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名古屋高等裁判所 平成13年(行コ)23号 判決 2003年5月22日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人名古屋市固定資産評価審査委員会が控訴人に対し,平成8年12月11日付けでした原判決添付別紙物件目録記載の各土地の固定資産税に係る平成6年度の価格決定のうち,

原判決添付別紙物件目録記載1の土地については,311万7518円を,

同目録記載2の土地については,591万2359円を,

同目録記載3の土地については,974万8479円を,

同目録記載4の土地については,1830万1605円を,

超える部分をそれぞれ取り消す。

3  被控訴人国及び被控訴人名古屋市は,控訴人に対し,連帯して120万円及びこれに対する被控訴人国については平成9年4月11日から,被控訴人名古屋市については同月10日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は1,2審とも被控訴人らの負担とする。

5  3項につき,仮執行宣言

第2事案の概要

本件は,控訴人が,その所有する土地に係る平成6年度の固定資産税に係る価格(以下「本件価格」という。)の決定(以下「本件価格決定」という。)が違憲,違法であるとして,被控訴人名古屋市固定資産評価審査委員会(以下「被控訴人審査委員会」という。)に対し,本件価格決定のうち,同土地の平成3年度固定資産評価額を超える部分の取消しを求めるとともに,本件価格決定に関する通達を出した被控訴人国及び固定資産税の徴収主体である被控訴人名古屋市に対し,違法に上昇した固定資産税の支払を強制されたことなどによる精神的損害の賠償及び弁護士費用の支払をそれぞれ求めたところ,原審が請求をいずれも棄却したことから,控訴人から控訴のあった事案である。

本件における中央省庁,大臣等及び通知,通達等の名称は,いずれも原判決のものに準ずる。

1  争いのない事実等

次のとおり訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「1 争いのない事実等」に摘示のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決4頁14行目の「土地の評価は」から15行目の「よるものである」までを「『土地の評価は,売買実例価額から求める正常売買価格に基づいて適正な時価を評定する方法によるものであること。したがって,土地の評価にあたっては,もとより現実の売買実例価額そのものによるものではなく,現実の売買実例価額に正常と認められない条件がある場合においてはこれを修正して求められる正常売買価格によるものであること。』」と改める。

(2)  同10頁2行目の「名古屋告示第16号」を「名古屋市告示第15号」と改める。

(3)  同11頁3行目から4行目の「近隣の地価公示地点(a区b町c丁目d番e)」を「本件標準宅地」と改める。

2  争 点

原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「2 本件の争点」に摘示のとおりであるから,これを引用する。

3  争点についての当事者の主張

次のとおり付加訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「3 争点についての当事者の主張」に摘示のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決14頁16行目冒頭から15頁18行目末尾までを次のとおり改める。

「ア 法律の形式について

本件依命通達は,土地の固定資産評価価格を地価公示価格の7割程度とするという評価割合について定めるものであるが,税額の計算においては評価割合は実質的には税率と同様の機能を果たすものである。のみならず,本件依命通達は,『適正な時価』について,『不正常要素を排除して正常売買価格による』との考え方に立った取扱通達に,『最有効利用と通常利用の開差』という全く新しい概念を導入することによって,評価価格を一律に地価公示価格の7割とすることとしたものであって,実質的には課税標準の要件を変更したものである。したがって,本件依命通達は,法律の形式で定めるべき事項を通達の形式で定めたものであって,租税法律主義(憲法84条)に反するものである。

イ 委任の方式について

仮に,上記評価割合について命令に委任することが許されるとしても,委任は個別具体的なものでなければならない。ところが,法349条は,課税標準について『適正な時価』と定めるのみであり,法388条1項は,固定資産の評価基準並びに評価の実施の方法及び手続を自治大臣に一任している。これは極めて包括的な委任であって,憲法上許されている個別具体的な委任とは到底いえない。したがって,課税要件について自治大臣の裁量に全面的に委ねている法388条1項は,憲法84条に反するものである。

仮にそうでないとしても,法388条は固定資産評価について自治大臣の告示に委任したのであり通達に委任したものではない。本件依命通達は,内容,形式ともに取扱通達とは異質であり,評価基準を解釈したものとは到底いえず,実質において評価価格を定めたものであるから,法388条に違反するものである。

ウ 委任の範囲について

法349条1項は,固定資産税の課税標準の評価基準日を賦課期日と定めている。ところが,本件(平成6年度)についてみれば,平成4年7月1日を価格調査基準日とし,平成6年1月1日における固定資産評価を行っている。しかし,本来価格調査基準日と評価基準日とは一致すべきものであり,価格調査基準日より後に評価基準日が設定されている場合には,評価基準日までの事情の変化を考慮,反映させる必要がある。そして,調査時点以降の事情の変化により,実際に評価基準日の価格が価格調査基準日の時点の調査価格より下回るような場合には,少なくとも,不服申立て,審査請求などによって事後的にであっても訂正されなければならない。ここ数年の土地の下落傾向からすれば,調査基準日と賦課期日との間に1年以上という大きな時間のずれがある本件の評価方法は,不合理,不適切なものであり,法の委任の趣旨を逸脱した違憲,違法なものである。

