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名古屋高等裁判所 平成13年(ネ)533号 判決 2002年5月28日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴人が当審において追加した請求を棄却する。

3  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

(略語は原判決に準じる。)

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人

(1)  原判決を取り消す。

(2)  被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して,1億円及びこれに対する被控訴人(日進岩崎西部土地区画整理)組合においては平成9年10月2日から,被控訴人会社(株式会社オオバ)においては平成12年2月10日から,その余の被控訴人らにおいては同月9日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)  被控訴人組合は,控訴人に対し,2674万9000円及びこれに対する平成9年10月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(4)  訴訟費用は第1,2審とも被控訴人らの負担とする。

(5)  仮執行宣言

2  被控訴人ら

主文同旨

第2事案の概要

1  本件は,愛知県日進市岩崎西部地区の山林等を宅地として開発した本件土地区画整理事業の主体である被控訴人組合から,バブル経済期の昭和62年9月に保留地予定地であった本件土地を買い受けた控訴人が,本件土地は森林のまま残すことを義務づけられた残置森林であり,4,5年間は建築確認を受けることができない土地であったのに,被控訴人組合がこの点を説明しなかったうえに,速やかに宅地造成工事を施工して本件土地を引き渡す旨を約しておきながら,これを怠ったことにより,本件土地を転売する機を逸するなどしたため損害を被ったとして,平成8年11月20日に清算を開始していた被控訴人組合に対し,平成9年に至って債権届出をしたことから,被控訴人組合において控訴人に対し損害賠償債務不存在確認の訴えを提起したのが原審甲事件本訴請求であり(これは原審において訴えの取下げにより終了),これに対して控訴人において損害賠償請求の反訴を提起し,本件土地区画整理事業に関し被控訴人組合のコンサルタント会社であった被控訴人会社及び被控訴人組合の理事ら(ただし,被控訴人Aは元理事長亡Bの相続人)に対しても不法行為に基づく損害賠償請求訴訟(原審乙事件)を提起し,これらが併合審理された事案である。

2  原審甲事件反訴請求は,被控訴人組合に対し,①残置森林であることを説明すべき義務若しくは速やかに宅地造成工事を施工する義務を怠った売買契約の債務不履行に基づき,②残置森林であるため建築確認を受けることができないという瑕疵がある本件土地を売ったことについての売買契約の瑕疵担保責任に基づき,又は③右の説明をする義務があったのに,これを怠って本件土地を控訴人に売却した説明義務違反若しくは詐欺による不法行為に基づき,転売利益又は借入金の利息相当額等の損害賠償及び遅延損害金(催告の翌日から年5分の割合)の請求をするものであり(以上の各請求の関係は選択的併合),原審乙事件は,被控訴人組合以外の被控訴人らに対し,本件土地売買に関し正確な情報を提供しなかったことなどを理由とする不法行為に基づく損害賠償及び遅延損害金(同上)の請求をするものであり,これに対して被控訴人らは,情報提供義務を尽くしたこと及び控訴人主張の損害賠償請求権は3年又は5年の経過により時効消滅した等と主張して争ったところ,原審は,被控訴人組合が控訴人に対し,本件売買契約締結に際し,本件土地が残置森林であり,4,5年間は建築確認を受けることができない土地であることを説明した等と認定して,控訴人の請求をすべて棄却したので,控訴人が事実誤認を主張して控訴した。

3  控訴人は,当審において,上記2①の請求につき,本件売買契約における擁壁工事施工義務の不履行を理由とする同工事代金相当額2903万1307円を損害の主張として追加したほか,隣接地の埋め立てによって擁壁工事が不要となったことによる同額の不当利得返還請求を選択的に追加した。この不当利得返還請求は当審における新請求である。

4  争いのない事実等,争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり改めるほかは,原判決「事実及び理由」第二の一ないし三のとおりであるからこれを引用する。

