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名古屋高等裁判所 平成12年(行コ)43号 判決 2001年10月03日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人

(1)  原判決を取り消す。

(2)  被控訴人が控訴人に対して平成10年2月27日付でした相続税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)のうち,課税価格8億3299万3000円,納付すべき税額1億4870万1700円を超える部分,及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい,本件更正処分と本件賦課決定処分を併せて「本件各処分」という。)のうち,1000円を超える部分を各取り消す。

(3)  訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文同旨

第2事案の概要等

事案の概要,関係法令等の定め,争いのない事実等,本件各処分において算出された金額に関する被控訴人の主張,争点は,次のとおり当審主張を付加するほか,原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」の各該当欄に記載のとおりであるから,これを引用する。

1  控訴人の当審主張

(1)  評価基本通達は,時価とは,相続により財産を取得した日において,それぞれの財産の現況に応じ,不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい,その価額は,この通達の定めによって評価した価額とするとしている。

しかし,差押えは,その財産について法律又は事実上の処分を禁止する効力を有し,「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる」ことを阻害するものであるから,「通常成立すると認められる価額」は成立しない。すなわち,差押えがなされた財産は,時価が成立しないのであるから,評価基本通達による評価は不当である。

財産の評価は,時価が成立する状況,すなわち差押登記がない状態で行われる必要があり,そのための租税債務の支払は,時価評価をする上での必要経費として考慮されるべきものである。

サン・グリーンは清算会社であり,大幅な債務超過の状態であるから,租税債務の支払は不可能である。また,租税債務にかかる差押えのうち,本件物件以外の不動産の評価額は租税債務の額に足りず,他に差押登記に優先する権利者が存在することから,控訴人が租税債務を負担することとなるのは確定的である。

したがって,本件においては,評価基本通達によらないことが相当と認められる特別の事情のある場合に当たる。

(2)  本件相続の開始から約5ヶ月後の平成7年4月30日におけるサン・グリ-ンの決算では,5304万8938円の債務超過となっている。しかし,これは,租税債務が3423万9700円と誤っており,実際には租税債務が3759万8300円で,これに延滞税が加算されるから,債務超過額は6000万円を超える。この1年前の決算においても,ほぼ同様に大幅な債務超過の状態である。

サン・グリーンに対する最大の債権者は大桑開発で,8738万6923円の債権があり,控訴人はその代表取締役である。そもそも控訴人がサン・グリーンの清算人を引き受けたのは大桑開発の経営するゴルフ場に必要な資産(本件建物)を確保し,さらに多額の債権を回収するためであった。しかし,仮に本件建物が公売され,控訴人に求償権が生じた場合,大桑開発の債権と競合することになってしまう。控訴人が求償権を行使すれば,必ず大桑開発に多額の損失が生ずることになる状況の下で,大桑開発の代表者である控訴人が大桑開発の債権に優先して回収することはできない。

以上の状況下で,控訴人が本件建物の所有権を失い,租税債務を負担することとなるのは確実で,本件建物の資産価値は0に等しい。

(3)  サン・グリーンの平成7年4月30日時点での総資産7417万1543円のうち,差押財産の帳簿価格は5180万7066円であり,これ以外の資産については換価が難しかったり,回収が困難な債権であり,これらを換価又は回収して租税債務の支払に充てることは困難である。

相続開始の平成6年頃,不動産価格は下落が続き,本件建物以外の差押財産の時価は,帳簿価格を下回る。また,公売等による売却の場合,時価を大幅に下回る価額で売却されるのが通常であるから,サン・グリーンの資産のみで租税債務を全額支払うことはできない。

(4)  被控訴人は,本件建物以外の差押財産には,根抵当権者がおらず,差押えに優先する権利者がいない,サン・グリーンの総資産は租税債務を大きく上回っているから租税債務の納付は可能である旨主張するが,そうであれば,本件建物への差押えは必要なく,その差押えは超過差押えに当たる。それにもかかわらず,被控訴人が本件建物の差押えを解除しないのは,被控訴人が本件建物の換価なしには租税債務の支払ができないことを認めるものである。