また,法が委任しているのは『適正な時価』を評価するための評価方法であるが,現行の評価基準は,取引事例法によっている。しかし,近年,取引事例法による鑑定評価は,その評価の結果という点からも,また手法という点からも大きな問題があると指摘されており,実際にも,取引事例法による鑑定の結果が現実と一致しない結果を生じ,その乖離はおよそ無視し得ない事態に立ち至っている。そもそも,税は国家の必要経費を国民から徴収するものであり,その徴収は国民の生み出した富の中からの一定の拠出によって構成されるものであるから,課税の対象となるのはその富であるか少なくともその富に変わるべきものでなければならないが,固定資産を保有しているというだけではその富は本質的に増大したわけではないから課税の対象とはならないというべきであり,その不動産によって得られるべき富(使用収益の結果)が課税の対象となるものである。したがって,固定資産税課税の前提となる『適正な時価』とは土地の使用収益状況に着目した収益還元法により求められたものでなければならず,評価基準は法の委任の趣旨及び範囲を逸脱したものである。」

(2)  同16頁5行目の末尾に次のとおり加える。

「評価基準は,このような見地から,固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続について基本的な事項を定めたものであるが,実際の評価においてはその内容をより明確にし,その統一的な運用を図り,租税負担の公平を確保するために,従前から,依命通達により,必要に応じて,評価基準の運用に際しての必要事項を示し,解釈運用の指針としてきたものである。」

(3)  同8行目の「きかなければ」から9行目の「算定という」までを「聴かなければならないとし(法388条の2第2項,4項),算定されるべき価格が『適正な時価』(法341条5号)であることの」と改める。

(4)  同16行目冒頭から17頁5行目末尾までを次のとおり改める。

「 大量一括評価の観点から定められている評価基準による評価方法によっても,このような評価事務の遂行のためには相当程度の期間が必要であることは明らかであるから,賦課期日から評価事務に要する相当な期間を遡った時点を価格調査基準日とすること自体は,そもそも法が許容しているものというべきである。価格調査基準日から賦課期日までの1年間の時点修正を行わなかったとしても,結果として算定された登録価格が固定資産の適正な時価を上回らないときには,これを違法と解すべき理由はないものであり,かかる租税の課税標準となるべき物件の評価を行うに際しては,謙抑的な評価を行い,結果としての価格が適正な時価を上回ることを回避することが許容されるものである。

また,収益還元法による評価方法には,賃貸料の情報が容易に入手できるわけではないこと,入手できたとしても,実際の賃貸料等にかなりの格差があること,実際にどのような還元利回りを採用するかについての合意を得るのは困難なこと,我が国には成熟した不動産の賃貸借市場が存在しないことなどの問題点があるため,現実には,固定資産税の評価方法として採用し難いものであるのに対して,売買実例価額を基準として評価する方法は,売買実例の把握が比較的容易であり,かつ,過大又は不均衡な評価が行われた場合には比較的容易に察知することができるので,納税者の立場を保護することになる等の観点から,最も妥当な土地評価の基準とされているところであり,取引事例法ではなく収益還元法によるべきであるとの控訴人の主張は失当である。」

(5)  同19頁17行目冒頭から20頁6行目末尾までを次のとおり改める。

「 評価基準は土地の価格について売買実例価額を基準として評価する方法を採用している。しかし,固定資産税は土地の所有権の変動に伴う課税ではなく,継続的な保有を前提としている土地の保有に関する課税であるから,人の生活に不可欠の土地の評価については,生存権保障の観点から,土地の使用収益状況に着目した収益還元法によるべきである。

売買実例価額を基準とする評価方法によった場合には,土地の使用状況に変化がないにもかかわらず,隣地などの売買価額が高騰すると評価が高くなり,税負担が増大することになるため,居住用の不動産などの保有者にとっては課税制度(とくに課税額)の増額変更によって取得時の期待を突然裏切られ,あたかも過去に不動産を取得したことに対して増額課税されるという事態になる。これは,租税法律主義の一内容である租税法律不遡及の原則に反するものである。本件の場合,平成6年度の評価替えにより,本件各土地は4倍もの著しい評価増となっており,このような結果を突然もたらすこと自体,本件の評価方法が破綻していることを示すものである。」

