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名古屋高等裁判所 平成13年(ネ)278号 判決 2001年10月02日

主文

1  本件控訴に基づき原判決を次のとおり変更する。

2  控訴人は被控訴人に対し,1704万6331円及びこれに対する平成9年6月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  被控訴人のその余の請求を棄却する。

4  本件附帯控訴を棄却する。

5  訴訟費用は,これを5分し,その3を控訴人の負担とし,その2を被控訴人の負担とする。

6  この判決は,主文第2項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。

第2附帯控訴の趣旨

1  原判決を次のとおり変更する。

2  控訴人は被控訴人に対し,3091万0552円及びこれに対する平成9年6月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は,第1,2審とも,控訴人の負担とする。

4  仮執行宣言

第3事案の概要

事案の概要は,次のとおり付加・訂正するほか,原判決の事実及び理由欄の「第2事案の概要」に摘示のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決6頁16行目から17行目の「『海外商品市場における先物取引の受託等に関する法律』」の次に「(以下「海外先物取引法」という。)」を加える。

(2)  同11頁10行目冒頭から同13行目末尾までを次のとおり改める。

「海外先物オプション取引は,仕組みが複雑で,かつ投機性の極めて強い取引であるから,新規の委託者は,理論的に取引の仕組みを理解することができても,実際には予想外の多額の損失を被るおそれが強い。そこで,新規の委託者を保護するため,海外先物オプション取引を受託する会社においては,新規の委託者に対し,当初の一定期間,多額の取引を勧誘してはならないという義務があるというべきである。

国内の商品先物取引においても,新規委託者については,当初の3か月間,1時点の建玉枚数(取引量)が20枚を超える取引をさせてはならない旨の社内規則が各商品先物取引受託会社において制定されている。」

(3)  同13頁12行目から同20行目末尾までを次のとおり改める。

「ア 新規委託者保護管理規則違反について国内の商品先物取引において,新規の委託者に対して一定期間にわたり取引量を制限する規則は存在しない。

被控訴人が行った各取引におけるストライクポジションや限月は,Aにおいてプランを示し,結果的に被控訴人自身が納得して決定したものであり,また,被控訴人は,予算の範囲内で枚数を決めて購入していたものである。

イ  無敷,薄敷取引について

無敷,薄敷取引は,委託保証金を要する商品先物取引の場合に問題となる概念であり,委託保証金を要しない本件オプション取引に当てはめることはできない。むしろ,本件オプション取引においては,買付代金は注文の翌日に銀行振込により控訴人に送金することになっていたから,被控訴人においては,注文を発した後においても,実際に送金手続をするまでの間,さらに考慮する時間があったことになる。」

第4当裁判所の判断

1  控訴人の損害賠償責任について判断する。

当裁判所も,控訴人の従業員であるA及びBの被控訴人に対する本件オプション取引勧誘行為は違法であり,控訴人は被控訴人に対し,民法715条による損害賠償責任を負うものと判断するが,その理由は,次のとおり付加・訂正するほか,原判決の事実及び理由欄の「第3争点に対する判断」の一ないし四の説示(原判決14頁25行目冒頭から同20頁25行目末尾までの部分)のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決16頁17行目の「主婦であり,」の次に「教員をしていた亡夫の遺族年金で生活しており,」を加える。

(2)  同17頁11行目の「本件オプション取引の仕組み」から同14行目末尾までを「Aは,本件オプション取引の仕組みについて,リスク開示告知書が添付された『オプション取引契約のご案内』と題するパンフレット(甲1の1)を使用して説明したが,儲けることができるという話が中心であり,被控訴人は,商品先物取引の経験が皆無であったこともあり,本件オプション取引の仕組みについて,ほとんど理解できなかったが,ローリスク・ハイリターンという説明を聞いて,本件オプション取引を依頼することにした。」と改める。

(3)  同17頁18行目から19行目にかけての「もっとも,原告は,Aらの言われるままにもそれぞれ記載し」を「これらの書面によれば,被控訴人は,本件オプション取引の仕組みについて十分理解できた旨の回答になっているが,実際には,Aに言われるままに,これら書面に記載し」と改める。

(4)  同18頁4行目末尾に「被控訴人は,当時,亡夫の退職金や生命保険金等により,ある程度の金融資産を有していた。」を加える。

(5)  同19頁2行目の「もっとも」を「この書面によれば,被控訴人は,本件オプション取引の計算方法を理解し,マーケット情報を毎日聞いている旨の回答になっているが,実際には,本件オプション取引の計算方法は十分理解できず,マーケット情報を入手する手段も知らなかったものであり」と改める。

(6)  同19頁5行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「被控訴人は,本件オプション取引の注文後,各取引について控訴人からオプション買付および計算報告書の送付を受け,委託手数料が高額であることに気付き,Aに対して手数料が高額ではないかとの感想を述べたが,Aから手数料を含めても大きく上回る利益を得られる旨の説明を受けたので,その説明に納得し,以後手数料の金額が高額であることを気にしなくなった。」

(7)  同19頁21行目冒頭から同20頁4行目末尾までを次のとおり改める。

「8 被控訴人は,本件取引2で多額の損失を被ったことから,大変な取引に手を出してしまったと思うようになり,平成8年11月下旬ころ以後,Aに対し,本件オプション取引の継続を慎重に考えたい旨を伝えたが,Aらが『損をした分を必ず取り返します。』等と何度も取引の継続を勧誘し,被控訴人においても何とか損失分を取り返したいという考えがあったこともあり,本件オプション取引を継続することになった。