(1)  原判決11頁3行目の「本件土地は」から6行目の「となった。」までを「本件土地は,上記行政指導の結果残された残置森林に含まれ,その結果,昭和62年9月当時から家屋等の建築につきその確認申請書が受理される見込みがなく,これらの建築はできない状態であった。」と,12頁7行目の「擁壁造成工事は」から8行目までを「本件土地の北東側約35mの擁壁造成工事は被控訴人組合が施工することとし,控訴人は,同擁壁の構造・施工時期及び方法等について,すべて被控訴人組合に従い,被控訴人組合に対し異議を述べることができない。」と,9行目の「被告組合から」を「被控訴人組合側の仲介業者として関与した訴外イマイ地所株式会社(以下「イマイ地所」という。)から」と,13頁6行目の「記載されている。)。」から7行目までを『記載されているが,甲第9号証及び原審被控訴人D本人尋問の結果によれば,「契約保証金」の記載は「売買代金」の誤記である。)。(乙22の1ないし3)』とそれぞれ改める。

(2)  原判決13頁8行目から11行目までを次のとおり改める。

「8 被控訴人組合は,本件土地を含む保留地17街区外7街区の残置森林に代わる回復森林を理事らの所有地に別途設けるという方策により,上記残置森林の伐採をすることとし,平成3年10月21日,宅地造成等規制法に基づき,本件土地を含む土地の宅地造成に関する工事の許可申請をしたところ,平成4年1月21日にこれが許可され,本件土地については平成4年9月末ころに宅地造成工事が完成し,平成5年12月17日に上記許可にかかる宅地造成工事の完了検査がなされた。そして平成4年6月8日から日進市都市開発部都市計画課において上記造成宅地につき建築確認申請書が受理され,同月11日建築確認されるに至った。(乙6,61の1,2,原審証人C,愛知県尾張事務所長及び日進市都市開発部都市計画課に対する調査嘱託の各結果)」

(3)  原判決14頁5行目の「現在、」から6行目までを「,平成8年5月20日受付で同月16日売買を原因としてEへ所有権移転登記がされ,同月31日受付で譲渡担保を原因として株式会社東興業へ所有権移転登記がなされており,控訴人は,同月,不渡手形を出して倒産した。(甲19,20,乙3,4,弁論の全趣旨-控訴人の平成10年8月25日付け準備書面の12頁)」と,18頁4行目の「死亡した。」を「死亡し,被控訴人Aはその相続人である。」と,23頁1行目の「(被告会社)」を「(被控訴人組合)」と,26頁5行目及び28頁1行目の各「被告」をいずれも「被控訴人組合」と,30頁3行目の「売却益」を「代金収入」と,31頁6行目の「利益」を「収入」と,8行目の「転売利益相当額は」を「失った転売利益は」とそれぞれ改める。

(4)  原判決32頁10行目と11行目を次のとおり改める。

「本件土地の一部を最初に売却できた平成7年12月12日までとした場合は原判決別紙の別表1のとおりであり,換地処分の公告がなされた平成7年5月27日までとした場合は同別表2のとおりであり,宅地造成が完了した平成5年12月17日までとした場合は同別表3のとおりであり,宅地造成の許可がなされた平成4年1月21日までとした場合は同別表4のとおりである。」

(5)  原判決33頁2行目の「売却益」と5行目の「利益」をいずれも「代金収入」と改める。

5  当審で追加された争点

(1)  擁壁工事施工債務不履行による控訴人の損害の有無及び額(争点5)

(控訴人)

本件売買契約では,被控訴人組合において本件土地の北東側の法面に擁壁工事を行う旨約されていたが,被控訴人組合は同工事を行っていない。同工事費用として本件土地の単価40万円に10万円が上乗せされたのであるから,上記債務不履行による控訴人の損害額は,売買代金の5分の1に相当する2903万1307円である。

(被控訴人組合)