(6)  同20頁20行目の末尾に改行のうえ次のとおり加える。

「 固定資産税は,固定資産の保有と市町村の行政サービスとの間に存在する受益関係に着目して,資産価値に応じて毎年経常的に課税する財産税であり,また,資産価値に応じて課される物税である。したがって,当該資産から得られる収益に対して課税を行っているものではなく,基本的には資産の所有者の所得などの人的要素は考慮されないものである。しかしながら,固定資産税の性格からその評価方法が必然的に規定されると考えるのは妥当ではないから,どのような評価方法を採用するかについては,実体面での公平性などから判断されるべきものである。」

(7)  同24頁4行目の「そして」を「価格調査基準日以前の調査価格を求め,その時点から基準日までの変動を時点修正することはコンピューターの導入により解決できることであるのに」と改める。

(8)  同25頁20行目末尾に次のとおり加える。

「固定資産の価格等の事務処理には,『評価』,『調整』という,機械には任せられない部分もあるのであって,具体的な根拠も示さずにコンピューターの導入により解決できるとする控訴人の主張は,極めて安易な発想に基づくものであるというほかはない。」

(9)  同34頁11行目の末尾に次のとおり加える。

「本件標準宅地は,本件評価の基準とされた平成4年のわずか2年前である平成2年にその所在地が変更されたもので,平成元年までの地点は,現在地の北方約200メートルの『f町g丁目h番i』地点であり価格水準にほとんど差はなく,前面道路の幅員や最寄り駅からの距離等はほとんど同じであるのに,平成元年の旧地点の公示価格は29万円であるが,平成2年の新地点は47万円と異様に高くなっている。上記所在地の変更に際し,価格が不当につり上げられている可能性があり,極めて不明朗な感を免れず,このような土地を標準宅地にした本件評価額も信頼できるものではない。」

(10)  同35頁5行目の末尾に改行のうえ,次のとおり加える。

「ウ 本件各土地の評価の不当性について

(ア) 面大減価の補正の必要性について

宅地について,実用的な面積である100ないし180平方メートルを超過する部分は,購入代金総額が高くなって購入資金調達に限界のある一般購入者層の需要を減退させ,これを分割するとすれば道路等の公共用地,多額の造成費を要することになるため,面大地として減価する必要がある。これは宅地の有効利用という観点とは別の理由に基づくものであるから,仮に奥行価格逓減率で考慮されている場合であっても,これとは別の考慮が必要なものであり,面大減価は,評価基準の要求する『所要の補正』に該当するものである。ところが,被控訴人名古屋市は,本件各土地について面大減価を行っていないから,本件各土地の評価は,評価基準に違背し,ひいては,法第403条に違反するものである。

(イ) 画地の認定について

評価基準では,『各筆の宅地の評点数は,一画地の宅地ごとに各地計算法を適用して求めるものとする。この場合において,一画地は,原則として,土地課税台帳または土地補充課税台帳に登録された一筆の宅地によるものとする。ただし,一筆の宅地または隣接する二筆以上の宅地について,その形状,利用状況からみて,これを一体をなしていると認められる部分に区分し,又はこれらを合わせる必要がある場合においては,その一体をなしている部分の宅地ごとに一画地とする。』と定めている。本件各土地は,中心部には一戸建ての居宅があり,また敷地の南西端に位置しかつ独立して公道に接面する部分には,集合住宅(アパート)が建てられ,この2棟の建物は機能的に全く独立した存在になっていて何ら一体利用されていないのであるから,原則どおり,本件各土地は一筆ごとに評価がされるべきであり,少なくとも,居宅敷地部分と共同宅敷地部分の二つに区分しなければならないのである。ところが,被控訴人名古屋市は,評価基準の規程に違背して本件各土地に一体評価を適用しており,その評価は明白に評価基準の規定に違背するものである。」

(11)  同38頁7行目の末尾に改行のうえ,次のとおり加える。

「ウ 本件各土地の評価の不当性について

(ア) 面大減価の補正の必要性について

面積が大きいことについては,個別の土地の用途により価格の増加要因となることもあるし,低下要因となることもある。また,各要因による価格への影響は土地の存在する地域によって異なるものである。少なくとも,本件各土地のような住宅地に所在する500平方メートル程度の土地に対して,奥行価格逓減率による減価以外にさらに減価をすべき必要性は低いものと考えられる。宅地の利用価値という面での減価は,この奥行価格逓減率で考慮されている。

(イ) 画地の認定について

土地の位置や形状,本件各土地の上に建つ家屋の配置状況や土地の利用状況などから総合的に判断すれば,本件各土地は,いずれも1筆のみで独立した利用がなされている状況にはなく,相互に関連し合って利用されている状況にあることが認められ,これらの土地を一画地と認定した被控訴人名古屋市の判断には合理的な理由があるものであり,評価基準に違背しているような事実はない。」

