名古屋高等裁判所 平成13年(ネ)631号 判決 2002年1月22日
主文
1 原判決主文第1ないし第3項及び第4項のうち控訴人Bにかかる部分を次のとおり変更する。
2 被控訴人Dは,控訴人Aに対し,57万3168円及びこれに対する平成12年1月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 控訴人Bは,被控訴人Cに対し,28万8000円及びこれに対する平成12年1月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 控訴人Aの被控訴人Eに対する請求及び被控訴人Dに対するその余の請求並びに被控訴人Cの控訴人Bに対するその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は第1,2審を通じて次のとおりとする。
(1) 被控訴人Eに生じた費用の全部,被控訴人Dに生じた費用の3分の2及び控訴人Aに生じた費用の3分の2を控訴人Aの負担とする。
(2) 控訴人Bに生じた費用の2分の1及び被控訴人Cに生じた費用の2分の1を被控訴人Cの負担とする。
(3) 被控訴人Cに生じた費用の2分の1及び控訴人Bに生じた費用の2分の1を控訴人Bの負担とする。
(4) 控訴人Aに生じた費用の3分の1及び被控訴人Dに生じた費用の3分の1を被控訴人Dの負担とする。
6 この判決は第2,3項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
(略号は原判決に準ずる。)
第1当事者の求めた裁判
1 控訴人ら
(1) 原判決主文第1ないし第3項及び第4項のうち控訴人Bにかかる部分を次のとおり変更する。
(2) 被控訴人D及び被控訴人Eは,連帯して,控訴人Aに対し,154万4408円及びこれに対する平成12年1月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被控訴人Cの控訴人Bに対する請求を棄却する。
(4) 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
(5) 仮執行宣言
2 被控訴人ら
(1) 本件控訴をいずれも棄却する。
(2) 控訴費用は控訴人らの負担とする。
第2事案の概要
1 本件は,冬期深夜の長野県下の国道(上下各1車線)において,操縦の安定を失って上下車線のほぼ中央に横向きになって停止したD車(運転者被控訴人D,所有者被控訴人C)の後部両側面と,後続していたB車(運転者控訴人B,所有者控訴人A)及び対面進行していて反対車線(D車及びB車進行車線)へ転把したE車(運転者被控訴人E,所有者原審丙事件原告F)の各前部がほぼ同時に衝突し,B車とE車も衝突した交通事故により生じた各車両の物的損害について,B車の所有者(甲事件)及びD車の所有者(乙事件)が,他方2車両の各運転者に対し,E車の所有者(丙事件)がD車の運転者に対し,それぞれ民法709条に基づく損害賠償及び事故日以後の遅延損害金(年5分)の支払を請求したところ,原審はこの3件を併合審理し,控訴人Bの過失を70%,被控訴人Dの過失を30%,同Eの過失を零と判断し,これにしたがってそれぞれの請求を認容あるいは棄却したので,B車の所有者である控訴人Aと運転者の同Bがこの判断を不服として控訴した事案である。なお,原判決中,乙事件のうち被控訴人Eに対する請求部分及び丙事件〔平成12年(ワ)第5225号〕については控訴がなく確定した。
2 争いのない事実等及び争点
原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の1,2項のとおりであるからこれを引用する。ただし,上記確定した請求についての部分を除き,4頁1行目を次のとおり改める。
「D車の車両価格 480,000円(乙第4号証及び第8号証によると,D車は経済的に全損の状態となったものであるところ,乙第8号証によると,D車はスズキワゴンRのRXではなくRGであり,乙第9号証のレッドブックによると平成7年型のRGクラスの小売価格は上記金額である。)」
第3当裁判所の判断
1 争点(1)(被控訴人D,同E,控訴人Bの過失の存否,過失相殺)について
当裁判所は,被控訴人Dの過失を4割,控訴人Bの過失を6割とし,被控訴人のEについては違法性が阻却されると判断する。その理由は,次のとおり改めるほか,原判決「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」の第1項のとおりであるからこれを引用する。
(1) 原判決7頁9行目から9頁3行目までを次のとおり改める。
