大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 平成13年(ネ)435号 判決 2002年2月14日

<住所省略>

控訴人兼被控訴人

X(以下「1審原告」という。)

同訴訟代理人弁護士

織田幸二

加藤了嗣

猪子恭秀

東京都千代田区<以下省略>

被控訴人兼控訴人

つばさ証券株式会社(以下「1審被告」という。)

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

矢内原泉

主文

1  原判決を次のとおり変更する。

2  1審被告は1審原告に対し,621万3018円及びこれに対する平成10年9月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  1審原告のその余の請求を棄却する。

4  1審被告の控訴を棄却する。

5  訴訟費用は第1,2審とも3分し,その2を1審原告の,その余を1審被告の負担とする。

6  この判決は第2項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

(以下,略語は,原則として原判決に準ずる。)

第1当事者の求めた裁判

1  1審原告

(1)  原判決を次のとおり変更する。

(2)  1審被告は1審原告に対し,1715万0054円及びこれに対する平成10年9月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)  1審被告の控訴を棄却する。

(4)  訴訟費用は第1,2審とも1審被告の負担とする。

(5)  仮執行宣言

2  1審被告

(1)  原判決中1審被告敗訴部分を取り消す。

(2)  1審原告の請求を棄却する。

(3)  1審原告の控訴を棄却する。

(4)  訴訟費用は第1,2審とも1審原告の負担とする。

第2事案の概要

1  本件は,1審被告に吸収合併前の第一証券(第一證券株式会社)津島支店と証券等の取引をしていた1審原告が,同支店のB支店長及び従業員Cにおいて,証券取引法に反し,あるいは社会的相当性を逸脱するなどした勧誘行為をしたとし,1審被告に対し,民法715条(使用者責任)に基づき,又は民法415条(債務不履行責任)に基づき,損害賠償金1715万0054円及び遅延損害金(訴状送達日の翌日である平成10年9月10日から民法所定年5分)の支払を求めたケースにおいて,原判決が第一証券の使用者責任を認め,損害賠償金498万0414円と遅延損害金を認容したところ,双方がこれを不服として控訴した事案である。

2  争いない事実等及び争点は,次に改めるほかは,原判決「事実及び理由」の第2の1及び2のとおりであるからこれを引用する。

原判決3頁2行目から3行目にかけての「746万7072口」を「362万8675口)と,25行目の「本件取引」を「上記1(2)及び(3)の取引」と改め,4頁2行目末尾に「また,同取引について追認があったか。」を,5頁10行目末尾に「少なくとも,黙示に追認したものである。」を加え,13行目の「というけれど」を「と主張するけれども」と,6頁5行目の「健全性省令」を「証券会社の健全性の準則等に関する省令」と,11行目の「ブルベア」を「ブル・ベアセレクト」と,7頁14行目から15行目にかけての「社会相当性」を「社会的相当性」とそれぞれ改め,8頁9行目の「なお,」から11行目末尾までを削り,9頁2行目の「(以下」を「(日本証券業協会の公正慣習規則第9号,以下」と改め,13行目の「公正慣習規則1号」の次に「(店頭における有価証券の売買その他の取引に関する規則,以下「店頭取引規則」ともいう。)」を,10頁10行目の「控除すると,」の次に「その差額は」をそれぞれ加える。

第3争点に対する判断

当裁判所も,日本株ブルの売買取引のうち,平成8年3月26日の売却についてはCが1審原告の売却意思の再確認をせず,同年4月23日の購入についてはCが無断で行ったことが認められるが,いずれも控訴人による黙示の追認が認められること,日本株ブルの売買取引について利益保証による勧誘や社会的相当性を逸脱した違法性は認められないこと,オリジナル設計株の取引については,B支店長による断定的判断の提供による勧誘,適合性の原則違反等が認められ,不法行為を肯定でき,これにより1審原告が1132万6036円の損害を被ったことが認められること,しかし,これについては1審原告の過失も認められると判断するものであるが,過失割合については5対5とするのが相当と判断する。

