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名古屋高等裁判所 平成13年(行コ)24号 判決 2001年12月25日

控訴人

同訴訟代理人弁護士

竹下重人

被控訴人

半田税務署長

平山勝觀

同指定代理人

西口武千代

滝藤悟

真野重信

小畠進一

松田清志

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対し、平成10年2月16日付けでなした平成6年ないし平成8年分の各所得税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をいずれも取り消す。

3  訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人の負担とする。

第2事案の概要

1  事案の概要は、原判決の事実及び理由欄の「第2 事案の概要」の摘示を引用するほか、後記2の当審における控訴人の補足的主張のとおりである。

2  当審における控訴人の補足的主張(乙に対する適正な専従者給与額について)個人事業者の専従者給与額が適正かどうかの判断に際しては、一般被用者の給与額と専従者給与額との合計額が、その事業者の収入金額に対して適正な割合に止まっているかどうかも考慮すべきである。控訴人の経営するE眼科では、平成6年に2万2452件、平成7年に2万1622件、平成8年に2万1353件の各保険請求を行っており、保険請求件数は、他の同種医院よりはるかに多数である。この保険請求手続のためには、診療内容や診療点数の点検、レセプト作成後の点検等、相当な作業を要するものである。E眼科の一般被用者は、全てパートタイム勤務であるため、保険請求手続の作業は全て専従者において行っている。したがって、控訴人の専従者給与額が同業者と比べて多額であっても、控訴人の人件費の総額が収入金額に比して相当な割合に止まっているならば、適正な専従者給与額と認められるべきである。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も、控訴人の本訴請求は、いずれも理由がなくこれを棄却すべきものと判断するが、その理由は、原判決11頁4行目末尾に次のとおり加えたうえ、原判決の事実及び理由欄の「第3 争点に対する判断」の説示を引用するほか、後記2の当審における補足的主張に対する判断のとおりである。

「乙の勤務実態が不明確である以上、平均額をもって推計するのが合理的であり、専従者の勤務実態が異なる場合については、平均額を超える専従者給与額が是認されるものである。」

2  当審における補足的主張に対する判断

控訴人は、個人事業者の専従者給与額が適正かどうかの判断に際して、一般被用者の給与額と専従者給与額との合計額が、その事業者の収入金額に対して適正な割合に止まっているかどうかも考慮すべきである旨主張するが、所得税法57条1項の趣旨からみれば、専従者給与額は、労務の対価として相当なものであるか否かを基本として判断すべきものであり、人件費の総額の収入金額に対する割合は本来無関係というべきである。

もっとも、専従者の勤務実態を判断するに際して、全体の人件費又は一般被用者の給料賃金額の収入金額に対する割合も考慮すべき要素であることは否定できないが、乙1ないし3号証の各1ないし3によれば、平成6年から平成8年における控訴人の人件費は、専従者給与額が1440万円、一般被用者の給料賃金額が1280万円から1400万円程度であることが認められ、合計2720万円から2840万円程度となるが、乙12号証により認められる被控訴人が推計の際に採用した類似同業者の人件費と比較すると、合計額はむしろ多額の部類に属し、一般被用者の給料賃金額も同様である。これら類似同業者の収入金額は、全体的には控訴人の収入金額に比べて格段の差異はないものと推認されるから、控訴人の人件費又は一般被用者の給料賃金額の収入金額に対する割合は、類似同業者に比べてむしろ高い方である。さらに、控訴人においては、事務の一部をCに委託しており、乙1ないし3号証の各1ないし3によれば、平成6年から平成8年においては、毎年200万円以上の事務委託料が支払われていることが認められる。これらを考慮すると、控訴人の専従者の勤務実態が、被控訴人が推計の際に採用した類似同業者のそれと比較して、著しく異なっていたということはできない。

したがって、控訴人の主張は採用できない。

3  よって、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川克介 裁判官 黒岩巳敏 裁判官 永野圧彦)

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