名古屋高等裁判所 平成13年(ネ)940号 判決 2002年8月22日
主文
1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人は控訴人に対し,64万2730円及びこれに対する平成9年2月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 控訴人のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は第1,2審を通じてこれを4分し,その1を被控訴人の負担とし,その余を控訴人の負担とする。
5 この判決は,主文2項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は控訴人に対し,298万8360円及びこれに対する平成9年2月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
4 2項につき仮執行宣言
第2事案の概要
1 本件は,被控訴人経営の店舗敷地内の通路部分に設置された車両進入防止用の鉄パイプに足を取られて転倒するという事故により負傷したとする控訴人が,被控訴人に対して,民法709条,715条あるいは717条に基づき,損害賠償の支払を求めた事案であり,原判決は控訴人主張の転倒場所で本件事故が発生したものとは認められないとして,本訴請求を棄却したため,これを不服とする控訴人が控訴したものである。
2 前提事実
(1) 被控訴人は,愛知県稲沢市a町において,C店を経営する株式会社であり,C店の状況は原判決別紙現場見取図(以下「見取図」という。)のとおりである(甲21,乙3,弁論の全趣旨)。
(2) 控訴人は,平成9年2月21日午後7時ころ,C店敷地内の外売場の出入口通路付近において転倒した(以下「本件事故」という。)(当事者間に争いがない。但し,転倒場所が見取図の西側出入口から入ったAの付近(以下「Aの付近」という。)か東側出入口から入ったBの付近(以下「Bの付近」という。)であったか,Aの付近に通路を塞ぐ形で鉄パイプを橋渡しした鉄柵(以下「A型バリケード」という。)が設置されていたかどうか,その鉄パイプの高さは約22cmか約36cmであったかについては争いがある。)。
(3) 控訴人は,本件事故により第5,第7頸椎骨折,鼻骨骨折,頸部挫傷,顔面挫創,前歯打損等の傷害を負い,平成9年2月21日から同年3月20日まで,I病院に入院し,その後も同年8月8日までの間通院治療を受け,また,歯科医院において同年5月23日から同年7月28日まで(実日数11日),歯科治療を受けた(甲1,2の1ないし13,3)。
3 当事者の主張
(1) 控訴人
① 被控訴人の責任原因
ア 被控訴人は,通り抜け車両進入防止のために,C店が営業時間中であるにもかかわらず,Aの付近に通路を塞ぐ形でA型バリケード及び鉄パイプを設置した。その設置態様は,A型バリケード2台を左右に置いて,その中央に鉄パイプを橋渡して結ぶというものであり,鉄パイプは約22cmの高さに位置していた。また,周囲の照明設備は不十分であった。
このような場合,被控訴人としては,入店する年齢・性別の異なる不特定多数の客に対し,A型バリケード等の存在を知らせるための表示をするなどして,その認識を容易にすべき注意義務があるのにこれを怠り,前記のような態様でその認識が困難な状態で設置した。
したがって,被控訴人には本件事故の発生について過失があり,民法709条に基づき,またはA型バリケード等は被控訴人の従業員によって設置されたものであるから民法715条1項に基づき,控訴人に生じた損害を賠償すべき義務がある。
イ また,民法717条1項にいう「土地の工作物」とは,土地に接着しているものだけではなく土地の工作物としての機能を有するものをいうと解される。そして同条が危険責任に根拠をおくことからすると,土地との接着性は厳格に解すべきではなく,土地を基礎とする企業設備ないし企業の物的設備が全体として土地の工作物になると解すべきである。
したがって,C店全体をひとつの工作物としてとらえるべきであり,本件のA型バリケード等はC店敷地内への車両の進入を防止するために設置されたものであるから,C店の中の設備の一部として「土地の工作物」にあたる。
