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名古屋高等裁判所 平成13年(ネ)806号 判決 2002年6月27日

主文

1  1審原告らの控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。

2  1審被告会社及び同Aは,連帯して,1審原告らそれぞれに対し,以下の各金員及びこれに対する平成11年5月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(1)  1審原告Bに対し,225万1000円

(2)  同Cに対し,225万1000円

(3)  同Dに対し,236万1000円

(4)  同Eに対し,219万8000円

(5)  同Fに対し,246万2000円

(6)  同Gに対し,249万5000円

3  1審原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

4  1審被告らの控訴をいずれも棄却する。

5  訴訟費用は第1,2審を通じてこれを3分し,その1を1審被告らの負担とし,その余を1審原告らの負担とする。

6  この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

(略語は原判決に準じる。)

第1当事者の求めた裁判

1  1審原告ら

(1)  原判決中,1審原告ら敗訴部分を取り消す。

(2)  1審被告会社及び同Aは,連帯して,1審原告らそれぞれに対し,以下の各金員及びこれに対する平成11年5月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

ア 1審原告Bに対し,787万9200円

イ 同Cに対し,827万9200円

ウ 同Dに対し,841万9200円

エ 同Eに対し,885万4400円

オ 同Fに対し,628万8800円

カ 同Gに対し,626万6800円

(3)  訴訟費用は第1,2審とも1審被告らの負担とする。

(4)  仮執行宣言

2  1審被告ら

(1)  原判決中,1審被告ら敗訴部分を取り消す。

(2)  上記取消にかかる部分についての1審原告らの請求をいずれも棄却する。

(3)  訴訟費用は第1,2審とも1審原告らの負担とする。

第2事案の概要

1  本件は,①1審原告らが,1審被告会社との間で,その代表者である1審被告Aの説明及び締結行為により交わした空調機器清掃工事等の営業に関する「P.C.Gダクリンボーイ」フランチャイズ契約(本件契約)につき,公序良俗違反,錯誤無効若しくは詐欺取消により本件契約の効力がないこと(①-1),本件契約を締結する過程での情報提供義務の違反(①-2)若しくは不法行為(①-3)があったことを理由として,また②1審原告Dが,本件契約に関する交渉中に1審被告Aから暴行を受け,これが不法行為であるとして,それぞれ次の請求をする事案である。

(1)  1審原告らそれぞれが1審被告会社に対し,不当利得に基づく利得金の返還(①-1),債務不履行に基づく損害賠償(①-2),又は不法行為(1審被告会社自体によるもの,若しくは代表者の不法行為による法人の責任)に基づく損害賠償(①-2,3,遅延損害金も含めて後記1審被告Aと連帯)及びそれぞれに対する訴状送達日の翌日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金

(2)  1審原告らそれぞれが1審被告Aに対し,不法行為に基づく損害賠償(①-2,3)及び上記同様の遅延損害金(いずれも上記1審被告会社と連帯)

(3)  1審原告Dが1審被告会社(代表者の不法行為による法人の責任)及び1審被告Aに対し,連帯して,不法行為に基づく損害賠償(②)及び上記同様の遅延損害金上記1審原告らの請求に対し,1審被告らが責任原因と損失・損害額等を争ったところ,原審は,本件契約につき,公序良俗違反,錯誤及び詐欺の事実は認められないとしたものの,1審被告らの情報提供義務の違反を認め,1審原告らの過失割合を6割として過失相殺をし,また,1審原告Dに対する1審被告Aの暴行を認め,1審原告らの1審被告両名に対する本件請求(上記①-2,3,②)の一部を認容した。そこで,双方が事実誤認等を主張して控訴した。

2  争いのない事実等,争点及び争点に対する当事者の主張は,次のとおり改めるほかは,原判決「事実及び理由」第2の1ないし3のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決4頁5行目の「エアコンあるいは厨房ダクトの洗浄業務」を「1審被告会社の独自のノウハウにより開発されたエアコンあるいは厨房ダクトの洗浄業務」と,16行目の「平成11年1月8日,」を「平成11年1月8日に到達した書面により,」とそれぞれ改め,18行目から20行目までを削る。

(2)  原判決6頁21行目と22行目を「平成7年1月から平成10年8月までに愛知県内で新規に加盟した62店は殆ど廃業し,現在まで残っているのは4店に過ぎない。その理由は1審被告らから教えられたとおりに努力しても売上げが伸びす,生活が維持できないからである。」と,11頁1行目の「原告D」を「1審原告B,同D」とそれぞれ改める。

