大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 平成13年(行コ)20号 判決 2002年2月08日

主文

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らの訴えをいずれも却下する。

3  訴訟費用及び補助参加費用は,第1,2審とも,被控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人ら

(1)  本案前の申立て(ただし,控訴人Aを除く。)

ア 原判決を取り消す。

イ 被控訴人らの訴えをいずれも却下する。

ウ 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人らの負担とする。

(2)  本案の申立て

ア 原判決中,控訴人ら敗訴部分を取り消す。

イ 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

ウ 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人らの負担とする。

2  被控訴人ら

(1)  本件控訴をいずれも棄却する。

(2)  控訴費用は控訴人らの負担とする

第2事実関係

1  次のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」欄の第二記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決2頁9行目の「被告補助参加人」を「控訴人3名補助参加人」と訂正する。

(2)  同3頁3行目の「被告東芝,被告富士電機」を「控訴人株式会社東芝(以下「控訴人東芝」という。)及び控訴人富士電機株式会社(以下「控訴人富士電機」)という。)」と訂正する。

(3)  同3頁9行目の「被告補助参加人」を「補助参加人」と訂正する。

(4)  同4頁4行目の「被告A」を「控訴人A」と訂正する。

(5)  同4頁6行目の被告B」を「1審被告B(同人については原判決が確定した。)」と訂正する。

(6)  同4頁11行目の「また」から5頁2行目までを「)を締結し,また,平成3年7月15日,本件基本協定に基づいて平成3年度の年度実施協定を締結し,平成4年2月14日,上記年度実施協定の一部変更協定を締結したほか,事業団との間で,本件浄化センター建設にかかる一連の協定を締結した(上記各協定を「本件委託協定」と総称する。争いがない。)。」と訂正する。

(7)  同5頁9行目の「本件各入札に関して談合が行われ」の次に「,これによって,公正な入札が実施されれば形成されたはずの落札価格に比して,現実の落札価格が高額になったことにより,三重県が損害を受け」を付加し,10行目の「住民監査請求」を「,住民監査請求(以下「本件監査請求」ともいう。)」と訂正する。

(8)  同21頁9行目の「東芝」を「控訴人東芝」と訂正する。

(9)  同27頁1行目の「成立も」を「成立は」と訂正する。

2  当審における当事者の主張(本案前の申立ての理由)

(1)  控訴人ら

ア 地方自治法242条2項所定の期間制限の適用を受ける,いわゆる「不真正怠る事実」とは,怠る事実として構成すると,必然的にある特定の違法な財務会計行為を論理的前提とせざるを得ないものをいう。

そして,被控訴人らが主張する怠る事実(控訴人らに対する談合行為に基づく損害賠償請求権の不行使)は,必然的に三重県の平成3年度の年度実施協定(以下「本件年度実施協定」)という。)と,その一部を変更するため平成4年2月14日に締結された一部変更協定(以下「本件変更協定」という。)の違法を論理的前提とするから,上記怠る事実は不真正怠る事実であり,上記期間制限の適用を受ける。

イ 本件各工事についての談合による三重県の損害を発生させた同県の支出負担行為は,本件年度実施協定であり,仮にそうでないとしても,本件入札後である平成4年2月14日,同入札結果を踏まえて締結された本件変更協定である。

したがって,地方自治法242条2項所定の1年間の期間は,遅くとも本件変更協定締結のときから起算すべきであるから,本件監査請求は上記期間経過後の請求として不適法であるので,本件訴訟も不適法として却下されるべきである。

(2)  被控訴人ら

ア 地方自治法242条2項所定の期間制限の適用を受ける不真正怠る事実の監査請求とは,特定の財務会計行為の違法,不当を主張する監査請求と表裏一体の関係にあるものに限られる。

そして,地方公共団体が談合(詐欺)によって違法に高額の契約を締結したことに基づく,同談合行為者らに対する損害賠償請求権の不行使を理由とする監査請求は,単に財務会計職員が違法に高額の契約を締結したことのみを理由とする監査請求と表裏一体の関係にあるとはいい難いから,後者の監査請求は真正怠る事実にあたるので,上記期間制限の適用は受けない。

