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名古屋高等裁判所 平成13年(ラ)22号 決定 2001年2月28日

抗告人

甲野太郎

同代理人弁護士

尾関闘士雄

相手方

××住宅株式会社

同代表者代表取締役

乙川一郎

同代理人弁護士

小椋功

主文

1  原決定を取り消す。

2  本件代替執行申立て及び代替執行費用支払申立をいずれも却下する。

3  原審及び当審における手続費用は相手方の負担とする。

理由

1  抗告の趣旨及び理由

抗告人は、主文と同旨の裁判を求め、抗告の理由として、別紙執行抗告理由書記載のとおり述べた。

2  当裁判所の判断

(1)  記録によれば、相手方は、岐阜地方裁判所平成八年(ケ)第五九号不動産競売事件において、その執行債務者である抗告人所有の岐阜市萱場南<番地略>宅地387.98平方メートル(以下「本件土地」という。)ほか三筆の土地(以下「本件各土地」という。)を買い受けた上、同裁判所に対し、抗告人を相手方として本件各土地の不動産引渡命令を申し立てたこと(同裁判所平成一二年(ヲ)第二八四号不動産引渡命令申立事件)、同裁判所は、平成一二年九月二五日、「抗告人は相手方に対し本件各土地を引渡せ。」との本件不動産引渡命令を発したこと、そして、相手方は、同年一一月一六日、同裁判所に対し、本件不動産引渡命令を債務名義として、抗告人は本件土地上に存在する別紙物件目録記載の物置(以下「本件物件」という。)を収去して本件土地を明け渡す義務を負担しているが、任意に履行しないことを理由として、「相手方の申立てを受けた執行官は、本件物件を抗告人の費用をもって収去することができる。」との本件代替執行申立てをするとともに、「抗告人は、相手方に対し、本件物件を収去する費用として予め二二万五七五〇円を支払え。」との本件代替執行費用支払申立て(以下、上記各申立てを「本件各申立て」という。)をし、同裁判所は、本件各申立てを認容する原決定をしたことが認められる。

したがって、原決定は、本件不動産引渡命令を債務名義として行われるべき本件土地の引渡しの強制執行について、民事執行法一七一条一項に基づき、民法四一四条二項本文に従ってなされたものである。

(2)  ところで、民事執行法八三条に基づく不動産引渡命令は、当該不動産の引渡しを命ずる内容の債務名義であるので、これを債務名義として行う当該不動産の引渡しの強制執行の方法は、同法一六八条に基づき、執行官が執行債務者の当該不動産に対する占有を解いて執行債権者にその占有を取得させる方法により行うのであり(同条一項)、同執行において、当該不動産上に執行の目的物でない動産がある場合には、執行官は、これを取り除いて、執行債務者又はその代理人等に引き渡す等の措置を講じて、当該不動産を執行債権者に引き渡すものとされているのである(同条四項)。したがって、不動産引渡命令の目的とされた不動産上にその目的でない動産が存在する場合には、上記のとおり、執行官において、これを取り除いた上、当該不動産を執行債権者に引き渡すことによって、その強制執行は完了するのであり、不動産引渡命令のほかに、上記動産の収去を命ずる債務名義を必要としない。

また、同法八三条に基づく不動産引渡命令は、その目的である不動産の引渡しを命ずるのみであり、それ以外の作為を命ずることはできないから、不動産引渡命令には、これを債務名義として同法一六八条に基づいて行われる引渡しの強制執行の一環として、執行官が上記のとおり当該不動産上に存在する動産を除去することが認められているにすぎず、これとは別に、その相手方に対し、当該不動産上に存在する物件の除去又は収去をなすべき義務を当然に内包されているものということはできないのである。そして、本件不動産引渡命令も、前記のとおり、抗告人に対し、単に、本件土地の引渡しを命ずることを内容とするものである。

他方、民法四一四条二項本文又は三項に規定する請求に係る強制執行については、民事執行法一七一条が、執行裁判所が民法の規定に従い決定をする方法により行う旨規定しているところ(同条一項)、民法四一四条二項本文又は三項に規定する請求に係る強制執行とは、債務者の作為又は不作為の給付を内容とする、いわゆる「為す債務」として、その性質上直接強制を許さない債務の給付についての強制執行を意味し、不動産の引渡し又は明渡しという、いわゆる「与える債務」の給付についての強制執行はこれに含まれないのである。

そして、強制執行の方法は、他の法令に特別の定めがある場合を除いて、各債務名義に表示された債務の内容、性質に従って民事執行法に定める方法によるのであるところ(同法一条参照)、不動産の引渡し又は明渡しの強制執行については、同法一六八条がその執行機関及び執行方法を上記のとおり定めているのであるから、これに民法四一四条二項本文又は三項に規定する請求に係る強制執行の執行機関及び執行方法を定める民事執行法一七一条を適用する余地はない。

(3) 以上によれば、本件不動産引渡命令を債務名義とする本件土地の引渡しの強制執行については、仮に本件土地上に存在する本件物件が動産である場合には、前記のとおり、本件不動産引渡命令を債務名義として直ちに本件土地の引渡しの強制執行をすれば足りるのであり、これが不動産である場合には、本件不動産引渡命令を債務名義とする強制執行によってはその収去をなさしめることができず、いずれの場合であっても、執行裁判所が民事執行法一七一条一項により代替執行決定をすることは許されず、したがって、同条四項によりその費用についての支払決定をすることも許されないものというべきである。

3  よって、原決定は、違法であるので、これを取り消し、本件各申立てを却下することとし、手続費用の負担につき民事執行法二〇条、民事訴訟法六七条、六一条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官・大内捷司、裁判官・長門栄吉、裁判官・加藤美枝子)

別紙

執行抗告理由書<省略>

物件目録<省略>

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