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名古屋高等裁判所 平成13年(行コ)48号 判決 2002年6月13日

控訴人

同訴訟代理人弁護士

恒川雅光

被控訴人

小牧税務署長

仲田義昭

同指定代理人

平野朝子

松井保之

川口政要

奥野清志

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

(以下、略語は、原判決に準ずる。)

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人

(1)  原判決を取り消す。

(2)  被控訴人が控訴人に対し、平成11年3月4日付けでした平成5年分以後の青色申告の承認取消処分並びに平成5年分ないし同9年分の所得税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

(3)  訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文同旨

第2事案の概要

1  本件は、複数の料理飲食店を経営する控訴人が所得税の申告をしたところ、被控訴人が、帳簿書類の備付け等の不備、売上金額の過少申告等を理由に青色申告承認処分を取り消し、推計による課税処分等を行ったことから、控訴人が、それら処分の審査請求に対する裁決がなされた後に、上記第1の1(2)のとおり各処分の取消を求める訴えを提起したのに対し、被控訴人が、出訴期間経過後の訴え、推計の合理性の存在等を主張して争った事案である。

原審において、本件訴えが出訴期間経過後提起されたものであると認定されて却下されたのに対し、控訴人が、「裁決があったことを知った日」(行政事件訴訟法14条4項)の事実認定に誤認があるとして控訴した。

2  前提事実、本件の争点及びこれに対する当事者の主張は、原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の1及び2のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決2頁10行目の「事務所に」の次に「配達証明付郵便の方式で」を加える。)。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も、本件訴えは出訴期間経過後に提起されたもので、不適法であると判断する。その理由は、次に改めるほか、原判決「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」のとおりであるから、これを引用する。

原判決6頁17行目の「本件配達日から」を「平成13年11月より」と、20行目の「長期間にわたり、」を「上記配達の当時、」とそれぞれ改める。

2  控訴人の当審における主張について

(1)  控訴人は、原判決が配達状況の認定に用いた乙第19号証(郵便局員丙の陳述を聴取し、同人が誤りなきことを確認した書面)につき、控訴人が肩書住所地に転居してきた時期及び訴外会社が設立された時期がいずれも平成11年5月であるのに、これに反する記載が多くあって信用できないこと、甲第10号証(郵便局員丙の回答が記載された書面)には、①控訴人の郵便物を控訴人の肩書住所地に配達するようになった時期が平成9年ころ、②控訴人の郵便物を訴外会社の事務所(以下「A」という。)に届けた時期が平成10年から平成13年4月であるとの記載があって、上記転居及び会社設立時期等の客観的事実に反しており、これと併せれば乙第19号証は信用できないことを主張する。

しかし、乙第19号証の陳述内容は、控訴人が肩書住所地に不在の場合に控訴人個人宛の郵便物をAに配達するようになった時期ははっきり覚えていないが、陳述時点(平成13年11月9日)から逆算して2、3年前であるとの趣旨と理解されるものであるところ、その陳述内容が控訴人の転居の時期や訴外会社設立の時期等の控訴人主張事実を前提としてもこれと矛盾するものとは認められない。また、甲第10号証では、上記②について、控訴人個人宛郵便物のAへの配達を開始した時期につき、控訴人主張のようにこれを平成10年と特定して回答がなされているものとは認められず、同開始時期は平成10年から平成12年の間である旨、幅のある回答がなされたと理解されるものであって、乙第19号証が甲第10号証と矛盾するとは認められない。なお、甲第10号証の上記①の記載については、配達開始時期が上記転居の時期より前となって整合しないが、これは肩書住所地への配達開始時期に関する記載についての不整合であるから、この点からAへの配達状況に関する乙第19号証の陳述記載の信用性が否定されるものとは認められない。

本件の証拠関係に照らせば、乙第19号証の配達状況に関する陳述記載の信用性を認めることができるのであって、控訴人の主張は採用できない。

(2)  控訴人は、平成12年6月27日、訴外会社の事務所においてなされた本件裁決書の配達(以下「本件配達」という。)につき、その当時、控訴人個人の住所宛の郵便物は通常Aなどには配達されておらず、本件配達は郵便局の過剰サービスでたまたま行われ、また、本件裁決書は訴外会社の事務員において小包と言われて配達を受けたがその後Aの店内に置きっぱなしとなったもので、控訴人は本件配達後直ちには本件裁決があったことを知らず、また、これを知り得たとは言えない旨主張する。

しかし、上記乙第19号証等原判示の証拠に照らし、控訴人が肩書住所地に不在の場合における控訴人個人宛の書留郵便等の郵便物をAにおいて訴外会社の従業員に交付する等の取扱い(原判示)は、控訴人の意に合致するものとして、本件配達当時には確立した取扱いとなっていたものと認められるし、本件裁決書が本件配達後Aに置きっぱなしとなり、控訴人が覚知しなかったことについては、その裏づけとなる合理的証拠がなく、これを認定できない上、控訴人は、訴訟代理人に依頼して作成させた本件訴状において、本件裁決書が平成12年6月27日に控訴人に送達された旨記載していることからしても、原判示のとおり、本件裁決書が控訴人に送達された同日(この点の自白の撤回の認められないことも原判示のとおりである。)、控訴人が本件裁決のあったことを了知しうべき状態に置かれたというべきであるから、同日控訴人が本件裁決のあったことを知ったものと推認することができ、これを妨げる特段の事情は認められないということができる。

したがって、控訴人の主張は採用できない。

第4結論

よって、控訴人の本件訴えを却下した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却し、控訴費用は控訴人に負担させることとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田村洋三 裁判官 小林克美 裁判官 戸田久)

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