その理由は,次に改めるほかは,原判決「事実及び理由」の第3のとおりであるからこれを引用する。

1  原判決11頁5行目の「13号証,」の次に「15,16の1,2,第17,」を,10行目の「第47号証の1ないし6,」の次に「第64号証の1ないし11,第66,67号証,68号証の1ないし3,」をそれぞれ加え,13頁23行目の「なお,」を「(なお,」と,14頁3行目を「い。)」と改め,7行目の「基づいて,」の次に「要旨」を加え,15頁6行目の「なお,」を「(なお,」と,7行目の「確認書」を「第一のブル・ベアセレクト取引確認書」と,8行目を「きない。)」とそれぞれ改め,16行目の「訪問し,」の次に「いずれも1審原告が本人又はD名義で署名押印した第一の」と加え,17行目の「ブル・ベアセレクト取引確認書」を「第一のブル・ベアセレクト取引確認書」と,16頁16行目を「思ったが,第一証券に対して特に抗議等はしなかった。」と,18頁8行目から9行目にかけての「署名押印してもらうよう求めた。」を「署名押印してもらいたい旨を告げた。」とそれぞれ改め,10行目の「原告は」を削り,14行目の「確認書」を「確認書の文案の内容」と,22行目の「転換社債と外債を」を「転換社債の」とそれぞれ改める。

2  原判決19頁4行目の「前記認定によれば,」を「上記1に認定のとおり,」と,9行目の「ことが認められる。」を「ものである。」と,20頁3行目の「前記認定によれば,」を「上記1に認定のとおり,」と,9行目の「ことが認められる。」を「ものである。」とそれぞれ改め,21頁6行目から10行目までを次のとおり改める。

「 前記認定のとおり,Cは,同月10日,1審原告に日本株ブルの購入を勧めたが,同日もその後も,1審原告から具体的な買付注文を受けなかったし,1審原告と連絡もとれないまま,同月23日に,独自の判断で,1審原告の取引として,同人及びD名義で日本株ブルを購入したものであり,同購入行為は,1審原告に無断で行ったといえる。」

3  原判決21頁12行目の「前記認定によれば,」を「上記無断取引の経緯は,上記1に認定のとおりであるところ,その追認の有無について判断するには,特に,次の諸点を考慮すべきである。すなわち,」と改め,16行目の「したこと,」の次に「第一証券では,」を,17行目の「求めたところ,」の次に「1審原告は,」を加え,21行目から22行目にかけての「確認書」を「確認書の文案」と,22頁3行目の「ことが認められる。」を「ことを指摘することができる。」とそれぞれ改め,4行目から10行目までを次のとおり改める。

「 これらの経緯によれば,1審原告は,日本株ブルの取引に関して,第一証券のB支店長と交渉したが,最終的には,D名義の取引の公表を嫌い,またCの将来に配慮して,大蔵大臣への事故確認の手続きを取って損害賠償を受けることを断念し,新規発行の転換社債の紹介等を求め,その後も第一証券との取引を継続したものであるから,上記転換社債の取引をするに至った平成8年6月10日の時点までには,上記日本株ブルの無断取引を黙示に追認したものと認めることができる。なお,1審原告は,上記追認につき,「取消の原因の情況が止みたる」ことが必要である等と主張するが,上記追認は,取消しうべき行為の追認ではなく,同主張は採用できない。」

4  原判決22頁15行目から16行目にかけての「許されないのであるから,」を「許されないと解されるし,上記経緯によれば,1審原告も日本株ブル取引については証券事故届等によることなく終了させ,新たな転換社債の取引による利益取得を得ようとの行動に出たものであって,その際,1審被告により損失補填が約されたわけでもないこと等を考慮すると,」と改め,24頁5行目の(エ)の次に「(社会的相当性を逸脱した違法性)」を加え,7行目の「社会相当性」を「社会的相当性」と改め,14行目から17行目までを次のとおり改める。

「 以上によれば,第一証券による1審原告とのブル・ベアセレクトの取引に関して,社会的相当性を逸脱した違法があるということはできず,他に同違法性があることにつき主張立証はない。