イ 本件年度実施協定は,本件入札の前に締結されたものであるから,談合の結果を踏まえたものとはいえないので,違法な支出負担行為とはいえない。本件変更協定も,本件入札の結果を踏まえて締結されたものではないから,違法な支出負担行為とはいえない。

したがって,控訴人らの上記(1)アの見解に立っても,違法な財務会計行為が存在しない以上,本件監査請求の対象たる「怠る事実」は,真正怠る事実であり,地方自治法242条2項所定の期間制限の適用を受けない。よって,本件監査請求は適法であるから,本件訴訟も適法である。

第3当裁判所の判断

1  前記第二の一の各事実,証拠(乙ハ1,丙1の1,2,丙2の1,2,丙3,4,丙15,丙45)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(1)  三重県と事業団は,平成元年9月30日,本件基本協定を締結した。本件基本協定は,数年次にわたる建設工事の全体の基本的事項について契約するものである。三重県は,本件基本協定において,事業団に対し本件浄化センターの建設工事を委託し,その完成予定年度は平成5年度とし(3条),予定概算事業費を44億5000万円(うち取引に係る消費税額は1億2961万1650円)と定め(4条),上記の完成予定年度及び予定概算事業費については,設計内容の変更,国の毎年度の予算の配布状況,賃金又は物価の変動などを考慮した上で,必要に応じて,三重県と事業団とが協議して,変更することができるものとされた(3条,4条)。なお,本件基本協定の予定概算事業費は,平成4年9月29日,44億5000万円から52億円に改められた。

また,三重県と事業団とは,本件基本協定を実施するため,各年度に行う建設工事の内容及びその範囲,費用,施設の引渡しその他必要な事項について,毎年度,年度実施協定を締結するものとされ(11条),年度実施協定に基づいて,事業団は建設工事を行い,三重県は建設工事に要する費用を負担するものとされた。さらに,事業団は,建設工事に関し建設業者と工事請負契約を締結したときは,速やかに三重県にその概要を通知するものとされた(9条)。

なお,上記費用は,工事費及び管理諸費からなり,管理諸費は,受託業務費用負担細則に従って算出される金額である。

(2)  三重県と事業団は,平成3年7月15日,本件基本協定に基づいて本件年度実施協定を締結した。本件年度実施協定においては,平成3年度において事業団が行うべき建設工事の内容が定められ,その中に本件各工事が含まれており(1条),上記各建設工事の完成期限は平成5年3月31日とされた(ただし,平成3年度国庫補助対象額にかかるものについては,平成4年3月31日とされた。2条)。また,同建設工事の施行に要する費用は,24億1200万円(うち消費税7025万2427円)とされ(3条),上記は三重県の予算に計上される扱いとされていた。さらに,本件年度実施協定では,その対象である建設工事が完成したときは,事業団は費用の精算を行うものとされ,精算の結果生じた納入済額と精算額との差額は三重県に還付されることと定められていた(7条)。

なお,その後である平成4年2月14日,本件変更協定が締結され,建設工事の施行に要する費用が24億1200万円(うち消費税7025万2427円)から26億1600万円(うち消費税7619万4174円)に改められた。

(3)  事業団は,平成3年8月22日に受変電設備工事の,同月27日には電気設備工事の指名競争入札をそれぞれ実施したところ,控訴人東芝が,受変電設備工事について1億8500万円で,電気設備工事については5億1450万円でそれぞれ落札した。

(4)  事業団と控訴人東芝とは,上記入札結果に基づき,平成3年8月22日,本件受変電設備工事に関する請負契約を締結した。同契約によれば,工期は同月23日から平成5年3月18日まで,請負代金額は1億9055万円(うち消費税555万円)とされていた。

また,事業団と控訴人東芝とは,平成3年8月27日,本件電気設備工事に関する請負契約を締結した。上記契約によれば,工期は同月28日から平成5年3月18日まで,請負代金額は5億2993万5000円(うち消費税1543万5000円)とされていた。