2  同主張に対する被控訴人の応答

(1)  相続税法22条は,特別に定める場合を除き,当該財産の取得の時における時価によるべき旨を規定しており,この時価とは相続開始時において当該財産の客観的な交換価値をいうものと解するのが相当である。

しかし,客観的な交換価値というものが必ずしも一義的に確定されるものではない。課税実務上は,納税者間の公平,納税者間の便宜,徴収費用の節約を図り,もって実質的な租税負担の公平を実現しようとする趣旨から,相続財産評価の一般的基準が評価通達によって定められ,そこに定められた画一的な評価方式によって相続財産を評価することとされている。

他方,この通達に定められた評価方式によるべきであるとする趣旨がこのようなものであることからすれば,この評価方式を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって,かえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかな場合には,別の評価方式によることが許されるものと解すべきであり,このことは,この通達6において,「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は,国税庁長官の指示を受けて評価する。」と定められていることからも明らかである。

したがって,相続財産の評価に当たっては,特別の定めのある場合を除き,評価通達に定める方式によるのが原則であるが,評価通達によらないことが相当と認められるような特別の事情がある場合には,他の合理的な時価の評価方式によることが許されるものと解するのが相当であり,この理は家屋の評価についても同様である。

本件建物は,サン・グリーンの租税債務にかかる本件差押等があるものの,本件相続の開始時点において,本件建物につき,公売その他滞納処分による売却のための手続が進行していた事実はないことが認められ,また,サン・グリーンは,本件建物のほか,他に土地建物を所有し,これにも差押え等の処分がされている。これらからすると,本件相続の開始時点において,本件建物が公売その他滞納処分による売却に付され,又は控訴人がサン・グリーンに代わって本件差押等にかかる租税債務を弁済しなければ,本件建物の所有権を直ちに喪失するというような具体的状況があったとはいえず,このような場合にまで,差押え等の存在が財産の市場における流通性を失わせ,売買価格に多大な影響を及ぼすものとは直ちに断じ難い。

その他,本件において,評価通達の定めによって評価すると,かえって納税者間の課税上の公平を害する等,この定めによらないことが相当と認められる特別の事情があるとは認められない。

(2)①  時価の算定に当たり,担保権のない資産の有する客観的価値から減額して評価しなければならないかどうかについて,担保権は,単に債権を担保する権利にすぎず,それによって資産の交換価値が減少する理由はないと解されている。

そこで税務上は,たとえば,抵当権の設定された不動産等については,抵当権が,債務者又は第三者が債務の担保に供した不動産等を担保提供者の使用収益に任せておきながら,債務不履行の場合に目的物の価額から優先弁済を受けることを内容とする物権であり,目的物の処分についても何ら制限を加えるものではないこと及び債務は別途債務控除として相続財産の価額から控除されることになっているから,抵当権が設定されていることによる価値の低下はないものと考え,評価する不動産等に抵当権が設定されていることについては,評価上斟酌しないものとしている。

そして,この債務控除の対象となる債務は,「確実と認められるもの」に限られる(相続税法14条1項)。同条の趣旨は,相続人ないし相続財産の負担となる債務(消極財産)は積極財産の価額から控除して純財産により相続税の課税価額を算定しようとするものだからである。したがって,その存在が確実であっても,保証債務のように,債務の性質上,相続人が履行するとは限らず,必ずしも相続人ないし相続財産の負担とならないものは,原則としてそれから除かれるものと解される。

②  差押えは,滞納者の特定の財産について法律上又は事実上の処分を禁止する効力を有する。それに反する譲渡,権利の設定等の処分は,当事者間では有効であるが,差押債権者たる国又は地方公共団体に対抗することはできない。しかし,差押えは,租税の徴収が目的であって,納税者等に苦痛を与えることを目的とするものではないから,滞納者等は租税の徴収に支障のない限度で,差押え財産の使用収益が認められている。