被控訴人組合が擁壁工事を行っていないことは認めるが,それは本件土地北東隣地が埋め立てられたことにより擁壁を設ける必要がなくなったからであり,これによって本件土地の利用効率は格段に向上した。擁壁工事分として本件土地の単価が上乗せされた事実はない。

(2)  擁壁工事が不要となったことによる被控訴人組合の不当利得の成否及び同返還請求の追加の許容性(争点6)

(控訴人)

擁壁工事が不要となったことは,双方の責めに帰すべからざる事由により債務を履行すること能わざるに至ったものであるから,被控訴人組合は本件売買代金に含めた同工事代金相当額2903万1307円を受領する権利を有しないのに(民法536条1項),同額の利得を保持しているのに対し,控訴人は同額の損失を被っている。

(被控訴人組合)

控訴人の上記不当利得返還請求は,従来の請求と訴訟物を異にする新請求であり,請求の基礎を異にするから,これを追加することは許されない。利得と損失の発生の主張は争う。

第3当裁判所の判断

当裁判所も,当審において控訴人が請求あるいは主張を追加したものを含め,被控訴人らの債務不履行,瑕疵担保責任及び不法行為に基づく各損害賠償義務及び不当利得に基づく返還義務はいずれも認められないものと判断する。

1  争点1について

(1)  被控訴人組合において控訴人に対し,本件売買契約に当たり,本件土地が残置森林に当たるため,4,5年間は建築確認が受けられない旨説明したことを認めることができ,控訴人主張の上記説明のないことを前提とする点についての被控訴人らの債務不履行責任,瑕疵担保責任及び不法行為責任は肯定できないと判断する。その理由は,次のとおり改めるほかは,原判決36頁10行目から48頁9行目のとおりであるからこれを引用する。

ア 原判決37頁11行目の次に改行の上,次を加える。

「他方,被控訴人組合の理事長で本件売買契約関係を主に担当していたB理事長は既に死亡し〔原審被控訴人D(以下「被控訴人D」という。),弁論の全趣旨〕,被控訴人Dは原審において,B理事長が控訴人に上記趣旨の説明をした等の供述をし(原審尋問,甲5),原審証人Cも,B理事長から上記趣旨の説明をした旨聞いた等の供述をする(原審尋問)。」

イ 原判決38頁1行目の「しかしながら」から2行目までを,「そこで,以下,上記各供述について検討する。」と,47頁11行目から48頁9行目までを次のとおりそれぞれ改める。

「(五) 以上検討した諸点,特に,控訴人において本件売買契約当時あるいはその後間もなくの時点で,本件土地が残置森林であることを知らないことを前提とすると理解しがたい態度を示しており,結局,当時これを知っていたと推認できること等を考慮すれば,上記原審被控訴人D及び原審証人Cの各供述は採用でき,これらと弁論の全趣旨を総合すれば,被控訴人ら主張の,被控訴人組合において,本件売買契約当時,控訴人に対し,本件土地が残置森林に指定されており,4,5年間は建築確認を受けられない旨説明したと認めることができ,同認定に反する部分の上記原審控訴人代表者の供述等は採用できない。

3  以上のとおりであるから,控訴人主張の,上記説明のないことを前提とする点についての被控訴人らの債務不履行責任,瑕疵担保責任及び不法行為責任は,その余の点について判断するまでもなく認められない。」

(2) なお,控訴人の主張するように,①被控訴人Dは本件売買当時,保安林と残置森林の違いの認識が不十分であったと窺われる節もあり(原審での同被控訴人本人),②被控訴人会社の担当者Cにおいては,残置森林は保安林解除の条件ではなく,地域森林計画指定山林(森林法5条)についての行政指導に過ぎないと理解し,残置森林としての規制を軽視していたようであり(原審証人C),③被控訴人組合は平成2年1月14日に残置森林購入者への宅地造成及び準備手続の説明会を開催した際,伐採届出書の提出によって残置森林の伐採をしようと考えていたと思われ(乙6,10,60,原審証人C),④平成2年12月ころまでに本件土地に隣接する残置森林を組合員から取得したNDS(日本電話施設株式会社)も,取得後に日進市役所で調査して建築確認が得られないことを知ったものであって,残置森林の規制を知らされないまま本件土地の隣地を取得した(乙11,70ないし73)などの事情もないではない。