第3当裁判所の判断

1  争点(1)(租税法律主義違反)について

(1)  法律の形式について

ア 憲法84条は,「あらたに租税を課し,又は現行の租税を変更するには,法律又は法律の定める条件によることを必要とする。」と定めているが,この規定は,租税を創設し,又は改廃するときは法律に拠らなければならないことを定めるのみならず,課税要件及び租税の賦課徴収に関する手続についても法律において定められなければならないとする趣旨であると解される。しかし,租税法が対象とする経済事象は,複雑多岐にわたり急速に推移変遷する性質のものであるから,これらに法律の形式をもって完全に対応することは困難であり,課税の公平課税を実現するためには,その具体的な定めを命令に委任し,事情の変遷に伴って機動的に対応していく必要があることは否定できず,憲法84条が「法律の定める条件による」と規定するのも,前記事項の基本的事項については法律の形式によるべきであるが,その具体的,細目的事項については法律から下位の法形式に委任することを憲法自体が予定しているものというべきである。

この点,控訴人は,本件依命通達は,固定資産価格の評価割合を定めるものであり,このような評価割合は税率と同視すべきであるから,これを通達により規定することは憲法84条に反すると主張する。しかし,前記のとおり,本件依命通達は,「固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続」(法388条1項)について定めた評価基準についての取扱通達の一部を改正するものであって,形式的には税率とは無関係の事項に関するものであることが明らかであり,実質的にみてもこれによって税率を定めたのと同じ機能を持つものとはいえないから,控訴人の上記主張は採用できない。

イ また,控訴人は,本件依命通達は,実質的には課税標準の要件を変更したものであり,法律の形式で定めるべき事項を通達の形式で定めたものであるから,憲法84条に違反すると主張する。

しかし,本件依命通達は,取扱通達の一部改正として発遣されたものであるが,取扱通達は標準宅地の適正な時価を宅地の売買実例価額から評定するとしている評価基準の具体的取扱いについて定めたものであり,評価基準の解釈に関する通達であるということができるところ,本件依命通達は,取扱通達が「土地の評価は,売買実例価額から求める正常売買価格に基づいて適正な時価を評定する方法によるものであること。したがって,土地の評価にあたってはもとより現実の売買実例価額そのものによるものではなく,現実の売買実例価額に正常と認められない条件がある場合においてはこれを修正して求められる正常売買価格によるものであること。」と規定していた後に,このような不正常要素を除去する具体的な方法として,土地の評価を地価公示価格等の一定割合とする(当分の間この割合を7割程度とする)旨を明記する趣旨で付け加えられたものであると解することができ,結局,本件依命通達も取扱通達と同様に,評価基準の解釈に関するものと位置づけることができるから,控訴人の上記主張も採用できない。

(2)  委任の方式について

ア 控訴人は,法388条1項は,固定資産の評価基準並びに評価の実施の方法及び手続を自治大臣に一任しているが,これは極めて包括的な委任であって,憲法上許されている個別具体的な委任とは到底いえないと主張する。

この点,上記委任については概括的白地的な委任は許されず,委任を認める法律自体から委任の目的,内容,程度などが明確にされた具体的個別的な委任である必要があり,また,租税法律主義の趣旨及び前記のとおりの委任が必要とされる根拠に照らせば,課税要件のうち基本的事項は法律で定めることが求められ,委任の対象は専門的技術的かつ細目的な事項であることを要するというべきである。

そこで,このような見地からみるに,法は,課税客体を固定資産(法342条1項),課税標準を賦課期日における適正な時価で固定資産課税台帳に登録されたもの(法349条,349条の2,341条5号),標準税率を100分の1.4(法350条1項本文)とそれぞれ定めたうえ,法388条1項において,固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続について,自治大臣の告示に委ねているのであって,法は,課税要件のうち,課税客体,課税標準及び標準税率といった基本的事項を定めたうえ,固定資産の評価の基準,評価の実施方法,さらにその手続といった専門的技術的かつ細目的な事項を自治大臣の告示に委任しているものであって,また,その委任の趣旨も,固定資産の評価の基準等を明確にし,全国的な固定資産の評価の統一を図り,市町村間の均衡を維持するという見地によるものであると考えることができるから,結局,委任の目的,内容,程度などは法388条1項の規定上明確であるということができる。

したがって,控訴人の上記主張は採用できない。

イ また,控訴人は,法388条は,固定資産評価について自治大臣の告示に委任したのであり通達に委任したものではないのに,本件依命通達は実質において評価価格を定めたものであるから法388条に違反すると主張する。

しかし,そもそも本件依命通達は法388条から何らかの委任を受けたという性質のものではないし,前記のとおり,本件依命通達は評価基準についての解釈を統一するための通達であると位置づけられるものであり,不動産の評価価格を定めたものとはいえないから,控訴人のこの主張も採用できない。