そして,前記A型バリケード等は,前記ア記載のような状況,態様で設置されていたのであるから本来有すべき安全性を欠き,その設置に瑕疵がある。
したがって,被控訴人は,民法717条1項に基づき,控訴人に生じた損害を賠償すべき義務がある。
② 損害
控訴人は,本件事故によって,次のとおり合計298万8360円の損害を被った。
ア 治療費 34万3360円
(ア) I病院 16万8100円
(イ) D歯科 17万5260円
イ 入院雑費 4万5000円(1日1500円×30日)
ウ 休業損害 110万円
控訴人は,本件事故当時,月収20万円を得ていたから,これに休業期間5.5か月(入院期間1か月,通院期間4.5か月)を乗じた額
エ 慰謝料 150万円
前記受傷及び入通院により被った精神的損害を慰謝するには150万円が相当である。
③ よって,控訴人は被控訴人に対し,民法709条,715条あるいは717条に基づく損害賠償請求として,298万8360円及びこれに対する本件事故日である平成9年2月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(2) 被控訴人
① 被控訴人は,本件事故当時,見取図の陳列商品置場(以下「陳列商品置場」という。)の両端(東西),すなわちBの付近と陳列商品置場の西側にA型バリケード等を設置していたが,控訴人主張のように通路を塞ぐ形となるAの付近にA型バリケード等を設置してはいない。また,控訴人が転倒した場所は,Bの付近であり,ここは人が往来する通路ではない。控訴人は,通路ではないという目印として設置したA型バリケードに橋渡しされた高さ約36cmの鉄パイプを跨ごうとして転倒したのであり,これは控訴人の一方的な過失による自損事故であって,被控訴人に責任はない。
② また,前記A型バリケード等は,土地に据え置かれているにすぎず,民法717条1項にいう「土地の工作物」ではないからこの点からも被控訴人には責任はない。
第3当裁判所の判断
1 本件事故が,平成9年2月21日午後7時ころ,C店敷地内で起きたことは前提事実(2)のとおりであるところ,控訴人の転倒場所及び転倒場所におけるA型バリケード等の設置の有無等について判断する。
(1) 証拠(甲4,7,8,当審証人E,控訴人[原審])によると,控訴人(昭和13年7月10日生)は,本件事故当日,名鉄名古屋本線b駅前のF病院に通院した帰りに,同病院から南東に位置するC店へ買物をするために立ち寄ろうとして,C店の外売場西側出入口通路付近を歩行中に,Aの付近で通路を塞ぐ形で設置されていた2台のA型バリケードに橋渡しされた鉄パイプに気付かずに,足を取られてつまずき,そのまま前のめりの状態で転倒するという本件事故にあったものと認められる。
(2) この点に関して,被控訴人は,控訴人の転倒場所はBの付近である旨主張し,甲24,乙1,4,原審証人Gの証言中には,「外売場に怪我人がいるとの客の知らせにより現場にかけつけた被控訴人従業員は外売場東側出入口通路付近に倒れている控訴人を店舗内のレジ付近に運んだ。救急車が到着するまでの間,控訴人は救急の手配をした被控訴人従業員に対して,『買い物に来たのではなく近道をしようとC店の敷地内を通り抜けようとして鉄パイプを跨いだ為転んでしまった。申し訳ない。ごめんね。』と謝っていた。」旨の部分がある。
しかしながら,本件事故の通報を受けて控訴人をI病院に搬送した消防署員の救急業務報告書(甲27)の事故概要等欄に「C店に買い物に来たところ誤って転び顔面を負傷した。」との記載があることからも,買物目的でC店に立ち寄ろうとした旨の控訴人本人[原審]の供述及び陳述書(甲8)部分は十分信用することができる。
甲24,乙1,4,原審証人Gの証言にあるような「控訴人は近道をしようとC店敷地内を通り抜けようとした」とする意味が,控訴人の自宅への近道であるとすれば,そのようなことは考えがたい。何故なら,控訴人の自宅である肩書住所地はC店の北東方向に位置しているのである(甲9)から,C店敷地内にその東側出入口から入ることが自宅への近道とならないからである。この点,控訴人の旧住所(稲沢市c町d丁目e番地コーポHf号)がC店の北西方向に位置する(甲9,21)ことから,本件事故当時,旧住所に居住していたとすれば,C店敷地内にその東側出入口から入ることは近道とはならないわけではなく,控訴人の戸籍附票(甲6)には,本件事故後に旧住所から現住所地に転居した旨の記載となっているが,本件事故前の平成8年11月頃には現住所に転居ずみであることは甲22,23により明らかであるから,控訴人が旧住所地への近道のためにC店敷地の東側出入口から入ったと考えることもできない。
