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名古屋高等裁判所 平成13年(ラ)79号 決定 2001年6月13日

抗告人(債権者) 愛知県信用保証協会

同代表者理事 A

同代理人弁護士 山本一道

同 鈴木和明

同 井上利之

同 酒井廣幸

同 大場民男

同 鈴木雅雄

同 深井靖博

同 堀口久

相手方(債務者) Y

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

第1抗告の趣旨

1  原決定を次のとおり変更する。

2  抗告人の相手方に対する原決定別紙請求債権目録(1)及び(2)記載の各債権の執行を保全するため、相手方所有の原決定別紙物件目録記載の不動産は仮に差し押さえる。

第2抗告の理由

別紙抗告の理由のとおりである。

第3当裁判所の判断

1  一件記録によれば、抗告人が相手方に対し、原決定別紙請求債権目録(1)及び(2)記載の各債権を有することが一応認められる。

2  また、一件記録によれば、相手方は原決定別紙物件目録記載の不動産を所有しており、上記不動産には平成12年2月9日設定の債権額1,600万円の愛知東農業協同組合の抵当権が設定されているものの、それ以外の担保権は設定されておらず、平成12年度固定資産評価額は合計約3,035万円であることが一応認められるから、少なくとも各求償金残元本及びこれに対する平成10年9月18日から本件仮差押え申立日までの遅延損害金については、保全の必要性を有することが一応認められる。

3  そこで、本件仮差押え申立日以後に発生する遅延損害金について、保全の必要性が認められるかどうかについて判断する。

不動産に対する仮差押えは、債務者が将来当該不動産について行った処分の効力を否定することを目的とするものであり、債権者が債務者に対して本案訴訟を提起し、その勝訴判決(執行力ある債務名義)に基づき、当該不動産に対して強制競売の申立てをするまでの保全としてなされるものである。そして、本案訴訟において支払済みまでの遅延損害金が認容された場合、その勝訴判決に基づいて強制競売の申立てをすることになり、強制競売においては支払済みまでの遅延損害金を請求できることになるから、債権者自らが強制競売の申立てをする限り、仮差押えの段階において、仮差押え申立日以後の遅延損害金を請求債権として保全する必要はないといえる。

一方、仮差押えの債権者が強制競売の申立てをするまでの間に、担保権者又は執行力ある債務名義を有する他の債権者(以下「担保権者等」という。)によって、当該不動産について不動産競売又は強制競売(以下「競売」という。)の申立てがなされた場合、仮差押えの債権者は、仮差押えの登記があることにより、配当を受けられる債権者として扱われるが(民事執行法87条1項3号、188条)、この場合は仮差押決定に記載された債権額を基準として配当を受けられるにすぎない。したがって、仮差押え申立日以後その配当までに発生する遅延損害金についても請求債権に含めておかないと、受けるべき配当額が減少することになる。そうすると、仮差押えの債権者が勝訴判決を取得したうえ、遅滞なく当該不動産について強制競売の申立てをするまでの間に、担保権者等によって、当該不動産について競売の申立てがなされるおそれがある場合には、仮差押え申立日以後に発生する遅延損害金についても請求債権として保全する必要があり、その場合には、担保権者等によって申し立てられた競売による配当時期を予測することは困難であるから、支払済みまでの遅延損害金について保全する必要があるといえる。

一件記録によれば、本件不動産に担保権を設定しているのは愛知東農業協同組合のみであり、他に仮差押えの登記を経由した債権者も存在しないことが認められる。そして、一件記録によっても、相手方が愛知東農業協同組合に対する債務の支払いを既に遅滞しているとか、他の債権者に対しても債務を負担していることを一応認めることができないから、抗告人が勝訴判決を取得したうえ、遅滞なく本件不動産について強制競売の申立てをするまでの間に、担保権者等により本件不動産について競売の申立てがなされるおそれがあることの疎明が不十分であるといわざるをえない。なお、仮に抗告人が勝訴判決を取得した後、本件不動産について強制競売の申立てをしないまま経過したとすれば、その間に相手方の資力が悪化するおそれがあるから、担保権者等によって、本件不動産について競売の申立てがなされる可能性が高くなるともいえるが、それは抗告人が本来遅滞なく行うべきはずの強制競売の申立てをしなかったためであるから、そのような場合まで考慮して保全の必要性を判断する必要はない。

したがって、仮差押え申立日以後の遅延損害金については、抗告人が主張するように支払済みまでの期間まで保全の必要性が認められる場合も少なくないといえるが、本件においては、その保全の必要性について疎明があるとはいえない。

4  以上によれば、原決定は結論として相当であり、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小川克介 裁判官 黒岩巳敏 永野圧彦)

<以下省略>

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