(3)  委任の範囲について

ア 控訴人は,調査基準日と賦課期日との間に1年以上の時間のずれがある本件の評価方法は,法の委任の趣旨を逸脱したものであり違憲,違法であると主張する。

この点,法は,土地課税台帳等に登録すべき価格を基準年度に係る賦課期日における価格としているから(法349条1項),登録価格を算定すべき基準日は,賦課期日である当該年度の初日の属する年の1月1日であり,本件においては平成6年1月1日時点における客観的時価をもって登録価格とすべきこととなる。もっとも,法は,市町村長の価格決定を賦課期日の約2か月後に当たる2月末日までに行うべきものとしている(法410条)ところ,土地に対する固定資産税は,全国の土地を同一の基準で評価し,さらに,市町村が土地の評価をした後,都道府県間及び各都道府県内の市町村間の評価の均衡を図るためにそれぞれ所要の調整を行うことが必要であるなど,一連の固定資産評価の事務は一定の期間を要するものであり,約2か月間のうちに評価事務のすべてを行うことは困難であるから,固定資産の評価に基づいて固定資産税を賦課する制度を採用している以上,法は,賦課期日を遡ったある一定の時点において固定資産の評価をすることを当然の前提としており,賦課期日を遡る一定時点を価格調査の基準日とすること自体を法が禁止しているものとは解されない。また,法は,固定資産税の納付について,原則は4月,7月,12月及び2月中としながら,特別の事情がある場合には,これと異なる納期を定めることができ(法362条1項),固定資産課税台帳の縦覧期間について,災害その他の特別の事情がある場合においては,3月21日以後に縦覧期間を設けることができる(平成11年法律第15号による改正前の法415条1項ただし書)としているが,これらの規定もその文言自体から明らかなように極めて例外的な場合を規定しているものと解され,単に価格の調査が終了しないといった事情を予定したものとは考え難いから,これらの各規定があるからといって,賦課期日以前に価格調査基準日を設けること自体が禁止されているとも解されない。

したがって,調査基準日と賦課期日との間に控訴人主張のような時間的な間隙があることのみをもっては法の委任の趣旨を逸脱したものとはいえず,これをもって違憲,違法とする控訴人の上記主張は採用できない。

イ また,控訴人は,法が委任しているのは「適正な時価」を評価するための評価方法であり,収益還元法により求められたものでなければならないのに,現行の評価基準は取引事例法によっており,法の委任の趣旨及び範囲を逸脱したものであると主張する。

しかし,法が課税台帳に登録された固定資産の価格を課税標準とすることを原則として(法349条1項,349条の2),固定資産の所有者又はこれに準ずる者(法343条1項)に対して固定資産税を課している以上,固定資産税は,資産の客観的な価値に注目し,その客観的な価値のある資産を所有する者に対して課税する物税(財産税)というべきであり(最高裁昭和46年(オ)第766号同47年1月25日第三小法廷判決・民集26巻1号1頁参照),資産から生じる現実の果実の収益に着目して課税される収益税とは異なるものである。このような固定資産税の性質からすれば,法341条5号にいう「適正な時価」とは資産の客観的価値をいうものと解すべきであり,資産の客観的価値は当該固定資産又は条件の類似する固定資産の取引事例の集積により取引価格によって判断せざるを得ない性質のものである以上,各取引価格を基礎として非正常な要素を排除して判断すべきであり,法341条5号にいう「適正な時価」とは,社会通念上正常な取引において成立する当該土地の取引価格すなわち客観的な交換価値をいうものと解すべきである。しかも,法は,固定資産税の課税標準を「適正な時価」としているところ,通常「時価」とは,正常な取引条件の下に実現される所定の時点における取引価格を意味する用語であって,上記のような解釈はこの文言にも合致するというべきである。

したがって,法は,課税標準又はその算定根拠となるべき価格を正常取引価格としたうえ,税率の決定又は課税標準若しくは税額の調整によって,固定資産税の性格に応じた適正な課税を実現しようとしているものと解すべきである。

この点,上記のように売買実例価額を基礎として土地の評価を行うときは,従前から居住用建物敷地として利用する土地について,当該土地所有者に売買の必要や意思がなくても,近隣の土地の売買実例価額の高騰に伴って当該土地の評価が引き上げられることによって,当該宅地の所有者は固定資産税の負担が増加する可能性があるが,このような場合,近隣土地の売買実例の高騰には何らかの理由があり,その理由が合理的なものである限り,当該土地の価額も客観的に増大していることは否定できず,当該土地所有者も潜在的には利益を得ているものということができ,また,上記のような税負担の増加については,課税標準の特例を設け,税率を引下げるなどの措置により改善することが可能である(現に前記のとおりの特別措置や負担調整措置(平成7年法律第40号による改正前の法附則17条の2,18条)がとられている。)から,このような方法によって土地の価額を評価することが不合理であるということはできない。

