、③の文書については存在しないというのであるから、前記各文書に関する文書提出命令の申立ては理由がないし、その余の文書に関しては、前記認定したところによると、その文書提出命令の必要性を認めることができないから、いずれにしても、控訴人らの前記文書提出命令の申立ては却下を免れない。

8  以上の次第で、被控訴人の本件各処分はいずれも適法であり、本訴請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川克介 裁判官 黒岩巳敏)

裁判官永野圧彦は転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 小川克介

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