第3争点に対する当裁判所の判断

1  争点(1)(本件契約の無効及び取消原因の存否並びに1審被告らの情報提供義務違反及び不法行為の成否)について

当裁判所も,本件契約につき,公序良俗違反,錯誤及び詐欺等,本件契約の無効及び取消原因並びにこれを理由とする不法行為を認めることはできないが,1審被告らの契約締結上の情報提供義務違反は認めることができ,これは不法行為を構成するものと判断する(なお,契約締結上の情報提供義務違反についての1審原告らの主張及び原判決の記載は,その法的構成につき必ずしも明白ではないが,それぞれの主張及び右原判決の記載の内容からすると,債務不履行又は不法行為であるとの主張であり,原判決は不法行為に基づく請求を認容したものと解される。)。その理由は,次のとおり改めるほかは,原判決「事実及び理由」第3の1のとおりであるからこれを引用する。

(1)  原判決11頁15行目の「特許も取得した。」を「平成4年にダクト内清掃方法等に関して複数の特許を取得した。」と改め,13頁3行目の「昭和60年代に入って」及び7行目から8行目にかけての「他の業者が参入するようになった。」をいずれも削り,10行目の「多数参入するようになった。」を「多くなった。」と改める。

(2)  原判決13頁15行目の「以下のとおり推移している。」を「以下のとおり推移しており,合計189店が加入し,93店がフランチャイジーから離脱した計算になる。また,平成7年1月から平成10年8月までの間に,愛知県内で1審被告会社のフランチャイズ・ダクリンボーイに加盟した約60店のうち,現在も同フランチャイジーとして残っている店舗は4店舗に過ぎない。」と,21行目から14頁5行目までを次のとおり,それぞれ改める。

「(イ) 1審原告らが行ったアンケートには40の加盟店が回答したが,そのうち営業期間が1年以上に及んだものは14店であって,その月平均売上高は27万円に届かない。アンケート回答者のうちで1審被告会社から施工報告シートが提出された16店について見ると,営業期間の平均は9.38月,総売上高の月平均は27万円余であった。1審原告らの営業期間は6か月から10か月であり,その施工報告シートには加筆があって判然としない部分があるが,月平均売上高は概ね13万円から30万円であった。(甲10の1ないし40,乙46,51ないし54の各1,乙55の1ないし3,5,6,9.10,15,16,18,23,31,34,36ないし38)」

(3)  原判決15頁4行目の「ただし,」から5行目の「準備が必要である。」まで及び9行目の「しかし,」をいずれも削り,同行の「結構いる。」を「結構いるが,儲からなくて辞めた者はいない。」と,16行目の「競業他社の存在,」を「競業他社の存在及び需要の予測等,市場状況についての個別具体的な情報,」と,17行目の「資料は」から18行目までを「資料は示されなかったし,具体的な説明もなく,1審原告らは売上げ等に関し,既存加盟店全体の平均的なデータや最低レベルのデータの開示を求めていたのに,1審被告Aは,個別の加盟店の具体的データや,ある時点の具体的データだけを示すに止め,平均的データ等を一切示さなかった。そのため,ある店の1年目の売上げが月100万円であるとの説明が,1年目の「年間の」又は「加盟店全体の」平均売上げが月額100万円であると誤解されかねない状況である等した。」と,22行目の「また」を「また,本件契約の証書の本文1頁目及び」とそれぞれ改め,24行目の「以上,原告らは当然このことを理解していたと認められる。」を削る。

(4)  原判決16頁1行目の「フランチャイジー」から7行目の「認められる。」までを次のとおり改める

「フランチャイジーのうち営業期間が1年以上に及んだ店の月平均売上高は27万円に届かない額であって,回答者の多くは開業後1年に満たない期間で廃業したものである。ところで,1審被告Aは加盟希望者に対し,営業を継続した場合の1年目,2年目などの一定時期における特定の業者の売上高の例を示すなどして説明していたものである。」

(5)  原判決17頁5行目の「被告A」から7行目の「認められない。」までを「1審被告Aの行った説明が,1審原告ら主張の不法行為を構成するが如き虚偽のものであったと認めるには至らない。」と改め,18頁15行目の「被告会社が」から16行目の「開拓が始まり,」まで及び18行目の「また」から19行目の「結果,」までをいずれもを削り,19頁13行目の「説明したにとどまり,」を「説明したにとどまり,平均的なデータや下限のデータを一切示さなかったし,出店予定地域の競業他社の存在や需要予測等市場状況についての情報も伝えなかったのであるから,」と,20行目の「したがって,」から22行目までを「したがって,1審被告Aも,1審原告らに対し,過失により情報提供義務を怠ったものといえ,1審被告らは1審原告らに対し,連帯して情報提供義務違反に基づく不法行為責任を負担するといわざるをえない。」とそれぞれ改める。