一方,収益還元法は,鑑定評価の対象である不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現価(現在価値)の総和を求める方法による評価方法であるところ,純収益をどの程度の利回りで現在価値に割り戻すのか,また,純収益の変動率として適切な率はどの程度なのかという基本的な問題についていまだ客観的な指標が確立されているとは言い難く,税負担の公平という観点から問題がないとはいえない。しかも,我が国では賃貸借契約においては縁故性が強いなどの事情により成熟した不動産の賃貸借市場が存在しないことが指摘できるうえ,賃貸が全く予定されておらず,現実的に収益を生まない土地について,この方法のみにより評価することには疑問があるといわざるをえない。もとより固定資産税が財産の所有によって得られる収益から支払われることが多いことは否定できないけれども,そのことが前記のとおりの固定資産税の性質を変えるものではなく,この点についてはあるべき負担水準の問題として検討すべきものであり,土地の評価方法と論理必然的な関係を有するものではないというべきである。

したがって,法が土地の「適正な時価」の評価にあたって収益還元法を採用することを予定しているということはできず,売買実例価額を基準として評価する方法を採用している評価基準は不合理であるとはいえないから,控訴人の上記主張は採用できない。

2  争点(2)(地方自治課税権違反)について

原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の「2 争点(2)(地方自治課税権違反)について」に説示のとおりであるから,これを引用する。

ただし,原判決43頁3行目の「評価基準並びに」から7行目末尾までを次のとおり改める。

「評価基準は法388条に根拠を有するものであるし,取扱通達及び本件依命通達は前記のとおり評価基準の解釈を示すものであって,法ないし評価基準から委任を受けたものでも,課税の根拠となるものでもないから,評価基準及び本件依命通達が地方公共団体の課税権を侵害するものとはいえない。

よって,評価基準並びに依命通達及び本件依命通達に基づき固定資産税の課税を行うことは憲法92条,94条に反するとの控訴人の主張は採用できない。」

3  争点(3)(民主的課税原則違反)について

原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の「3 争点(3)(民主的課税原則違反)についてに説示のとおりである(ただし,原判決44頁1行目の「所有してる」から2行目末尾までを「所有しているという事実に着目して課税することはむしろ合理的であるというべきである。」と改める。)から,これを引用する。

4  争点(4)(生存権違反)について

控訴人は,日常生活を営むのに不可欠の土地を「生存権的土地」であるとし,「生存権的土地」とそうでない土地に区別し,生存権(憲法25条)の保障の見地から,前者については本来課税の対象とすべきではなく,またそうでないとしても,その評価方法としては,土地の使用収益状況に着目した評価方法である収益還元法によるべきであると主張する。

しかし,控訴人の主張する「生存権的土地」という概念はそれ自体が不明確であって,いかなる基準をもって「生存権的土地」とそうでない土地を区別するのかについての具体的な主張もないばかりか,そもそもいかなる土地をもって日常生活を営むのに不可欠の土地であると考えるかは個々人の価値観や経済状態等によって大きく左右される性質のものであるから,課税の対象となる財産とそうでない財産とを区別する指標とはなり得ないのみならず,評価方法として収益還元法を採用すべきかどうかの基準ともなり得ないというほかない。また,仮に「生存権的土地」とそうでない土地を区別したとしても,なぜ控訴人の土地が「生存権的土地」に該当するのか具体的な主張は何らないばかりか,かえって,証拠(甲14,乙22,控訴人本人)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人は富山市に居住し,名古屋市のほか,富山市,東京都,大阪府にも土地を所有していることが認められ,このことからいえば,本件各土地が控訴人にとってその日常生活を営むために不可欠の土地といえるのかどうかについても不明であるといわざるを得ない。よって,控訴人の主張は採用できない。

なお,控訴人は,固定資産の評価について売買実例比較法によっている現行の固定資産税制は,本件各土地購入時の予測可能性を失わせるものであり,租税立法不遡及の原則に反する旨主張するが,本件における平成6年度の評価替えは,平成6年度ないし平成8年度の固定資産税の課税標準となるべき価格の決定するために行われたものであって,平成5年度以前の固定資産税の額に何ら影響を及ぼさないことは明らかであるから,上記原則が問題となる場面ではなく,控訴人の主張は採用できない。

5  争点(5)(法の下の平等違反)について

原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の「5 争点(5)(法の下の平等違反)について」に説示のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決45頁20行目の「割戻し後の」から22行目末尾までを次のとおり改める。

「結果的に本件基準宅地の固定資産評価価格が地価公示価格の約5割5分となっているからといって,そのことのみをもって,被控訴人名古屋市が大土地所有者を優遇したものとは到底いえるものではない。