(5)  三重県は,事業団に対し,本件年度実施協定に基づいて,次のとおり建設費用を支払った。

ア 平成3年10月3日  1億7972万0000円

イ 平成3年11月5日  1億4672万5200円

ウ 平成3年12月5日  4038万0000円

工 平成4年3月11日  5203万5600円

オ 平成4年3月25日  6億1613万9200円

カ 平成4年6月15日  5億4503万2600円

キ 平成4年11月13日  2億6899万2200円

ク 平成4年12月25日  5356万0000円

ケ 平成5年3月5日  1億5778万1200円

コ 平成5年3月29日  5億5563万4000円

(6)  事業団と控訴人東芝は,本件受変電設備工事請負契約について,平成4年3月18日に支払限度額の一部変更を,平成5年3月22日に設計変更に伴う請負代金の一部増額等(従前の代金額に29万8700円を増額して,総額を1億9084万8700円にした。)をそれぞれ合意し,事業団は,控訴人東芝に対し,上記代金を平成5年5月18日までにすべて支払った。

(7)  事業団と控訴人東芝は,本件電気設備工事請負契約について,平成5年3月5日に設計変更に伴う請負代金の一部減額等(従前の代金額から247万2200円を減額して,総額を5億2746万3000円にした。)を行い,事業団は,控訴人東芝に対し,上記代金を平成5年5月18日までにすべて支払った。

(8)  本件各工事の請負契約の代金は,全額,本件年度実施協定に基づいて三重県から事業団に支払われた費用をもって賄われている。

(9)  その後,事業団は,本件年度実施協定に関する精算を行い,三重県に対し,年度完了精算報告書を提出した。同報告書によれば本件各工事を含むすべての工事について,三重県の納入済額と精算額とは一致しており,三重県に対する還付金額は零円であった。

2  上記1の事実及び前記第二の一の事実に基づいて,本件監査請求の対象たる事実が真正怠る事実,不真正怠る事実のいずれにあたるかを判断する。

(1)ア  三重県が事業団に対して本件各工事の施行に係る費用を支払ったのは,三重県が,本件年度実施協定及び本件変更協定の締結により,事業団に対し上記費用を支払うことを約束したことに基づくものであって,本件年度実施協定及び本件変更協定が有効に存在する限り,事業団に対し上記費用を支払うことは,三重県の義務である。

言い換えれば,本件においては,本件年度実施協定及び本件変更協定(財務会計行為としての「支出負担行為」,地方自治法232条の3)に違法又は無効がない限り,これら協定に基づく上記費用の支払(財務会計行為としての「支出」,地方自治法232条の4第2項)を違法ということはできないから,同費用の全部又は一部の支払が三重県の損害にあたるとはいえない。

イ  ところで,三重県が事業団に対しどのような工事についていくらの費用を支払うか,言い換えれば,本件年度実施協定及び本件変更協定の内容をどのように定めるかは,三重県の財務会計上の判断に基づくものである。

そして,三重県の財務会計職員が,上記判断を誤って,事業団との間で,より低額の工事費用を定めて締結できるはずの年度実施協定や変更協定を,実際には,より高額の工事費用を定めて締結したときは,同財務会計職員に故意,過失がなくても,上記各協定は地方財政法4条に違反する支出負担行為として,客観的に違法となり,これに基づく支出も違法となるから,三重県には同違法支出額相当の損害が発生するということができる(談合行為は,上記判断の過程に作用して,財務会計職員の判断を誤らせ,客観的に違法な支出負担行為をさせることによって,これに基づく違法な支出をさせ,これによって地方公共団体に対し損害を与えるものである。)。

ウ  上記の観点からは,被控訴人らの本件監査請求が,談合行為の存在を理由とし,地方自治法242条1項に基づくものである以上,三重県が上記談合行為者らに対し損害賠償請求権を有するという被控訴人らの主張の中には,論理的前提として,三重県と事業団が締結した本件年度実施協定及び本件変更協定は違法である旨の主張が含まれていると考えざるを得ず,これら協定(支出負担行為)が違法であるからこそ,同協定に基づいて行われた費用支払(支出)の一部が三重県の損害にあたると主張されているものというべきである。

言い換えれば,被控訴人らが三重県の控訴人らに対する損害賠償請求権の不行使を怠る事実として構成する以上,損害発生を主張しなければならないが,その損害は,談合によってつり上げられた価格とあるべき適正な価格との差額であって,あるべき適正な価格とは,地方財政法4条1項が規定する目的達成のための必要最小限度の価格であるがら,被控訴人らが損害の発生を主張すると,必然的に地方財政法4条1項に違反した違法な価格で上記各協定を締結したという事実を主張する関係になる。