2  争点(2)(1審原告Dに対する暴行の有無等)について

この点についての当裁判所の判断は,原判決「事実及び理由」第3の2のとおりであるからこれを引用する。

3  争点(3)(損害額,過失相殺等)について

この点についての当裁判所の判断は,次のとおり改めるほかは,原判決「事実及び理由」第3の3のとおりであるからこれを引用する。

(1)  原判決21頁8行目から22頁2行目までを次のとおり改める。

「1審被告らは,1審原告B,同D,同C及び同Eが,1審被告会社との契約終了後も,エアコンクリーニング業を独自に行っていると主張する。しかし,同1審原告らが,1審被告会社との契約終了後もエアコンクリーニング業だけを独自に営んでいると認めるに足りる証拠はなく,証拠(甲55ないし57)及び弁論の全趣旨によると,1審原告B,同D及び同Cは共同して,クリーンエアシステムの商号で,エアコンの洗浄だけでなく,エアコンの修理及び販売等の業務を行っており,同Eは電気工事業を営み,同Bらからエアコン修理等の仕事を受注することもある事実が認められる。

そうすると,同1審原告らは1審被告会社との契約終了後もエアコンクリーニング業に関連のある業務に従事しているのであるから,1審被告会社に支払った研修費用(エアコン洗浄事業のノウハウ取得するための対価)及び資機材費等(同事業のために必要な資機材の対価等)のすべてを1審被告らの情報提供義務違反と相当因果関係のある損害と認めることはできず,上記判示の事実によれば,その2分の1に限って損害と認めるのが相当である。また,車両については,上記4名の現在の事業の営業に利用することが可能なものであるから,いずれもその購入費用を損害と認めることはできない。

よって,1審被告らの情報提供義務違反と相当因果関係のある損害としては,加盟金及びロイヤルティとして支払った額の全部並びに研修費用及び資機材費等として支払った額の半額に限り認めることができる。そうすると,損害額合計は,1審原告B,同C及び同Dが各341万円,同Eが333万円となる。」

(2)  原判決22頁16行目から23頁22行目までを次のとおり改める。

「しかも,1審被告Aが1審原告らに対し,ビラ・チラシを撒くだけの営業で足りる旨説明したことを認めるに足りる証拠はなく,原告らに交付されたマニュアル(乙64の4)にも,詳細な営業活動の方法が記載されている。

しかしながら,1審被告Aは,1審原告らの出店予定地域の競業他社の存在や需要の予測等,市場状況についての個別具体的な情報提供を怠った上,既存加盟店の経営状況の平均的データを把握できる立場にありながら,加盟希望者にもそのデータを示さず,既存加盟者の個別データのうち好都合なものだけを示して勧誘するという,不正確で恣意的ともいえる情報提供により勧誘したものであり,他方,本件契約の目的とする空調機器の清掃工事等は,その当時一般的営業であったとも窺えないから,1審原告らにおいて独自に情報を得ることが容易であったとも考えられない。これらを勘案すれば,本件においては,1審被告Aの過失を軽視できず,1審原告らの過失割合を40%に留めるのが相当である。」

(3)  原判決24頁2行目の「1割」を「1割(1000円未満四捨五入)」と,5行目を次のとおり,それぞれ改める。

「本判決別紙記載(2)損害額一覧表のとおりである(なお,本判決別紙記載(1)支払費用一覧表は原判決と変更はないが,理解の便宜のために,別紙に付加する。)。」

4  以上によれば,1審原告らの1審被告らに対する不法行為に基づく請求は,上記の損害金及びこれに対する不法行為の後である訴状送達日の翌日であることが原審記録上明らかな平成11年5月19日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある(なお,1審原告らの情報提供義務違反の主張につき,これを債務不履行としても,上記損害額を超えては認められない。)。

第4結論

よって,上記認容すべき損害額を認めなかった限度において原判決は失当であるから,1審原告らの控訴は一部理由があるので,原判決を上記にしたがって変更し,1審被告らの控訴は理由がないのでこれを棄却することとし,訴訟費用の負担割合を定め,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田村洋三 裁判官 小林克美 裁判官 戸田久)

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