よって,控訴人の上記主張は採用できない。」

6  争点(6)(地方税法違反)について

(1)  価格調査基準日の違法について

次のとおり訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の「6 争点(6)(地方税法違反)について」に説示のとおりであるから,これを引用する。

ア 原判決45頁25行目の「法349条1項は」から46頁26行目の「しかし,」までを次のとおり改める。

「ア 前記のとおり,法が予定している登録価格を算定すべき基準日は,賦課期日である当該年度の初日の属する年の1月1日であり,本件においては平成6年1月1日時点における客観的時価をもって登録価格とすべきであるが,一方で,賦課期日における価格算定の資料とするための標準宅地等の価格評定については,賦課期日からこれらの評価事務に要する相当な期間を遡った時点を価格調査の基準日として行うことを法が禁止しているものとは解されるものではないから,本件において価格調査の基準日が賦課期日の1年以上前であったとしても,そのことのみでは本件における評価が違法であるとはいえない。

この点,控訴人は,これら実務上の問題は,コンピュータ化により対応可能である旨主張するが,登録価格の基礎となる固定資産の鑑定評価作業自体はコンピュータ化によっても対応できるものではなく,その作業に相応の時間を要することは明らかであるから,控訴人の主張は採用できない。

イ しかしながら,」

イ 同47頁26行目の「評価基準等を」から48頁4行目の「ものというべきである。」までを「『適正な時価』の評価に当たり,個別評価額の一定割合を標準宅地の適正な時価として扱うことは,評価基準等に内在する評価誤差の是正方法として合理性を有するということができるところ,このような趣旨において,本件依命通達は,結果的に上記の控え目な算定の役割を果たしており,これによって得られた算定結果は不合理なものとはいえないというべきである。」と改める。

ウ 同48頁8行目の「直接の」を「本来の」と改める。

エ 同49頁6行目の「いうべきである。」から8行目の「行わない。」までを「いうべきであり,本件において,本件標準宅地の平成5年1月1日から平成6年1月1日までの地価下落率が30パーセントを上回ることを窺わせる証拠は見当たらない。」と改める。

(2)  法402条違反について

控訴人は,名古屋市長が本件依命通達に拘束された下で本件価格決定を行ったことは法402条に反すると主張する。

しかしながら,本件依命通達は,各都道府県知事を名宛人とするものであって,市町村又は市町村長を名宛人とするものではなく,また,市町村長は,固定資産の評価に当たっては,評価基準に法的に拘束されるものというべきであるが,法389条又は法743条の規定によって都道府県知事又は自治大臣が固定資産の評価をする場合を除き,固定資産の価格を決するのは市町村長であって(法403条1項),上記のとおり自治大臣が固定資産の評価をする場合以外には,自治大臣にも固定資産の評価に関しては具体的にこれを決する権限はなく(法402条参照),単に固定資産の価格の決定が評価基準によって行われていないと認められる場合において都道府県知事に対して市町村長に固定資産課税台帳に登録された価格を修正して登録するように勧告をするよう指示し得るにすぎないものであり,これらの点に照らせば,本件依命通達が市町村及び市町村長を法的に拘束するということはできない。

しかも,本件依命通達は評価基準の取扱いの指針を定めたにすぎないものであることは前述のとおりであり,市町村長が自らの判断において,本件依命通達の趣旨を尊重し,同通達に従って固定資産の評価を行ったとしても,法402条違反の問題が生じることはないというべきである。

よって,控訴人の上記主張は採用できない。

7  争点(7)(本件依命通達の合理性等)について

原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の「7 争点(7)(本件依命通達の合理性等)について」に説示のとおりであるから,これを引用する。

8  争点(8)(適正手続違反)について

原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の「8 争点(8)(適正手続違反)について」に説示のとおり(ただし,原判決58頁5行目の「審査の対象なる」を「審査の対象となる」と改める。)であるから,これを引用する。

9  争点(9)(本件価格の当否)について

(1)  本件標準宅地の鑑定評価価格について

次のとおり訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の「9 争点(9)(本件価格の当否)について」の「(2) 本件標準宅地及び本件基準宅地の各鑑定の信用性について」の「ア 本件標準宅地の鑑定について」に説示のとおりであるから,これを引用する。

ア 原判決62頁9行目の「同鑑定は」を「同鑑定においては」と改める。

イ 同64頁10行目の「原告は」から22行目末尾までを次のとおり改める。

「控訴人は,鑑定評価にあたっては収益還元法によるべきであり,取引事例比較法を重視した上記鑑定は誤りであると主張する。

しかし,法341条5号にいう「適正な時価」の算定は収益還元法によるべきものとは解されないことや,収益還元法によって土地の価格の評価を行った場合の問題点は前記1(3)イに述べたとおりであり,これらに照らせば,標準宅地の価格を収益還元法によって鑑定すべきものであると解することはできず,控訴人の上記主張は採用できない。」