しかし,上記①については,本件売買契約を実質的に担当していたのはB理事長であって,被控訴人Dの関与は補助的な立場であったに過ぎない面もあり(原審被控訴人D,弁論の全趣旨),同②,③については,行政指導により残置森林とする旨の規制があることを知ったうえで,それでも伐採を実行して造成しようとしていたともいえ,他方,被控訴人会社は土地区画整理事業のコンサルタント会社として,同事業には様々な障害があって見込みどおりに計画が進捗しないことを承知していたものであり(原審証人C),同④については,NDSは被控訴人組合から土地を取得したものではないから,NDSの土地取得と控訴人のそれとを同一に論ぜられないこと等の諸点が指摘でき,これらを考慮すれば,上記控訴人の主張する事情は,上記(1)の認定を左右するに足りないものというほかない。

2  争点2について

控訴人は,本件売買契約に際し,本件土地の宅地造成工事が昭和63年春ころに着工し,平成元年春に完了することが合意された旨主張するので,以下検討する。

(1)  控訴人代表者は,昭和62年8月ころ,現地を確認した際,B理事長から「保安林の網がかかっているが昭和63年春ころには宅地造成に着手できる」旨の説明を受け,以後,昭和63年9月16日の契約締結の際も,同年10月20日に面会した際も,本件土地が残置森林で建築確認が即座に受けられる土地ではない旨の説明を受けたことはなかった等と供述する(原審尋問)。

(2)  しかしながら,B理事長が「保安林の網がかかっている」旨及び宅地造成工事に未だ着手していない旨を説明したことは控訴人代表者も自認するところであり,昭和59年に被控訴人組合が作成し,役員に配布した換地設計縦覧てびきによると,使用収益の開始時期につき「既存建付地については指定日と同時,他は,62年頃で山林換地については,それから4年位遅れる」旨が記載されていることが認められ(甲22,23,弁論の全趣旨),これらの点と,上記1の判断の前提とした事実等に照らすと,上記控訴人代表者の供述のみからこれに沿う事実を認めることはできないし,仮にこれを認めるとしても,B理事長の控訴人に対する宅地造成開始時期に関する説明をもって将来の確実な時期に工事が完了する等を約束したものと認めるに至らない。

(3)  以上の諸点及び本件売買契約が保安林を含む山林を対象とする土地区画整理事業内に存する土地の売買であり,バブル経済の最中で地価が顕著に高騰していたときに締結されたものであること等も考慮すると,本件売買契約締結に際しては,控訴人と被控訴人組合との間で,本件土地の宅地造成工事の完了時期や使用収益の開始時期等について不確定な要素を含むことが相互に了解されてはいたが,これを平成元年春ころとする旨の合意その他確定的な時期についての合意がなされたと認めるには至らないというほかない。

3  控訴人の当審で追加した請求等について(争点5及び6)

(1)  被控訴人組合において,控訴人が当審で追加した不当利得返還請求と従前の請求との間に請求の基礎に変更があるとして,訴えの変更につき異議を述べるが,上記不当利得返還請求は,従前から請求されていた造成工事施工債務の不履行に基づく損害賠償請求との間に請求の基礎に同一性があることが明らかであり,訴えの追加的変更は許容される。

(2)  上記争いのない事実等(原判示)と証拠(甲6,乙1)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。

ア 本件土地の北東側隣地が本件土地より低くなっていたことから,本件土地を宅地として利用するためには,同隣地との間に擁壁を設置することが必要であったところ,被控訴人組合と控訴人との間で,本件売買契約に際してこれに付随するものとして,被控訴人組合において上記隣地との境界に沿う部分の本件土地内に擁壁工事を施工すること,擁壁の構造,施工時期及び方法等につき控訴人はすべて被控訴人組合に従い,異議を述べないことが合意された。