したがって,ブル・ベアセレクトの取引に関しては,第一証券に不法行為責任も債務不履行責任も認めることができず,1審原告の同取引についての本件請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。

6  オリジナル設計株の取引の経過について」

5  原判決25頁4行目から10行目までを次のとおり改める。

「 (なお,1審原告は,B支店長によるオリジナル設計株の勧誘時期について,平成8年6月と主張し,1審被告は,これを一旦は認め,その後,これを撤回し,同時期を同年7月4日であると主張するに至った。上記撤回について,1審原告から明示の異議はないところ,確かに,1審被告の主張するように,B支店長が勧誘する際に持参した株式市場新聞は同月1日付けであり(乙36,原審証人B),同日以降にもB支店長による勧誘があったものと認められるが,それ以前に勧誘していないものとも思われず,上記証拠と前記1審被告の主張の変遷等の弁論の全趣旨を考慮すれば,上記のとおり,同勧誘時期は同年6月下旬から同年7月初旬頃と見るのが相当である。)」

6  原判決25頁16行目から23行目までを次のとおり改める。

「(2) 1審被告は,B支店長が「3割無償がついて,金7000円は堅い株です。」と言ったことはない旨主張し,乙第35号証(会社四季報)の2の記載「予96.12・分1→1.2B」,平成8年7月5日の買付値段6700円から始まっていること(調査嘱託に対する株式会社ジャスダック・サービスの回答)及び原審証人Bの証言等を援用する。

しかし,会社四季報に2割無償の増資を予測する記載があるからといって,第一証券はオリジナル設計の店頭公開についての副幹事会社であったものであり,実際にも3割無償の増資が行われたことに鑑みると,B支店長が3割との数値を予測できる旨を示して勧誘することがあり得ないものでもなく,7月以前に勧誘がなかったとはいえないこと上記のとおりであるので,上記調査嘱託回答も上記認定を妨げるものでもないし,原審における1審原告の尋問結果に照らし,原審証人Bの上記証言も上記認定に反する部分は採用できない。」

7  原判決26頁10行目から11行目にかけての「公正慣習規則1号」の次に「(店頭取引規則)」を,12行目の「投資勧誘規則」の次に「(公正慣習規則9号)」をそれぞれ加え,27頁22行目の「前記認定した」から24行目までを次のとおり改める。

「上記認定の1審原告の大学院卒業の学歴,銀行員,高校教員等の職歴,昭和42年からという長期間の証券取引歴等に,オリジナル設計株の取引が損失補填の趣旨と信じて始めたものである等を考えると,店頭登録株取引の危険性を軽視した等の過失を軽く見ることはできないが,他方,同取引をするようになったのは,追認したと見られるとはいえ,B支店長によるブル・ベアセレクトの無断売買に起因する損害の発生にあったもので,上記追認も1審被告において円滑に証券事故届手続をしなかったことの結果ともみられること等を考慮すべきであり,これらを勘案すると,上記取引による損害発生について斟酌すべき控訴人の過失は5割とするのが相当である。」

8  原判決27頁25行目から28頁3行目までを次のとおり改める。

「 したがって,上記損害から1審原告の過失を考慮して,1審被告は,B支店長の不法行為に対する使用者責任として,1審原告に発生した損害の5割に相当する566万3018円の賠償をする責任がある。

(2) 上記不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は55万円が相当である。

11  以上によれば,1審原告の1審被告に対する使用者責任を理由とする本件請求は,621万3018円とこれに対する遅延損害金の限度で理由がある。なお,債務不履行責任による損害も上記を超えることはない。」

第4結論

以上のとおりであるから,1審原告の1審被告に対する使用者責任を理由とする本件請求は,損害金621万3018円とこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容すべきものであるから,1審原告の本件控訴は一部理由があるので,これにしたがって原判決を変更し,1審被告の本件控訴は理由がないのでこれを棄却し,訴訟費用の負担割合を定め,請求認容部分に仮執行宣言を付することとして主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田村洋三 裁判官 小林克美 裁判官 戸田久)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例