したがって,本件監査請求は不真正怠る事実に係るものに該当し,談合に加わったが落札しなかった者に対する請求も,談合に加わって落札した者に対する請求と同様,当該財務会計行為から1年間の監査請求期間の制限に服することとなる。

エ  ちなみに,被控訴人らは,本件年度実施協定にも本件変更協定にも違法はないから,違法な財務会計行為は存在しないので,本件監査請求の対象事実は「真正怠る事実」である旨主張する。

しかし,前記のとおり,三重県に違法な財務会計行為がなければ,同県に談合(不法行為)による損害が発生することはあり得ず,被控訴人らが,談合により三重県に損害が生じたと主張して本件訴訟を提起しながら,本件年度実施協定にも本件変更協定にも違法はなく,違法な財務会計行為は存在しないと主張するのは,背理というべきである。また,本件変更協定は,本件の入札の後に締結されているのであるから,本件の談合に起因する違法な財務会計行為を観念することができないということはない。

(2)ア  ところで,被控訴人らは,地方自治法242条2項所定の期間制限の適用を受ける不真正怠る事実の監査請求とは,特定の財務会計行為の違法,不当を主張する監査請求と表裏一体の関係にあるものに限られると主張する。

しかし,上記主張によると,談合に加わって落札した者に対しては,これに基づく地方公共団体との間の契約などを違法な財務会計行為としてとらえ,当該行為に係るものとして監査請求を構成すれば,その監査請求は,地方自治法242条2項所定の期間制限の適用を受けるのに対し,談合を談合者らの地方公共団体に対する共同不法行為としてとらえ,同不法行為に基づく損害賠償請求権の行使を怠る事実として構成すれば,その監査請求には上記期間制限が及ばないことになる。しかし,このような結果は,昭和62年最高裁判決の趣旨,すなわち,監査請求の法的構成を変えることにより地方自治法242条2項所定の期間制限を潜脱することを認めれば,同条項の制限が設けられた趣旨を没却することになるとの趣旨に反することになる。

また,上記見解によると,落札者に対する監査請求の場合は,財務会計行為の相手方として上記期間制限が及ぶが,談合には加わったものの落札しなかった者に対する監査請求は,真正怠る事実として上記期間制限を受けないこととなり,不合理な結果となる。

よって,被控訴人らの上記主張に係る見解は採用できない。

イ  被控訴人らは,地方自治法242条1項所定の違法,不当な財務会計行為とは,財務会計職員に違法,不当な行為がある場合を指し,地方公共団体の相手方等(談合者など)に違法,不当な行為があるのみの場合を含まないと主張する。

しかし,地方自治法242条1項は,文理上,被控訴人ら主張のような限定をしていない。また,監査請求は,地方公共団体の財政の腐敗防止を図り,住民全体の利益を確保する制度であり,しかも,監査請求を前置手続とする住民訴訟においては,明文をもって「当該行為又は怠る事実」に係る相手方に対し損害賠償の請求をすることができることを規定していること等にかんがみると,違法又は不当な財務会計行為があれば,住民がこれについてすべて監査請求をすることができるのは当然であって,被控訴人らが主張するように,財務会計職員が違法,不当な行為をした場合と「当該行為若しくは怠る事実」に係る相手方が違法,不当な行為をした場合とを区別して考える理由はない。

3  本件監査請求の請求期間の起算日

前記1の事実関係によれば,本件監査請求の請求期間の起算日は本件変更協定の締結日であると解するのが相当である。

なぜなら,地方公共団体においては,契約などの支出負担行為に基づいてされた履行行為としての支出は,当該支出負担行為が違法でない限り,支出自体を違法なものと解することはできないところ,前記認定のとおり,本件年度実施協定の締結の後に本件各契約が締結され,その後に本件変更協定が締結され,支出負担行為の内容に変更を生じているものがあると認めることができる事実関係の下では,その最後の変更協定が締結されたときを基準として,本件変更協定による変更を加えた本件年度実施協定の内容に被控訴人ら主張の談合行為に起因する違法事由がなかったかどうかを判断するのが相当であり,かつ,それが監査請求の対象になっていると考えられるからである。