イ 低地であった上記隣地につき,遅くとも平成4年ころまでに埋め立てがなされ,本件土地との高低差がなくなったため,本件土地を宅地として利用するための上記擁壁を設置する必要がなくなり,同擁壁工事は無意味となった。

ウ その後,控訴人代表者の兄のEと被控訴人組合との間で協議し,本件土地を分筆した各土地間の境界(筆界)の擁壁工事を被控訴人組合において施工し,同筆界の擁壁工事費用のうち上記隣地との擁壁工事見込費用相当分(証拠上その額は明確でない。)を被控訴人組合において負担し,その余は控訴人において施工業者に支払い,控訴人は上記処理に特段の異議を述べなかった。なお,本件売買契約当時は,上記本件土地内の筆界の擁壁工事を被控訴人組合において施工することとされてはいなかった。

(3)  控訴人代表者は,本件売買契約の代金は,3000万円の擁壁工事費用が上乗せされて定められたもので,契約保証金が擁壁工事代金相当額である趣旨の供述する(乙29,原審尋問)が,本件売買契約書(乙1)でも,土地代金,造成工事代金,さらには擁壁工事代金等が特定されてはいないし,上記契約書によれば,契約保証金は契約時に支払い,後日代金に充当できるとされ,現に代金に充当されているもので(弁論の全趣旨),残金が約1か月後に支払われることとされていることからすれば,上記契約保証金は手付金に相当する性質のものと理解できるところであり,これが,擁壁工事代金であるとは理解しにくく,上記供述を裏付けるものはないことを考慮すると,同供述だけから,本件売買契約代金につき上記擁壁工事代金相当分とその余が明確に区分されていたものと認めることはできない。

(4)  そこで,まず,控訴人の債務不履行の主張について判断する。

控訴人が当審で追加した擁壁工事施工債務不履行の主張であるが,本件売買契約上の債務から,上記擁壁工事施工債務のみを分離してその不履行責任を追及できるか否かはさておき,その主張自体では,どのような形態の債務不履行の主張であるか明確ではない。上記債務不履行の主張を履行遅滞に基づくものと解するとしても,上記認定によれば,擁壁工事施工については,期限の定めは認められず,催告の主張立証もないので,同主張は理由がなく,上記主張を履行不能に基づくものと解するとしても,控訴人が自ら同主張と選択的関係にあるとする不当利得返還請求の原因として,上記擁壁工事債務は双方の責めに帰すべからざる事由により不能となったと主張するものであり,上記認定によれば,これを肯定できるところであるから,この債務不履行の主張も理由がない。いずれにせよ,控訴人主張の上記債務不履行の主張は理由がない。

(5)  次に,不当利得返還請求について検討する。

上記(1)及び(2)を含む既に判示の事実関係を前提とすれば,本件売買契約上の売主の債務は,上記擁壁工事を含む造成工事を施工して本件土地を引き渡すとのもので(上記によれば,これらの工事施工と土地引渡の期日は同一ではない。),買主からその対価として1億4515万6536円の代金が支払われるとのものであって,擁壁工事施工の部分のみ履行不能となったとしても,売買契約全体が履行不能となるとは解されないし,上記擁壁工事費用相当額についてこれを認めることのできる証拠はない。してみれば,同部分の履行不能に帰したことによる被控訴人組合の利得額も控訴人の損失額も認定するに至らない(なお,上記認定によれば,実質的には,上記利得と損失はその後本件土地に施工された筆界擁壁工事代金の処理において清算されていると考えられることを付言する。)。

第4結論

よって,その余について判断するまでもなく,控訴人の請求は,当審での新請求も含めて理由がないから,本件控訴及び当審での新請求をいずれも棄却することとし,控訴費用の負担を定めて,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田村洋三 裁判官 小林克美 裁判官 戸田久)

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