滞納者が租税債務を支払わなければ差押え財産は強制的に換価されるが,それはあたかも債務者が債務を弁済しなければ抵当権の設定された不動産等が抵当権実行によって換価されるのと同様である。そして,差押えにしても債権を保全することを目的とする点で抵当権と軌を一にするものであり,抵当権等の設定された不動産等の場合と同様に差押え財産の客観的交換価値に何ら影響を及ぼすものではない。したがって,差押えの行われた相続財産についても,担保権が設定された相続財産に準じて,評価上これを斟酌せず,たとえば,公売その他滞納処分による売却に付されることが確実であり,かつ,債務者に求償して弁済を受ける見込みがないというような場合に限って,別途債務控除として相続財産の価額から控除するのが相当である。

(3)  サン・グリーンは,別表記載の土地建物を所有しており,それぞれの不動産登記簿の乙区欄には,昭和62年7月6日に締結された根抵当権者を岐阜銀行,債務者(根抵当権設定者)をサン・グリーンとする根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)設定契約に関して,<ア>平成3年4月8日,被相続人による5000万円の一部代位弁済があり,同人に同根抵当権の一部が移転した,<イ>平成5年3月31日,控訴人による162万円の一部代位弁済があり,同人に同根抵当権の一部が移転した,<ウ>平成5年5月27日,大桑開発株式会社による1625万0947円の代位弁済があり,同社に同根抵当権の残り全部が移転したとする登記が,いずれも平成7年2月21日受付でなされている。

しかし,これら<ア>,<イ>,<ウ>の登記は,以下の事実から,真実を公示したものとは認められない。

① 岐阜銀行は,昭和62年6月30日に,9000万円の融資(以下「本件融資」という。)をサン・グリーンに行い,本件融資に際し,同年7月6日,根抵当権者を岐阜銀行,債務者(根抵当権設定者)をサン・グリーン,極度額を9000万円とする根抵当権設定契約が締結された。

平成元年5月12日,サン・グリーンにおいて取締役会が開催され,大桑開発グループの方針に沿い,サン・グリーンを大桑開発に吸収合併させる旨の決議がなされ,サン・グリ-ンは速やかに清算事務にはいることを宣し,同取締役会は閉会した。そして,平成2年4月30日に至り,サン・グリーンの株主総会において解散が議決され,サン・グリーンは清算会社になるとともに控訴人が清算人に就任した。

② サン・グリーンは,岐阜銀行加納支店から本件融資の返済を強く迫られていたところ,清算人である控訴人は,当該返済要求を無視すると,岐阜銀行の大桑開発への15億円の融資も返済を迫られると考え,平成3年4月8日,被相続人の協力を得て,岐阜銀行に対して4968万9663円の返済を行った。このとき,被相続人が,本件建物の名義変更を望んだため,被相続人とサン・グリーンは本件建物について売買契約を締結し,同日売買を原因とする,被相続人への所有権移転仮登記がなされた。また,本件建物は,ゴルフ場経営になくてはならないことから,被相続人を貸し主,ゴルフ場経営会社である大桑開発を借り主として,賃料月額40万円とする賃貸借契約が締結された。

被相続人は,岐阜市農協鷺山支店から5000万円を借り入れ,5000万円を原資とする小切手を,平成3年4月8日に岐阜銀行加納支店のサン・グリーン清算人の控訴人名義の普通預金(以下「清算人口座」という。)に入金した。そして,同日,同口座から5000万円が払い出され,一部繰り上げ償還として4955万1075円及び同月1日から同月8日までの利息13万8588円の合計4968万9633円の弁済が行われた。

サン・グリーンにおいては,この5000万円を平成3年4月期に預かり金処理したところ,平成4年4月期には借入金に振り替え,その後平成5年4月30日に本件建物(帳簿価額6388万9000円)と同借入金5000万円を相殺し,清算損失1388万9000円を計上する会計処理を行った。

