名古屋高等裁判所 平成13年(う)287号 判決 2001年11月21日
主文
本件控訴を棄却する。
当審における未決勾留日数中130日を原判決の刑に算入する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人平野保作成の控訴趣意書に、これに対する答弁は検察官田中良作成の答弁書に各記載のとおりであるから、これらを引用する。
第1控訴趣意中、原判示第2の事実に関する誤認の主張について
論旨は、要するに、被告人が所持していたとされるけん銃(以下「本件けん銃」という。)を構成する銃身、機関部体及び回転弾倉各1個(以下「本件各部品」という。)は、銃砲刀剣類所持等取締法(以下、単に「法」という。)3条の2第1項所定の「けん銃部品」に該当しないのに、原判決が「けん銃部品」に該当するとしてその所持を認定したのは、事実を誤認したものであって、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである、というものである。
そこで、原審記録を調査し、当審における事実取調べの結果を加えて検討すると、原判決挙示の関係証拠によれば、被告人が原判示第2の日時ころ原判示第2の場所において、けん銃部品であるけん銃の銃身、機関部体及び回転弾倉各1個を所持した事実は、優に認められ、その旨認定した原判決に誤りはない。すなわち、原判決挙示の関係証拠、特に、鑑定書(甲29)及びその作成者であるa県警察本部科学捜査研究所技術吏員Aの警察官に対する供述調書(甲30)によれば、被告人が所持していた本件けん銃は、口径0.32インチのアイバージョンソン・セイフティーハンマーDA回転弾倉式けん銃であること、本件けん銃を構成する本件各部品のうち回転弾倉については何ら異常も欠陥もなく、銃身については本来の長さより短く切断されているが、けん銃の部品として十分使用可能であること、機関部体についても、各部にさび及び傷があるものの本体自体に特段の異常はないこと、もっとも部品のうち撃針が閉塞壁から突出したままで固着して復座せず、不足部品もあるので、通常の手入れ又は修理によってこの部分を修復することは不可能であり、新たな製作を要するところ、それには材料の調達、部品の製作、部品を外すための工具の製作等が必要であって、これらをしなければ、本件けん銃は実弾が発射しないことがそれぞれ認められ、以上によれば、本件けん銃は、機関部体に入れる撃針等の補修に関し、通常の手入れ又は修理を越える大掛かりな修理等を要するものであるから、結局のところ金属性弾丸を発射する機能がなく、法2条1項所定の「けん銃」(以下「真正けん銃」という。)には該当しないのであるが、本件各部品を使用し、故障欠陥のない他の部品と組み合わせることにより、真正けん銃を製作することができるのであるから、本件各部品は、法所定の「けん銃部品」と認めるのが相当である。これらの点は当審において取り調べた証人Aの供述及び本件けん銃により一層明らかであるが、所論にかんがみ若干補足して説明する。
所論は、(1)法所定の「けん銃部品」というためには、当該部品をその用途に従って使用することにより、金属製弾丸を発射する機能及び人畜殺傷能力のあるけん銃が完成することを必要とするところ、前記鑑定書によれば、本件各部品は通常の修理・加工を施しても、真正けん銃にはならないと鑑定されているのであるから、「けん銃部品」にも該当しない、(2)法の「けん銃部品」所持を処罰する規定は、けん銃の摘発を免れる目的でけん銃を部品に分解して別々に所持し、又は輸入する事件が発生しているのに、これらの行為を取り締まる規定がなかったことから、これらの行為を抑止するために、平成3年に新設されたものであり、この立法趣旨に照らせば、基本的には部品として所持していることが前提となり、本件のように「けん銃」の形で所持していた場合にそのけん銃が真正けん銃に該当しないのであれば、その部品も、原則として、「けん銃部品」に該当しない、(3)本件では、当該部品をそのまま組み立てても修理・加工して組み立てても、真正けん銃に該当するものにはならないのであるから、「けん銃部品」と認定するためには、どのような場合に「けん銃部品」として利用できるか立証を要するし、銃身や弾倉についても、年月の経過による腐食等が考えられ、性能や耐性についての立証もなされていない、という。