なお,被控訴人らは,地方公共団体に談合の事実が発覚した時点から1年の期間が起算されると解すべきである旨主張するが,これは,要するに,談合行為が秘密裏に行われていたので,本件監査請求の直前近くまで,三重県及びその住民がその事実を知り得なかったというにすぎず,これは,下記4の「正当な理由」の有無の問題として考慮すべきものであって,監査請求期間の起算点の主張としては失当である。

4  地方自治法242条2項ただし書の「正当な理由」の有無

(1)  前記1ないし3及び前記第二の一の事実によれば,本件監査請求は,地方自治法242条2項本文所定の監査請求期間を経過した後に行われたことになるが,被控訴人らは,同期間徒過について同条同項ただし書所定の「正当な理由」があると主張するので,これについて判断する。

(2)  地方自治法242条2項本文が監査請求期間を定め,かつ,当該行為のあった日又は終わった日という客観的な時点を始期としたのは,監査請求の対象となる財務会計行為は地方公共団体の行政行為であるから,たとえそれが違法,不当なものであったとしても,これをいつまでも住民が争い得るものとしておくことは好ましくないとの考慮に立ったものと解される。

したがって,地方自治法242条2項ただし書にいう「正当な理由」も上記趣旨に即して解釈すべきものであり,この「正当な理由」が認められるのは,当該財務会計行為がことさら秘密裏になされた場合等に限られる。その上で,地方公共団体の住民が相当の注意をもって調査すれば,客観的にみて当該行為を知ることができたといえるかどうか,また,監査請求が,当該行為を知ることができたと認められるときから相当な期間内になされたかどうかによって判断すべきことになる。

(3)  そこで,本件についてみると,本件年度実施協定や本件変更協定の内容,金額などが秘密にされていたことをうかがわせる証拠はない。

もっとも,本件において財務会計行為を違法とする事情としての談合行為は,その性質上,事業団及び控訴人ら以外の者にとって知ることが容易でなかったことは容易に推察される。

しかし,証拠(乙ロ5,6,丙52の1,2,丙53)及び弁論の全趣旨によれば,平成6年10月6日の朝日新聞が,事業団発注の電気設備工事の入札をめぐって,控訴人東芝及び控訴人富士電機その他の大手電気メーカー5社並びに中堅電気メーカー4社の合計9社が,過去数年間にわたり,毎年「ドラフト会議」と称する会合を開いて,そこで同年度発注の百件程度の工事につき談合していた疑いがあるとして,公正取引委員会が調査している等報じたこと,平成7年3月6日及び同年6月7日,公正取引委員会が,事業団発注の電気設備工事をめぐる談合事件について,上記9社などを独占禁止法3条違反等により,検事総長に対して告発し,そのころその旨広く報じられたこと,平成7年6月15日,事業団発注の電気設備工事をめぐる談合事件について,上記9社などが独占禁止法3条違反等により起訴され,そのころその旨広く報じられたこと,公正取引委員会が,上記起訴後である平成7年7月,控訴人東芝及び控訴人富士電機らに対して課徴金納付命令を発しており,そのころその旨広く報道されたことが認められる。

したがって,上記刑事訴追及び公正取引委員会の告発,課徴金納付命令の対象となった談合には,本件の談合は含まれていないものの,上記各報道がされた後直ちに,三重県民が,上記新聞報道等を端緒として,相当の注意力をもって調査を開始すれば,その後2年間もの期間を要せずして,本件各契約に関する支出負担行為の存在及び同支出負担行為が被控訴人らの談合行為による金額を基礎とするものではないかとの疑いを抱くに足りる事実を知ることはできたというべきであるから,上記報道から2年以上経過した平成9年10月16日になされた本件監査請求には,監査請求期間の徒過について正当な理由があるとはいえない。

(4)  したがって,本件監査請求は,地方自治法242条2項本文所定の監査請求期間を経過した後にされたことにより,不適法であるから,本件訴訟もまた不適法である。

5  以上のとおりであるから,被控訴人らの訴えはいずれも不適法であるので,原判決を取り消して,本件訴えをいずれも却下し,訴訟費用の負担について民事訴訟法67条,61条,65条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大内捷司 裁判官 佐久間邦夫 裁判官 加藤美枝子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例