したがって,被相続人がサン・グリーンの債務のうち5000万円を代位弁済したとはいえないから,被相続人は根抵当権者ではない。

③ 控訴人は,平成5年3月31日,本件融資に関し,岐阜銀行加納支店から162万円の借入を行い,162万円を清算人口座に入金した。そして,同日,同口座から,本件融資の平成5年1月31日期日分(元金60万7461円及び利息13万6263円の合計74万3724円),同年2月28日期日分(元金61万1460円及び利息12万5788円の合計73万7248円),同年3月31日期日分(元金61万5485円及び利息11万4494円の合計72万9979円)の弁済が行われた。

サン・グリーンにおいては,上記162万円及び本件融資の平成5年4月30日期日分72万9979円の返済が控訴人の負担で履行されたことから,合計234万9979円を平成5年4月期に借入金として計上し,その後,同借入金234万9979円は,平成5年5月27日に,岐阜銀行加納支店の控訴人名義の普通預金に返済された。

したがって,上記の控訴人の負担分は,すでにサン・グリーンから返済されているから,控訴人は根抵当権者ではない。

④ サン・グリーンは,平成5年5月27日控訴人が代表取締役である大桑開発から2000万円を清算人口座で受け入れた。そして,同日,同受入金により,本件融資の残債務1615万6531円及び平成5年5月1日から同年5月27日までの利息9万4416円の合計1625万0947円が弁済された。

サン・グリーンは,上記2000万円を平成5年5月27日に雑収入処理した。なお,サン・グリーンは,控訴人が清算人を辞任した後に,同雑収入を長期借入金に修正した上で,平成8年4月期の申告書を平成10年6月30日付けで被控訴人に提出した。

したがって,サン・グリーンは大桑開発から受け入れた金員でもって債務を返済したものというべきで,上記の弁済は,サン・グリーン自身の弁済と見るのが相当であるから,大桑開発は根抵当権者ではない。

(4)  本件相続の開始直後のサン・グリーンの平成7年4月30日時点での資産・負債一覧表によれば,総資産は帳簿価額で7417万1543円で,本件租税債務3423万9700円を大きく上回っているから,資産の換価及び債務弁済の過程において,本件相続債務の納付は不可能とはいえない。

第3当裁判所の判断

当裁判所も,控訴人の請求はこれを棄却すべきものと判断するが,その理由は,次のとおり訂正するほか,原判決「第三 当裁判所の判断」欄に記載のとおりであるから,これを引用する。

(原判決の加除訂正)

1  原判決16頁5行目の「四の1ないし6」の後に「,六ないし一一,乙七の1ないし8,八ないし一〇,一一の1ないし5,一二ないし一五,一六の1ないし8,一七,一八,一九の1ないし3,二〇の1ないし3,二一ないし三二,三三の1・2,三四」を加える。

2  同18頁4行目の「右時点」の後に「及び本件口頭弁論終結時点」を加える。

3  同18頁5行目の末尾に,行を改めて次のとおり加える。

「5 サン・グリーンは,別表記載の土地建物を所有しており,同土地については,平成元年9月22日受付により,同月21日岐阜北税務署差押えを原因として,債権者大蔵省の差押登記が,平成元年10月17日受付により,同日岐阜県岐阜県税事務所参加差押を原因として,債権者岐阜県の参加差押登記が,同年11月22日受付により,同日山県郡a町参加差押を原因として,債権者山県郡a町の参加差押登記が,同年12月16日受付により,平成元年12月15日岐阜労働基準局参加差押を原因として,債権者労働省の参加差押が,平成3年1月22日受付により,同日山県郡a町参加差押を原因として,債権者山県郡a町の参加差押登記が,平成4年10月5日受付により,平成4年10月1日岐阜労働基準局参加差押を原因として,労働省の参加差押が,それぞれなされ,同建物については,平成元年9月22日受付により,同月21日岐阜北税務署差押えを原因として,債権者大蔵省の差押登記が,平成元年10月17日受付により,同日岐阜県岐阜県税事務所参加差押を原因として,債権者岐阜県の参加差押登記が,同年11月22日受付により,同日山県郡a町参加差押を原因として,債権者山県郡a町の参加差押登記が,平成3年1月22日受付により,同日山県郡a町参加差押を原因として,債権者山県郡a町の参加差押登記が,それぞれなされている。そして,それぞれの不動産登記簿の乙区欄には,昭和62年7月6日に締結された根抵当権者を岐阜銀行,債務者(根抵当権設定者)をサン・グリーンとする根抵当権(本件根抵当権)設定契約に関して,<ア>平成3年4月8日,被相続人による5000万円の一部代位弁済があり,同人に同根抵当権の一部が移転した,<イ>平成5年3月31日,控訴人による162万円の一部代位弁済があり,同人に同根抵当権の一部が移転した,<ウ>平成5年5月27日,大桑開発株式会社による1625万0947円の代位弁済があり,同社に同根抵当権の残り全部が移転したとする登記が,いずれも平成7年2月21日受付でなされている。