そうすると,控訴人は,買い物に来たのではなく近道をしようとしてC店敷地内にその東側出入口から入ったとみることはできない。
(3) 次に,乙1,4,原審証人Gの証言中には,本件事故当時,被控訴人はBの付近と陳列商品置場の西側付近には,道路からの車両進入防止用の為に鉄パイプを横渡したA型バリケードを設置していたが,Aの付近にはこれを設置していない旨の部分があるので,検討する。
ところで,C店敷地に接する見取図の南側道路と西側道路の2本の道路は車の通行量が多く,歩行者が通行するには危険なため,外売場内の通路は,来店客が利用する以外に,一般の人が通り抜けに利用する通路となっていた。一方で,南側道路を西方面に直進した付近には名鉄名古屋本線の踏切があるため,南側道路を西方面に直進する車両による交通渋滞が起こりやすく,西側道路に向かう車両はこれを避けようとして外売場通路を通り抜けすることがあり,本件事故以前にはそのような車両に子供が轢かれそうになったこともあった。そのため,被控訴人は,本件事故前から,車両が外売場通路へ進入して通り抜けるのを防止するため,鉄パイプを横渡しにした複数のA型バリケードを,外売場通路の東側及び西側に設置していたものである(甲12,原審証人G)。
このようにA型バリケード等の設置目的が,主に南側道路を西進し,外売場通路東側出入口を通り抜けて西側道路に向かう車両の進入防止にあることからすると,外売場通路東側出入口付近にのみA型バリケードを設置するだけでその目的を達することができるのであり,来店客や通行人への安全配慮からA型バリケード等を設置する必要性がある場合には,営業中の店舗とすれば,来店客の自由な往来等,店舗営業に支障が出ないようにする観点からすると,明らかに来店客の外売場通路への自由な往来の妨げとなり,店舗営業の支障になると認められる態様での設置を避けようとすることは十分考えられるところではある。
しかしながら,本件事故当時,Bの付近と陳列商品置場の西側付近にA型バリケード等を設置していたとした場合,そのA型バリケードに橋渡しにされた鉄パイプのために転倒するとは考えがたい。何故なら,Bの付近と陳列商品置場の西側付近との間には陳列商品置場があってブロック等の商品が陳列されており(乙2,原審証人G),控訴人は,本件事故前からC店をよく利用していたのであるから(乙1,控訴人本人[原審]),陳列商品置場を含むC店外売場のおおよその位置,状況を認識していたはずであり,そうであれば,本件事故当時,その時間帯からして周辺が暗くなっていたとはいえ,そのまま進めば陳列商品置場に突き当たるようなBの付近や陳列商品置場の西側付近を控訴人が通行するとはおよそ考えがたいからである。
また,Bの付近や陳列商品置場の西側付近に設置された鉄パイプのために転倒したとするならば,控訴人の身体は転倒方向に位置する陳列商品置場の陳列商品に当たることになると考えられるが,控訴人本人(原審)によると,「控訴人は鉄パイプに足を引っかけて前のめりに転び,顔は横向きで,体はうつぶせ状態であった。」というのであるから,転倒状況とも一致しなくなることが指摘できる。
したがって,A型バリケード等の設置場所は,Bの付近における設置はともかくとして,西側出入口から入った通路付近においては,陳列商品置場の西側ではなくAの付近であると認められる。なるほど,Aの付近であるとすると,来店客の外売場通路への自由な往来を妨げ,店舗営業の支障になるおそれがあることは否定できないが,設置されたA型バリケード等の具体的状況は,後記のとおりであり,その移動にさしたる困難を伴うわけではなく,C店が営業時間中とはいえ,本件事故発生の時間帯(午後7時頃)からすると,これをAの付近に設置することは全く考えられないものとも言い難い。
2 そこで,本件事故当時,Aの付近に設置されたA型バリケード等の具体的状況及び本件事故の態様についてみるに,証拠(甲7,原審証人G,当審証人E,後掲証拠)によると,以下のとおりであることが認められる。