そして,被控訴人は,Aらに勧誘されるまま,その後も,原判決別紙売買取引一覧表番号8ないし23のオプション取引を注文した。

9 被控訴人は,その後も本件オプション取引による損失が続いたにもかかわらず,Aらが新たな取引の勧誘を続けたため,平成9年4,5月ころ,このまま本件オプション取引を継続することに強い不安を感じ,新聞記事で知った相談窓口に電話し,結局のところ弁護士への相談を勧められて,被控訴人訴訟代理人らに対応を相談し,直ちに本件オプション取引を終了するよう助言された。」

(8)  同20頁11行目冒頭から25行目末尾までを次のとおり改める。

「四 前記三認定(原判決引用)の事実によれば,被控訴人は,本件オプション取引はもちろん株式信用取引や商品先物取引の知識や経験がない主婦であったものの,相当な社会経験を有し,かつ一定の金融資産も有していた者であるから,本件オプション取引の内容とりわけそのリスクについて理解できる能力がなかったとはいえず,かつ取引を行うに足りる経済力を有していたといえる。したがって,控訴人において,被控訴人に対し,本件オプション取引を勧誘したことが適合性の原則に違反して違法であったとまではいえない。

しかしながら,前記一,二判断(原判決引用)のとおり,本件オプション取引は,その仕組みが一般の証券取引に比べて複雑で,日本ではなじみのない取引であり,かつリスクが高い投機性の極めて強い取引であるから,投資経験のない被控訴人がその内容を十分理解することは,相当困難であることが明らかである。したがって,Aらとしては,被控訴人に対し,株式信用取引や商品先物取引の経験があるか否かを確認して,その経験がない場合には,本件オプション取引の内容について,十分な時間をかけて説明するとともに,具体的な取引例を想定して,手数料も含めた上で,予想される利益や損失を具体的に数字を示して説明すべき義務があり,かつ,当初は少額の取引の勧誘に止めて,その取引の損益を確定させ,実際に取引を経験してもらったうえで,通常規模の取引を勧誘すべき義務があるといえる。

ところが,前記三認定(原判決引用)のとおり,Aは,被控訴人に対し,株式信用取引や商品先物取引の経験の有無を確認することもなく,パンフレットを示す等して,本件オプション取引にリスクがあることは説明したものの,ローリスク・ハイリターンで儲かることを強調し,具体的に一定数の注文をしたと仮定した場合に,手数料を含めてどのような場合にいくらの利益が得られ,どのような場合にいくらの損失が発生するかを具体的に説明していない。このようなローリスク・ハイリターンを強調しただけの一般的説明では,投資経験のない被控訴人が本件オプション取引の仕組みやリスクを正しく理解することは不可能であり,説明義務違反があったものというべきである。また,Aは,被控訴人に対し,原判決別紙売買取引一覧表番号1ないし3のとおり,本件オプション取引の開始後,1週間の間に,合計約1900万円の預託金額となる取引を勧誘したものであるが,初めて本件オプション取引を行う被控訴人に,当初から多額の取引を勧誘したことになり,投資経験のない新規委託者の保護義務にも違反しているものというべきである。

なお,被控訴人は,その他の違法事由として,無敷・薄敷取引及び仕切拒否・回避を主張している。しかし,本件オプション取引においては委託保証金の制度は存在せず,前記三認定(原判決引用)のとおり,手数料を含めた買付代金は控訴人において遅滞なく徴収していたことが認められるし,仮に控訴人の仕切拒否の事実が認められるとしても,それによって被控訴人の損失が拡大したのかどうか本件証拠上明らかでない。したがって,被控訴人の上記主張は理由がない。」

2  そこで,損害額及び過失相殺について判断する。

(1)  前記三認定(原判決引用)のとおり,本件オプション取引による被控訴人の財産的損害額は,被控訴人の主張金額である2591万0552円と認められる。

また,被控訴人は,精神的損害による慰謝料も請求しているが,控訴人の従業員において,脅迫等の反社会的態様の勧誘方法をとったとは認められないから,慰謝料は認められない。

(2)  ところで,前記三認定(原判決引用)の事実によれば,次の事情が指摘できる。

被控訴人は,本件オプション取引の仕組みを理解することはできなかったが,損失を被ることがあり得ることは理解できたものであり,Aから,本件オプション取引について十分に理解している趣旨のアンケートや念書への署名押印を求められた際,実際には十分理解できなかったにもかかわらず,これら書類への署名押印に応じている。また,本件取引2(大豆)によって約860万円という多額の損失を被り,本件オプション取引が実際にはハイリスクであることを理解することができたにもかかわらず,その後もAらの勧誘に応じて,多数のオプション取引を注文し,結果的に損失をさらに拡大させてしまった。

(3)  以上の事情によれば,本件オプション取引によって損害を被ったことについては,被控訴人にも相当な落ち度があるものというべきであり,本件のその他の一切の事情を考慮すると,4割の過失相殺をするのが相当である。

(4)  そうすると,被控訴人が控訴人に請求できる損害額は,2591万0552円から4割を控除した1554万6331円となる。

弁護士費用のうち,本件と相当因果関係のある損害として150万円を認めるのが相当である。したがって,合計額は1704万6331円となる。

3  以上によれば,被控訴人の本訴請求は,1704万6331円及びこれに対する不法行為の後である平成9年6月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理由がある。

よって,本件控訴に基づき,これと結論を一部異にする原判決を変更し,被控訴人の本訴請求を上記限度で認容し,その余の請求は理由がないからこれを棄却し,本件附帯控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川克介 裁判官 黒岩巳敏 裁判官 永野圧彦)

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