6  ① 岐阜銀行は,昭和62年6月30日に,本件融資をサン・グリーンに行い,本件融資に際し,同年7月6日,根抵当権者を岐阜銀行,債務者(根抵当権設定者)をサン・グリーン,極度額を9000万円とする根抵当権(本件根抵当権)設定契約が締結された。

平成元年5月12日,サン・グリーンにおいて取締役会が開催され,大桑開発グループの方針に沿い,サン・グリーンを大桑開発に吸収合併させる旨の決議がなされ,サン・グリ-ンは速やかに清算事務にはいることを宣し,同取締役会は閉会した。そして,平成2年4月30日に至り,サン・グリーンの株主総会において解散が議決され,サン・グリーンは清算会社になるとともに控訴人が清算人に就任した。

② サン・グリーンは,岐阜銀行加納支店から本件融資の返済を強く迫られていたところ,清算人である控訴人は,当該返済要求を無視すると,岐阜銀行の大桑開発への15億円の融資も返済を迫られると考え,平成3年4月8日,被相続人の協力を得て,岐阜銀行に対して4968万9663円の返済を行った。このとき,被相続人が,本件建物の名義変更を望んだため,被相続人とサン・グリーンは本件建物について売買契約を締結し,同日売買を原因とする,被相続人への所有権移転仮登記がなされた。また,本件建物は,ゴルフ場経営になくてはならないことから,被相続人を貸し主,ゴルフ場経営会社である大桑開発を借り主として,賃料月額40万円とする賃貸借契約が締結された。

被相続人は,岐阜市農協鷺山支店から5000万円を借り入れ,5000万円を原資とする小切手が,平成3年4月8日に清算人口座に入金された。そして,同日,同口座から5000万円が払い出され,一部繰り上げ償還として4955万1075円及び同月1日から同月8日までの利息13万8588円の合計4968万9633円の弁済が行われた。

サン・グリーンにおいては,この5000万円を平成3年4月期に預かり金処理したところ,平成4年4月期には借入金に振り替え,その後平成5年4月30日に本件建物(帳簿価額6388万9000円)と同借入金5000万円を相殺し,清算損失1388万9000円を計上する会計処理を行った。

③ 控訴人は,平成5年3月31日,本件融資に関し,岐阜銀行加納支店から162万円の借入を行い,162万円を清算人口座に入金した。そして,同日,同口座から,本件融資の平成5年1月31日期日分(元金60万7461円及び利息13万6263円の合計74万3724円),同年2月28日期日分(元金61万1460円及び利息12万5788円の合計73万7248円),同年3月31日期日分(元金61万5485円及び利息11万4494円の合計72万9979円)の弁済が行われた。

サン・グリーンにおいては,上記162万円及び本件融資の平成5年4月30日期日分72万9979円の返済が控訴人の負担で履行されたことから,合計234万9979円を平成5年4月期に借入金として計上し,その後,同借入金234万9979円は,平成5年5月27日に,岐阜銀行加納支店の控訴人名義の普通預金に返済された。

④ サン・グリーンは,平成5年5月27日控訴人が代表取締役である大桑開発から2000万円を清算人口座で受け入れ,同日,同受入金により,本件融資の残債務1615万6531円及び平成5年5月1日から同年5月27日までの利息9万4416円の合計1625万0947円が弁済された。