(1) 被控訴人が使用しているA型バリケードは,トーグ安全工業製の「Aバリ普及型」(幅120cm,奥行50cm,高さ80cm)であり,全体を黄色で塗装され,上部からつり下げられているトラ板エプロンは黄色と黒色の縞模様の塗装がされている(乙2,4)。
(2) 被控訴人は,Aの付近の通路を塞ぐ形で,通路の両端に前記A型バリケード各1台を設置し,各A型バリケードの横の桟に長さ300cm,長径5cmの鉄パイプを橋渡している。前記A型バリケードの横の桟の高さは31cmであるから,同A型バリケード二台の各横の桟に橋渡しされた鉄パイプの高さは約36cmとなり,また前記鉄パイプを跨げば通行できることになる(乙2,4)(前記鉄パイプの高さについて,控訴人は約20cmである旨主張し,これに沿う甲7,13,当審証人Eの証言もあるところ,なるほど甲29によると,A型バリケードの中にはその横の桟の高さが15cm程度の製品もあるけれども,被控訴人はトーグ安全工業製の「Aバリ普及型」を取り扱っていたとする乙4を覆すことは困難であるし,甲7,13,当審証人Eの証言部分も,本件事故の2日後に本件事故現場を見に行ったEの記憶に基づくものであるが,前記鉄パイプの高さについて殊更注視したというものでもないから,控訴人の前記主張は採用しない。)。
(3) 被控訴人は,本件事故後に,Bの付近と陳列商品置場の西側付近に,「通行止」と朱書された看板を設置したが,本件事故当時は鉄パイプを橋渡しした前記A型バリケード以外に車両進入を防止するための看板を設置する等の措置をしなかった(甲10,乙2)(なお,原審証人Gは,本件事故当時,前記A型バリケードのトラ板エプロン部分に「通行止」と書かれた紙を張り付けていた旨証言するが,控訴人本人[原審]の供述に照らすと,証拠上これを確定することはできない。)。
(4) 控訴人は,本件事故当時,雪のちらつく天候であったため,ハンドバッグを両手で抱え,急いでC店に入ろうとしてAの付近に至ったが,前記A型バリケードに橋渡しされた鉄パイプに気づかないまま,これに足を取られて,前のめりに転倒した(甲5の1,2)(この点に関して,被控訴人は,控訴人は鉄パイプを跨ごうとして転倒した旨主張し,これに沿う乙4を提出するが,鉄パイプの高さが約36cmであることが鉄パイプを跨ごうとしたかどうかを決定付けるに足りるものとはいえないし,これを否定する控訴人本人の供述[原審]を裏付けるものとして救急搬送先のI病院の救急室患者情報(甲30)に「歩行中,ポールにつまずき顔面から転倒にて受傷」との記載があること,前提事実(3)のとおりの控訴人の受傷の内容,程度に照らすと,控訴人の前記主張を採用することはできない。)。
なお,控訴人は,平成12年2月になって,被控訴人宛に「お願書」と題する書面で本件事故による損害賠償を求め,同年6月,本件事故について,犬山簡易裁判所に対して被控訴人を相手として民事調停を申し立てたが,控訴人が主張する転倒場所を指示説明させるために,同裁判所から控訴人本人の出頭を求められたにもかかわらず,控訴人本人は期日に出頭せず,調停手続は不調に終わった(乙1,控訴人本人[原審],弁論の全趣旨)ことが認められ,乙1には,このような控訴人の行動からして,本件事故の転倒場所,転倒の態様及び前記A型バリケード等の設置状況に関する控訴人の供述は信用できないと指摘する部分がある。しかしながら,本件事故当時,控訴人は別居中の夫との離婚紛争を抱えており,平成11年の年末になってようやくその解決をみたというのであり,調停期日の不出頭も,控訴人の請求を誰かに唆されて金員を騙し取るのが目的であるとして,これを拒否する被控訴人の対応をみた表記控訴人代理人弁護士の判断によるというのである(甲24,控訴人本人[原審],当審証人E,弁論の全趣旨)から,前記のような控訴人の行動をもって,前記認定を左右するに足りる事情とまでいうことはできない。
3 前記認定事実によると,被控訴人は前記A型バリケード等を設置してこれを占有している者であって,その設置目的及び機能に照らすと,前記A型バリケード等は土地に接着したC店における営業設備の一部であるというべきであるから,民法717条1項にいう「土地の工作物」に該当すると認めるのが相当である。