しかしながら、本件けん銃が通常の修理等によっては真正けん銃とならないということと、本件各部品が「けん銃部品」に該当するかとは次元の異なる問題である。本件各部品は、前示のとおり、これらを故障欠陥のない他の部品と組み合わせることにより、真正けん銃を製作することができるものであるから、「けん銃部品」には該当するのであって、所論(1)は到底採用しがたい。次に、法の「けん銃部品」所持を処罰する規定が、摘発を免れる目的で真正けん銃を部品に分解して別々に所持し、又は輸入する事件が発生し、これらの行為を取り締まる規定がなかったことから、この種の潜脱行為を抑止するために新設されたものであることは所論指摘のとおりとしても、前記法の潜脱方法として「けん銃部品」とそうでない部品を組み合わせるといったことも考えられ、同規定が本件のように全体として真正けん銃といえなくとも、各部品について「けん銃部品」と認められる場合を殊更処罰の対象から排除したものとはいえないから、所論(2)には賛成できない。また、本件各部品については、前示のとおり、故障欠陥のない他の部品との組み合わせにより真正けん銃を製作することができるものである上、Aは、昭和54年6月からa県警察本部科学捜査研究所に勤務し、銃器及び実包等の鑑定をする仕事に従事する専門家であるところ、Aは知識や経験に基づき平成13年2月8日から同月22日までの間に本件けん銃やその構成する本件各部品等の鑑定を実施し、前記鑑定書を作成したことが認められるから、本件各部品のうち銃身及び回転弾倉が「けん銃部品」として利用できること並びにその性能や耐性についての立証も十分というべきであって(したがって、発射実験等が必要であるとの所論には賛同しがたい。)、Aの当審証言はこの点を明らかにしたものである(この証言の信用性はたやすく否定できない。)。所論(3)も採用しがたい。
所論にかんがみ原審記録を再検討し、当審における事実取調べの結果を加えて再考しても、原判示第2の事実につき、事実誤認は見出すことはできない。論旨は理由がない。
第2控訴趣意中、量刑不当の主張について
論旨は、要するに、原判決の量刑が重すぎて不当である、というのである。
そこで、原審記録を調査し、当審における事実取調べの結果を加えて検討すると、本件は、被告人が覚せい剤結晶を加熱気化させて1回使用し、Bという外国人と共謀の上、けん銃部品であるけん銃の銃身、機関部体及び回転弾倉各1個を不法に所持し、同人と共謀の上、覚せい剤結晶約26.8グラム及び大麻草約23.8グラムを不法に所持した、という事案である。覚せい剤使用の動機に酌むべき余地がないことはもとよりのこと、けん銃部品や覚せい剤等違法薬物の所持についても、後記のような事情があるとはいえ、いずれも違法であることを認識しながら預かり所持していた経緯に同情すべき点が乏しい上、所持にかかる覚せい剤や大麻草が相当多量であること、被告人が平成8年12月26日出入国管理及び難民認定法違反等の罪により懲役1年6月、3年間刑執行猶予の判決を受け、本件各犯行がその猶予期間を経過後僅か1年余りで敢行されたことなどを考え併せると、被告人の刑事責任を軽くみることはできない。
そうすると、被告人が本件各犯行の事実関係については一応認め、反省の態度を示していること、これまで正業に就き真面目に稼働していたこと、けん銃部品や違法薬物の所持については、共犯者からの懇請によるものであって、同人の父親への恩義等から断り切れなかったという一面があること、内妻の監督や更生に向けての支援が期待できること、病弱で年老いた両親のいることなどの諸事情を被告人のため十分に斟酌しても、懲役2年8月に処した原判決の量刑が重すぎて不当とはいえず、当審における事実取調べの結果明らかになった前記共犯者との量刑の均衡を考慮しても、この結論に変わりはない。論旨は理由がない。
よって、刑訴法396条により本件控訴を棄却し、刑法21条を適用して当審における未決勾留日数中130日を原判決の刑に算入することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 堀内信明 裁判官 澤田経夫 裁判官 堀毅彦)