サン・グリーンは,上記2000万円を平成5年5月27日に雑収入処理した。なお,サン・グリーンは,控訴人が清算人を辞任した後に,同雑収入を長期借入金に修正した上で,平成8年4月期の申告書を平成10年6月30日付けで被控訴人に提出した。

⑤ 名古屋国税局長から,平成7年2月7日付けで,岐阜県山県郡大字b字cd番eの宅地及び同塚洞228番5の宅地にかかる公売通知書が岐阜銀行本店に届き,これを受けて同年2月15日,岐阜銀行加納支店の青木支店長及びA調査役が大桑開発に赴き同通知書の内容を控訴人に話したところ,控訴人は,同支店長に岐阜銀行の本件根抵当権を被相続人,控訴人及び大桑開発に移転するするよう依頼した。そこで,前記5項の根抵当権移転登記が行われた。もっとも,岐阜銀行においては,連帯保証人や融資先の承諾を受けた第3者から弁済がなされ,根抵当権の移転の申し出があった場合には,岐阜銀行各支店からの稟議に対して早期処理の立場から,審査・決裁が行われ,弁済金の受け入れについては,弁済者に融資を取り扱った支店に現金及び小切手を持参してもらうか又は行員が弁済者の方に行き現金等を受領し,貸付金返済口で一旦受領した現金等を受け入れた後,融資金の返済に充てられるのが一般的で,債務者である融資先の取引口座を通して弁済が行われた前例に乏しく,2年ないし4年もさかのぼる日時での領収書及び代位弁済証書が交付された前例も乏しかったことから,この根抵当権移転登記をするに当たり,控訴人から念書が徴された。

7  サン・グリーンの平成3年4月期の資産・債務一覧表では1億2939万2733円の債務超過とされるが,平成4年4月期の資産・債務一覧表においては,サン・グリーンは資産の換価及び債務弁済の過程において,有価証券を換価し,租税債務4946万2620円を納付している。

相続開始直後のサン・グリーンの平成7年4月30日時点での資産・負債一覧表によれば,5304万8938円の債務超過となっているものの,総資産は帳簿価額で7417万1543円で,本件租税債務3423万9700円を大きく上回っている。」

4 同20頁1行目の「本件において」から同21頁8行目末尾までを,次のとおり改める。

「本件において,控訴人は,本件建物に本件差押等がなされているから,本件建物の評価に当たり,評価基本通達の定めによらないことが相当と認められる特別の事情がある旨主張する。

たしかに,相続人が,被相続人以外の者への滞納処分による差押えがされた不動産を相続して,相続税を賦課徴収されたところ,公売等の実行により,その不動産の所有権等を喪失した場合,相続人に格別の落ち度がないのに相続税を納付しなければならず,また徴収された相続税の返還を求めることができないというのは,正義公平の原則に反し,国は,納税者に対し,喪失した不動産の価額の限度において,課税処分の効力を主張し得ないものとなり,同処分に基づいて税を徴収し得ないとすべき場合が考えられないではない。

しかし,そもそも相続税は,相続などによって財産を取得した者に対して,その取得財産の価額を課税標準として課税される租税であるところ,相続税法22条は,相続等により取得した財産の価額は,取得時の時価によるとの評価の原則を定め,相続財産の価額は,相続開始時の現況によって確定するものとしている。そして,相続不動産の上に,滞納処分による差押登記がある場合,将来における公売等の実行や求償の可能性の程度を勘案してその不動産の価額を評価しようとしても,その客観性を担保することはまず不可能であるから,相続開始時において,公売等が実行されることが確実であり,かつ債務者に求償して弁済を受けうる見込みがない等の特段の事情が認められないときには,この滞納処分による差押えは相続財産の評価に影響しないものとするのが相当である。