そして,土地の工作物に該当する前記A型バリケードに橋渡しされた鉄パイプにより本件事故が発生したものであるから,その設置には瑕疵が存するものと推定され,この推定を覆すに足りる証拠はない。また本件事故当時,Aの付近の通路を塞ぐ形で前記A型バリケード等を設置していることについて,その存在を明らかにしてC店に入店しようとする顧客の注意を促すに足りる措置が執られていなかったことも前記認定のとおりであるから,被控訴人において損害の発生を防止するに必要な注意を尽くしたということもできない(本件事故当時,転倒場所に駆け付けたC店の女子従業員が「明るくもないし,光るようになっていないから危ないわ。」と発言するのを聞いたとする控訴人本人[原審]の供述部分は十分信用に値する。)。
よって,被控訴人は本件事故について民法717条1項に定める損害賠償責任を免れることはできない。
4 ところで,本件事故当時,C店の外売場西側出入口は南側道路から約3メートル内側に入った付近にあり,道路を通過する車両のヘッドライトや外売場の中央からやや東側に設置された4灯式水銀灯により,前記A型バリケード等の設置されたAの付近もある程度の明るさは保たれていたと考えられること(甲10,乙4),また,当時から控訴人と交際していたEは,本件事故前からAの付近に鉄パイプを橋渡しした前記A型バリケード等が設置されていることを知っていた(当審証人E)というのであるから,本件事故前からC店をよく利用していた控訴人自身もこれを知っていた可能性は高いこと,本件事故以外に,その前後を通じて同様の転倒事故はみられないこと(弁論の全趣旨)が指摘できる。
そうすると,控訴人においては,C店に入店しようとして前記A型バリケード等の設置されたAの付近を通行する際に,前方を注視していれば,前記A型バリケードに橋渡しされた鉄パイプの存在に気づくことは容易であったものというべきであり,これに気づかないまま,Aの付近を通り抜けようとして本件事故にあった控訴人の過失も相当大きいというべきである。
以上の事情に鑑みると,損害賠償額の算定に当たり,控訴人の過失割合を7割とするのが相当である。
5 控訴人が本件事故により受傷して治療を受けたものであることは前提事実(3)のとおりであるから,次に本件事故により被った控訴人の損害について検討する。
(1) 治療費 33万6100円
I病院 16万8100円(甲2の1ないし13)
D歯科 16万8000円(甲3)
(2) 入院雑費 3万6400円(1日1300円×28日)
(3) 休業損害 56万9934円
控訴人は,本件事故前,百貨店の衣料品売場に勤務し,平成8年8月から平成9年1月までの6か月間の平均月収として18万9978円(113万9868円÷6)を得ていたところ(甲14,15,控訴人本人[原審]),本件事故により平成9年2月21日から同年3月20日まで約1か月間入院し,その後も同年8月8日までの4か月余りの間通院治療(但し,その間の通院実日数は不明であるが,甲2の2,4ないし13,甲3をみる限り,1か月の半分以上通院していたものとは認められない。)を受けていたのであるから,その休業損害は,入院期間については平均月収額1か月分を,通院期間については平均月収額4か月分の半額をもって相当として計算すると,56万9934円となる(18万9978円+18万9978円×0.5×4)。
(4) 慰謝料 120万円
前記入通院期間からすると,前記受傷及び入通院により被った精神的損害を慰謝するには120万円が相当である。
(5) 過失相殺後の損害額合計 64万2730円
前記(1)ないし(4)の損害額は計214万2434円であるから,7割の過失相殺をすると,その損害額は64万2730円(円未満切捨)となる。
(6) よって,控訴人の本訴請求は,被控訴人に対して,民法717条1項に基づく損害賠償として,64万2730円及びこれに対する本件事故日である平成9年2月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
6 以上の次第で,控訴人の本訴請求をすべて棄却した原判決は相当でないから,これを変更することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小川克介 裁判官 黒岩巳敏 裁判官 鬼頭清貴)