(2)  本件基準宅地の鑑定評価価格について

次のとおり訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の「9 争点(9)(本件価格の当否)について」の「(2) 本件標準宅地及び本件基準宅地の各鑑定の信用性について」の「イ 本件基準宅地の鑑定について」に説示のとおりであるから,これを引用する。

ア 原判決65頁7行目の「同鑑定は」を「同鑑定においては」と改める。

イ 同66頁18行目の「原告は」から67頁1行目末尾までを次のとおり改める。

「控訴人は,取引事例a,b,cのいずれについても登記簿上該当する取引事例が見当たらないと主張し,これに沿う記載の内容の証拠(甲38,103,106の1,116)もある。

しかし,証人Aは,上記各取引事例については,守秘義務を根拠に対象となる土地を特定するに足りる具体的な証言は差し控えているものの,その調査方法については具体的に証言をし,当該取引の存在についても明確にこれを肯定する証言をしていること,同時に,取引事例比較法にあたっては多くの情報を得ることを優先にしているため,必ずしも登記簿上に取引が現われている事例に限定することなく広く事例の収集にあたったこと,同人の経験としても,契約の締結後物件が引き渡され登記が経由されるまで1年程度の期間を要する例もみられることなども証言しているのであって,証人Aの証言は十分信用することができる。そうすると,控訴人の主張するように,仮に取引事例a,b,cについていずれも登記簿上その取引が反映されていなかったとしても,そのことのみから上記鑑定の信用性が失われるものとはいえない。」

ウ 同67頁23行目の「その判断は」から25行目の「見解であって,」までを「その判断には合理性が認められ,控訴人の主張は」と改める。

(3)  本件各土地の評価について

ア 面大減価の補正の必要性について

控訴人は,宅地について,実用的な面積である100ないし180平方メートルを超過する部分は,購入代金総額が高くなって購入資金調達に限界のある一般購入者層の需要を減退させ,これを分割するとすれば道路等の公共用地,多額の造成費を要することになるため,面大地として減価する必要があると主張し,甲107にも,本件各土地の評価にあたっては面大減価が不可欠である旨の記載がある。

しかし,仮に控訴人の主張するような取引傾向が見られるとすれば,それは参考となるべき取引事例に反映されるはずのものであって,上記のような一般的な見地から独自の減価が必要であるとは必ずしも解されない。しかも,必要に応じて奥行価格低減率による考慮もされるのであるから,客観的で不動の数値を持つものとは考えにくい土地の面積の大小のみに着目して独立した減価をする必要があるということはできない。

よって,控訴人の上記主張は採用できない。

イ 画地の認定について

控訴人は,被控訴人名古屋市が,本件各土地を一筆ごとに評価せず一体評価としたことは誤りであると主張する。

しかし,証拠(甲110の1・2,乙12,25)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人は,本件各土地を昭和32年1月31日に売買により取得したこと,原判決添付別紙物件目録3の土地は同1の土地から,同4の土地と同2の土地から,いずれも昭和63年12月27日に分筆されたものであること,同目録3,4の各土地は公道には接していないこと,そのため,現実には公道に接している同目録1,2の各土地を利用するのでなければ宅地としての有効利用ができない状況にあり,その実態は上記分筆前と変更はないこと,平成6年1月1日当時,同目録1,2の各土地上に跨って共同住宅が,同目録3,4の各土地に跨って専用住宅が建っており,専用住宅の敷地は公道には接していないため,同目録2の土地を通路として使用する必要があったこと,専用住宅部分の敷地と共同住宅部分の敷地を明確に区分できるような状況にはなかったことが認められる。これらの状況に照らせば,本件各土地はいずれの土地についても一筆のみで独立した利用がなされている状況にはなく,相互に関連し合って利用されている状況にあるといえるから,本件各土地の評価に当たって,被控訴人名古屋市が本件各土地が一体的に利用されているとして,これらを一画地と認定したことについては合理的な理由があるものと認められ,評価基準に定める画地の認定の規定に反したものとはいえない。

よって,控訴人の上記主張は採用できない。

ウ 以上によれば,被控訴人名古屋市が本件各土地に係る本件標準宅地及び本件基準宅地の価格を評定するために基礎とした鑑定評価価格はいずれも相当であり,同価格を基礎に時点修正通知,本件依命通達に従って決定された本件標準宅地及び本件基準宅地の価格もまた相当であると認められる。そして,本件価格は本件標準宅地の価格を基礎として,評価基準に従って算定されたものであることから,本件価格決定も適法であるということができる。

10  結語

以上の次第で,控訴人の請求はいずれも理由がないから,これらを棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がない。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川克介 裁判官 鬼頭清貴 裁判官 濱口浩)

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