これを本件についてみるに,前記認定の事実(引用にかかる原判決の認定を含む。)からすれば,本件相続の開始時点から本件口頭弁論終結時まで,本件建物につき公売その他の滞納処分による売却のための手続が進行していないこと,サン・グリーンは,本件建物のほか,別表記載の土地建物を所有し,本件差押等にかかる租税債務について,差押等がなされていること,別表記載の土地建物については,被相続人のために本件根抵当権の一部移転登記が,控訴人のために本件根抵当権の一部移転登記が,大桑開発のために一部移転登記がなされているが,本件根抵当権の被担保債務は,サン・グリーンの被相続人,控訴人及び大桑開発からの借入金によって,サン・グリーンが弁済したものであって,被相続人,控訴人及び大桑開発がサン・グリーンのために代位弁済したものでないこと,これらの根抵当権一部移転登記は,サン・グリーンの岐阜銀行への債務弁済時から1年9月ないし4年経過した後に,被相続人,控訴人及び大桑開発がサン・グリーンから貸付金を回収する目的でなされたものであって,同登記は実体と異なること,本件相続開始直後のサン・グリーンの平成7年4月30日時点での資産・負債一覧表によれば,5304万8938円の債務超過となっているものの,総資産は帳簿価額で7417万1543円で,本件租税債務3423万9700円を大きく上回っており,サン・グリーンの資産の換価及び債務弁済の過程において,本件差押等にかかる租税債務が納付される可能性を否定できないことが認められる。

そうとすれば,本件相続の開始時において,本件建物の公売等が実行されることが確実であり,かつ債務者に求償して弁済を受けうる見込みがない等の特段の事情は認められないというべきであるから,本件建物の評価に当たり,評価基本通達の定めによらないことが相当と認められる特別の事情があるとはいえない。」

(当審主張に対する判断)

1  控訴人の当審主張(1)については,前記認定(引用にかかる原判決の認定を含む。)に照らし,採用できない。

2  控訴人の当審主張(2)については,仮に,平成7年4月30日におけるサン・グリ-ンの決算で,租税債務が3423万9700円と誤っており,実際には租税債務が3759万8300円で,これに延滞税が加算されて,債務超過額は6000万円を超えるとしても,総資産は帳簿価額で7417万1543円であるから,サン・グリーンの資産の換価及び債務弁済の過程において,本件差押等にかかる租税債務が納付される可能性を否定できない。また,サン・グリーンに対する最大の債権者が大桑開発で,8738万6923円の債権があり,控訴人はその代表取締役であるとしても,本件建物が公売され,控訴人に求償権が生じた場合において,控訴人においてその求償権を全く回収できないものとは認め難い。その他,サン・グリーンは,本件建物のほか,別表記載の土地建物を所有し,本件差押等にかかる租税債務について,差押等がなされていることから,同土地建物の公売等によって,本件差押等にかかる租税債務が納付される可能性も否定できない。

そうとすれば,控訴人が本件建物の所有権を失い,租税債務を負担することとなるのは確実であるとは認め難く,控訴人の同主張は採用できない。

3  控訴人の当審主張(3)については,サン・グリーンの平成7年4月30日時点での総資産7417万1543円のうち,差押財産の帳簿価格は5180万7066円であるとしても,サン・グリーンの資産の換価及び債務弁済の過程において,本件差押等にかかる租税債務が納付される可能性を否定できない。控訴人は,差押財産以外の資産については換価が難しかったり,回収が困難な債権であるとも主張するが,これを認めるに足る証拠はない。

したがって,控訴人の同主張は採用できない。

4  控訴人の当審主張(4)については,本件差押等が超過差押えに当たる可能性は存するとはいいうるが,超過差押えに当たるか否かは実際に公売にならなければ判然としないところであり,被控訴人が本件建物の差押えを解除しないのは,被控訴人が本件建物の換価なしには租税債務の支払ができないことを認めたものとは認め難い。したがって,控訴人の同主張は採用できない。

第3結論

よって,原判決は相当であって,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,控訴費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民訴法67条1項,61条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 福田晧一 裁判官 内田計一 裁判官 倉田慎也)

別表 省略

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