「イ 被控訴人Dは,時速約60キロメートルで本件事故現場手前を塩尻方面に向けて走行中,上記緩やかな左カーブに差し掛かり,減速するためブレーキをかけたとき突然ハンドルを右に取られ,更に急ブレーキを踏んだため車体が横向きになって滑走して操縦の自由を失ない,反対車線に車体の前半分が侵入し,中央線と90度交差した状態で停止した。停止とほぼ同時に,D車左側後部にE車が,同右側後部にB車がそれぞれ衝突し,D車後部を押し潰す状態でE車前部とB車右前部も衝突した。
ウ 控訴人Bは,D車の後方20メートル以内を追従して,塩尻方面に向けて時速約60キロメートルで走行中,D車がスピンを始めたことに気付いたが,D車が対向車線へ向かって行くものと感じ,また自車の積荷の荷崩れをおそれ,このまま進行してもD車の左側をすり抜けて通過できると考え,やや減速したものの,停止のための急制動操作をしないまま左側に寄って進行したところ,D車が自車前方を妨げる状態で停止しため,D車の右後部に自車前部を衝突させると共に,対向車線から自車線へとD車を回避してきたE車とも正面衝突した。
エ 本件事故現場の道路幅は路肩部分も含めて約8メートルであるところ,D車の長さは3.29メートル,B車の幅は2.25メートルであり,D車はほぼ車両中央を中央線上に置く位置で横向きに停車したものであるから,D車の停止時にB車から見てD車の左側には一見してB車が通過できる程度の余裕がある状況ではなかった。他方,E車の幅は1.69メートルであるところ,同車から見て,D車の前部先端から左側路肩ガードレールまでの間には2メートル以上の空間があった。」
(2) 原判決9頁4行目の「カ」を「オ」と改め,5行目末尾に「D車に後続する車両の有無等を確認することなく,」と加え,7行目の「被告E」から10行目までを削る。
(3) 原判決9頁12行目の「同時に衝突したものであり,」を「同時に衝突したものと認められ,E車が先にD車左側後部に衝突してD車を押し戻し,そのためにB車とD車が衝突したとする控訴人ら主張の事実を認める証拠はなく,」と,15行目の「先行車両であるD車の動向を注視し,」を「先行車両であるD車との間に」と,18行目の「漫然と」を「急停止のための」と,21行目の「道路中央から右側への進入は,」から10頁2行目までを次のとおり,それぞれ改める。
「D車の先端と自車の進行車線左端のガードレールとの間隔は2メートル以上あって被控訴人Eが自車線を直進することが不可能ではなく,被控訴人Eが安全を確認しないまま反対車線にはみ出した行為の過失を否定することはできない。しかし,E車とD車は双方の合計速度である毎時100キロメートル以上の高速度で接近し,しかもD車が反対車線から自車線へ侵入してきたのであるから,被控訴人Eがガードレールのある左側ではなく右へ転把して対向車線側へ逃げたことは,やむを得ない措置であったというべきであり,被控訴人Eの上記行為は,被控訴人Dの不法行為に対する正当防衛として,違法性が阻却されるというべきである(被控訴人Eが緊急避難として主張する事実関係は,正当防衛としての違法性の阻却事由の主張を含むと解し得る。)。したがって,本件事故は,被控訴人Dと控訴人Bの共同不法行為と見ることができる。
そこで,控訴人Bと被控訴人Dとの過失割合について検討するに,上記に認定した控訴人B及び被控訴人Dの各過失に加えて,被控訴人Dが自車を制御できなくなって滑走させ対向車線へはみ出させたという上記過失行為によって,E車を自車線に進出させ,E車との衝突を惹起してD車及びB車への損傷を加重したと認められる点を踏まえると,被控訴人Dの過失は軽いものということはできず,本件事故についての控訴人Bと被控訴人Dとの過失割合は6対4と評価するのが相当である。」
2 争点(2)(控訴人Aの損害)について
原判決「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」の第2項のとおりであるからこれを引用する(ただし,10頁22行目の「3割に当たる392,376円」を「4割に当たる52万3168円」と,24行目の「40,000円」を「5万円」とそれぞれ改める。)。
3 以上によれば,控訴人Aの請求は,被控訴人Dに対して57万3168円及びこれに対する本件事故日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,同被控訴人に対するその余の請求及び被控訴人Eに対する請求はいずれも理由がなく,被控訴人Cの控訴人Bに対する請求は,損害額48万円の6割に当たる28万8000円及びこれに対する本件事故日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があり,その余の請求は理由がない。
第4結論
よって,上記理由がある各請求を認容し,その余を棄却すべきであるから,これと結論を異にする原判決主文第1ないし第4項を第3の3に沿って変更することとし,これに従って第1,2審の訴訟費用の負担割合を定め,請求認容部分に仮執行宣言を付することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田村洋三 裁判官 小林克美 裁判官 戸田久)